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『ゴジラ ー1.0』 ネタバレあり感想 中編 [映画]

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 公開して四週間近く経ちました。表記にあるとおり、『ゴジラ ー1.0』のネタバレあり感想・中編を始めます(「後編」のはずだったんだけど、思ったより長文になったので二分割しました)。
 未見の方はぜひ劇場でご鑑賞の上で再度お越し下さい。
 映像・音響共に、まさに映画館の優れた設備で ”体験” するための作品で、一見に値する映画だと思います。

 ちなみに私は DolbyCinema と IMAX で観ました。映像のクリアさでは前者が、音響の迫力では後者が勝るような気がします。人によって好みはあるでしょうけど、私は IMAX のほうが本作に向いてるような気がしてます。

 「ネタバレなし感想」は11/12にアップしております。


■「海神作戦」

 政府も米軍も当てにならない中、民間主導によるゴジラ殲滅のための「海神(わだつみ)作戦」が、野田によって立案される。

 ゴジラを1500mの深海に沈め、その水圧で息の根を止める。ダメなら次に海上まで一気に引き上げて、圧力差によってゴジラに止めを刺す。
 確かに、深海魚を一気に引き上げると水圧差によって目玉や内臓が内側からはじけ出して死んでしまうが、果たしてそれがゴジラに通用するのか?
 作中でも成功が疑問視され、「穴だらけの作戦」と言われてしまうが、他に方法はない。「できることをやるしかないんです」

 どう考えても分が悪すぎる戦い。集まった者たちのうち、参加を拒否して去っていく者もいる。だが、残る者もいる。

 「誰かが貧乏くじを引かなければならない」

 映画の前半での秋津の台詞だ。だが貧乏くじの引き方は二つある。たまたま引いてしまった場合と、わかっていてもあえてそれを引く場合だ。この場に残った者たちは、もちろん後者だろう。

 もちろん、誰だって貧乏くじなど引きたくはない。だけど人生の中で、ある程度の仕事を任されて働いているなら、あえて貧乏くじを引かなければならなかったときが、誰でも一度や二度はあったのではないか?
 自ら「火中の栗を拾う」決断をしたことはなかったか?
 誰かが貧乏くじを引いてきたからこそ、人の世は廻ってきたのではないか?

 もちろん、ゴジラと戦うなんていう、命の保証もないようなとんでもない選択はなかったかも知れないが、「貧乏くじと分かっていても、あえてそれを引く」彼らの覚悟に、自分の今までの人生を重ね合わせた人もいるのではないか?
 だからこそ、彼らの決断は、私の胸を震わせた。


■野田と堀田

 野田は全編を通じて常識的な人間として描かれるのだけど、この作戦説明の際、スライドの光を受けていた中で見せる ”目つき” は、ちょっと ”イッてる” 感じで(笑)、マッド・サイエンティストっぽさを感じさせる。個人的には本作に於ける吉岡さんのベストショットだと思う。

 そして「ネタバレなし感想」でも書いたけど、駆逐艦「雪風」元艦長・堀田辰雄[田中美央]の存在感が抜群。彼が登場すると画面が一気に締まる。こんな素晴らしい俳優さんがいたんだ、って発見の驚きがあった。

 私の場合、東宝特撮映画で ”指揮官役” と云えば、真っ先に思い浮かぶのが田崎潤さん。『妖星ゴラス』(1962)での土星探査宇宙船・隼号の園田艇長役や『海底軍艦』(1963)の轟天号艦長・神宮司大佐役で有名な方。

 田中美央さんも、私の中では田崎さんに匹敵する存在となりました。


■「海神作戦」へのツッコミ

 ここは、あえて「重箱の隅をつつく」ようなことを書くので、退屈な人は次の章(■)まで飛ばしてください(笑)。
 この手の映画で、細かい矛盾点をあげつらうのは野暮なことだと百も承知なのだけど、気がついてしまったんで書いてみる(おいおい)。

(1)第一段階
 ゴジラの周りを泡で包んで沈めてしまう作戦なのだけど、1500mの深海まで沈めるのはけっこう大変そうだ。水深1500mでの圧力は150気圧。このとき、気体の体積は海上時の1/150になってしまう(高校化学で勉強する「ボイルの法則」だ)ので、水深1500mで海上時と同じ大きさの泡でゴジラを包もうと思ったら、海上時の150倍の量の気体が必要になる。総量としては、けっこう膨大な量の気体を用意しなければならないだろう。
 用いる気体がフロンガスというのも気になる。フロンの商用生産は1930年頃に始まってるけど、昭和22年(1947年)の時期に、日本国内で大量に用意できたかというとかなり厳しいように思う。

(2)第二段階(予備作戦)
 1500mの深海に沈んだゴジラを炭酸ガス(二酸化炭素)を用いた気嚢(風船)で一気に海上まで引き上げる作戦。
 だが、二酸化炭素には大きな難点がある。深海1500mでの150気圧の状態では、二酸化炭素は気体にならずに液体になってしまう。つまり、そもそもの前提として気嚢を膨らませることはできないわけだ。


■なぜフロンガスと二酸化炭素なのか

 上に書いたように、海神作戦に用いる気体、フロンガスと二酸化炭素には問題点がある。一番簡単な解決法は、たぶん安価で大量に手に入りやすく、高圧でも気体のままである「窒素」を用いることだろう。

 ではなぜ窒素ではなく、フロンガスと二酸化炭素を用いたのか。私は、製作陣はあえてこの二つの気体を選んだのではないかと思っている。

 フロンガスは、大気圏上層のオゾン層を破壊し、地上へ降り注ぐ紫外線を増やすとして問題となり、現在は製造も使用も禁止されている気体だ。
 そして二酸化炭素は、これも地球温暖化の原因となっている気体で、世界的に排出規制が進んでいる。

 つまり、地球環境を破壊する気体の代表格であるこの二つを使ってゴジラを倒す、という、いわば ”毒を以て毒を制す” という展開をしたかったのではないかなぁ、って考えている。考えすぎかもしれないけど(笑)。


■「震電」復活!

 典子を喪い、ゴジラへの復讐に燃える敷島もまた「海神作戦」に参加、戦闘機によるゴジラ誘導を申し出る。

 それに応えて野田が見つけ出してきたのが、なんと「震電」(しんでん)!

 このシーン、思わず「うおぉぉ」って叫びそうになってしまった(叫ばなかったけど)。この映画のための架空の戦闘機と思った人もいたかも知れないが、これは実在した機体だ。

 「震電」は太平洋戦争末期に局地戦闘機(主にB29爆撃機の迎撃を目的とする戦闘機)として開発されながら、終戦によって日の目を見ることなく終わった機体。計画最大速度は750km/hと、完成していたらレシプロ機(プロペラ駆動機)としては当時最速の戦闘機となったはず。その独特なフォルムもあいまって知名度も人気も高い。なんと将来的にはジェットエンジンに換装した「震電改」の構想まであったとか。

 私と同じくらいの世代の方なら、第二次大戦の戦闘機のプラモデル作りに凝った人も多かろう。私も中学3年生のとき(もう半世紀も前だが)、高校受験そっちのけでプラモデルにハマっていて、もちろん「震電」も作ったことがある。おかげで担任からは怒られたが(おいおい)。

 そんな ”幻の試作戦闘機” が、対ゴジラ作戦の要として甦り、大空を舞う日が来ようとは、何と胸が熱くなる展開だろう・・・もうこのあたりから涙腺が決壊を始めてしまったよ。


■橘、再登場

 終戦から2年も放置されていた「震電」を甦らせるため、敷島は因縁の相手である橘を探し出す。橘は敷島の ”真の目的” を知り、協力することに。

 機体を飛行可能な状態に復元するだけではなく、30mm機銃4門を2門に減らし、燃料タンクの容量の半分に。これにより合計で620kg軽量化し、空いたスペースに合計750kgもの爆弾(これは設計時の最大爆装重量の2倍を超える)を仕込む。でも差し引きで重量増加は130kgで済むので、機体の運動性能にも大きな影響は無いのではないか。

 NHKの番組「魔改造の夜」どころではない突貫工事をわずかな時間(作中時間では長くても一週間くらいかと思われる)で完成させるなんて、橘くん(+2人の仲間)はマジ天才整備士だね(笑)。


■決戦前夜

 ゴジラ再出現の報せに、海神隊の出航時刻も決まる。

「皆さんは可能な限り、今夜は自宅に戻って、家族と過ごしてください」
「覚悟しろってことですよね?」

しかし野田は首を振る。

「思えば、この国は命を粗末にしすぎてきました」
「今作戦では、一人の犠牲者も出さないことを誇りとしたい」
「今度の戦いは死ぬための戦いじゃない。未来を生きるための戦いなんです」

 野田の台詞が胸にしみる。間違いなく、本映画のドラマ上のクライマックスのひとつだろう。そして吉岡秀隆さんがこれ以上はないハマり役ぶりをみせる。


■震電、出撃

 作戦決行の日、いよいよ「震電」は出撃のときを迎える。
 爆弾を抱えて重くなってるはずの機体も難なく離陸させ、わずかな慣熟飛行(作中では1~2分?)で、初乗りの機体にも関わらず、しっかり馴染んで操縦もバッチリ。敷島くんの本領発揮だ(笑)。

 まあ、機体修復~改造~離陸~飛行までをリアルにやってたら尺がいくらあっても足りないので、ここはこれで正解だ。

 もっと言ってしまえば、「震電」は迎撃目的の機体なので、もともと航続距離が短い。爆装による重量増加に加えて燃料を半分にしてしまったので、作戦の最後まで飛んでいられるのか心配になってしまったが、そんな細かいところに文句をつけるのは野暮というものだろう。それに、そもそも敷島は帰路の燃料なんか心配していなかったはずだし。

 しかも、コクピットに典子の ”遺影” まで飾ってしまう。おいおい、それって最大級の死亡フラグだぜ・・・


■電報

 敷島の家に電報が届く。受け取ったのは明子の世話をしていた澄子さん。その文面を見て驚愕の表彰を浮かべる。

 このとき、典子の生存を確信した人は多かろう。私も、心の中でガッツポーズをしていたよ(笑)。

 しかし澄子さんの表情は冴えない。彼女は、敷島が生きて帰ってこないつもりであることを察していたのだから・・・


 今回はここまで。「後編」は明後日(12/2)にアップする予定。


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法廷遊戯 [読書・ミステリ]


法廷遊戯 (講談社文庫)

法廷遊戯 (講談社文庫)

  • 作者: 五十嵐律人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/04/14

評価:★★★★☆


 久我清義(くが・きよよし)と織本美鈴(おりもと・みれい)は、弁護士を目指してロースクールへ通っている。しかしある日、久我の出自を暴露する文書が出回り、美鈴はストーカー被害に遭い始める。犯人は二人の "過去" を知る者なのか?
 やがて殺人事件が起こり、美鈴は容疑者となる。久我は彼女の無実を証明すべく、弁護士となって法廷に立つが・・・
 第62回メフィスト賞受賞作。


 法都(ほうと)大ロースクールに通う学生たちの間では、"無辜(むこ)ゲーム" と呼ばれるものが行われていた。"無辜" とは罪の無いこと、無罪のことをいう。
 学生たちの間で起こる "些細な事件" を、学生たちだけで「模擬裁判」を開いて解決しようというものだ。場所はスクール内にある模擬法廷を使う。

 ある日、久我の "過去" を暴く文書と写真が出回った。児童養護施設に入所していた16歳の時、施設の職員に対して傷害事件を起こしたという新聞記事と、施設時代の久我が写っている写真だ。

 久我の要請で "無辜ゲーム" の開催が決まる。"裁判長" は結城馨(ゆうき・かおる)。既に司法試験に合格している俊英だが、弁護士にならずにスクールに在籍しているのは、大学に残って研究者になるためらしい。

 "無辜ゲーム" の中で "犯人" は明らかになるが、新聞記事と写真は、誰かが "犯人" のロッカーの中に置いていったものだという。

 そして、美織の身辺にストーカーの影が現れる。久我の活躍で "実行者" を押さえることに成功するが、彼にストーカー行為を依頼した ”黒幕” は不明のまま終わる。

 久我と美織は、かつて同じ児童福祉施設で生活していた。二人の過去を知る者が一連の事件を起こしているのか・・・?

 やがて久我と美織は司法試験に合格する。司法修習を終えた頃、結城からメールが入る。
「ある人物から告訴の申し立てがあった。久しぶりに無辜ゲームを開く。再会を楽しみにしている」

 指定された日時に、ゲームの会場となる模擬法廷に入った久我が見たものは、胸から血を流して横たわる結城の死体、その傍らには全身に返り血を浴びた美織、そしてその手にはナイフが・・・

 ここまでで全体の約1/3。これ以後、物語の舞台は裁判に移る。

 警察は美織を容疑者として起訴し、弁護士となった久我は美織の弁護人となって法廷に立つ。しかし美織は「私を信じて」と云うばかりで "事件" については口を閉ざしてしまう。

 状況は圧倒的に不利、いったん起訴すれば有罪率99%以上を誇る検察に対して、久我の孤軍奮闘が始まる・・・


 主役である久我、美織、結城の3人は言うに及ばず、彼らのロースクール時代の指導教員である奈倉(なくら)准教授、弁護士となった久我のもとで働く事務員・佐倉咲(さくら・さく)ちゃんなど、それぞれみんなキャラ立ちが素晴らしい。

 ストーリーに絡むのは、ほぼ主役の3人(しかもそのうち1人は死者)しかいないのに、文庫で400ページを超える物語を構築してみせる。当然ながら、表面に現れている事件の下には、重層的な "仕掛け" が隠されている。

 単純な刺殺事件かと見えても、その真相は二転三転、さらには物語の終結点に至るまで、作者の ”仕掛け” が何度も炸裂し、予想を越える "揺り返し" がやってくる。
 本書の終盤はまさに、作者の手のひらの上で "翻弄されている" 気分。読者は作者に引っ張られるままに最終ページまで突入していくだろう。

 法律用語や裁判の進行について必要な知識も、必要なところで必要なだけ解説されるので、分かりにくさはなく、逆に知識が与えられた故に作者の "狙い" が見えてきて、「なるほど!」「そうだったのか!」と納得できてしまう。このあたりの案配も巧みだ。

 裁判を扱ったミステリはけっこう読んできたが、本書はその中でもベスト級の作品だ。物語の展開も圧倒的だし、久我と美織のサスペンス溢れるラブ・ストーリーとしても一級品だろう。
 それに加えて、被告・被害者に限らず、裁判というものが、関わった人間たちの人生が凝縮された ”場” なのだと云うことを、これほど感じさせられたのは初めてだ。
 これがデビュー作だというのだから畏れ入る。将来が楽しみな作家さんだ。



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みやこさわぎ お蔦さんの神楽坂日記 [読書・ミステリ]


みやこさわぎ お蔦さんの神楽坂日記 (創元推理文庫)

みやこさわぎ お蔦さんの神楽坂日記 (創元推理文庫)

  • 作者: 西條 奈加
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/07/11

評価:★★☆


 高校生・滝本望(たきもと・のぞむ)の両親は、仕事のために札幌に長期滞在中。その間、望は元芸者で神楽坂に住む祖母・お蔦さんのもとで暮らすことに。
 神楽坂の街で起こる事件やもめ事を解決していくお蔦さんの活躍を描く、シリーズ第3作。


「四月のサンタクロース」
 神楽坂のイタリアン・レストラン『コルディ・アリタ』を営む夫婦が離婚しそうだという。原因は、夫の在田輝幸が妻の麻美に対し、一人娘の真心(こころ)は自分の子ではないのではないかと言い出したことだ。
 お蔦さんのもとに居候している奉介おじさん(望の大叔父で離婚経験者)がいい仕事(笑)をする一編。


「みやこさわぎ」
 お蔦さんが稽古をつけている若手芸妓・都(みやこ)姉さんが寿退職することになった。相手は多数の飲食店を経営する実業家・髙橋。"みやこ" にちなんで385万円の婚約指輪を贈られたが、その直後、都姉さんは失踪してしまう。しかし高橋は、事を荒立てるつもりはないという・・・


「三つ子花火」
 神楽坂のマンションに住む舟木学・美穂子の夫婦には2歳の三つ子がいる。美穂子が法事に出かけた間に三つ子を預かった望はてんてこ舞いをする。しかし、美穂子は本当は家出をしているらしい。仕事にかまけて家のことを妻に任せていた学に説教をするお蔦さんだったが・・・
 こういう夫は世の中にごまんといるだろう。男の側、社会の側の意識が変わらない限り、少子化は止まらんだろうなぁ。


「アリのままで」
 望の通う桜寺学園は中高一貫校。望は中等部からそのまま高等部へ進級したが、クラスメイトの笹井真棹(まさお)は、東大進学率トップの女子中高一貫校から、わざわざ受験して桜寺の高等部へ入学してきた生徒だった。どうやら、桜寺でやりたいことがあったかららしいのだが・・・
 しかし桜寺学園の理事長とは半世紀にわたる呑み友達なんて、お蔦さんどこまで顔が広いのか。


「百合の真贋」
 昔、神楽坂に住んでいた岩井兄妹(兄、妹二人)が相続争いをしている。原因は、亡くなった母が残した、新藤省燕(しょうえん)画伯が描いた白百合の日本画。時価500万円とも云われている。新藤画伯に問い合わせをしたところ・・・


「鬼怒川便り」
 お蔦さんのもとへ、宅配便で鮮魚が届く。中身は鬼怒川産の鮎だった。望は、生前の祖父が "鬼怒川の鮎" と聞いて怒りだしたことを思い出した。祖父の知人だった川端六郎(むつお)が半年前に亡くなり、その孫が宅配便の差出人だった。望はお蔦さんに川端のことを聞くが、「忘れちまった」と云うばかり・・・


「ポワリン騒動」
 望の友人・森彰彦の兄・行也(ゆきや)が夏休みにアルバイトを始めた。時給はいいが、かなりの体力仕事だった。そして行也は、つき合っている彼女に20万円も貢いでいるらしいと云うのだ・・・
 第一巻収録の「シナガワ戦争」の後日談的な話。お蔦さんがあまり絡まない話のせいか、けっこう現代的なオチ(笑)。


 本書に登場するのは、タイトルにもあるように、事件と云うよりは "騒ぎ"。お蔦さんも探偵役と云うよりは、その "騒ぎ" を遠くから見ていて、頃合いを見計らって事態を丸く収めるべく介入してくる、調停役といった方が近いだろう。話によってはミステリですらなく、人情噺や滑稽噺だったりする。

 ミステリ風味は濃くないけれど、それを補うのが望が毎回つくる料理だ。お蔦さんが一切厨房に入らないので、食事の支度はすべて望の仕事。もうけっこう長いことやってるので腕も上達してきて、読んでいると腹の虫が鳴きそうになる(笑)。このままどこかの料理屋に勤めてもやっていけそうである。

 不満を言えば、望くんが淡い思いを寄せている楓ちゃん(奉介おじさんの娘で望と同い年の女の子)の出番が少ないことか。「アリの-」では彼女の意外な趣味(?)が明らかになるが、もうちょっと本筋に絡んだ話が読みたいな。でもまあ、そのあたりは続編のどこかでがっつり描くのでしょう。



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たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説 [読書・ミステリ]


たかが殺人じゃないか: 昭和24年の推理小説 (創元推理文庫)

たかが殺人じゃないか: 昭和24年の推理小説 (創元推理文庫)

  • 作者: 辻 真先
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/03/20
  • メディア: 文庫

評価:★★★★☆


 昭和24年、学制改革によって、旧制中学校(5年制)は新制の「中学校3年+高等学校3年」へと改組された。
 旧制中学5年生だった風早勝利(かざはや・かつとし)は、新制高校の3年生へと進級した。同時に男女共学となり、1年間の高校生活を送ることになった。
 そして夏休み。部活動の合宿で訪れた温泉で密室殺人に遭遇、さらに旧軍施設の廃墟で第2の殺人が起こる・・・
 『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』に続く "昭和ミステリ" シリーズ、第二弾。


 舞台は昭和24年の名古屋。主人公の風早勝利は、旧制中学を新制中学/高校へと改組する学制改革によって、この春から東名学園高校の3年生となり、1年間のみの高校生活を送ることになった。
 同時に男女共学となるが、思春期の男女が一緒に教室で過ごすことに懸念を示す大人たちも少なくなかった。
 修学旅行が中止になってしまったのも、旅先で生徒たちが "羽目を外す" ことを教育委員会が恐れたから、との噂もあった。

 勝利は推理小説研究部の部長。部員は神北礼子と二人だけ。
 彼の親友・大杉日出夫は映画研究会の部長。部員は薬師寺弥生と二人だけ。
 もっとも、この二つの部は普段から一緒に活動していて、顧問も代用教員である別宮操(べっく・みさお)が兼任している。
 そこへ、上海から引き揚げてきた咲原鏡子(さきはら・きょうこ)が加わるところから物語は始まる。

 上海に渡る前の鏡子の話を聞くうち、勝利は幼い頃に彼女を見かけていたことを思い出す。その鮮烈な記憶から、やがて鏡子に淡い想いを寄せていくようになるのだが、意外なところから彼女の "秘密" を知ってしまう。

 別宮の提案で、生徒たちは中止になった修学旅行の代わりに、奥三河の湯谷(ゆや)温泉で一泊の合宿を行うことになった。

 現地に到着した一行は、『夢の園』の取材にかかる。かつて観光地だったが今は廃園となっている場所だ。隣接する博物館の横には「民主1号」と呼ばれる簡易住宅のモデルルームがあった。
 しかしそこに異様な匂いと蠅の飛ぶ音が。それに導かれた一行は「民主1号」の中に死体を発見する。しかし現場は内部から施錠された密室状態だった。

 さらに、旧軍の廃墟の中でバラバラ死体が発見されるという展開に。被害者はいずれも地元の名士たち。

 別宮は、事件解決のために、旧知の那珂一平(なか・いっぺい)を呼び寄せるのだが・・・


 当時の名古屋の風景や風俗の描写も、さすがに実物をその目で見ていた作者ならではのリアルさを感じさせる(まさに昭和24年のときに作者は17歳だったのだから!)。

 終戦後4年目という時代。まだ戦争の混乱は残っているがおおむね世相は落ち着き、人々も平穏な日々を過ごしている。男女別学から共学へと変わり、新しい環境のもとでの生徒たちの描写が実に楽しげである。

 特に主人公たちは生き生きと学生生活を送っているようで、不毛だった自分の高校時代(T_T)を思い出すと、羨ましいとすら感じてしまう。お互いをあだ名で呼び合うのも楽しい。

 勝利はミステリ作家志望、作中でも長編ミステリを執筆中だ。実家の料亭で出した料理から "カツ丼" というあだ名。礼子は "級長" と呼ばれるほどのしっかり者で成績もトップ。
 日出夫は無類の映画好きで、色が黒いので "トースト"。弥生は元華族の出で "姫" と呼ばれているが、明朗で愛嬌たっぷり。
 そして上海帰りの美少女・鏡子は "クーニャン"(姑娘:中国語で若い未婚女性を指す)と呼ばれることになり、彼ら4人に迎えられていく。



 4年前までは戦争が続いていたわけで、名古屋も空襲に遭っている。登場する高校生たちもそれを経験してるわけで、死体を見ても動じないところは時代を感じさせる。
 死体が短時間の内にバラバラにされてしまうという第2の殺人のトリックは見当がつくかも知れないが、密室殺人のトリックはけっこう大胆で、ちょっと見破れないだろう。

 タイトルの「たかが殺人じゃないか」は、作中に登場する人物の台詞。これもまた、本作の時代背景と無縁ではない。この言葉が登場するシーンが、本作のミステリとしてのキモになる。

 そしてなによりラストの5行が効いている。誰もが「やられた!」と思って本文を読み返してしまうだろう。
 いやはや88歳(本作執筆時)になっても、こんなことを思いつくなんて。作者の心は ”若さ” を失っていないことを証明している。



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狂った機関車 鮎川哲也の選んだベスト鉄道ミステリ [読書・ミステリ]


狂った機関車-鮎川哲也の選んだベスト鉄道ミステリ (中公文庫 あ 94-1)

狂った機関車-鮎川哲也の選んだベスト鉄道ミステリ (中公文庫 あ 94-1)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 鮎川哲也が1976~77年にかけて刊行した「鉄道推理ベスト集成」という全4巻のアンソロジーから、さらに7編を選抜したもの。[ ]内は初出年。


「狂った機関車」(大阪圭吉)[1934]
 吹雪が止んだ未明のW駅の西、給水塔と下り一番線の線路の間で死体が発見される。死因は後頭部への打撲傷。
 現場の状況から、被害者は1時間前に通過した機関車の車内で殺され、現場で投げ捨てられたものと思われたが・・・
 トリックはけっこう意外で、見破るのはほぼ無理かなぁ。蒸気機関車についても、ちょっと知識が必要かも。


「省線電車の狙撃手」(海野十三)[1931]
 "省線" とは、国鉄(現・JR)の旧名。
 品川行き省線電車(山の手線?)がエビス駅と目黒駅の間を走っていたとき、乗客の少女が座席から床に崩れ落ちる。胸に弾痕があり、肋骨の背部から弾丸が見つかる。線路周辺の住民から爆発音を聞いたという証言が得られ、弾丸は外部から撃ち込まれたものと推定されるのだが・・・
 作者は早稲田大学卒の理学士で、無線の研究をしていた科学者だった。作中には電車の速度と弾丸の速度と、被害者の体内への弾丸の進入角度の関係を示す、物理の力学問題みたいな図が載っているんだが、ゴルゴ13じゃあるまいし、そんな走行中の電車内の客を外から狙撃するなんて可能なのかい?って思ってしまった。
 じゃあ、真相は・・・って、この解決は後出しジャンケンだろう・・・?


「轢死経験者」(永瀬三吾)[1952]
 "私"は、飲み屋で30歳くらいの男と出会う。男は「線路の枕木の上に寝ていれば、上を列車が通っても死なない」という。枕木は線路より一段低いし、車体もレールすれすれほど低く造られていないからだ、と。
 男は "私" と賭けをすることになり、彼は近くの線路で寝そべった。列車が近づき、ついに男の上を通過した。怖くなった "私" は見ていられなくなり、酒場へ逃げ帰った。
 すると客の一人が「あいつは今までこの手を使って何人かからカネを巻き上げていたんだ」といい、あの男の弄した "トリック" を話してくれたのだが・・・
 安心したのも束の間、さらにもうひとひねり。


「観光列車V12号」(香山滋)[1951]
 中央アフリカ、ウガンダの首都を発した観光列車V12号は、ヴィクトリア湖横断橋を驀進している。公爵夫人サンドーラは、宝石商の使用人・田辺龍治(たなべ・りゅうじ)から、彼が使っている宝石集荷所の場所を聞き出した。その直後、田辺は夫人の放った銃弾を受けて、湖へ転落してしまう・・・
 ミステリと云うよりは冒険サスペンスかな。『ゴジラ』(1954:ゴジラ映画第一作)の原作者としか知らなかったけど、こんな作品も書いてたんだね。


「殺意の証言」(二条節夫)[1969]
 前半と後半の二部構成の作品。
 前半は、『終列車』という名の小説。大阪発東京行きの終列車に乗った "私" は、親指の無い謎の男と出会う。彼が語った、親指を失うに至った経緯は "私" の心の暗い部分に火をつけ、"私" を "ある犯罪" に向かわせる・・・
 後半は、その作者である高校教師・小沢の物語。彼の妻が死んだ件で警察の事情聴取を受けている。容疑を否定する小沢に対し、相手の警部は・・・
 『終列車』という小説の扱いがキモになるのだが、○○○○があったというのはちょっと肩透かしの感も。いくらなんでも、犯人はこれに気がつくんじゃないかなぁ・・・


「寝台急行《月光》」(天城一)[1976]
 22:30大阪発東京行き寝台急行《月光》の車内で、大阪の貿易商・宇津見の刺殺死体が発見される。やがて容疑者・桐原が浮上するが、彼は21:45大阪発東京行き《第2なにわ》に乗っていたと主張する。時刻表の上では、途中で《第2なにわ》を降りて《月光》に乗り込むことはできたが、そうすると到着後の東京での行動が説明できない、というアリバイがあった・・・
 もっとも、アリバイトリックはちょっと拍子抜けで「これはないだろう」と思った。それよりは、事件の周辺の描写の方が主のような気も。


「碑文谷事件」(鮎川哲也)[1955]
 東京・碑文谷で新進ソプラノ歌手・山下小夜子の刺殺死体が発見された。夫で音楽評論家の山下一郎は九州へ旅行中で、犯行時刻には22:45門司発東京行き準急 "2022列車" の車内にいたという。しかも、そのとき即興で思いついた狂歌(五七五七七の句。俳句に対する川柳のようなもの)を書き込んだ書物を、車中で知り合った相手に渡したと語る。捜査の結果それは証明され、アリバイが成立したのだが・・・
 メインとなるトリックは、単純すぎてかえって盲点か。むしろ "一発芸" に近いようにも思う(笑)。よく考えたら、バカミスに近いような気もしてきた(おいおい)。文庫で100ページ足らずの中編なのだけど、大長編でこのネタを使われたら怒る人もいるかも。
 もちろん、それ以外にもいくつかのトリックが組み合わされ、犯人の計画は鉄壁だ。そのひとつは鉄道路線を熟知していないと思いつかないもので、こういうマニア的なところに気づくのが巨匠たる所以なのだろう。



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『ゴジラ ー1.0』 ネタバレあり感想 前編 [映画]


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 公開して三週間近く経ちましたので、そろそろネタバレしてもいいかなぁ、というわけで、表記にあるとおり、これから『ゴジラ ー1.0』の感想をネタバレ全開で書いていきます。未見の方はぜひ劇場でご鑑賞の上で再度お越し下さい。
 映像・音響共に、まさに映画館の優れた設備で ”体験” するための作品で、一見に値する映画だと思います。

 「あらすじ」については、11/14にアップした「ネタバレなし感想」の方に書いてますので、そちらを参照してください。

 なお、この記事には同映画のノベライズ版の記述も一部参考にしています。

小説版 ゴジラ-1.0 (ジャンプジェイブックスDIGITAL)

小説版 ゴジラ-1.0 (ジャンプジェイブックスDIGITAL)

  • 作者: 山崎貴
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/11/08

 こちらは、ストーリーはほぼ映画を忠実になぞっていますが、登場人物の心情の深堀りがあったり、映像では分かりにくい部分の補足情報があったりするので、興味のある方には一読の価値があると思います。


 それでは、映画を観ていて感じたこと、あるいは見た後につらつら考えたことも含めて、映画の流れに沿ってダラダラと書いていきます。いちおう「感想」とは銘打ってますが、いつもながら駄文の羅列になってるので悪しからず。
 m(_ _)m


■敷島登場

 終戦間近の1945年。零戦パイロットの敷島浩一[神木隆之介]は、機体の不調を理由に大戸島に降り立つ。穴ぼこだらけの滑走路にもかかわらず、転倒することもなく無事に着陸してしまう。

 敷島は「実戦経験は無いが、模擬空戦は優秀」、つまり操縦技術は一流というのはここで見せておかないと終盤へつながらないからね。

 しかし機体の故障は偽り。特攻作戦から逃げてきた(おそらく仲間たちは全員死んでる)というのが彼の ”負い目” になっていく。

 ノベライズ版には、島の整備兵たちが敷島に対してささやかながら歓迎の宴を開くという場面もある。ちなみに、鍋の中身は ”あの” 深海魚(笑)。


■ゴジラ登場

  その夜、大戸島を謎の巨大生物・ゴジラが襲う。この時点の大きさは15mとパンフレットにある。ほとんど『ジュラシック・パーク』の世界。圧倒的な破壊力で島を蹂躙、敷島と整備兵の橘[青木崇高]以外の全ての人間は殺されてしまう。人間が咥えられるシーンでは「まさかの人喰い?」かと思ったら遠方へ放り投げて。人間は喰わないようだが、そもそもゴジラの主食って何だろう?

 敷島は、橘から零戦の20mm機銃でゴジラを撃てと言われても、目の前の怪物の恐怖にすくんでしまって引き金が引けない。このへんの敷島の心情についても、ノベライズ版では深堀りされている。
 この行動が二つ目の ”負い目” となる。


■復員

 終戦となり、復員船に乗ってやっとの思いで帰ってきた敷島。東京は瓦礫の山に。両親も空襲で死んだという。隣の奥さんの澄子[安藤サクラ]からは、「恥知らず」と罵られる。

 とにかくこの映画の(主に前半)中では、敷島は(いろんな意味で)とことん追い詰められるという役柄。


■共同生活

  敷島は闇市で典子[浜辺美波](&明子)と出会い、なし崩し的に同居が始まる。夫婦でも恋人でもない若い男女が一つ屋根の下で暮らすという、どこぞのラブコメみたいな展開。

 こんな美人が横にいて、何もないわけがなかろう・・・とも思うが、映画を観ている限り、同居人の関係以上には見えない。人生を半ば放棄しているという敷島の設定もあるし、神木×浜辺コンビの醸し出す雰囲気のせいか、見ているうちにその辺はどうでも良くなってしまうというか、二人が一緒に暮らしていることに違和感を感じなくなってしまう。これが『らんまん』効果なのかも知れない(笑)。ネットでもこのあたりへのツッコミはほとんど無いみたいだし。


■機雷処理作業

 1946年3月。敷島は戦争中に敷設された機雷の撤去作業の仕事に就く。金のためという敷島に対し、典子は「死んだらダメです・・・」と言う。
 ともすれば ”死” へ向かおうとする敷島に対し、典子は常に ”生” の側にいる。

 作業船・新生丸で、艇長の秋津淸治[佐々木蔵之介]、元技術士官の野田健治[吉岡秀隆]、乗組員の水島四郎[山田裕貴]と出会う。


■復興の兆し

 機雷撤去は命がけな分、給金はいい。敷島たちの暮らしていたあばら家は、小さいながらも新しい家へと建て直される。
 最初は襤褸をまとっていた典子も、次第に質素ながらもちゃんとした服へと変わっていき、ゆっくりとだが復興が進んでいることを伺わせる。

 お隣さんの澄子も、明子との関わりを通じてだんだん穏やかな表情になり、いつのまにか昭和の時代によくいた ”世話好きな近所のおばちゃん” へと変貌していく。このあたりの演出は上手いなぁと思った。
 それにしても安藤サクラさんの割烹着姿は似合いすぎ(笑)。


■典子、銀座へ

 頑なに自分との関係を進めようとしない敷島に対し、典子は自立を目指して銀座へ働きに出ることを決める。

 闇市で出会った頃こそ、蓮っ葉な口調で喋っていたが、同居を始めてからは穏やかで細やかな言葉遣いに変わり、家事も育児もきっちりこなしていて(ノベライズ版によると、澄子さんからいろいろ教わっていたらしい)、さらには事務員として働き出すに至っては、もともとの ”育ち” は決しては悪くなかったのだろうと思わせる。それも、浜辺美波さんのキャラのなせる技か。

「急ですね」
「ずっと考えていたんです」

 典子はここで敷島のことを試していたのかもしれない。ノベライズ版では、このやりとりのときの二人の心情も描かれる。このあたりは、小説ならではの描写といえるだろう。


■ゴジラ再出現

 ゴジラの足止めのために駆り出される新生丸。秋津の「誰かが貧乏くじを引かなければならない」という台詞は、後半になって効いてくる。
 そして再出現するゴジラ。口の中で機雷が爆発して傷を負うというシーンもまた後半への伏線か。もっとも、再生もとんでもなく早いが。


■「高雄」消滅

 重巡洋艦「高雄」との ”近接格闘戦” も本作の見せ場の一つ。
 艦体にのしかかってきたゴジラに対し、超近距離からの直撃を喰らわせるシーンには、思わず「おお!」って叫びそうになった(叫ばなかったけど)。
 しかし健闘虚しく、ゴジラの熱線で海の藻屑へ。


■敷島と典子

 負傷して帰ってきた敷島は、典子に過去のトラウマを語る。

「俺は生きていてはいけない人間なんです」
「浩さん。生き残った人間は、きちんと生きていくべきです」

 戦争によって ”死” を求めるようになった敷島、同じく戦争から ”生” への執着を身につけた典子。
 彼女のこの言葉が、映画のクライマックスでの敷島の決断に影響を与えたのは間違いないだろう。

 明子に味噌汁の味見をさせている典子を見て、「もう一度生きてみたい」と思う敷島。銀座での ”あのシーン” の前にこれを見せておくとは、まさに監督は鬼だね(褒めてます)。


■東京上陸

 今回のゴジラの大きさは50.1mだそうな。最盛期(?)には100mくらいあったことを考えるとコンパクト。

 だけど舞台が終戦直後だからね。ゴジラより高い建物はない(たぶん)。小さくなった分、地上と頭部の距離も近くなったので、人間の視線からはゴジラの恐ろしさが際立って感じられる。
 映像もそのあたりを強調する演出がされていて、迫力が凄い。第1作『ゴジラ』(1954)を彷彿させるシーンもある。


■銀座壊滅

 ゴジラが電車が咥えるシーンは、いままでもあったけれど、最新の映像で乗客の阿鼻叫喚ぶりも描かれる。乗り合わせていた典子の苦難たるや、もうね・・・

 ちなみに典子が落下した川は、ノベライズ版によると「外堀川」。この川は東京オリンピックの際に埋め立てられて、首都高速の敷地になってしまったので現存しないみたい。

 奇跡的に命拾いをし、助けに来た敷島と無事に巡り会うのだが(あの群衆の中、よく見つけたなぁとも思うが、そのへんは作劇上の ”お約束” だろう)、その直後にゴジラの熱線が炸裂する。

 今作の熱線は、発射までのシークエンスというか ”タメ” が充分に描かれる。ネットの感想にあった(『宇宙戦艦ヤマト』の)「波動砲」みたいって意見は、まさに言い得て妙。短時間での連射が効かないあたりも共通している。

 そして、今回の熱線は威力が凄まじい代わりに、ゴジラ自体にも損傷(主に上半身の一部に、赤く爛れたような部分が現れる)が生じる様子。これもまた終盤の展開に必要な伏線。

 そして発射後の閃光、大爆発、発生する巨大なキノコ雲、そして荒れ狂う爆風の演出は、ほとんど「核兵器」だろう。

 その爆風から敷島を守った典子だったが、自身はその代わりに吹き飛ばされてしまう。目覚めた敷島が観たものは一面の瓦礫の山、もちろん彼女の姿はない。彼がさんざん苦しんだ末に掴んだ小さな幸せの夢が、無残に散ってしまった瞬間だ。辺り一面に黒い雨(!)が降り注ぐ中、敷島が上げる絶望と怒りの叫びが、廃墟となった銀座に響き渡る・・・

 観ていて思わず「えぇーっ」て叫びそうになった(叫ばなかったけど)。
 まさかの典子さん退場か・・・とも思ったが、死体となった描写がないのだから、典子はきっと生きているはず。初見の時はそう信じながら後半を迎えていたよ・・・。

 ここまでで上映時間のおよそ半分あたり。
 以下、後編に続く。アップは11/30頃の予定。



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力士探偵シャーロック山 [読書・ミステリ]


力士探偵シャーロック山 (実業之日本社文庫)

力士探偵シャーロック山 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2018/10/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 小結・斜麓山(しゃろくやま)は、銅煎(どういる)部屋の唯一の三役力士だが、ミステリマニアで稽古嫌い。シャーロック・ホームズにハマって「自分は探偵だ」と言い出す。付け人の輪斗山(わとさん)は、そんな彼の奇行に悩まされる日々。しかしなぜか斜麓山の周囲では、怪事件が頻発するのだった・・・
 短編4作を収めたユーモア・ミステリ連作集。


「第一話 薄毛連盟」
 薄毛のために髷(まげ)が結えなくなって力士を引退した入村(いりむら)は、神田にある実家の神社を継いで宮司となった。しかし小さい神社で経営は苦しく、入村本人も何か副業をと考えていた。
 そんなとき、"薄毛連盟" なる組織から声がかかった。「薄毛の人の力になりたい」と考えた創立者が、薄毛の人に高給の仕事を世話しようというものだった。入村に与えられたのは小田原の薄毛連盟関東支部の電話番。月曜から金曜まで、毎日朝7時から夜9時までで週に30万円もらえるという。ただその代わり、月曜から金曜までは小田原に泊まり込まなければならない・・・
 まるっきり「赤毛連盟」で、裏の事情も似たようなものだが、"力士探偵" のタイトル通り、斜麓山の "力技" による解決が見ものだ。


「第二話 まだらのまわし」
 グアム島出身の具編海(ぐあむうみ)は、ついに優勝を果たして大関へ昇進、四股名を鬼天狗(おにてんぐ)とした。そして今度の巡業では、部屋に伝わる豪華な化粧まわしを着けることになったのだが、それは "呪いの化粧まわし" と呼ばれる曰く付きのものだった。
 30年前、そのまわしをつけていた先代鬼天狗は連戦連勝で大人気力士だった。しかし優勝争いをしていた九州場所13日目、宿泊先のホテルで頭から血を流しているところを発見され、「まだらのまわし」と言って息絶えたのだという。
 そして今回の二代目鬼天狗もまた、巡業での宿泊先のホテルで、胸にはさみが刺さった瀕死の状態で発見され、「ま・・だら・・のまわ・・し」と言い残して病院へ搬送されていった・・・。
 犯人指摘のロジックはしっかりしているのだが、ダイイングメッセージの真相には(なんとなく予感はしてたんだが)脱力してしまう。


「第三話 バスターミナル池の犬」
 両国のバスターミナルに面した犬神(いぬがみ)池。そこにUMA(未確認動物)が出没するらしい。目撃者は、人面魚ならぬ "犬面魚" と呼んでいるらしい。斜麓山は輪斗山とともに調べに行くが・・・
 今回は、斜麓山がホームズ・ファンになった経緯が語られ、同時に楯髪(たてがみ)部屋の幻日漢(げんじつかん)との因縁も明らかになる。そして、大相撲ファンの女性・芽阿利(めあり)も登場。


「第四話 最後の事件」
 夏場所では上位陣の休場が相次ぎ、終盤では斜麓山と幻日漢が一敗で並走する展開に。斜麓山の周囲では、なぜか不穏な事故が相次ぐようになり、さらに幻日漢の対戦相手が謎の休場を続けてしまう。幻日漢側の嫌がらせと不正工作は明らかと思われた。
 土俵に個人的な遺恨を持ち込むことを嫌う斜麓山は、角界からの引退を賭けて幻日漢に決闘を申し込むことに。場所は近郊のM山にある滝だという・・・

 「第三話」「第四話」は、ストーリー的には前後編になっている。全体としては、ミステリとしてはきっちりしてるんだけど、あちこちにおやじギャグと云うかダジャレが頻出するのは、いかにもこの作者らしい。でもまあ、ここまで徹底すると、いっそ清々しいかも知れない(えーっ)。
 ホームズもののパロディとしてもよくできてる。あまり深く考えなければ(笑)楽しい読書の時間を過ごせるだろう(おいおい)。



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ナイフをひねれば [読書・ミステリ]



評価:★★★★


 ミステリ作家アンソニー・ホロヴィッツが脚本を担当した舞台『マインドゲーム』が初日を迎えた。しかしその夜、真っ先に出た批評はホロヴィッツの脚本を酷評するものだった。
 しかもその翌朝、その劇評家がナイフで刺殺されてしまう。凶器はなんとホロヴィッツのものだった。このままでは殺人犯にされてしまう。
 頼みの綱は元刑事の探偵ダニエル・ホーソーンだったが、彼とは4作目の小説執筆を巡ってケンカ別れしたばかりだった・・・


 ミステリ作家ホロヴィッツは今までにホーソーンの活躍した3つの事件を小説化してきた。しかしこれまで、事件に遭遇するためにひどい目に遭い続けてきた(笑)ホロヴィッツは、ついに4冊目の執筆を断り、彼に別れを告げてしまう。

 一方、ホロヴィッツが脚本を担当した舞台『マインドゲーム』が初日を迎え、その夜には出演俳優やスタッフを集めたパーティーが開かれた。しかし真っ先にネットに上がった批評は、ホロヴィッツの脚本を酷評するものだった。

 そして翌朝、その劇評家ハリエット・スロスビーが自宅で刺殺されてしまう。凶器として使われたナイフは、前の晩のパーティーでホロヴィッツに配られたもの。さらに現場ではホロヴィッツのものと思われる毛髪まで見つかってしまう。

 警察に連行されたホロヴィッツはほとんど犯人扱い。すっかり意気消沈した彼の前にホーソーンが現れて、いったんは解放されるが、毛髪の鑑定でDNAが一致すれば逮捕は免れない。

 鑑定結果が出るのは最長でも48時間以内(実はこれにはホーソーンが裏から手を回しているのだが、そのへんは読んでのお楽しみか)。その間に真犯人を見つけなければならない。
 ホロヴィッツとホーソーンは関係者の間を巡り、情報を収集していくことになるのだが・・・


 舞台に参加している3人の俳優、そしてスタッフたちもそれぞれ隠している事情があり、なかなか腹の中を探らせない。
 被害者となったハリエットについても、過去の行動が明らかにされていく。上昇志向の塊で、胸に野望を秘めた彼女の周囲では、不可解な事件も起こっていた。
 彼女の夫と娘は、ハリエットからの抑圧に耐えた生活を送っており、彼女の死によって解放されたように見える。
 まあ要するに、関係者にはみな何かしらの動機を持ち合わせているようなのだ。

 後半になると、イギリスの田舎の小学校で過去に起こった、不良の子どもたちによる過失致死事件が浮上してくるが、それがハリエットの殺人とどう結びつくかは終盤になるまで分からない。

 ホロヴィッツは毎度のことながら、今回もひどい目に遭い続ける。ホーソーンに引きずり回され続けて、口を開けばぼやきか文句ばかり。本人からしたらトンデモナイ状況なのは同情を禁じ得ないが、第三者から見ていると面白いのは仕方がない(笑)。
 冒頭の事件から、終盤の謎解きに至るまで、読者を飽きさせずに楽しませるという点では、作者は群を抜いたテクニックの持ち主だと思う。

 そして面白さだけでは終わらない。ラストの解明シーンでは、それまでに蒔かれた伏線を綺麗に回収して鮮やかに犯人を指摘してみせる。
 文庫で430ページほどもあって、その中には無数の情報がばら撒かれているのだが、真相につながる手がかりをさりげなく、しかし印象には残るように語るという職人技は今回も冴えている。

 次作は2024年4月に原書が刊行されるという。翻訳のタイムラグを考えたら、日本語版は2024年の末頃かな。
 このシリーズは全10作とアナウンスされてるので、まだしばらくは楽しめそうだ。心配なのは私の寿命だけ(おいおい)。




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悲劇への特急券 鉄道ミステリ傑作選 〈昭和国鉄篇II〉 [読書・ミステリ]


悲劇への特急券 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編II〉 (双葉文庫)

悲劇への特急券 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編II〉 (双葉文庫)

  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 昭和の国鉄時代を舞台にした鉄道ミステリの傑作選、第二弾。


「探偵小説」(横溝正史)
 東北本線沿いのN温泉。そこに逗留していたミステリ作家の里見が東京に帰ることになった。N駅で列車を待つ間、同行者二人と最近地元で発生した女学生殺しについて話が弾むことに。
 警察は被害者と交際していた素封家の次男坊を取り調べていたが、里見は鉄壁のアリバイを持っていた女学校の教頭・古谷に疑惑を向ける。
 ミステリ作家として「もし古谷が犯人なら・・・」という仮定の下、推論を進めていく里見は、アリバイ工作を含む彼の犯行を明らかにしていく・・・という流れが面白い。
 同行者からツッコミが入っても、その都度柔軟に対処策を出していき、最後には "一編の探偵小説" とも云うべきストーリーが完成してしまう。しかもそれだけに終わらず、そのあとにもうひと捻りあるのが秀逸。
 本作は昔読んだこともあるし、アリバイトリックは単純だけど有名なもので、記憶にも残っている。でも今回の再読で、アリバイ以外の細かいところまで技巧が施された秀作だったことに改めて気づかされた。
 ミステリ作家は、こんなふうに作品を創り上げていくのかも知れない(実際はわからないが)って読者に思わせるところが巨匠たる所以か。


「鉄道公安官」(島田一男)
 "鉄道公安官" とは、国鉄時代に存在した役職。身分は国鉄職員だが、列車内や国鉄の敷地内で起こった犯罪に対処する司法業務を行う、"施設内警察官" とも呼べる存在だった。そのものずばり『鉄道公安官』というTVドラマもあったことも記憶してる(1979~80年。全42回)。ほとんど観てなかったが(笑)。
 主人公の鉄道公安官・海堂(かいどう)は、上り急行「出雲」に乗っていた。急行内で多発しやすい窃盗事件に対処するためだ。
 早朝に小田原駅を過ぎたとき、車掌から「乗客が一人いなくなった」との通報が。行方不明になったのは大学の助教授・大久保だった。東京の自宅を訪ねた海堂は、夫人のかつ子もまた失踪していたことを知る・・・
 大久保は石油の消費量を削減する画期的な研究をしていたらしいが、それに絡む石油会社などの思惑など、意外と深い陰謀が底流にあったことが明らかになっていく。
 ちなみに、国鉄が民営化されてJRになったとき、鉄道公安官の職は廃止され、公安官たちは改めて採用試験を受けて警察官になった者と、JRに残って一般職員になる道を選んだ者と二つに分かれたという。


「不運な乗客たち」(井沢元彦)
 東西鉄道は、神奈川県大船を起点に都心まで路線を持っている。ある日の朝、通勤通学客を満載した車両が都県境の麻生川を渡っていたとき、突然全部の車両の左側のドアが開いて乗客が川や線路際に転落、死者行方不明8名を含む数十人の死傷者が発生する大事故が起こってしまう。警察は車掌・上原を業務上過失致死の疑いで取り調べを始める。
 しかし事件に不審なものを感じた美術評論家・南条は、新聞記者・久保田と共に調査を始めるが・・・
 ミステリ通なら「木の葉を隠すなら森の中」的なカラクリを思いつくだろうが、作者の用意した真相はそれを超えたものだろう。


「ある騎士の物語」(島田荘司)
 1960年代、恋ヶ窪のアパートに住んでいた5人の若者がオートバイによる配達業務を行う会社「クイックサーヴィス」を設立した。リーダーの藤堂次郎のもと、会社は順調に発展していく。やがて藤堂は恋人の秋元静香とマンションで同棲を始めた。会社は業務を拡大し、カレーショップのチェーンまで始めた。
 しかし1974年の1月、藤堂が失踪してしまう。会社の資産をすべて現金に換えて持ち逃げし、カレーショップの権利も既に人手に渡っていた。新たな恋人と生活を始めるためらしい。捨てられた静香は復讐を誓う。
 そして2月1日の晩。残された4人の前に現れた静香は、銃を手にしていた。藤堂が今晩の午前1時に埼玉県東所沢の、ある場所に現れることまで突き止めたという。
 しかしその晩、東京は大雪に見舞われており、道路は通行不能になっていた。時刻は既に12時40分、武蔵野線も既に終電が出ており、午前1時までに恋ヶ窪から東所沢まで移動することは不可能だった。
 だが、藤堂は東所沢で射殺死体となって発見される。そして死亡時刻は午前1時だった・・・
 初読は1990年代に刊行された文庫版の短編集だったと記憶してる。ストーリーはすっかり忘れていたけど、トリックはすぐ思い出した。それくらい印象的だったのだろう。



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全能兵器AiCO [読書・冒険/サスペンス]


全能兵器AiCO (講談社文庫)

全能兵器AiCO (講談社文庫)

  • 作者: 鳴海章
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/12

評価:★★★


 郷谷良平(ごうたに・りょうへい)は航空自衛隊のベテラン・パイロットだ。彼は次世代機開発計画への参加を命じられる。それはAIを搭載した無人ステルス戦闘機で、メインとなる開発者は、かつて空自パイロットだった佐藤理(さとう・おさむ)だった。
 一方、尖閣諸島上空で民間のセスナ機が墜落、現場から回収されたカメラのデータには中国人民解放軍の戦闘機が映っていた・・・


 2014年10月。航空自衛隊パイロット・郷谷良平は2佐に昇進、同時にATD-X(先進技術実証機:Advanced Technological Demonstrator - X)開発計画への参加を命じられる。

 その目標はステルス戦闘機にAIを搭載して無人化しようというもの。AiCO(Artificial intelligence of air COmbat:アイコ)と呼ばれる搭載AIの開発者は佐藤理。彼は東京大学工学部航空宇宙工学科出身という異色の経歴で空自パイロットとなったが、訓練の過程で先輩たちの凄腕ぶりを目の当たりにし、自分の才能に見切りをつけて退職したという過去があった。

 郷谷の役目は彼の操縦技術をAiCOに学習させること。フライト・シミュレーターでの操縦、そして実機での操縦から得られた、彼のあらゆる "操縦/空戦テクニック" のデータをAiCOは学習し、"成長" していく。

 機体の性能が極限まで進歩していったとき、パイロットが人間であることが最大の ”弱点” となるというのが佐藤の主張だ。AIが操縦すれば、人間では耐えられないような高Gでの空戦機動も可能となり、判断ミスもゼロとなる。佐藤の目的は、戦闘機から人間を "引きずり下ろす" ことだった。

 一方、尖閣諸島上空で民間のセスナ機が墜落、現場から回収されたカメラのデータから、中国人民解放軍の戦闘機の関与が推測された。
 セスナ機のパイロットは元自衛官、乗員はカメラマン。警視庁公安部外事二課の世良融(せら・とおる)は、二人の経歴から自衛隊OBの国会議員へと辿り着く。二人は、戦闘機の飛来時刻を事前に知っていて、何らかの映像を撮ろうとしていたのではないか?

 さらに、人民解放軍が所属不明のステルス機の攻撃を受け、撃墜されるという事態が発生する。被弾した機体の調査から、使用された武器はレールガン(電磁誘導で弾体を撃ち出す武器)であることが判明する。
 ちなみにレールガンの初速は通常の機銃の初速の2倍くらい速いらしい。

 物語の進行と共に、台湾・東南アジア・日本の一部に、ある "陰謀" が進行していること、佐藤もまたそれに加わっていたことが明らかになっていく。放置すれば日本と中国の武力衝突へつながるという最悪の事態になりかねない。

 クライマックスの舞台は、尖閣諸島上空。佐藤の開発したAiCO搭載のステルス戦闘機と、郷谷の駆るF-15の一騎打ちが描かれる。
 相手は「無人」というアドバンテージを持ち、郷谷の空戦テクニックを学習/熟知し、レールガンを搭載した無敵の戦闘機。郷谷は、この圧倒的に不利な状況を覆すことができるのか・・・


 本書の初刊は2016年だが、この7年間でのAIの進歩は著しい。現在はChatGPTに代表される生成AIの扱いが議論されているが、本書のように戦争にAIを投入するという研究も密かに進んでいるだろう。AI搭載のドローン兵器なんかも報道されているし。
 ウクライナに続いてパレスチナと、世界から戦争がなくなりそうにない。そのうちAIが人間を殺しまくる未来が来そうではある。『ターミネーター』の世界だな。


 作者の鳴海章氏は、1991年に第37回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。受賞作『ナイト・ダンサー』は、サスペンス溢れる航空アクション小説の傑作で、大興奮しながら読んだのを覚えてる。
 初期は航空サスペンスが多かったけど、そのうち他のジャンルに移っていった。でもたまに、こんな小説も書いてくれる。これは嬉しいことだ。



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