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その孤島の名は、虚 [読書・ミステリ]


その孤島の名は、虚 (角川文庫)

その孤島の名は、虚 (角川文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/06/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 極彩色のオーロラが校舎を覆い、そこで活動していた吹奏楽部の女子高生24名は、いずことも知れぬ絶海の孤島に飛ばされてしまう。彼女らを襲う "悪意の存在" によって、次々に喪われていく仲間たち。生き残った者たちは必死になって生還の道を探るが・・・


 東京都立吉祥寺南女子高等学校、通称・吉南(きちなん)女子高校の吹奏楽部は、強豪と肩を並べる伝統を誇り、並の運動部を超えるような練習をこなす、超体育会系の文化部だ。

 5月のある夜、校舎に残って練習していた部員24名は超常の現象に遭遇する。極彩色に輝くオーロラが出現し、次の瞬間、彼女らは校舎ごと見知らぬ場所に飛ばされてしまう。

 彼女らが出現したのは、小高い丘の頂き。そして間髪を入れずに襲ってきたのは、3匹の大蛇(!)。全長10mを超え、生徒を丸呑みにしていく(なんと!)。
 絶体絶命の危機に陥った彼女らを救ったのは、全身が真っ黒い粒子でできているような姿をした "シルエット人" だった。"彼ら" が機関銃を掃射して蛇を撃退したのだ。しかし "シルエット人" もまた味方ではなかった。"彼ら" は生徒の一人を拉致して去っていったのだ・・・


 物語は、生徒の一人である中島友梨が語り手となって綴られていく。吹奏楽部は楽器ごとに「クラリネット」「ホルン+サックス」「トランペット」の3つのパートに分かれており、友梨は「クラリネット」のパートリーダーを務めている。また、普段の彼女らは楽器別に分かれて練習しているので、パート内の生徒は結びつきが強い。

 ちなみに、文庫表紙のイラストには2人の生徒が描かれているが、持っている楽器から推定するに右側が友梨、左側が「トランペット」のパートリーダー兼吹奏楽部長の神蔵(かみくら)響子だろう。


 生き残った生徒たちは周囲の情報を集め始めるが、やがてここが絶海の孤島であり、彼女らに敵対する勢力が潜んでいること、そして不可解な現象が頻発する異世界であることを知る。
 不安、焦燥、絶望感、そして疑心暗鬼から生徒たちは内部対立し、やがてパートごとに3つの集団に分裂して互いに敵対し合うようになってしまう。友梨はそんな状況に心を痛めながらも、「クラリネット」パートのメンバーを率いていくことになる・・・


 ここまでをみると、まるっきり異世界ファンタジーの趣きなんだが、後半に入って次第にこの世界を支配する "法則" が明らかになっていく。
 その "法則" だが、ファンタジーだからといってまるっきり恣意的というわけではなく、それなりに論理的な構造を持っていて、この世界を支配する基本となっている。この法則を解明することがこの世界からの脱出にもつながっている。


 登場するキャラがそれぞれ魅力的だ。女子高生であっても "萌え要素" はほとんどない。みな夢も希望もエゴも欲望ももつ、人間らしい存在として描かれる。それに加えて、みんな自立心が旺盛で、とーっても逞しい(笑)。
 まあ、いささかエキセントリックに誇張されてるけど、舞台がこれだけ異様なのだから、ある意味当然ではある。そうでなければ生き残れないだろうし。

 3つのグループに分裂した彼女たちは、自らの生存を掛けて、他のグループに対して牙をむく。そんな極限状態に陥っても、友梨は比較的、冷静さというか客観性を保った存在として描かれる。というか、そういうキャラだからこそ語り手になり得るし、主人公にもなったのだろうが・・・

 なんで女子ばっかりなのかと思わないでもなかったが、男子がいると必然的に恋愛要素も絡んできて、ただでさえ情報量が多い物語がさらに錯綜してしまうだろう(本書は文庫で510ページもある)。だから女子だけにしたんじゃないかなぁ。まあ、作者の趣味もあるんだろうが(笑)。
 もし男子だけだったら、この設定だと早々に殺し合って、あっという間に全滅していたかも知れない(おいおい)。


 異世界ファンタジー、無人島漂流サバイバル、冒険サスペンス、SF、どのジャンルにも当てはまりそうだが、作者は "特殊設定ミステリ" として書いてるのだろう。超常の現象や非日常のイベントが続くが、その中にしっかりミステリ要素を織り込んでいて、最後にはしっかり謎解きも行われる。

 ラスト近く、この世界を支配する根本原理が明らかになり、その意外性に驚くことになる。まあ、本編内の章の題名で、ある程度の見当がつくかも知れないが・・・
 読み終わってからもう一度、本書のタイトル「その孤島の名は、虚」を見てみると、読む前とはまた違った感慨を抱くだろう。



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