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神様の罠 [読書・ミステリ]


神様の罠 (文春文庫)

神様の罠 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/06/08

評価:★★★


 2020~21年に雑誌掲載された作品を直に書籍化した、文庫オリジナルのミステリ・アンソロジー。6篇を収録。

* * * * * * * * * *

「夫の余命」(乾くるみ)
 物語は、時原美衣(ときはら・みい)という女性が病院の屋上から身を投げるシーンで始まる。地面に激突するまでの時間、いわゆる "走馬灯タイム" がやってくる。彼女は愛する夫と過ごした、短いが幸福だった日々を回想していくのだが・・・
 最後のオチまで来たら、最初に戻ってあちこち読み返してしまったよ。よくできていると思うけど、このタイプのオチは私の好みではないなぁ。


「崖の下」(米澤穂信)
 群馬県の鏃岳(やじりたけ)スキー場から警察に遭難事故の連絡が入る。埼玉県から来た5人連れの客のうち、4人が戻ってこなかったのだ。
 捜索の結果、遭難者のうちの二人、後東陵汰(ごとう・りょうた)と、水野正(ただし)が発見される。現場はスキー場のコースから2kmほど離れた崖の下。突発的な雪のため、崖から転落したものと思われた。
 水野は存命していて救急搬送されたが、後東は既に死亡していた。それも他殺死体となって。凶器は先の尖ったものと鑑定されたが、彼らはスノーボードのためストックは所持しておらず。現場にもそれらしいものは見つからない。捜査の結果、水野には動機があったことがわかるが、凶器の問題が立ちはだかる・・・
 この "ハウダニット" に取り組むのは群馬県警捜査一課の刑事・葛(かつら)。頭は切れて捜査能力は抜群だが人望はないという設定。ラストで明らかになる、意外すぎる凶器に驚かない人はいないのではないかな。


「投了図」(芦沢央)
 美代子(みよこ)は、27年連れ添った夫と共に、義父から受け継いだ古書店を経営している。二人が暮らす町で将棋のタイトル・棋将戦が開かれることになった。
 しかし時はコロナ禍の最中。町にはマスコミや将棋ファンが押し寄せてくるだろう。そんなとき、会場となる旅館に「棋将戦を中止せよ。ウイルスを持ち込むな」という手書きの張り紙が。その字を見て「夫の字と似ている」と感じた美代子だったが・・・
 この作者さん、まだ30代だと思うのだが、最近読んだ『ただ、運が悪かっただけ』や本作といい、長年連れ添った夫婦の間の機微を描かせたら抜群に上手い。たいしたものだ。プロの作家なんだから当たり前と云えばそれまでなんだが、スゴいと思う。


「孤独な容疑者」(大山誠一郎)
 作者の短編集『記憶の中の誘拐 赤い博物館』で既読。
 『赤い博物館』とは警視庁付属犯罪資料館の通称。そこは、発生から一定期間が経過した事件の資料を保管する倉庫。
 館長・緋色冴子(ひいろ・さえこ)警視の命令のもと、過去の事件の再捜査が行われ、意外な真相が明らかになっていく・・・というシリーズの一編。
 1990年3月、32歳の会社員が殺害された。被害者は同僚や上司相手に高利貸しのようなことをしており、借金の返済に苦しんで恨みを抱く者は多数に上ると思われた。
 ストーリーは犯人の一人称による ”倒叙形式” で始まるのだが、もうこの段階で作者の仕掛けは始まっていて、ラストに至ると見事な背負い投げを食らってしまった。なんとも油断のならない作品だ。


「推理研 vs パズル研」(有栖川有栖)
 学生アリス・シリーズの一編。
 居酒屋で推理研のメンバーとパズル研のメンバーが鉢合わせ、時ならぬミステリ&パズルの論争が始まる。「小説のに登場するような名探偵なんていない」と主張するパズル研から、推理研に対して "ある問題" が投げかけられる。
 例によって推理研部長の江神二郎は、あっという間に正解に辿り着くが、「それだけではつまらない」とばかり、さらに深掘りした解答を導き出していく。
 実は江神の解説を読んでもすぐには理解できなかった。時間を掛けてあれこれ頭を捻ってやっと納得できたのだが、自分には論理的思考というのができないんじゃないかって真剣に悩んでしまった(おいおい)。


「2020年のロマンス詐欺」(辻村深月)
 せっかく大学に入ったものの、コロナ禍のせいで実家の商売が左前になり、仕送りが減らされてしまった加賀耀太(かが・ようた)。
 そんなとき、幼馴染みの奥田甲斐人(おくだ・かいと)から "オンラインでできるバイト" に誘われる。しかしそれは、いわゆる "ロマンス詐欺" の片棒を担ぐ仕事だった。
 渡されたリストにある女性に連絡を取り、こちらは架空の身分を名乗って相手の歓心を誘い、それを信頼感、さらには恋愛感情まで育て上げ、相手から金を引き出したり高価な物品を売りつけるというものだった。
 罪悪感を感じながらも、耀太は数人の女性とネット上でやりとりをし、その一人で「未希子」と名乗る女性と親しくなる。
 裕福な夫と暮らす専業主婦らしいのだが、ある日彼女から「助けて。夫に殺される」というメッセージが入ってきた・・・
 軽い気持ちではじめたネット詐欺が、次第にのっぴきならない展開を迎え、耀太ががんじがらめに捕らえられていく、という重苦しい展開が続き、読み進めるのが正直辛い。
 派手に破滅していく結末を予想していたのだが、作者が用意した結末はいささか予想外。ちょっと甘いような気もするが、このエンディングはコロナ禍に苦しんだ若者たちへのエールなのかも知れない。



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