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小椋佳 ファイナル・コンサート・ツアー 余生、もういいかい [日々の生活と雑感]


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 去る日曜日(5/29)、表題にあるコンサートへ行ってきました。

 7年前の2015年10月、大宮ソニックシティで行われたコンサートに続き、2回目となります。前回はかみさんが突然の急病で、私1人で行ってきたんですが、今回は2人揃って参加できました。

 会場はサンシティ越谷・大ホール。東武線・新越谷&JR・南越谷駅から徒歩3分。駅を降りてサンシティへ歩いて行ったら、コンサート客と思しき人々の群れが。前回も思いましたが、年齢層は高めですかね。

 今回、入場にあたっては、座席番号・住所・氏名・連絡先を記入した用紙を提出しなければなりません。まあコロナ禍の中、致し方ないですかね。用紙はサンシティのwebサイトからダウンロードできたので、事前に記入して用意しておきましたので、スムーズに入場できました。

 今回のコンサートは、新聞広告に載ったのを見て知り、その日のうちにチケットを取りました。そのおかげか、席は前から1/3くらいの場所で、やや横の方でしたが、十分ステージに近いところが取れたと思います。
 サンシティのwebページでは ”完売” とありました。実際、会場に空席はなく満席状態でしたね。


 そんなこんなでコンサート開始。

 第一部の導入は、なんだかヘンな歌でした(笑)。
 トシのせいで体力がもたないとか最後までできるか心配だとか、愚痴みたいな歌詞で、オイオイと思いましたが、その後のトークで御年78歳とのことで。

 言われてみれば、7年前に「もう古希を過ぎてるし、去年『生前葬』と銘打ったコンサートも開いてますから」って言ってましたね。
 たしかに7年前と比べたら、やっぱりトシ取ったかなぁ・・・とは思いましたが、その分、一所懸命に歌ってるのは分かります。会場のお客さんもそのあたりは承知してますので、終始温かい雰囲気の中でのコンサートでした。

 続けて2曲目は「しおさいの詩」に。
 今回のコンサートは有名なヒット曲、それも他の歌手の方々に提供した曲がメインだったように思います。

 続いて順不同ですが「夢芝居」(梅沢富美男)、「俺たちの旅」(中村雅俊)、「シクラメンのかほり」(布施明)、「泣かせて」(研ナオコ)、etc・・・

 中でも驚いたのが「旅立ちの序曲」を歌ってもらえたこと。これはOVA『銀河英雄伝説』のエンディング曲の1つとしてつくられたもので、小椋佳さんがアニソンを書いた唯一の作品ではないでしょうかね。

 ちなみに、今映画館でやってる『銀英伝』(ラインハルト・宮野真守、ヤン・鈴村健一)ではなく、1988年から始まった、本編のみで全110話というとんでもないOVAシリーズの方ね。ヤン役は今は亡き富山敬さんだった。
 私もOVAを申し込んで、たしか第二期くらいまでは買ってたんだけど、その間に結婚して、引っ越しをして、家を建てて・・・って、私生活が怒濤の大変貌を遂げてしまった(笑)ので、それに紛れて途中で買わなくなってしまいました。石黒昇監督、ゴメンナサイ。
 第二期までのVHSは実家の押し入れに放り込んであると思うんだけど、もうテープが劣化してて再生できないだろなぁ・・・


 20分の休憩を挟んで第二部。

 OPはピアノの弾き語りで英語の歌詞の詩。ところどころ意味はわかるんだけど、はて、これ何の曲だったかな? メロディーに聞き覚えはあるんだが・・・どうも記憶力が・・・(おいおい)

 続いて「少しは私に愛を下さい」。続いて若き日の井上陽水と作った「白い一日」、堀内孝雄さんと作った「愛しき日々」、美空ひばりさんのために作った「愛燦燦」、林部智史という歌手の方に作った「ラピスラズリの涙」、etc・・・



 第一部・第二部ともに、曲の合間にトークが入るのですが、これがめっぽう面白い。「シクラメンのかほり」がヒットして、布施明さんが ”お礼” をしてくれた話とか、「夢芝居」の印税の話とかはもう抱腹絶倒もの。
 それ以外にもいろんな話題が出たのですが、総じてけっこう ”口が悪い” 方ですね(笑)。とは言っても、思ったことをそのまま言ってる感じで、内容は間違ってないとも思うので、聞いてる方は笑いながらも納得してしまいます。

 まあ、この年齢まで芸能界の第一線で活躍し、華々しい実績を残してるからこそ言える、というか「これくらい言っても許される」って思わせる人です。

 さて、そんなこんなでおよそ2時間のコンサートもいよいよ終わりの時が来ます。当然ながら観客の皆さんはアンコールを期待します。私ももちろんそうでした。

 何を歌ってくれるのかなぁ・・・歌手生活の原点を歌うんだったら「○○○」、人生の締めくくりを歌うんだったら「△△△」だろうなぁ・・・って予想してました。(ちなみに○や△の数は実際の曲タイトルの文字数とは異なってます)

 で、蓋を開けたらなんと、2曲とも歌っていただきました! これは感激でしたね。特にかみさんは「○○○」が大好きなので(個人的な思い出と絡んでるらしい)、「きゃー」って叫んでましたよ(笑)。


 終わって帰りながらいろいろ話したんだけど、かみさんは大満足だったみたいです。これからも、いろんなアーティストのコンサートにいきたいねぇ・・・なんて話しました。陽水もユーミンも、布施明もそのうち行きたいな・・・


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隷王戦記 (全3巻) [読書・ファンタジー]


隷王戦記1 フルースィーヤの血盟 (ハヤカワ文庫JA)

隷王戦記1 フルースィーヤの血盟 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森山 光太郎
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/03/17
隷王戦記2 カイクバードの裁定 (ハヤカワ文庫JA)

隷王戦記2 カイクバードの裁定 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森山 光太郎
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/08/18
隷王戦記3 エルジャムカの神判 (ハヤカワ文庫JA)

隷王戦記3 エルジャムカの神判 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森山 光太郎
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/04/20
評価:★★★★☆

 文庫で全3巻、総計1250ページほどにもなる大長編ヒロイック・ファンタジーだ。


 舞台となるのは異世界の大陸・パルテア。

 そこは大きく3つの地域からなる。
 ”牙の民” と ”草原の民” が暮らす〈東方世界〉(オリエント)、
 〈世界の中央〉(セントロ)の ”戦の民” は多くの国家に分裂し、戦乱に明け暮れている。
 そして大国・ウラジヴォーク帝国が支配する〈西方世界〉(オクシデント)。

 この世界には、7人の〈守護者〉と3人の〈背教者〉と呼ばれる、超常の力を持つ者たちが現れる。それは世界創世の時代からの ”神々の戦い” が尾を引いたもので、〈守護者〉たちと〈背教者〉たちは相争い、人間の世界に戦乱をもたらしてきた。

 ”牙の民” の王・エルジャムカが〈人間の守護者〉の力を得たこと、同じ時期に ”草原の民” の族長の娘・フランが〈鋼の守護者〉の力を得たことで、世界の平衡は崩れ去る。

 人間世界の制覇を目指すエルジャムカは、その手始めに ”草原の民” に向けて侵攻を開始する。フランの持つ〈鋼の守護者〉の力を我がものとするためだ。
 「降るか、滅びるか」
 抗えば滅ぼされ、降伏しても奴隷兵とされ、”牙の民” による世界制覇の戦いの最前線に送り込まれることになる。

 それでも、”草原の民”・次期族長のアルディエルは民の命を救うために降伏を選択する。

 主人公・カイエンは、アルディエルの親友であり、フランに想いを寄せる剣士だった。彼はアルディエルの決定を不服とし、”砂の民” の軍勢を率いて ”牙の民” に立ち向かう。
 しかし、エルジャムカの繰り出す圧倒的な〈守護者〉の力の前に、為す術もなく敗れ去ってしまう。


 フランがエルジャムカに助命を願い、それによって一命を取り留めたカイエンは〈世界の中央〉へと流れていき、都市国家・バアルベクで奴隷兵となった。

 生きる目標を喪い、刹那的になっていたカイエンだったが、バアルベク太守・アイダキーンの娘・マイと出会ったことで、彼の運命は大きく変転することになる。

 マイの護衛役となったカイエンは、奴隷であっても人間的な扱いをするアイダキーンと、父の思いを継いでひたすら民の幸福のみを願う娘・マイの ”理想” に触れたことで、少しずつ心の再生を果たしていく。

 そんなとき、バアルベクで内乱が勃発、マイが拉致されてしまう・・・

 その戦いのさなか、カイエンは〈憤怒の背教者〉の力を手にすることになる。内乱鎮圧を果たした彼が、バアルベクの ”騎士” に任じられるまでが第1巻。


 その間にも、”牙の民” は強大な軍勢で西へと侵攻を続けている。エルジャムカに対抗するには、群雄割拠している〈世界の中央〉の ”戦の民” の争いに終止符を打ち、全戦力を糾合して ”牙の民” にぶつけるしかない。


 第2巻では、カイエンとマイによる〈世界の中央〉統一の戦いが描かれる。
 バアルベクの隣国シャルージとの戦いでは、〈炎の守護者〉の力を持つ戦士・エフテラームが立ちはだかる。
 そして南部地域を統べるカイクバードは ”軍神” の異名を持ち、〈世界の中央〉最大の戦力を率いている。


 そして第3巻では、いよいよ ”牙の民” との最終決戦が描かれる。
 フランの他にも多くの〈守護者〉を傘下に加えたエルジャムカは、怒濤の勢いで〈世界の中央〉へ侵攻してくる。

 盟主・マイのもと、”戦の民” の統合を果たし、”隷王” の称号とともに全軍の指揮権を手にしたカイエンは、エルジャムカ率いる300万の軍勢を迎え撃つことになるが・・・

 とにかく、〈守護者〉たちの力を駆使する ”牙の民” の強さは圧倒的だ。迎撃のために築いた長大な砦もエルジャムカの勢いを止めることは叶わず、有力な武将たちも次々に戦死を遂げていく。

 それに加えて、エルジャムカと対決する前に、カイエンが倒さなければならない相手が2人いる。
 1人はかつての親友であり、今は ”牙の民” でも屈指の大将軍となったアルディエル。
 そしてもう1人は、かつての想い人であり、今やエルジャムカとともに世界を破滅へと導こうとしている〈鋼の守護者〉・フラン。

 このあたり、読んでいて実に心臓に悪い。「勝てる気がしない」というフレーズがあるけれど、第3巻はまさにその言葉がぴったりである。
 この手の物語はけっこう読んできたつもりなのだが、ここまで ”絶望感” に襲われる物語はほとんど記憶にないくらいだ。それだけ作者の筆力が優れているということなのだろう。
 実際、第3巻の前半はどうにも読み進めるのが辛くて、ペースがかなり落ちてしまったことを告白しておく。

 エルジャムカの持つ〈人類の守護者〉の力は、”〈守護者〉の王” とも言うべき最強の力だ。
 それに対抗し、〈人類の守護者〉を倒す唯一の方法は、3人の〈背教者〉の力を一つに束ねること。
 カイエンは残り2つの〈背教者〉の力を手にすることができるのか、そしてエルジャムカの進撃を止めることはできるのか・・・


 大長編ゆえ、魅力的な脇役も数多く登場するのだけど、もうかなりの量を書いてしまったので、これくらいにしておこう。

 傑作だと思うのだけど、あえて難を言えば、ところどころ物語を端折ったように感じる部分がある。
  物語の疾走感を重視したのかとも思ったが、あまり長くならないようにと版元からページ数の制約を示されたのかも(笑)。
 なにせ、本が売れない時代なのでねぇ・・・

 とはいっても、読んでいて不満に感じるほどではないので、これはこれで構わないとも思う。
 私自身は、面白ければどんなに長くても苦にしないのだけどね。
 本書の内容は、十分に書き込んだら倍の6巻くらいあってもおかしくない。それくらい豊かな物語が詰め込まれていると思う。


 久々に、大興奮しながら読んだヒロイック・ファンタジー大作でした。
 現在のところ、「今年読んだ本ベストテン」で暫定ながら第1位です。



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滅びの鐘 [読書・ファンタジー]


滅びの鐘 (創元推理文庫)

滅びの鐘 (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/08/09
評価:★★★★

 舞台となるのは、大陸の北にある国・カーランディア。
 土着の民・カーランド人は、100人にひとりは魔法使いの才を持つ、創造性豊かな民だった。しかし600年前、西の海からやってきたアアランド人によって征服されてしまう。

 それでも長い間、二つの民はなんとか平穏な時を過ごしてきたが、アアランド人の王・ボレスクがカーランド人の大虐殺を始めたことで、平和は破られてしまった。

 偉大なる魔法使い・デリンもまた、娘夫婦をボレスクに殺される。彼は報復として王宮前広場にある鐘を打ち砕いてしまう。それは平和の象徴として、439人のカーランド職人によって建造されたものだった。

 鐘は439の破片となって飛び去り、世界中に散ってゆく。同時に、鐘に封じられていた〈闇の獣〉と〈闇の歌い手〉も解き放たれてしまう。

 破片を胸に受けたボレスク王は命を落とし、足に受けた第一王子・イリアンは歩くことができなくなってしまう。難を逃れた第二王子・ロベランは、父と兄の復讐のため、そして〈闇〉を封じてイリアンの足を治す術を得るために、カーランド人へのより一層の迫害を進めていく。

 主人公・タゼーレンは王都の東にある村に暮らす、弓の得意な少年だ。そこではカーランド人・アアランド人の区別なく仲良く暮らしていたが、ロベランによる統制は強まり、ついにカーランド人たちは村を捨てて逃亡することに。

 王都から離れるべく、東の山岳地帯へ向かって旅を続けるタゼーレンたちの苦難が綴られていく。束の間の安住の地を得たかと思っても、アアランドの追撃軍は迫ってくる。
 最終的に、タゼーレンたちは山を超えた彼方にあるという ”伝説の都・カーランド” を目指すことになる。

 そして、〈闇の獣〉を再び封じるためには、古より伝わる〈魔が歌〉を歌うことしかない。しかしそれは、 ”人ならぬ者” にしか歌うことができないものだった・・・


 文庫で約570ページという大長編。巻末のあとがきによると、作者が10代のころから構想していたものらしい。

 思い入れもたっぷりあるのか、登場するキャラも多彩だ。

 タゼーレンの父・アクセレンは〈歌い手〉としての類い希な才を持つ。
 タゼーレンの幼馴染みの少女・セフィアは、アアランド人であるにもかかわらず、カーランド人たちの逃避行に同行する。
 デリンの身内で唯一生き残った孫息子・オナガンは両親の死に心を閉ざす。
 アアランディアの大公・キースはデリンともつながりをもち、ロベランの行動には批判的。いささか服装の趣味がユニーク(笑)な人だが。
 カーランド人迫害を進めながらも、なかなか目的達成ができず、さらには王位の後継争いまで勃発してしまって、次第に狂気に囚われていくロベラン。
 王国南部オーギシクの大公の娘・ヴァレンナは終盤に登場して、物語に絡んでくるなど印象に残るお嬢さんなんだけど、もっと早く出番を与えて、カーランド人たちと関わらせてもよかったんじゃないかなぁ。

 しかし何といっても、本書は主人公・タゼーレンの成長の物語だ。

 冒頭では、仲間たちから ”いじめ” っぽく扱われる少年として登場するが、物語の中でさまざまな苦難に遭いながら成長していく。
 ”ある理由” から弓の腕も上達し、やがてアアランドの追撃隊からも恐れられる存在に。さらには ”伝説の都・カーランド” の手がかりを見つけ、逃亡先に行き詰まったカーランド人たちに行く手を示したり。
 終盤では過酷な運命に見舞われてしまうのだが、彼の ”選択” が物語を終結へと導いていく・・・


 作者の代表作である〈オーリエラント〉シリーズではないけれど、単発作品だからこそ描ける物語もある。
 重厚で、雰囲気はどちらかというと暗めなのだけど、読後感は悪くない。



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ハケンアニメ! [映画]


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 タイトルの ”ハケン” とは ”覇権” のこと。
 毎年、膨大な数の新作アニメがTV放映されている日本で、同一クール中で最も話題になり、”売れた” アニメに与えられる称号が ”ハケンアニメ” だ。
 自分たちの生み出した作品が ”ハケンアニメ” となるように、日々奮闘するアニメ業界の人々を描く、辻村深月による同名小説を原作とした映画だ。


 それでは、公式サイトにある ”あらすじ” をちょっと加工して・・・

 主人公となる齋藤瞳[吉岡里帆]は28歳の新人アニメ監督。8年前に王子千晴[中村倫也]監督のデビュー作『光のヨスガ』に出会って衝撃を受けた。
 なぜそんなに彼女の心に ”刺さった” のかは、映画の中で明かされていく。

 国立大を卒業、県庁職員となっていた瞳だったが、「観る人に魔法をかけるような作品を作りたい」との思いに駆られた彼女は仕事を辞め、”自分の夢” へと向かってアニメ業界へ転職したのである。

 そして今期、彼女は連続アニメ『サウンドバック 奏の石』でついに監督デビューを果たす。だが、気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲が漂う。何せ周囲のスタッフはみな彼女よりキャリアのあるベテランばかりだしね・・・

 瞳を大抜擢したプロデューサー・行城(ゆきしろ)[柄本佑]は、敏腕ではあるのだがビジネス最優先。作品のタイアップ企画やマスコミ対応に、ことごとく瞳を引っ張り出して廻るので、そのストレスだけでも半端ない。

 そして、運命のいたずらか『サウンドバック』は、王子千晴監督の新作『運命戦線リデルライト』と同一曜日・同一時間帯の放送と ”まるかぶり” 状態。期せずして瞳にとっての最大のライバル作品となってしまう・・・

 一方の王子千晴もまた、『リデルライト』に賭けていた。デビュー作『光のヨスガ』で高評価を得たものの、それ以降は長い沈黙の時間を過ごしていた。そこからの復帰作だったからである。

 王子千晴の復活に懸けるのは、その才能に惚れ抜いたプロデューサー有科(ありしな)香屋子[尾野真千子]。しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。

 物語は瞳、行城、王子、有科の4人を中心に、周辺の制作スタッフ・声優をも巻き込み、熱い “想い” をぶつけ合いながら “ハケン=覇権” を争う戦いを描いていく・・・


 テーマがアニメであるだけに、作中作となる2本のアニメが登場するのだが、その扱いが半端ない。映画の中での登場は数分だが、実際にアニメが制作されており、映画の公式サイトには、このアニメ2作の ”公式サイト” まで用意されているのだ。


『サウンドバック 奏の石』
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 ある日突然、巨大ロボットに襲われたのどかな田舎町。地球を守るため、少年少女たちはロボットに乗って戦う。
 サウンドバックとは、「奏(かなで)」と呼ばれる石が、現実の音を吸い込むことによって変形したロボットのこと。その形状は音によって変わり、1話ごとにノックや風鈴など異なる音が捧げられ、毎回違う形のロボットが登場する。
 「奏」は戦いを終えると力を失い、ただの石に戻るが、捧げた音とそれにまつわる記憶はヒロインのトワコから奪われていくという秘密があった……。

 原作者である辻村が全12話分のプロットを書いたというのだから恐れ入る。
 ヒロインのトワコには、戦うたびに記憶を失っていくという過酷な運命が科せられている。映画の中では、第一話と最終話、合わせて数分ほどが描かれるのだが、それだけでも涙もろいオジサンである私は泣いてしまったよ・・・


『運命戦線リデルライト』
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 行方不明の妹を探す魔法少女の充莉は、自らの魂の力で乗るバイクを変形させ、ライバルたちとレースで競い合う。
 『プリキュア』と『仮面ライダー』を合わせたような、ありそうでなかった組み合わせ。その発想はなかった、ってか。
 「リデルライト」とは、少女たちが駆るバイクの総称。第1話に6歳で登場する充莉は、年に1度のバイクレースでのバトルを通して、仲間や敵対する魔法少女の清良たちとともに1話1歳ずつ年を重ね、いわゆる「成長するヒロイン」の姿が描かれる。

 しかし、デビュー作『光のヨスガ』でヒロインを殺せなかったことを悔やむ王子は、「今度こそ、最終回でヒロインを殺したい」と有科に告げる。

 しかし、スポンサー陣は猛反対。「夕方5時台のアニメでは人は死なない」なんてのたまうのだが・・・。両者の間で苦悩する有科。

 でも1970年代後半~80年代には、キャラがたくさん死ぬ夕方5時台アニメなんて掃いて捨てるほどあったけどね。
 ざっと思い浮かぶだけでも『○ンダム』『ダ○バイン』『ボト○ズ』『レイ○ナー』・・・。『ザン○ット3』『イ○オン』なんて、××エンドだったし・・・
 あ、だから『イデ○ン』は途中打ち切りになったんですかね・・・
 まあ、時代が違うということですかな。


 瞳も王子も、予定調和的なハッピーエンドを拒否し、「観た人の心に刺さる作品」となるようなエンディングを模索する、という点では全く同じ。
 それがまた周囲との軋轢を生んでいくのだが、それも映画で描く主要テーマのひとつとなっている。



 作中作に登場する声優さんも豪華。


 『サウンドバック』では梶裕貴さん、潘めぐみさん、速水奨さんなど。
ヒロイン・トワコは高野麻里佳さん。アイドルかと思ったら専業の声優さんで、『ウマ娘』で有名な人らしい。彼女は顔出しで台詞も多く、吉岡里帆と絡む役。

 『リデルライト』では花澤香菜さん、堀江由衣さんなど。
ヒロイン・充莉を演じる髙橋李依さんも、最近よくみる声優さんだ。


 瞳と王子の ”ハケン争い” は熾烈を極め、最終回までもつれ込むのだが・・・


 この作品をこれから見ようという人にアドバイス。
 映画が終わった後、エンドロールが流れるのだけど、その後にワンシーンある。そこが ”真のラスト” となるので、どうか席を立たずに待っていてください。
 アニメファンなら ”ニヤリ” とするエンディングになってます。



※追記


 実は今日(5/27)、2回目を観てきた。人間関係や細部がより深く理解できたせいか、1回目より感動した。

 終盤は、「瞳と王子のハケン争い」+「サウンドバック最終話」+「リデルライト最終話」のクライマックスが怒濤の三重奏で、目から溢れる汗を止めることができなかったよ。うーん、円盤買っちゃいそう。

 あ、映画の中では「DVD」とか「ブルーレイ」って単語は使わずに、登場人物みんな「円盤」って言ってましたよ。流石、よく分かってる。

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最高の盗難 音楽ミステリー集 [読書・ミステリ]


最高の盗難: 音楽ミステリー集 (河出文庫)

最高の盗難: 音楽ミステリー集 (河出文庫)

  • 作者: 黎一郎, 深水
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/05/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 サブタイトル通り、音楽をテーマにしたミステリー集


「ストラディバリウスを上手に盗む方法」

 21歳のバイオリン奏者・武藤麻巳子(まみこ)は、国際的な音楽コンクールで優勝を果たし、国内で凱旋コンサートを開くことになった。
 芸術探偵・神泉寺瞬一郎のもとにもチケットが送られてきた。彼と麻巳子は同じ師匠についていた兄弟(兄妹?)弟子だったのだという。

 しかしコンサート当日、麻巳子は楽屋で何者かに襲われて意識を失い、その間に彼女の所有するバイオリンの名器・ストラディバリウスが盗まれてしまう。その価値は時価にして十数億円にも達するという。

 瞬一郎とともにコンサートにやってきていた海埜警部補の指揮の下、直ちに満員の観衆やオーケストラの面々が調べられたが見つからない。
 会場の建物はコンサート開始から封鎖されていたので、外部に持ち去られてはいない。必ず内部にあるはずなのだが・・・

 もちろん盗まれたバイオリンの隠し場所がメインの謎。
 途中で、犯人側の描写(誰かは明かされない)が入る。伏線の関係上、必要な部分なのだけど、ここでその場所が分かる人もいるだろう。
 実は私も分かったのだけど、これは推理したからではなく、たまたま ”あること” を知ってたから。ちょっと前、TV番組で扱ってたことを思いだしただけなんだけどね。

 神泉寺瞬一郎の語る蘊蓄も、毎回ながらたいしたもの。
 ”ストラディバリウス” という名前の由来に始まり、なぜそんなに高いのか? なぜ昔に作られたのが今でも重宝されてるのか? 現在の技術でそれを超えるものが作れないのはなぜか? とか、一般の人が素朴に抱く疑問についても丁寧に説明してくれている。
 事件が起こるたびに彼が語りだす蘊蓄は、時々鬱陶しくなって読み飛ばしてしまうこともあるのだけど(おいおい)、今回は興味が持てて、素直に面白かったよ。

 今回のゲストキャラ、麻巳子さんがいいなあ。瞬一郎のことが大好きなのが言葉の端々ににじみ出ていて愛嬌もたっぷり、とても可愛らしいお嬢さんだ。他の作品にもぜひ登場してほしいな。


『ワグネリアン三部作』

 ”ワグネリアン” とは、ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーの熱狂的なファンのこと。それが女性の場合は ”ワグネリエンヌ” というみたい。

「一 或るワグネリアンの恋」
 大手商社のサラリーマン・森山利和はワグネリアン。結婚を考えている恋人の坂本穂花(ほのか)を、なんとかワーグナーのファンに引き込もうとあの手この手を繰り出すのだが・・・

「二 或るワグネリエンヌの蹉跌」
 和久祢梨亜(わく・ねりあ)は熱狂的ワグネリエンヌ。大学4年となって終活に臨むも、面接の場で思わずワーグナーネタを口走ってしまうなど奇矯な行動をしてしまい、連戦連敗。そこで自ら ”ワーグナー断ち” を決断、背水の陣で採用試験に挑むのだが・・・

「三 或るワグネリアンの栄光」
 深夜のマニア向けカルトクイズ番組。今回のテーマはワーグナー。最強のワグネリアンを自負する ”俺” は、予選に挑むが、結果はなんと3位。上位の2人はサラリーマンの森山、OLの和久。”俺” は雪辱を期して、予選上位6人による決戦大会に臨むが・・・

 この3作は「日本ワーグナー協会」(そんなのがあったんだ・・・)というところが出している年刊誌に掲載されたもの。ミステリと言うよりは、熱狂的なワーグナー・ファンが巻き起こすユーモア・コメディという感じ。


「レゾナンス」

 本作はミステリではないらしい。「らしい」と書いたのは最後まで読んでないから。途中で挫けました。スミマセン。



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失われた地図 [読書・ファンタジー]


失われた地図 (角川文庫)

失われた地図 (角川文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

 本書の舞台となるのは錦糸町、川崎、上野、大阪、呉、六本木など、旧軍の施設があったり、中世近世での激戦地だった場所。
 そこにはときおり「裂け目」と呼ばれる謎の空間が発生し、”記憶の化身” と呼ばれる、妖怪のような亡霊のような、要するに人外の存在が湧き出してくるのだ。

 主人公・風雅遼平(ふうが・りょうへい)は、”記憶の化身” たちと戦い、「裂け目」を封じる力を持った一族の1人。
 仲間たちとともに「裂け目」の発生した場所に赴き、事態を収束させるために人知れず戦っていた。

 一方、同族に生まれた鮎観(あゆみ)とは、愛し合い結婚したのだが、息子・俊平が生まれたときから2人の間にすれ違いが生まれていた・・・


 ホラー風味のファンタジー・アクション、といった感じ。
 恩田陸にはときおり、単発で一風変わった作品を発表することがあるが(「雪月花黙示録」とか)、本書もそのひとつか。

 いまのところ続編とかはなくてこれ一冊だけみたいだけど、最後まで読んでも物語的に決着はつかない。分量的にも文庫で240ページに満たないし。
 「裂け目」と ”一族” との戦いは遙かな過去から連綿と続いていて、未来に向かっても永遠に続きそう。本書はそのほんの一部を切り取った、ということなのかも知れないが。

 鮎観さんの苦悩は十分理解できるのだけど、これでは遼平くんが報われないなぁ・・・と思いながら読み終えた。



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大河への道 [映画]


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 ではまず、あらすじから。

 千葉県香取市役所の職員・池本[中井貴一]は、地域観光の目玉として郷里の偉人・伊能忠敬を主人公とした大河ドラマ誘致を提案、採用される。プロジェクトは始動し、手始めに脚本を大物脚本家・加藤[橋爪功]に依頼することとなった。

 始めは乗り気でなかった加藤も伊能の人生に興味を持ち、資料を調べ始める。しかしそこで明らかになったのは、「伊能忠敬は『大日本沿海輿地全図』を完成させる3年前に死去していた」という事実だった・・・。

 ここから、映画は現代と幕末を行き来する。

 1818年の江戸。幕府に仕える天文学者・高橋景保[中井貴一・二役](忠敬が師事した天文学者・高橋至時の長男)は、伊能の弟子たちから師匠の死を3年間秘匿し、その間に地図作りを続けさせてほしいと懇願される。困惑した髙橋だが、紆余曲折を経て彼らの ”陰謀” に加担することに。

 幕府を欺いて公金を拠出させていることが露見すれば死罪は免れない。かくして一蓮托生となった高橋と伊能組一同は、伊能の死を偽装しながらお上からの追及をのらりくらりかわしてゆく。

 しかし、いつまでたっても地図は完成せず、顔も見せない伊能をいぶかしんだ勘定方は、高橋の周辺を調べ始めるのだが・・・


 落語家・立川志の輔の創作落語「伊能忠敬物語―大河への道―」が原作だとのこと。この落語に惚れ込んだ中井貴一が映画化を思い立ったらしい。

 「伊能忠敬物語」と銘打ってあるけれど、物語の冒頭で忠敬は逝去してしまうので、本編には登場しない。代わって、綿貫善右衛門[平田満]を筆頭とした、日本地図完成を悲願とする忠敬の弟子たちがメインとなる。
 最初は伊能の死を秘すことに反対していた高橋景保も、彼らの熱意に打たれ、やがてはすすんで協力するようになっていく。

 とにかく、地図作成というのは文字通り ”地を這う” ような地道な作業を延々と繰り返すこと。人間の歩幅で距離を測り、角度を測り、それを積み上げていくという気の遠くなるような手順。映画の中でそれはふんだんに描写される。
 現在のような精密な測量方法の無かった時代に、これほどの手間暇をかけなければ地図が作れなかった、いやこんなアナログ極まりない方法にも関わらず、正確無比な地図を作り上げたことに驚嘆させられる。

 しかし、ひとたび伊能の死が明るみに出れば、彼らはみな死罪となるかも知れない。彼らの行動の一部始終を目撃していた高橋景保の ”ある決断” が映画のクライマックスとなる。

 落語がベースであるから、基本的にはコメディなのだけど、”爆笑コメディ映画” という雰囲気ではない。どちらかというと ”人情もの” 寄りの映画になってると思う。実際、完成した伊能地図を将軍に披露するシーンは、けっこう感涙ものだ。

 中井貴一は『記憶にございません!』でも抜群のコメディアンぶりだったが、本作でも安定の演技。その相棒を務める松山ケンイチもいい味を出してる。考えたらこのコンビ、どちらも大河ドラマの主役を張ってるんだよね。

 役場の職員と忠敬の元妻の二役を演じた北川景子もいい。けっこうコミカルなシーンもあるので、ぜひ本格的なコメディ映画で主演してもらいたいな。
 それにしても彼女は綺麗だね。どのシーン、どのカットを見ても隙が無く綺麗だ。つくづく素晴らしい女優さんだと思う。


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焼跡の二十面相 [読書・ミステリ]


焼跡の二十面相 辻真先版“怪人二十面相” (光文社文庫)

焼跡の二十面相 辻真先版“怪人二十面相” (光文社文庫)

  • 作者: 辻 真先
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/10/13
評価:★★★☆

 私の読書体験の原点となったのが江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズだった、というのはこのブログの中でも再三にわたって書いてきた。

 これに出会ったとき、私は小学生だった。昭和41~42年頃だったと思う。たちまち虜になり、夢中になってシリーズ作品をむさぼり読んだものだ。
 当然ながら作者の江戸川乱歩にも興味を持った。どんな人だったのだろう? しかし、たちまち私は失望することになった。乱歩は昭和40年に亡くなっていたのだ。わたしがこのシリーズを読み始めたときには、既にこの世の人ではなかったことになる。

 「もう、この続きは読めないのか・・・」
 このとき、かなり落ち込んでしまったことは今でも覚えている。

 しかし、怪人二十面相や明智小五郎をモチーフにした作品は、途切れることなく生まれ続けてきた。日本のミステリ界に多大な影響を与えたのは誰も否定できないだろう。

 前置きが長くなってしまった。本書はその「少年探偵団」シリーズの ”新作” である。
 巻末の解説によると、パロディでもなくパラレルワールド設定でもなく、あくまで本伝の「空白を埋めるもの」として書かれたのだという。


 時代設定は1945年(昭和20年)8月。日本が敗戦を受け入れた直後の東京が舞台となる。

 明智小五郎の助手にして少年探偵団団長の小林少年は、ひとり東京で明智の帰りを待っていた。
 明智は軍の委嘱を受けて日本を離れ、海外で暗号の仕事に従事していた。戦時中の明智を描いた作品はない(と思う)けれど、これは江戸川乱歩公認の設定ということだ。
 ちなみに文代夫人は軽井沢で疎開&療養されているみたい。

 8月の炎天下、小林少年が乗った自転車を1台の輪タクが追い抜いていった。輪タクというのは自転車の後ろに人力車の客席をつないだもの。そしてそれを追いかけているのは警視庁の中村警部だった。

 警部に協力して輪タクを追う小林くん。輪タクからは血が転々と垂れていることに気づく。

  やがて輪タクは池の中に転落してしまい、そこから伊崎六郎という男の刺殺死体が発見される。しかし、尾行していた中村警部によると、輪タクに乗り込んだときの伊崎はピンピンしていたという・・・

 この ”走る密室” の謎は小林少年の推理で解き明かされる。さすが名探偵の助手である。しかし事件は続く。

 軍需産業だった四谷重工業の社長・四谷剛太郎のもとへ二十面相から犯行予告状が届く。彼が所持するインドの秘仏をいただくという。それは戦争中に日本が占領した国から四谷が入手したものだった・・・


 二十面相の犯行を防ごうと奔走する小林くんと中村警部。もちろん、登場人物の中には二十面相が変装している者がいる。
 明らかに「こいつは怪しい」と読者にもわかる場合もあるのだが、中には意外な者に化けてる場合も。八割方は見破れるのだが残り二割がわからない。その案配が素晴らしい。

 文体や雰囲気、描かれる事件やキャラクターも原典を彷彿させるものだが、作者ならではの ”くすぐり” もあって、実に楽しい。

 そして今回、二十面相の行動もまた読みどころ。彼は悪人ではあるのだが、戦争で私腹を肥やし、人命を軽んじる四谷のような ”巨悪” を前に、彼はどう振る舞ったか。
 作者が描いたのは、名探偵・明智小五郎と名勝負を繰り広げ、「人の命は奪わない」がモットーの大盗賊だ。往年のファンは ”あの二十面相なら、こうするだろう” って納得しながら読むだろう。

 そしてラストはもちろん明智の帰還で締めくくられるのだけど、ここにもひとひねりが。明智は ”ある国” から帰ってくるのだが、「なるほど、そうきたか」。知ってる人にはたまらない演出が心憎い。



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SCS ストーカー犯罪対策室 [読書・ミステリ]


SCS ストーカー犯罪対策室 (上) (光文社文庫)

SCS ストーカー犯罪対策室 (上) (光文社文庫)

  • 作者: 貴久, 五十嵐
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫
SCS ストーカー犯罪対策室 (下) (光文社文庫)

SCS ストーカー犯罪対策室 (下) (光文社文庫)

  • 作者: 貴久, 五十嵐
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 主人公・白井有梨(ゆり)は新品川署のSCS(ストーカー犯罪対策室)に所属する刑事。彼女自身も、「S」と名乗る人物から無数のメールを送りつけられるというストーカー被害に遭っている身だ。

 SCSに持ち込まれる、様々なストーカー案件に対応する有梨たちの活躍を描いていく。


「第一話 遠峰良子の事件」
 携帯への無言電話に悩む主婦・遠峰良子。相手は昔の浮気相手・前川と思われた。その良子が殺されてしまうが、前川にはアリバイがあった・・・

「第二話 松野公雄の事件」
 大企業のサラリーマン・松野公雄は、「誰かに見張られている」という強迫観念に囚われ、心療内科に通っていたが・・・

「第三話 篠崎未架の事件」
 朝ドラ出演で人気が出た新進女優・篠崎未架。彼女はドラマの中で死亡する役だった。しかし終了後から、夥しい数の「おまえはなぜ生きているんだ」という手紙が届くようになって・・・

「第四話 小山純子の事件」
 老人ホームに入った小山純子は、入居者の男性と親しくなる。しかしそれに嫉妬した2人の女性入居者が、純子の悪口を言いふらしているのだという・・・

「第五話 早川沙紀の事件」
 25歳のOL・早川沙紀に、彼女の生活を監視しているようなメールが届く。大学時代の交際相手・青山の犯行と判明するのだが・・・

「第六話 大高絵麻の事件」
 女子高生・大高絵麻がストーカー被害に遭っていた。相手は元交際相手の大学生・沖田。SCSは彼女の自宅を警備することになるが・・・

「第七話 小原雅代の事件」
 少子化担当大臣・小原雅代が主宰する、女性政治家の会合を中止せよとの脅迫が入る。犯人は雅代だけでなく、彼女の家族をもターゲットにするという・・・

「第八話 冬野未来の事件」
 女子高生・冬野未来が体育教師・榎本からストーカー行為を受けているという。学校が警察に相談したと知った榎本は姿をくらましてしまう・・・

「最終話 白井有梨の事件」
 「第一話」の段階で、半年前から有梨の携帯に頻繁にメールが入るようになっていたことが語られている。内容は、有梨のことを24時間監視していて、一挙手一投足まで把握しているかのようなものだった。
 「第五話」では、最大の容疑者と目されていた人物が死亡してしまうのだが、ストーカー行為はやまず、犯人は依然として不明のまま。
 「最終話」に至り、その正体が意外な人物であったことが判明する。


 「第一話」~「第八話」まで、さまざまなストーカー案件が描かれるが、そこはミステリ。それぞれひねりの効いた結末が用意されている。

 スマホやPCなど、IT機器とネット環境が普及した現代では、執着する相手の情報を得ることが(違法な手を使えば)昔より遥かに簡単になったし、匿名性を保ちながらさまざまな嫌がらせをすることも可能になった。つくづく怖い時代になったものだと思う。
 警察への相談も増加する一方らしいが、いかに警察とてマンパワーに限界はあるわけで、全てに対応するのは至難。それでいて、被害者が殺されでもしたらマスコミの格好の餌食、非難囂々になってしまうのだから・・・

 ストーカーと渡り合う警察の苦闘ぶりも十分に描かれた、連作ミステリ集。



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バブル [アニメーション]


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 Netflixで配信もやってるけど、映画館へ見に行った。


 では、まずはあらすじから。


 ある日、東京に泡が降った。それと同時に中心部で謎の大爆発が発生する。局地的な重力異常も起こり、海面が上昇して冠水状態になった。人々は脱出した後、東京は立ち入り禁止区域となった。

 しかし、大爆発で親を失った子供たちが東京に入りこんで住み始めた。彼らは重力異常で空中に物体が浮遊したりしている特殊な空間(当然ながら人間も通常とは異なる跳躍・移動も可能になる)を利用した ”東京バトルクール” と呼ばれる、5対5でフラッグ奪取を目的するパルクールの大会を行っていた。その商品は生活物資だ。

 主人公・ヒビキも「チーム・ブルーブレイズ」のエースとして東京バトルクールに参加していた。
 ある日、ヒビキは東京の中心部にあるタワーから聞こえる「謎の音」を耳にする。船でタワーへ向かい、登り始めるが途中で海へ落ちてしまう。
 溺れる寸前だった彼を見つけたのは、ひとつの ”泡” だった。意思を持つその ”泡” は、自らを少女の姿に変えてヒビキを救い出した。

 少女は「チーム・ブルーブレイズ」の仲間たちと一緒に暮らし出す。人間としての記憶も、名前すら持たない彼女を、ヒビキは「ウタ」と名づけるが・・・


 ※以下の文章には、映画の結末について言及している部分があります。
  未見の方はご注意ください。


 ヒロインのウタが ”泡の化身” であることは物語の発端から明かされている。人間の言葉を話せなかった彼女も、マコト(重力異常を調査している女性研究者)が本を読み聞かせることによって、次第に会話する力を身につけていく。

 このとき詠む本が「人魚姫」。本作の基本のモチーフがこの作品であることは明らかで(wikiによると、監督も脚本家もそれが着想源だと明かしてる)、物語も「人魚姫」を近未来の東京を舞台に、SFファンタジーに仕立てたらこうなる、というふうに進行していく。ウタがヒビキと触れあうと泡になって(泡に還って?)しまうという設定が哀しすぎるよ・・・。

 観ていて、これはどう転んでもハッピーエンドの目は無さそうだなぁ・・・と思っていた。まあこのラストをどう思うかは人それぞれだけど、主人公のヒビキが報われなさ過ぎだなぁ・・・

 頑張ったって報われないことは、世の中に掃いて捨てるほどあるんだから、せめてフィクションの中だけでも、報われてほしいなぁ・・・って思う私は甘いのでしょうかね。

 画面は素晴らしい。さすが「進撃の巨人」の監督さんだけ合って躍動感は凄まじい。廃墟と化し、かつ重力異常で異世界と化した東京の姿も魅力的。ネット配信もやってるけど、これは映画館の大画面で観るべきだと思う。


 声優陣について。

 主役のヒビキは志尊淳。ぶっきら棒な台詞回しは、演技なのか棒読みなのか。冒頭ではちょっと耳障りな感じだったけど、途中から気にはならなくなった。慣れたのかも知れない(笑)。
 どうしようもなく下手なわけではないので、及第点かと思う。

 ヒロインのウタはりりあ。本業はシンガーソングライターだそうです。もともと台詞が多くないし、人外(笑)の役なので、気にしなければ大丈夫。
 上手いとは思わないけど許容範囲かなぁ。

 でも、主役2人はやっぱり本職の声優さんを起用してほしかった。志尊淳とりりあ。を責めているのではなく、こういう配役をする制作陣には考慮をしてほしいということ。
 声の仕事も達者な他業種の人もいるのは分かるけど、今回の2人については明らかに本職の人の方が上手いし。いい加減、話題作りでキャスティングするのは止めようよ。

 女性研究者マコトは広瀬アリス。彼女は上手かった。これは素直に褒めます。てっきり本職の声優さんかと思ってた。エンドロールで「広瀬アリス」ってあるのを見てびっくりしました。

 他には宮野真守、梶裕貴、井上麻里奈、三木眞一郎、羽多野渉、畠中祐、千本木彩花、逢坂良太とベテラン・中堅で脇役陣を固めているだけに、主役の2人が惜しいなぁ。

 ネットの意見に、主役2人を畠中祐と千本木彩花で演じてほしかったってのがあった。「甲鉄城のカバネリ」での主役カップルですな。実生活でも夫婦になっちゃったし(笑)。




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