文豪宮本武蔵 [読書・SF]
評価:★★☆
巌流島で佐々木小次郎を倒した剣豪・宮本武蔵。だが小次郎には病身の妹・夏がいた。彼女の力になろうとする武蔵の前に、小次郎の亡霊が現れる。「夏を救えるのはおまえしかいない。そのためにおまえを一旦、別の世界に飛ばす」
次の瞬間、武蔵は明治時代の東京にいた。そこで夏にうり二つの樋口一葉や、夏目漱石などの文士たちに出会い、武蔵はなりゆきで「小説家になりたい」と口走ってしまう・・・
戦国時代末期から明治へとタイムスリップした宮本武蔵が、人力車夫をしながら小説家を目指す。ついでに帝都で進行していた陰謀も解決してしまう、コメディSF。
「第一話 武蔵、戦う」
佐々木小次郎との対決を制した宮本武蔵。だが小次郎には病身の妹・夏がいることを知る。彼女のもとを密かに訪れた武蔵はその病状を知り、なんとか力になろうとするが士官の道はいっこうに開けない。
思いあまって柳生但馬守に試合を申し込むが、その最中に小次郎の亡霊が現れ、
「おまえを一旦、別の世界に飛ばす。夏を助けてやってくれ・・・」
武蔵が飛ばされた先は明治時代だった。そこで夏とうり二つの女性・樋口一葉と出会う。”一葉” はいわゆるペンネームで、彼女の本名は "夏子" だった。
「第二話 武蔵、剣を捨てる」
夏子の助けを得て、明治時代での生活を始めた武蔵。
ある日、帝大剣術同好会の者たちとトラブっていた男・正岡子規を助ける。彼を通じて夏目漱石などの文士たちとも知り合うことに。彼らとの会話の中で、武蔵は「私も小説家志望だ」と口走ってしまう。
「第三話 武蔵、小説を書く」
夏子の書いた小説を読んで一念発起した武蔵は、人力車夫となって働きながら小説を書き始める。夏子との交流も次第に深まっていくが、彼女が(当時は不治の病とされていた)結核に冒されていることも知る・・・
そして「第四話 武蔵、秘密を暴く」では、帝大剣術同好会の師範、さらにその背後にいる黒幕によって進行している陰謀に立ち向かう武蔵が描かれる。
基本はタイムスリップテーマのコメディSF。明治の風俗に戸惑って頓珍漢な行動をとったり、戦国時代の常識を口にして周囲から不審がられたり、講談を聞きに行ったら自分(武蔵)の活躍が荒唐無稽に脚色されていて怒りだし、講談師にケンカを売ったり。
もっとも最後まで読んでみると、武蔵の活躍がトンデモなく伝わった理由も意外と辻褄が合ってたりする。このあたりはけっこう上手い。
明治の時代考証も意外と(失礼!)しっかり押さえているみたい。正岡子規が野球をするシーンとかもあるし。
「エピローグ」では、過去に戻った武蔵の姿が描かれるんだが、時代を超えて薄命の女性二人に想いを寄せた武蔵の心情は、哀感たっぷりでちょっとホロリとさせる。
・・・と思ったら、この作者の持ち味というか "悪い癖" が、ここでもしっかり顔を出す(笑)。「エピローグ」の中のある記述を読むと、どっと脱力感に襲われる。結局、「○○○○」って云いたかっただけだったりする?