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楽園とは探偵の不在なり [読書・ミステリ]


楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)

楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 斜線堂 有紀
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/11/16

評価:★★★★☆


 突如、地上に "天使" が降臨し、2人以上の殺人を犯した者を地獄に送り込み始める。それにより、"連続殺人" が世界から消滅する。
 心に傷を抱えた探偵・青岸焦(あおぎし・こがれ)は、"天使" が集まる常世島(とこよじま)へと呼ばれる。そこで青岸の目前で展開されるのは、起こるはずのない連続殺人事件だった・・・


 5年前のある日、全世界に "天使" が降臨した。"天使" とは呼ばれるが、外見は宗教画等に描かれたイメージからはほど遠い。
 表紙のイラストにも描かれているが、コウモリをむりやり人間型に仕立てたような醜悪な姿をしている。濁った灰色の翼で空を飛ぶ。顔はなく、鏡のような輝きをもつ、のっぺらぼうの頭部を持つ。どちらかというと異星人や悪魔と云われたほうが納得できる容姿だ。言葉を発することはなく、"天使" とのコミュニケーションは成立しない。

 人間たちの上空を翼を広げて遊弋(ゆうよく)しつつ、殺人を起こした人間を見つけるとわらわらと一斉に取りつく。その足下からは "地獄の業火" が吹き出し、殺人者はその中へ引きずり込まれていってしまう・・・なんとも凄惨な "審判" が行われるわけだ。

 しかもそれは、「2人以上殺したとき」という条件付き。"天使" との意思の疎通は不可能ゆえ、「なぜ2人なのか」は謎だ。

 ちなみに「殺した人数のカウントのしかた」というのも、よく考えられている。
 例えば毒殺事件で、毒を仕込んだ者(A)と、それを飲ませた者(B)が別人の場合、"殺人数1" はAとBのどちら(あるいは両方)にカウントされるのか? とか、医師が手術中に患者が死んでしまったら、それでも殺人にカウントされてしまうのか? とか。
 このあたり、作者はけっこう厳密に規定している。いろんな状況がありうるのだろうが、少なくとも本書の中での推理に必要なケースについては、ちゃんと作中で情報公開されている。

 ついでに云うと、"天使" の "生態" についても随所で触れられている。これも推理構築のピースになっている。

 "天使の降臨" により、連続殺人は激減したが、2人以上殺せば10人でも100人でも同じ、と考える者も出てくるわけで、大量殺人テロが頻発するようになっていく。

 本書は、このような異様な状況に変貌してしまった世界を舞台にした "特殊設定ミステリ" である。


 主人公の青岸焦は、過去の大量殺人で仲間を失い、心に傷を抱えた身。探偵業もほとんど開店休業だった。
 しかし大富豪の常木王凱(つねき・おうがい)から依頼され、彼の所有する常世島へ赴く。そこは多数の "天使" が集まる場所として知られていた。

 王凱の屋敷にやってきたのは、代議士、実業家、記者、医師、"天国研究家" なる者、そして使用人たち。青岸を含めて総勢10人・・・のはずが、招かれざる客が一人入り込んで11人に。

 そして孤島で起こる殺人事件。それも、複数の人間が死んでいく。"天使" の存在により、不可能となったはずの連続殺人が起きたのだ・・・


 「2人殺したらアウト」なら「1人まではセーフ」のはず。ならば、登場人物の半分の5人が殺人者なら、5人まで死者が出るだろう・・・って思うかも知れないが、もちろんそんな安易な結末だったら読者は怒りだしてしまうよね。
 だが心配はご無用。ちゃんと納得できる真相が用意されている。最後まで読み終えてみると、犯人の動機を含めて、"この世界" だからこそ成立するミステリだということがわかるだろう。


 探偵として生きる気力を失っていた青岸は、この事件を通じて再び立ち上がるきっかけをつかんでいく。相変わらず、"天使" は空を舞っているが、そんな世界でも探偵として生きていくことを選択する。

 続編があるのか不明だが、この世界の行く末も気になるし、探偵としての青岸の姿をまた見てみたい気もする。



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