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シャーロック・ホームズ対伊藤博文 [読書・冒険/サスペンス]


シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (講談社文庫)

シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (講談社文庫)

  • 作者: 松岡圭祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/16

評価:★★★★


 時に1891年(明治24年)。ホームズは宿敵モリアーティ教授をライヘンバッハの滝で葬った後、ヨーロッパを脱出した。大津事件でロシアとの間に緊張が高まっていた日本へ上陸したホームズは、枢密院議長・伊藤博文と協力してロシアの陰謀に立ち向かう。


 ホームズはスイス・ライヘンバッハの滝で宿敵モリアーティ教授とともに死んだと思われていたが、辛くも生還を果たしていた。しかし、生存が明るみに出ると教授に対する殺人罪に問われる可能性があった。そこでホームズの兄マイクロフトの手引きでヨーロッパを脱出、日本へと向かう。

 時に1891年(明治24年)。日本は大津事件に揺れていた。日本を訪問中のロシア帝国皇太子ニコライが、滋賀県の大津で警察官・津田三蔵に切りつけられて負傷したのだ。

 ロシアの武力報復を恐れた政府の圧力にもかかわらず、裁判では死刑を回避、津田には無期懲役の判決を下して、司法は独立を示した。

 意外にもロシアは裁判結果に対して寛容な態度を示し、賠償請求も武力報復も行わなかった・・・のだが、なぜか裁判の4ヶ月後になって9隻の軍艦を日本へ派遣し、事件を蒸し返すという強硬な態度へと豹変してしまった。

 まさにそんなとき、ホームズは日本へやってきた。

 ホームズは伊藤博文を訪ねることに。伊藤は28年前(当時22歳)にイギリスへ留学しており、そのとき少年だったホームズと知己を得ていたのだ。
 再会した伊藤は50歳。初代内閣総理大臣を辞し、枢密院(天皇の諮問機関)議長を務めていた。

 ホームズは伊藤とともに、ロシアが翻意した理由を探るべく調査を開始しするが、そこには意外な陰謀が潜んでいた・・・


 ホームズ譚の「最後の事件」と「空き家の冒険」の間の、"3年間の空白" の時期にホームズが遭遇した事件、という設定だ。

 ”明治の元勲” と呼ばれた伊藤博文でも、相手はなんといってもエキセントリックなホームズさん。いいように引っ張り回されて、てんてこ舞い。もっぱらワトソン役を務めることになる。
 とはいっても、伊藤は元気いっぱい。当時の50歳と云えばもう隠居する年頃なのだろうが、政府の仕事も現役バリバリでやってる。
 家に帰れば奥方と可愛い娘さんも2人いるのに、女遊びも現役バリバリ(おいおい)。

 本書はメインキャラがおっさんばかり(笑)なので、伊藤家のお嬢さんたちの登場シーンは一服の清涼剤。イギリスからやってきた謎の紳士に興味津々な様子が微笑ましい。

 タイトルに堂々と謳ってあるとおり、伊藤自身もワトソン役に甘んじてない。かつての留学仲間で、こちらも政府の重鎮となっている井上馨(いのうえ・かおる)とともに、一般庶民に扮して聞き込みに出かけるなど活動的。
 老いたりとはいえ、維新の激動をくぐり抜けてきた歴戦の勇士。終盤のアクションシーンでも、流石の大活躍を見せる。

 伊藤の行動の根底には、日本を一日も早く列強と対抗できる国にしたい、という想いがある。2年前の1889年(明治22年)には大日本帝国憲法制定(明治憲法)にも関わった人だし。「法治国家」を実現し、欧米から "一人前の国" として扱ってもらえるようにすべく、粉骨砕身の日々だ。
 そのためにも、ロシアとの関係悪化は避けたい。彼の国が本気になれば、日本はひとたまりもないだろう。

 ホームズと伊藤が突き止めたのは、大津事件の意外な真相であり、それに関わるロシア皇室の秘密。このあたりは、歴史ミステリとしても、とてもよくできていて面白い。


 ホームズが「最後の事件」以後の "空白の3年間" に何をしていたのかは、断片的には語られているのだけど、読者が想像の翼を広げる余地はたくさんある。
 作者はコナン・ドイルの "原典" の隙間を、日本を舞台に埋めてみせた。とても楽しい作品になっていると思う。ホームズのファンなら読んで損はないんじゃないかな。



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