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黄砂の籠城 [読書・歴史/時代小説]


黄砂の籠城(上) (講談社文庫)

黄砂の籠城(上) (講談社文庫)

  • 作者: 松岡圭祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14
黄砂の籠城(下) (講談社文庫)

黄砂の籠城(下) (講談社文庫)

  • 作者: 松岡圭祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14

評価:★★★★☆


 西暦1900年(明治33年)、中国大陸・清朝末期。外国人排斥を叫ぶ武装集団・義和団が各地で暴徒化していた。やがて義和団は北京へも侵攻、「東交民巷」と呼ばれる外国公使館区域を包囲してしまう。
 寄り合い所帯の各国軍をまとめ、2ヶ月にわたる籠城戦を指揮した日本の駐在武官・柴五郎陸軍中佐の活躍を描く。


 西欧列強の進出に反発し、「扶清滅洋」(ふしんめつよう:清を助け、西洋を滅ぼせ)を叫ぶ義和団が中国大陸各地を席巻していた。
 やがて彼らは北京へも侵攻、各国公使館が集中する「東交民巷」地区を包囲してしまう。そこに居住していた外国人は、日本人を含めて900人あまり、さらに義和団によって排斥された中国人クリスチャン約3000人が逃げ込んでいた。

 20万人にのぼる包囲軍に対し、各国公使館の戦力は護衛兵が主体で、民間人から募った義勇兵を合わせてもわずか480名ほど。
 さらに各国の思惑もあって足並みが揃わない。そんな寄り合い所帯を任されることになったのが日本の駐在武官・柴五郎陸軍中佐だった。


 物語の視点人物は櫻井隆一、24歳。階級は伍長。下士官の中でも最下位である。しかし、中国語やロシア語をはじめ、数カ国語に堪能なことから柴中佐の側近として抜擢され、行動を共にすることになる。

 物語の序盤はもっぱら櫻井の目を通じた柴の描写が主となる。柴に対する周囲の評価は必ずしも高くなかった。
 まず、出身が会津藩士であったこと。明治維新においては逆賊だったわけで、明治も30年を超えようという時期にあっても、いまだ出自による偏見は大きかったようだ。
 また、各国首脳の会議においても自ら意見を述べることなく、大勢に流されているように見え、櫻井もそこに不満を覚えていく。

 しかし物語が進むにつれて、柴が(当時としては)類い希な情報収集能力とその活用力を示すことで、次第に総軍の指揮権を任されるようになっていく。これが序盤の読みどころだろう。

 中盤からは包囲軍の攻撃が始まり、籠城側も応戦する。柴の指揮の下、果敢に戦うのだが如何せん多勢に無勢、次第に包囲は縮まっていく。
 作中の要所要所には「東交民巷」における勢力地図が載っていて、じりじりと籠城側が窮地に陥っていく様子が示される。

 もちろん外部との連絡も絶たれ、北京へ向かっているはずの各国の援軍の動向も全く分からなくなり(たまに入ってくる知らせは悲観的なものばかり)、絶望的な状況が続いていく・・・


 基本的には実話を基にしている(柴中佐は実在の人物)のだが、フィクションの部分も多そうだ。
 視点人物の櫻井や、彼を取り巻く人物たちはおそらく創作だろうと思う。彼の戦友や上官たち、彼と関わりを持つ他国の兵士たちも。
 中でも、ロシア人兵士ラヴロフが印象的だ。初登場時は日本人を敵視する、典型的な "嫌な奴" で、櫻井とは角突き合わせるのだが、籠城戦で共に戦う内に関係が変化していく。

 終盤では、包囲軍が占領地域内に巨大な砲台を築き、その砲撃によって籠城側は多大な被害を受けてしまう。さらに射程距離の長さから、たとえ援軍が来ても砲撃によって足止めされて北京へ接近できないことが予想された。

 そこで籠城側は、砲台の破壊を目的として少人数の部隊を向かわせることになる。このあたりはまんま「ナバロンの要塞」だったりする。そして、決死隊には櫻井とラヴロフも加わることに。
 砲台攻略戦におけるラヴロフの奮闘ぶり、そして櫻井との間に生まれた絆の描写はベタだけど感動的だ。
 もっとも、この4年後には日露戦争が始まってしまうのだが・・・

 登場人物がほとんど男ばかりなのだけど、数は少ないが女性キャラも存在感を示している。立ち位置的にメインヒロインとなるのは、関本一等書記官の娘・千代、17歳である。
 冒頭で義和団の襲撃によって母親を殺されるが、彼女は辛くも逃れる。そして収容された病院で櫻井と知り合うことになる。

 激戦の続く中、2人は時たま言葉を交わすだけで、恋愛的な描写はほとんどない(ラスト近くにちょっぴりだけある)。まあそんなことにかまける暇はない状況なのだけどね。
 そのあたりはちょっと不満に感じるが、2人のその後がどうなるかは読者の想像に任せる、ということなのだろう。当時の情勢を考えると前途は多難そうだけど。



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