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友が消えた夏 終わらない探偵物語 [読書・ミステリ]


友が消えた夏 終わらない探偵物語 (光文社文庫 も 25-1)

友が消えた夏 終わらない探偵物語 (光文社文庫 も 25-1)

  • 作者: 門前典之
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/02/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 西華(せいか)大学演劇部の一行が夏合宿に訪れた洋館。しかし折からの豪雨で道路が陥没、陸の孤島と化した洋館内では密室殺人をはじめ、次々に部員たちが殺されていった。そしてその直後、洋館は炎上焼失してしまった。
 後日の警察による捜査で結論は出ている事件だったが、一級建築士にして探偵の蜘蛛手啓司(くもで・けいじ)は、発見された部員の手記から意外な真相を引き出してみせる・・・


 本書は、二つのストーリーラインが交互に語られるという形式で進行する。

 まず一つ目は、舞台となった洋館・鶴扇閣(かくせんかく)での連続殺人事件のライン。

 三重県の英虞(あご)湾を望む半島に建つ鶴扇閣で行われた、西華大学演劇部の夏合宿。しかし折からの豪雨に襲われて外部へつながる道路が陥没、陸の孤島と化してしまう。そして洋館内では次々に部員たちが殺されてゆき、最後には火災によって建物は焼失してしまった。
 だが後日、警察による捜査が入って犯人も特定され、事件としては一応の決着がついていた。

 東京で探偵事務所を営む蜘蛛手啓司のもとへ、共同経営者の宮村達也からある記録書がもたらされる。それは鶴扇閣殺人事件の経緯を記述したものだった。

 "オクトパスマン" と呼ばれていた連続窃盗犯が逮捕され、彼の所持品の中にボイスレコーダーがあった。被害者となった演劇部員の一人が、鶴扇閣での合宿中の出来事を記録していたものらしい。
 オクトパスマンはそれを鶴扇閣の焼け跡近くで拾ったと供述し、事件への関与は一切否定していたが、レコーダーの内容を "記録書" として書き起こしたデータをPC内に保管していた。
 宮村は知り合いの弁護士からその記録書を入手し、蜘蛛手に渡したのだった。

 記録書を読んだ蜘蛛手は、警察の結論とは全く異なる、意外な真相を引き出してみせるのだが・・・


 そして二つ目は「タクシー拉致事件」のラインだ。

 御厨(みくりや)友子は、大手ゼネコンで働くキャリアウーマン。女性ながら建設工事では現場監督も務めている。

 東京本社への出張のため名古屋のマンションを出た友子は、駅に向かおうとタクシーを拾うが、車は本来の道を外れていく。やがて友子は、運転手があらかじめ自分のことを狙っていて拉致を行ったことを知る。

 内部からの脱出ができないように周到に細工されたタクシーの中で、相手の情報を得ようと、運転手との対話を続けていく友子だが・・・


 一見すると二つのラインは全く接点がないように思えるが、ストーリーの進行とともに関係が明らかになり、終盤ではひとつになっていく。


 あまり詳しく書くとネタバレになるので、そうならない範囲で書いてみる。

 まず、連続殺人事件のパートだけでも、よくできたクローズト・サークルもの。意表を突く物理トリックが炸裂したりと読み応え充分。
 拉致事件のパートについても、読者はある程度の推測が可能だろうが、それを上まわる展開を見せてくれる。ここも上手い。

 バラして使えば長編/短編が数本書けるようなアイデアを、惜しみなく投入しているのも読者としては嬉しいが、作者はネタ切れにならないのか心配してしまう。

 そして 蜘蛛手の推理=事件の解決 ではなく、"○○な○○の○○○" であることが分かるあたり、もう作者に良いように引っ張り回されていることを実感させられる。いやはやたいしたもの。

 そしてこのラストは、どう解釈したらいいのだろう。読者の想像に任せてるのかも知れないけど、「任せられても困る」んだよねぇ。
 うーん、気になって仕方がない。



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