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ノワール・レヴナント [読書・青春小説]


ノワール・レヴナント (角川文庫)

ノワール・レヴナント (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/09/18

評価:★★★★


 互いに面識のない4人の高校生たち。彼ら彼女らに届いたのは東京の有明ビッグサイトで開かれる5日間のイベントへの招待状。呼んだのは誰か? 何のために集められたのか? そして4人に託された "願い" とは?


 まず、本の厚さに驚いてしまう。文庫で750ページを超えるという、往年の京極夏彦みたいなつくり。流石にこれで殴っても人は殺せないだろうが、コブくらいは作れそうだ(笑)。

 内容についても、一口で言うのが難しい。いちおう ”青春小説” に分類したけれど、SF、ミステリ、サスペンス、ファンタジーなど様々な要素が入り交じり、甚だジャンル分けしにくい。


 主人公となるのは4人の男女。みな高校生なのだが、共通するのは一種の "特殊能力" を備えていること。

 大須賀駿(おおすが・しゅん)は高校2年生。彼は他人の背中に "数字" が見える。
 その数字は、その人物の今日一日の "幸運度" ともいうべきもの。それは云ってみれば "偏差値" みたいなもので「50」が "普通"、それを上回れば幸運、下回れば不運ということになる。

 三枝(さえぐさ)のんは高校1年生。無類の読書好きな彼女の能力は、本の背をなぞるだけで、本の内容をすべて記憶できる、というもの。しかしこれは体力を消耗するのでちょくちょくは使えない。

 江崎純一郎(えざき・じゅんいちろう)は高校2年生。彼には毎朝、不思議な声が聞こえてくる。それはその日のうちに彼が耳にすることになる "台詞" だ。
 その数は5つ。しかし誰がいつ口にするのかまでは分からない。かなり中途半端な "予知能力" ともいえる。

 葵静葉(あおい・しずは)は高校3年生。彼女の能力は "破壊"。心に念じることで、触れたモノを壊してしまうことができる。

 この4人のところへ、招待状が舞い込む。夏休み中に東京の有明ビッグサイトで開かれる5日間のイベントに参加できるというもの。
 当然ながら、イベントに合わせてビッグサイトに隣接したホテルに5日間宿泊もできるという、至れり尽くせりの招待状だ。

 しかし開催初日にビッグサイトへやってきた4人は、これはイベントへの招待ではなく、何者かが意図的に彼ら彼女らをこの場所に集めたらしい、ということを知る。
 ホテルへの宿泊は有効だったので、4人はホテルに陣取り、自分たちが集められた目的を探ることにする。

 4人の受け取った招待状に共通しているのは、主催者とおぼしき「株式会社レゾン電子」という記載。社長・黒澤孝介のもと急成長を遂げてきた会社だ。
 さっそくレゾン電子にあたる4人だが、どうやら招待状はレゾン電子が出したものではないらしい。では、誰が、何のために4人を集めたのか? そして、なぜ "この4人" だったのか?


 4人の "能力" は生来のものではなく、4年前の "ある日" を境に現れたものだった。
 レゾン電子を探るうちに、黒澤孝介の過去が明らかになり、4年前の "ある日" には、彼の身に "ある事件" が起こっていたこともわかってきた。
 どうやら4人の "能力" は、黒澤孝介の遭遇した "ある事件" と関わりがある。そして招待状の "差出人" は、4人に "何事か" をやらせるために集めらたらしい・・・


 タイトルの「ノワール・レヴナント」について。
 「ノワール」は "黒"、「レヴナント」は "死から甦ってきたもの" という意味になるが、本書ではいくつかの意味を含めている。

 4人がレゾン電子を探るうちに見つけ出したのは、一連の事態の背後で、1人の少女が謎の死を遂げていたこと。まずはこの少女を指すのだろう。たぶん文庫版の表紙イラストの少女もこの子だ。

 もう一つ、作中に登場するカード・ゲームの名前が「ノワール・レヴナント」だ。おそらく架空のゲームで、かなり変わったルールで勝ち負けが決まるが、終盤ではこのゲームを使った勝負の場面があり、ここがクライマックスの一つにもなっている。


 本書がこんなに厚い理由はいくつかあるだろうが、一つには4人の背景を深く掘り下げられていることがあるだろう。
 キャラクターというのはストーリーの登場時点で生まれるのではなく、ちゃんと生まれてから今日までの物語を背負っているわけで、4人についてはかなり突っ込んだ描写がある。
 例えば葵静葉は、かつて衝動的に "能力" を行使してしまったことによって、深く苦しんでいることが描かれる。他の3人も程度の差はあれ、自分に与えられた能力について葛藤を抱えている。
 ページ数は増えてしまうが、このあたりを深く描写しておくことで、物語中での彼らの行動や選択について、説得力を与えているといえる。


 さて、物語の進行とともに、のん・純一郎・静葉の "能力" は大活躍するのだが、駿くんにはほとんど能力行使の見せ場がない。まあ、そういう能力なのだから仕方がないといえばそうなのだが。
 しかしエピローグにいたって、彼がこの "能力" を与えられた意味が明らかになっていく。案外、"差出人" がいちばん期待していたのは彼かも知れないと思ったりする。

 また、エピローグでは他の3人も、未来への選択をする様子が描かれる。

 元々ストイックだった静葉さんはさらに孤高の道を歩むことに。そこまで自分を追い詰めなくてもいいかとも思うが、延々と700ページ越えで描いてきた物語の結末としては、納得できる選択ではある。
 純一郎くんもまた、選択をするのだが・・・これはやめておいた方がいいんじゃないかと思うのだけど、これもまた本書で描かれてきた純一郎くんなら、仕方がないかなとも思う。
 のんさんがいちばん平穏な結末かな(笑)。

 ジャンル分けが難しい作品だが、文庫で750ページという大部を破綻させず、最後まで読ませる筆力は只者ではない。そしてこれがデビュー作だというのだから畏れ入る。この作者、しばらく追いかけてみようと思う。



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