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天盆 [読書・ファンタジー]


天盆 (中公文庫)

天盆 (中公文庫)

  • 作者: 王城夕紀
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/08/25

評価:★★★★☆


 蓋(がい)の国の "国技" たる「天盆(てんぼん)」は、将棋に似た盤上のゲーム。しかし、国を挙げて行われる競技大会「天盆陣」の勝者となれば、立身出世も夢ではない。
 主人公・凡天(ぼんてん)は貧しい平民の出でありながらも天才的な力量を示し、激戦を勝ち抜いていく。しかしその裏では、彼を阻止しようとする陰謀もまた企てられて・・・


 舞台となる蓋の国は、中世の中国を思わせる国家。
 年に一度、実施される「天盆陣」は、全国を東西南北の4地区に分けて予選が行われる。各地区を勝ち抜いた4人の決勝進出者には「天盆士」の称号が与えられ、国政に参与する道が開かれる。
 しかしもう長い間、平民からの「天盆士」は誕生していない。時の流れにつれてその制度は形骸化し、一部の既得権益階級の間でのみ優勝者が生まれていたのだ。

 主人公・凡天は捨てられた赤子であったが、少勇(しょうゆう)と静(せい)の夫婦に拾われた。2人には既に12人の子がいたので、凡天は13人目の末子となった。
 ちなみに兄弟姉妹の名には数字がつけられているので、第何子かはすぐ分かるようになっている(笑)。例えば長男は一龍(いちりゅう)、次男は二秀(にしゅう)。ちなみに第11子(女子)は士花(しいか)、第12子(女子)は王雪(おうせつ)。うーん、よくできてる。

 3歳になった凡天は、「天盆士」を目指している二秀から「天盆」の手ほどきを受けるが、たちまち兄姉たちを凌ぐ上達を示す。やがて二秀と凡天は、ともに「天盆陣」に臨むことになっていくのだが・・・


 "万人に開かれた大会" であるはずの「天盆陣」だが、形骸化して久しい。息子の栄達を望む地方の有力者は、幼い頃から子に "英才教育" を施すのはもちろん、有力なライバルが現れれば裏から(あるときは堂々と表から)圧力や嫌がらせ、威嚇をして排除していく。

 だから、平民出身の凡天の "台頭" はなんとしても阻止しなければならない。少勇と静は大衆食堂を経営しているが、有形無形の "圧力" によって客足は遠のき、仕入れにも支障を来すようになってしまう。しかし少勇や一龍は挫けずに凡天たちを支え続ける。
 後半になると、権力者たちはさらに悪辣な妨害を仕掛けてくるのだが・・・


 凡天は、その天与の才(もちろんその裏にある、人並み外れた努力も描かれるが)を発揮して「天盆戦」を勝ち進むのだが、彼の前には次から次へと強敵が現れる。難敵を倒せば、次はさらなる強敵が現れる、というように。
 このあたりは少年マンガのバトルもののノリに近い。「天盆」は、云ってしまえばボードゲームの一種なのだが、その "戦い" は高密度で描写され、凄まじい緊張感を伴って読む者に迫ってくる。このあたりの筆力をみるに、作者もまた ”非凡” としか言い様がない。

 登場キャラの個性もみなユニークだ。
 「天盆」以外は眼中になく、嬉々として棋譜を読みふける凡天。
 二秀は ”誠実” を絵に描いたような兄。凡天の "師" として登場し、途中からは遙か高みへいってしまった弟の戦いを見届ける役回りに。
 その他、11人の兄姉たちもそれぞれ個性豊かに書き分けられていて、なかでも才色兼備の六麗(ろくれい)が印象強い。難局にあってもしたたかに生き抜いていく彼女の逞しさが心地よい。
 凡天の対戦相手も、"いかにも悪役" な曲者キャラから、純粋に親の期待と家の将来を背負った "真っ当な敵" までさまざま。このあたりも上手いと思う。


 終盤にいたり、いよいよ東西南北4地区代表による "決勝戦" となる。そしてすべての勝負の決着がついたとき、物語は意外なエンディングを迎える。

 ここまで読んできて、思わず「えー!!」って(心の中で)叫んでしまったよ。詳しいことは伏せるけど、いろんな思いが頭の中に渦巻いた。
 でも、"歴史の歯車" というのはこういうものなのかも知れない。あえてここで終止符を打ったのも、作者の見識なのだろう。



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