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301号室の聖者 [読書・ミステリ]


301号室の聖者 (双葉文庫)

301号室の聖者 (双葉文庫)

  • 作者: 織守 きょうや
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2022/08/04
  • メディア: 文庫


評価:★★★★


 笹川総合病院の301号室で医療事故が連続する。病院に対する医療過誤を巡る損害賠償請求訴訟を担当することになった弁護士・木村は、病院関係者、そして入院患者とその家族を対象に調査をするのだが・・・
 新米・木村龍一(きむら・りゅういち)とベテラン・高塚智明(たかつか・ともあき)の弁護士コンビが活躍するリーガル・ミステリ・シリーズ第2巻。


 笹川総合病院に入院していた85歳の女性・丸岡輝美(まるおか・てるみ)が、食事中に喉を詰まらせ、そのまま昏睡状態になって2ヶ月後に死亡した。患者の娘・凌子(りょうこ)は病院を相手に医療過誤訴訟を起こす。

 それを担当することになったのが新米弁護士・木村。彼にとっては初めての医療訴訟だ。さっそく病院へ赴き、当時の状況を調べ始める。
 丸岡が入院していた301号室(4人部屋)の、他の患者たちや家族からも、輝美の様子や病院の対応を聞いていく木村。

 しかしその一方で、現在の入院患者である池田千枝子(いけだ・ちえこ)、穂積昭子(ほづみ・あきこ)が立て続けに亡くなるという事態が勃発する・・・


 タイトルに「301号室」とあるが、実は本書には「301号室」が2つ登場する。
 輝美が入院していたのは「西棟301号室」。もう一つは「東棟301号室」だ。木村は最初に病院へ行ったとき、間違えて「東棟301号室」へ行ってしまう。


 ちょっと横道にそれるが、同一病院内に同じ数字の病室があるのは医療事故のもとだとも思うのだけどね。私の父が晩年に入院していた病院も東棟・西棟があったけど、病室番号は同一にならないように振ってあったよ。閑話休題。


 「東棟301号室」に入院していたのは早川由紀乃(はやかわ・ゆきの)という中学生の少女だった。これをきっかけに木村は彼女と言葉を交わすようになる。
 彼女の両親は既に亡く、かなり長期間入院しているせいか、ちょっと浮世離れした雰囲気を持っている。保護者となっている叔母は遠方に住んでいるため、見舞いに来るのは親友と思しき女の子が一人だけ。病院にいる時間が長いだけあって、意外と内部の情報にも詳しかったりする。
 彼女の詳しい病状は分からないが、生活自体は普通に行えているようで、近々退院するのだという。

 ストーリーは、医療事故関係を中心に、合間に由紀乃のエピソードが挿入されていく。


 この手の医療ミステリーでは、えてして病院側が悪者に描かれることが多いが、本書はそういうステレオタイプの物語ではない。

 多数の入院患者に対するケアには、限界がある。物理的にもマンパワー的にも。一人の患者につきっきりでの世話はできないのだから。できうる限りの対応をしていても、事故の起こる確率はゼロにはできない。

 一方、入院患者、そしてその家族の側にも様々な葛藤がある。長期の入院に伴い、精神的にも経済的にも負担は増していくのだから。


 またまた脱線するが、私の妻の両親も晩年は意識不明状態になって入院していた。どちらも、さほど長引くことなく亡くなったので、家族の負担としては大きくなかったのだが、それでも病院の対応に不信感を抱かせるところはあった。訴訟まではしなかったけど。


 読んでいて思うのは、弁護士という職業の目的。警察は真実を明らかにすることが目的だが、弁護士の場合は微妙に異なるのかも知れない。
 弁護士にとっては、真実も大事ではあるが、それよりも関係者の間の "納得感の最大化" を目標にしてるように思える。争う者の間で、皆が納得できる(受け容れられる) "落とし所" をみつけるというか。
 もっとも、人間は感情の動物であるから、理屈では説得できない局面も存在する。そういう点では、青臭い新米で、関係者に対して時には必要以上の思い入れを抱いてしまう木村が、誠心誠意を以て奔走するところに "解決の目" が生まれる、というのは、納得できる展開ではある。

 そして、この世には「明らかにしても誰も幸福にしない真実」というものも存在する。終盤、木村はそんな "真実" に遭遇するが、それに対して彼のとった行動は、否定はできないとも思うが、いろいろ考えさせられる。


 西棟301号室での連続死の真相も明らかになり、東棟301号室の由紀乃も退院の日を迎える。そしてラストの十数ページに至り、タイトルの「聖者」の意味が明らかになる。

 よくできた医療ミステリーであり、よくできたリーガル・ミステリーであり、そして・・・私の涙腺を崩壊させた作品でした。



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