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Jミステリー 2022 SPRING [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
第一線のミステリ作家6人による全編新作書き下ろし短編アンソロジー。
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「リノベの女」(東野圭吾)
不動産会社で働く神尾真世(かみお・まよ)は、上松和美(うえまつ・かずみ)という女性からマンションのリフォームを依頼される。
和美は資産家の上松孝吉(こうきち)と結婚したが死別していた。しかし最近になって、二十数年にわたって音信不通だった兄・竹内祐作(たけうち・ゆうさく)が連絡をしてきたという。
真世の叔父・武史(たけし)の経営するバーで、和美は竹内と会うことになるがその場で竹内は「お前は妹の和美じゃない」と言い出した・・・
探偵役を務めるのは武史。和美の秘密を探ると同時に "兄妹間のトラブル" も解決してしまう。和美の抱えた事情はちょっとリアリティに欠けるようにも思うが、それをも押し切って読ませてしまうのは流石。
「ある部屋にて」(今村昌弘)
健吾(けんご)は恋人の優里(ゆり)が住むマンションにやってきた。しかし彼女から別れ話を切り出され、頭に血が上った健吾は優里を撲殺してしまう。
部屋にあったスーツケースに優里の死体を詰め終わった時、インターホンが鳴る。来客はヨレヨレのコートを着た男で、弁護士の白川と名乗った。優里の依頼で来たという。
健吾はとっさに「私は優里の兄だ」と名乗ってしまうが・・・
優里が不在の状況の不可解さを、白川がネチネチと健吾に問い詰め始めるので「刑事コロンボ」パターンの倒叙ミステリかと思いきや、ラストでは二重のひねりわざが炸裂する。
「立体パズル」(芦沢央)
脚本家の宮野雄一郎(みやの・ゆういちろう)の息子・翔大(しょうた)は保育園に通っているが、同級生の長内達幸(おさない・たつゆき)くんが保育園を休みだしたという。どうやら母親の実家に行っているらしい。
数日前には、33歳の独身男性が5歳の男児を刺し殺すという事件が起きていた。犯人は未だ逃走中だ。
雄一郎の妻がママ友たちから仕入れてきた情報によると、長内家が住んでいる邸宅には、5年前まで男児殺害犯が暮らしていたのだという。しかも、最近になって犯人が家の様子を覗きに来ていたらしい・・・
長内家の行動は、ある意味当然のことなのだが、雄一郎はその裏に潜む、もう一段深い理由に思い至ってしまう。これは子育てをしている親ならではの発想だろう。
「叶えよ、アフリカオニネズミ」(青柳碧人)
民間企業が設立した《ヤーキー地雷撤去研究所》は、カンボジアの地雷原から地雷を撤去する研究をしている。その研究所の一室で爆発があり、副所長の原竹安和(はらたけ・やすかず)が死亡した。
発見者は所員の永井愛理(ながい・あいり)。ネズミの世話のために宿直として泊まり込んでいた。この研究所は、訓練したネズミを地雷撤去に使うことを研究していた。
しかし研究の進捗は思わしくなく、死んだ原竹は本社に対して研究所の廃止を上申していた。一方で地雷マニアでもあり、地雷のサンプル品を集めるのが趣味だった。
現場は密室だったことから、誰かが火薬の入った地雷サンプルを用意して原竹に渡したのではないか?という疑いが持ち上がる・・・
現場をわざわざ密室にした理由がキモの作品かな。密室トリック自体はバカミスに近いけど(笑)。
「目撃者」(織守きょうや)
高部陽人(たかべ・はると)は妻子がありながら愛人との逢瀬を楽しんでいた。
ところがある晩、陽人が自宅マンションに帰り着くと、妻の彩花(あやか)が撲殺死体となっていた。
警察はマンションの出入り口にある防犯カメラの映像から犯人を割り出そうとするが、有力な容疑者が浮かんでこない。
犯行時、二歳の息子・朝陽(あさひ)は熟睡していたらしい。仮に犯行を目撃していたとしても証人能力はないだろう。ところが、その朝陽が陽人の犯行を示すようなことを言い出す。
「おとうさんが、どんってした。まま、いたいいたいした」・・・
この "証言" の解釈が本作のキモなんだが、これは気がついた人、けっこういるんじゃないかな。
「黒猫と薔薇の折り紙」(知念実希人)
未練を抱えたまま死んだ人間は "地縛霊" となって地上に残ろうとする。それを防ぐため、死神は "使い" を人間界に派遣した。"使い" はクロという名の猫の姿になり、日夜、死者が地縛霊にならないように活動している。
ある晩、クロは平間大河(ひらま・たいが)という青年が首吊り自殺をしようとしているのを阻止し、彼の記憶の中へ入っていく。
大河は結婚を約束した恋人・美穂(みほ)を残し、料理人になるために東京へ出て行った。7年後、料理人修行を終えて帰って来たが、美穂はすでに別の男と結婚し、娘まで生まれていた。
しかしその三ヶ月後、美穂の父から彼女が死んだと告げられる。そのうえ「美穂が死んだのはお前のせいだ」と罵られたのだった・・・
うーん、真相は感涙もののはずなんだが、今ひとつ私好みの話ではないので素直に感動できないなぁ・・・って思っていたら、ラストで意外な超展開が。
なんとこの話、長編の第一章を短編に改稿したとのこと。続きはぜひ長編のほうを読んでください、ということですね。
光文社さん、商売が上手い。
タグ:国内ミステリ
塞王の楯 [読書・歴史/時代小説]
評価:★★★★☆
時は戦国時代。
石垣職人 "穴太衆" の飛田匡介は、鉄壁の石垣を築くことで戦の絶える世を夢見る。
一方、鉄砲職人 "国友衆" の国友彦九郎は、鉄砲の脅威を以て戦なき世を目指す。
最強の楯と至高の矛を自負する二人が、関ヶ原の合戦前夜の大津城で激突する。その決着は・・・
第166回(2022年) 直木三十五賞 受賞作。
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※かなり長文です。
基本的には褒めてます。というか激賞してます。
でも、最後にちょっとだけ文句というか疑問点を書いてます。
悪しからず。
時は戦国。越前浅倉家は織田軍の侵攻によって滅亡した。その戦乱のさなか、家族を喪った少年・匡介(きょうすけ)は "穴太衆(あのうしゅう)" の飛田源斎(とびた・げんさい)に拾われる。
"穴太衆" は、城の石垣積みを請け負う職人集団。その中でも源斎率いる飛田屋は図抜けた存在であり、頭領の源斎は「塞王」(さいおう)と呼ばれていた。
匡介は石を扱うことにかけて非凡な才能を発揮して(作中では「石の "声" を聞くことができる」と評される)、頭角を現してゆき、やがて源斎からは次期頭領の指名を受けるまでに成長する。
幼少期に落城を経験した匡介は、どんな武器も通じない "鉄壁の石垣" を築くことができれば、戦いのなくなる世が来るのではないかと考えていた。。
一方、鉄砲製造の "国友衆"(くにともしゅう)は、伝来してきた鉄砲に独自の改良を施し、高機能化・大型化を実現してきた驚異の職能集団だ。頭の国友三落(さんらく)は「砲仙」(ほうせん)と呼ばれている。
三落の後継者と目されている若き鬼才・国友彦九郎(げんくろう)は、どんな守りも貫いてしまう ”最強の鉄砲” を創り出せば、その脅威によって戦は絶えると信じていた。
やがて太閤秀吉が没し、石田三成と徳川家康の間の緊張は、急速に高まっていく。
家康が上杉討伐へ向かった隙を突いて挙兵した三成は、軍勢を東へ進める。
近江の大名・京極高次(きょうごく・たかつぐ)は、当初は三成に与していたものの、突如軍を引き返して琵琶湖畔にある居城・大津城に立て籠もってしまう。
大津城の石垣修復を請け負っていた匡介たち穴太衆もまた、城内に籠もって作業を続けることに。
京極軍3000に対し、そこへ押し寄せたのは毛利元康率いる15,000の軍勢。その中には名将・立花宗茂(たちばな・むねしげ)、さらには彦九郎が率いる国友衆も、総力を挙げて作り上げた "新兵器" とともに参戦していた。
西へ向けて引き返してくる家康率いる東軍は、三成率いる西軍といずれ激突することになるわけだが、大津城を取り囲む毛利軍はその決戦までに三成軍に合流しなければならない。つまりいつまでも大津城に関わってはいられない。
逆に考えれば、大津城が持ちこたえている限り、三成は15,000の毛利軍を欠いたまま家康との決戦に臨まなければならない。
大津城の攻防は、図らずも天下の行方を左右する重要な戦いとなった。
激烈な攻撃を仕掛ける毛利方、そして国友衆。
必死の防戦を続ける京極方、そして穴太衆。
最強の楯を築こうとする「塞王」匡介と至高の矛を駆使する「砲仙」彦九郎。
道は違えど、戦のない世を目指す二人の死闘の行き着く先は・・・
読んでみてまず驚くのは、「石垣積み」のイメージがガラッと変わることだ。
石の切り出し・輸送・石積みと工程も職人も細分化され、綿密なスケジュールを以て計画的に実行されていく。さらには石もただ積むのではなく、最適な組み合わせや積む順番を事前に見極めるという緻密かつ繊細な作業が要求される。
さらに「積んだら終わり」ではない。壊れたら修復するのはもちろんだが、合戦に際しては組み替えたり、新たな石塀を建造したりと、戦術や状況に合わせて短時間で石組みを柔軟に変化させていく。
もっと驚くのは、攻城戦のまっただ中であっても作業を請け負うことだ。銃弾や矢が飛び交う中でも、下手をすれば白兵戦のさなかであっても、石を積み続ける。
職人は非戦闘員であるから、攻め手側も狙って殺すことはないが、それでも犠牲者は出る。まさに命がけの仕事だ。
寄せ手側の戦法・戦術に合わせて柔軟に石を組み替える。これは本書において随所で描かれる部分で、穴太衆、ひいては匡介の腕の見せ所でもある。
寄せ手側の裏を掻くために策を巡らす。石積みの頭領でありながら、匡介の主な仕事は意外にも "頭脳労働" だったりするのだ。
そしてそれが最大限に発揮されるのは本書の後半で描かれる大津城攻防戦だ。
「塞王」を目指す匡介と、「砲仙」の名を受け継いだ彦九郎。
二人がお互いの手の内を読んでゆくくだりは、さながらチェスの名手同士のよう。読み間違いはそのまま敗北につながるのだから必死だ。
京極側と毛利側の攻防を描くシーンが続くが、その根底にあるのは匡介と彦九郎の頭脳戦だ。
匡介のライバルとなる彦九郎は、物語上の立場としては敵なのだが "悪人" としては描かれない。彼もまた、彼なりに平和な世界を目指す理想を掲げていて、自分の行いがそれに近づく方法だと信じている。
戦なき世を目指すという同じ理想を抱きながらも、方法が異なることによってぶつかり合う二人は、実はお互いを最も良く理解する者同士でもある。
毛利方の立花宗茂は、他の武将たちの反対を押さえて国友衆が力を最大限に発揮できるように取り計らっていくという、さすがの智将ぶりを示す。
だが、本書の中でもっともユニークなのは、京極高次とその妻・初(はつ)だろう。この二人の異色ぶりは群を抜いている。
京極高次は、妹が豊臣秀吉の側室となり、織田信長の姪(淀君の妹)の初を妻に迎えた。そのため、彼女たちの "(尻の)七光り" で出世したとして、人々からは "蛍(ほたる)大名" と揶揄されていた。
しかし彼はそんなことは歯牙にもかけない。彼にとって大事なものは家臣であり、なにより領民を第一にするという姿勢を終始貫いていく。
外見も小太りで愛嬌のある体型で、大名としての威厳や貫禄とも全く無縁。誰に対しても人なつこく語りかけるという態度は戦国武将としてはいささか頼りない。だがそれ故に「自分たちが支えなければ」と家臣たちに思わせ、忠誠が集まるという不思議な人でもある。
彼が西軍から離反したのも「このままでは近江が戦場になり、領民が苦しむ」という思いから。よって領民もすべて大津城内に収容しての籠城戦となった。
高次の妻・初に至っては、夫以上の天然キャラ。大名の妻などと云うプライドは欠片もなく、極めて腰が低い。石垣を修復する穴太衆に対しても分け隔てなく親しく接し、やがて彼らから圧倒的な信望を集めていく。
血なまぐさい合戦が続く本書に於いて、京極夫妻は唯一にして最大の "癒やしキャラ"(笑) となっている。二人が登場するシーンでは、自然と口元がほころんでしまう。
初の侍女・夏帆(かほ)と匡介のロマンスの行方など、読みどころは多いのだけど、もういい加減長くなったのでそろそろ終わりにしよう。
終盤における死闘激闘をくぐり抜けた先の終章にいたり、読者は深い満足感を味わいながら本を閉じることになるだろう。
直木賞受賞も納得の、傑作戦国エンタメ大作だ。
・・・と、ここまでは本作を褒めてるのだけど、この記事の冒頭に書いたとおり、ちょっと文句というか疑問点がある。
作中、大津城の外堀(水のない空堀)に琵琶湖から水を引き入れる、というシーンがある。ところが(文中の記述によると)堀の地面は琵琶湖の水面より標高が高いのだ。
水を引き込むための ”仕掛け” の工事については、作中で細かく描写されている。どうやらサイフォンの原理を使っているようなのだが、そもそもサイフォンは、途中に高低差があってもいいが、流れの終点(外堀)の水面が起点(琵琶湖)の水面よりも低くなければ機能しない。
外堀の中央部を掘って深い部分をつくり、そこに水を引き入れているので、その部分だけは湖面よりも低いのかなとも思ったのだが、後半になったら毛利軍に “仕掛け“ を破壊されて水が琵琶湖に抜けてしまう、という下りがあるので、やはり湖面よりも高いところへ ”引いた” ようだ。
この ”水を引く” 工事のところで私は読むのを中断し、しばし考え込んでしまった。どうにも理解できなかったからだ。
これは私だけかと思ったのだけど、ネットを見てみたら同じ疑問を持った人はけっこういるようだ。
おそらくこの本の読者には「読んでいて気がつかなかった人」「気づいたけど気にしなかった人」「気にはなったけどとりあえず読み続けた人(私はこれ)」など、いろいろな人がいたのだろう。
でもネットの感想をみてみると「気になって読むのをやめてしまった人」も一定数いるようだ。
「あまりのリアリティのなさに、読む気が失せた」「ファンタジーになってしまった」と酷評する人もいる。
このエピソード、物語の構成において必要不可欠か、と言われたらそうでもないと思う。この部分抜きでもストーリーに大きな支障はないし、作者の力量なら充分に盛り上げることができたと思う。
この部分に作者がどれくらいの ”思い入れ” があったのかはわからないが、このせいで読者の一部を失っているとしたらもったいないことだ。
最後まで読んでもらえれば、クライマックスでの ”あの感動” が味わえたのだが・・・
フィクションなのだから、多少史実と異なる部分や誇張された部分があってもいいとは思うが、「物理法則を無視するのはやり過ぎだ」という意見もうなずける。
私などは「これだけ面白いのだから、まあいいか」って思ってしまったのだけど、そういう人ばかりではない、ということだ。
ちなみに、私も無条件で受け入れたわけではない。
私は本書に星★5つをつけてもいいかな、と思った。
だけど星★4つ半にしたのは、ここの部分があったから。
ものすごい傑作だと思っただけに、ちょっと残念でした。
タグ:歴史・時代小説
実家暮らしのホームズ [読書・ミステリ]
実家暮らしのホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2024/01/11
- メディア: 文庫
評価:★★★
ミステリ・マニアの資産家オリバー・オコンネルが率いる財団は "探偵発掘プロジェクト" を実施したが、その予選で最高得点を叩き出した人物は、なぜか本選には現れなかった。
財団の調査で判明したその人物の正体は、実家暮らしのひきこもりの日本人青年だった。彼は財団を騙した代償として、様々な事件の解決に当たることになったのだが・・・
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ミステリ・マニアの資産家オリバー・オコンネルが率いる財団は "探偵発掘プロジェクト" を実施した。四次にわたる予選を通過した12名には、本選参加を条件に3万ドルの報奨金が与えられた。
しかし、予選で最高得点を叩き出した人物は、なぜか本選には現れなかった。
財団の調査で判明したその人物の正体は、24歳の日本人で、実家暮らしのひきこもり青年・判治(はんじ)リヒトだった。
彼は財団から報奨金3万ドルの返還を求められたが、既にもう使い果たした後だった。そこで財団は、その代償として様々な事件の解決にリヒトに命じることになった。
財団の代理人として現れた女性ホルツマン・ユキとともに、リヒトは警察も解決できなかった怪事件に挑んでいく。
「Case 1 8ビットの遺言」
オリバー・オコンネルの親友だったIT企業社長・城ノ戸純(きのと・じゅん)が自身の別荘で刺殺された。犯人は被害者の生活パターンをよく知った者と思われた。リヒトは遺体の不自然な状況から "ある意味" を読み取るのだが・・・
リヒトは "何でもお見通し" のホームズ型の探偵なのだけど、この状況から○○○を思いつくというのはちょっとマニアック過ぎるかも。
「Case 2 自殺予告配信」
『ナチュラル・ボーン・コレクター』と名乗る若い男性ユーザーが一本の動画を投稿した。内容は "24時間以内に自分を見つけてくれなければ自殺する" というもの。
投稿者の父親から通報があって警察が自宅に乗り込んだが、既に本人は姿を消していた。
居場所のヒントは彼の部屋に残されているはずとリヒトは判断するが、"コレクター" を名乗るだけあって、部屋の中は雑多な収蔵物であふれかえっていた。しかしリヒトはたちまちのうちにそこから手がかりを見つけだす・・・
○○○○○○○○○というアイテムもなかなか。これ気づく人いるのかな? 少なくとも私だったら絶対ダメだな。
「Case 3 撲殺モラトリアム」
資産家の高須忠彦(たかす・ただひこ)が撲殺された。彼は脳疾患を患って身体が不自由だったが、介護をしている貴久代(きくよ)と春子(はるこ)という二人の娘に対してDVを振るっていた。警察の調べに対し春子が犯行を自供したのだが、状況に不可解な点が多い・・・
犯行動機の異様さも被害者の性格の悪さ(笑)もひねりが効いている。読後感はイヤミスに近いが。
「Case 4 零下二十五度の石棺」
漁港の冷凍倉庫で死体が発見された。睡眠薬を飲んで眠った状態で放置されたことによる凍死だった。遺体の持っていたスマホには遺書とみられるメッセージが残されており、さらに倉庫の扉の内部側レバーにはロープが結びつけられて固定されているという密室状態。自殺の可能性も疑われたが・・・
リヒトが遺書の偽造を見抜くくだりは相変わらずマニアック。盲点と云えばそうなのだけど。
密室トリックはある意味 "一発芸" なので見当がつく人もいそう。リヒトが出張ってこなくても、警察が地道に捜査すればたどり着ける気もするが。
「Case 5 ダイムの遺言」
「Case 1」で殺害された城ノ戸社長からオリバー・オコンネル宛てに書簡が届いた。それは城ノ戸が生前、顧問弁護士に託してあったもので、死亡して半年後に投函することになっていた。内容は漢字だけで書かれた謎の文字列による暗号だったが、リヒトは一瞥しただけで解読する見当をつけてしまう。
手紙には、城ノ戸の娘・北条千恵子(ほうじょう・ちえこ)ともに暗号を解読してほしいとあった。リヒトたちは彼女を連れて「Case 1」の舞台となった城ノ戸の別荘に向かうのだが・・・
○の○○が○○れた○○○がそのまま暗号解読表になるとは。云われてみれば "なるほど" なアイデアではある。
しかしそれはとっかかりに過ぎず、真の解答に至るまでは二転三転するなどひねりが効いてる(効き過ぎてる)。
さらに「Case 1」で持ち越されていた謎が「Case 5」で解明されるなど、この二編は前後編になってるとも云える。
そして最期に得られた "もの" も、まあこんなことよく思いついたと感心してしまう。
リヒトが負った3万ドルの借金は事件解決のたびに減額されるのだが、今回の五件を通じてもさほど減っていないので、さらなる続編があるのかも知れない。
ひねくれ者のリヒトはともかく(おいおい)、ホルツマン・ユキさんはいいキャラをしているので、彼女にはまた会いたいかな(笑)。
タグ:国内ミステリ
鬼哭の剣 [読書・歴史/時代小説]
鬼哭【きこく】の剣【けん】 (ハヤカワ文庫JA JAジ 20-1)
- 作者: 進藤 玄洋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2022/04/09
評価:★★☆
元禄2年(1689年)、弘前藩津軽家の江戸屋敷の門前に死骸が放置される。遺体は津軽家の忠臣・蠣崎仁右衛門のもので、首が切断され、口には黒百合が咥えさせられていた。
津軽家嫡男・津軽信重は剣の同門である越前屋充右衛門とともに真相を探り始める。やがてすべての根源が20年前の蝦夷地にあることが明らかになっていくのだが・・・
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舞台は元禄2年(1689年)の江戸。
津軽家嫡男・津軽信重(つがる・のぶしげ)は毎晩のように吉原通いをする放蕩者だが、ある日、遊郭で客の接待をしていた越前屋充右衛門(えちぜんや・みつえもん)という男と知りあう。
二人はともに二十代の若者。町人ながら剣の道場に通っている充右衛門が小野派一刀流の同門であり、しかも信重と並んで一門中でも屈指の腕前を持つと知り、二人は急速に親しくなっていく。
そんなとき、弘前藩津軽家の江戸屋敷の門前に死骸が放置されるという事件が起こる。遺体は津軽家の忠臣・蠣崎仁右衛門(かきざき・にえもん)のもので、首が切断され、口には黒百合が咥えさせられていた。
蠣崎を父のように慕っていた信重は仇討ちを誓い、充右衛門とともに真相を探り始める。
事件の原因は蠣崎の過去にあるとみた信重は、自身の父親であり、かつ事情を知るであろう津軽家当主・信政と対峙する。
一方、充右衛門も両親が自分に対して何か隠し事を持っていることを知る。
やがて、信重と充右衛門は、20年前からの因縁でつながっていたことが明らかになっていくのだが・・・
・・・と書いていくと、二人の因縁を探っていく話かと思われるが、さにあらず。
本書は「序章 寛文九年(1669年) 十月二十二日 松前」という章から始まっているのだが、ここで描かれているのは蝦夷地で起こった、いわゆる "シャクシャインの戦い" が終結する顛末だ。
あからさまには描かれていないが、これが事件の背景にあるのは明らかで、これを読んだあとで本編に進むと、登場人物の過去や背負った事情がある程度推察できてしまう。
本来だったら、ここは主役二人の探索行の中で明らかになっていく内容で、本編の中では中盤以降に置かれるべき章だともいえる。
冒頭に置かれたことで、全体の見通しはとてもよくなった(なりすぎた)。格段に判りやすくなったのだが、同時にミステリ的な楽しみは半減したとも云える。この構成は好みが分かれるのではないかと思う。
父親に反発して、藩が潰れても構わないと思いつつ放蕩を続ける信重。自らの出自を知って悩む充右衛門。
主役二人もいいけれど、充右衛門に思いを寄せる振袖新造(ふりそでしんぞ:未だ客を取っていない遊女見習い)の初音(はつね)など、脇キャラも魅力的だ。
ちなみに、初音さんの "物語における着地点" も描かれるのだけど、うーん、彼女はこれでよかったのでしょうか・・・
遺体放置事件に絡む謎のいくつかは、美濃部平四郎(みのべ・へいしろう)という北町奉行所の同心が主役二人に協力して解明されていき、それが20年前の出来事へとつながっていく。
そのあたりはよくできているのだけど、上にも書いたように冒頭で盛大にネタバレされてしまっているので、どうしても ”答え合わせ” をしている感が否めない。ちょっと残念というか、もったいない気がする。
遺体事件自体は中盤までに決着がつき、終盤はサスペンス劇に移行する。クライマックスでは「時代劇」らしい剣戟シーンもある。
本書は「ハヤカワ時代ミステリ文庫」と銘打たれたレーベルの一冊。とはいうものの、上記のように ”時代ミステリ” よりも "判りやすい時代劇" を目指したつくりになっている。そのあたりはちょっと私の好みとは合わないと感じた。
タグ:時代ミステリ
『ヤマトよ永遠に REBEL 3199 第二部 赤日の出撃』を観てきました [アニメーション]
※本編のネタバレはありません。
場所はMOVIXさいたま、13:40からの回です。
かみさんと二人で行ったのですが、土曜の午後とあってほぼ満席でしたね。
客層についてですが、近年は若い人も女性も増えてきましたが、「2205」以降で感じるのは、年配のカップル(我々もですが)が特に増えてきたんじゃないかな、ってこと。開場前でロビーで待ってる人々を見てるとそう感じます。
サーシャ人気でしょうか(笑)。
思えば、2012年に「2199」が始まった頃は、見事なまでに「ひとりオッサン」ばっかりでしたよねぇ・・・女性はほんと少なかった記憶が・・・
さて、例によって内容には触れませんが、ネタバレしないようにちょっと感想を書くと・・・
●とにかく情報量が多い(これは毎回だけど)
●オリジナル版を知ってる人からすると
「この時点でここまで明かしちゃうのか!」ってびっくり。
○○○○○○まで出てきたのには正直驚いた。
●いままでのリメイクシリーズでもストーリーの改変はあったけど、
ここまで先の読めない状況に迷い込んだのは初めてかも。
●雪さん強い。サーシャかわいい(おいおい)。
●古代に関しては・・・長い目で見てあげましょう(笑)。
既に「第三章 群青のアステロイド」のティザービジュアルと特報も公開されてます。やっぱり今回のシリーズのサブタイトルは「色づくし」なのですね。
「第三章」の特報についてはまた別記事に書こうと思ってますが、ちょっと遅れるかも知れません。
実はこの「第二章」だって、本来は別の映画館での、別の上映回に行く予定だったのです。ところが今週になって、プライベートで ”大事件” が勃発しまして、全部の予定がきれいさっぱり吹っ飛んでしまいました。
それからは毎日その ”大事件” の後処理に追われて、こりゃしばらく映画館に行くのは無理かなぁ・・・と思っていたのですが、この日だけひょっこりと時間がとれたので、行って参りました。
たぶん映画館で二回目が見られるのはかなり先になりそう。まあ、公開二週目のどこかでは行けると思ってるのですが・・・
ちなみに読書記録の記事は、書きためたストックがかなりあったので途切れずにアップしてます。あと一週間くらいは保つかな? でもそのころには少し余裕ができてまた本が読めるようになってる・・・といいなぁ。
”大事件” の内容については、まあそのうちに・・・
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