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ナイフをひねれば [読書・ミステリ]



評価:★★★★


 ミステリ作家アンソニー・ホロヴィッツが脚本を担当した舞台『マインドゲーム』が初日を迎えた。しかしその夜、真っ先に出た批評はホロヴィッツの脚本を酷評するものだった。
 しかもその翌朝、その劇評家がナイフで刺殺されてしまう。凶器はなんとホロヴィッツのものだった。このままでは殺人犯にされてしまう。
 頼みの綱は元刑事の探偵ダニエル・ホーソーンだったが、彼とは4作目の小説執筆を巡ってケンカ別れしたばかりだった・・・


 ミステリ作家ホロヴィッツは今までにホーソーンの活躍した3つの事件を小説化してきた。しかしこれまで、事件に遭遇するためにひどい目に遭い続けてきた(笑)ホロヴィッツは、ついに4冊目の執筆を断り、彼に別れを告げてしまう。

 一方、ホロヴィッツが脚本を担当した舞台『マインドゲーム』が初日を迎え、その夜には出演俳優やスタッフを集めたパーティーが開かれた。しかし真っ先にネットに上がった批評は、ホロヴィッツの脚本を酷評するものだった。

 そして翌朝、その劇評家ハリエット・スロスビーが自宅で刺殺されてしまう。凶器として使われたナイフは、前の晩のパーティーでホロヴィッツに配られたもの。さらに現場ではホロヴィッツのものと思われる毛髪まで見つかってしまう。

 警察に連行されたホロヴィッツはほとんど犯人扱い。すっかり意気消沈した彼の前にホーソーンが現れて、いったんは解放されるが、毛髪の鑑定でDNAが一致すれば逮捕は免れない。

 鑑定結果が出るのは最長でも48時間以内(実はこれにはホーソーンが裏から手を回しているのだが、そのへんは読んでのお楽しみか)。その間に真犯人を見つけなければならない。
 ホロヴィッツとホーソーンは関係者の間を巡り、情報を収集していくことになるのだが・・・


 舞台に参加している3人の俳優、そしてスタッフたちもそれぞれ隠している事情があり、なかなか腹の中を探らせない。
 被害者となったハリエットについても、過去の行動が明らかにされていく。上昇志向の塊で、胸に野望を秘めた彼女の周囲では、不可解な事件も起こっていた。
 彼女の夫と娘は、ハリエットからの抑圧に耐えた生活を送っており、彼女の死によって解放されたように見える。
 まあ要するに、関係者にはみな何かしらの動機を持ち合わせているようなのだ。

 後半になると、イギリスの田舎の小学校で過去に起こった、不良の子どもたちによる過失致死事件が浮上してくるが、それがハリエットの殺人とどう結びつくかは終盤になるまで分からない。

 ホロヴィッツは毎度のことながら、今回もひどい目に遭い続ける。ホーソーンに引きずり回され続けて、口を開けばぼやきか文句ばかり。本人からしたらトンデモナイ状況なのは同情を禁じ得ないが、第三者から見ていると面白いのは仕方がない(笑)。
 冒頭の事件から、終盤の謎解きに至るまで、読者を飽きさせずに楽しませるという点では、作者は群を抜いたテクニックの持ち主だと思う。

 そして面白さだけでは終わらない。ラストの解明シーンでは、それまでに蒔かれた伏線を綺麗に回収して鮮やかに犯人を指摘してみせる。
 文庫で430ページほどもあって、その中には無数の情報がばら撒かれているのだが、真相につながる手がかりをさりげなく、しかし印象には残るように語るという職人技は今回も冴えている。

 次作は2024年4月に原書が刊行されるという。翻訳のタイムラグを考えたら、日本語版は2024年の末頃かな。
 このシリーズは全10作とアナウンスされてるので、まだしばらくは楽しめそうだ。心配なのは私の寿命だけ(おいおい)。




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