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特選 the どんでん返し [読書・ミステリ]

 

特選 THE どんでん返し (双葉文庫)

特選 THE どんでん返し (双葉文庫)

  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: Kindle版
評価:★★★


「どんでん返し」をテーマにした双葉文庫の
アンソロジー・シリーズもこれで5冊目。
今回は「どんでん返し」をテーマに作家さんに短篇執筆を依頼、『小説推理』誌に掲載された作品を集めたもの。

「神様」秋吉理香子
語り手は女子高生のナナ。3か月前に家を出て、それ以来
体を売って日銭を稼ぎ、ネットカフェで生活してきた。
しかしクリスマスイブの今日、所持金は123円のみ。
いま彼女は『神様』を探してハンバーガーショップで時間を潰している。
”神” とは、彼女の体を買って衣食住を恵んでくれる男のことだ。
そこでナナはルイという少女と知り合う。彼女は援助交際の ”達人” で
ナナに対して効率的な ”商売” の方法をいろいろレクチャーしてくれる。
そこにヒロキという男が現れ、ナナは彼の自宅へ行くことになるが・・・
ヒロキがナナを誘った理由がまず意外なのだが、
その後も状況は二転三転、想定外のラストを迎える。
サスペンス・ミステリとしてはよくできてると思うが、
援助交際を生業にしてる女子高生が主役の時点で
受け入れにくいものを感じてしまうのは、私のアタマが古いのか。

「青い告白」井上真偽
偏差値はそこそこの平凡な県立高校に赴任してきた熱血教師・葛西は、
”生徒のため” と称してさまざまなプロジェクトを考案し実行していく。
その中のひとつ、”落ちこぼれ救済” のために立ち上げた
「できる会」に参加していた女生徒・伊藤はるかが
町の最南端にある岬の断崖から転落死を遂げる。
自殺とも事故ともとれる状況だったが、はるかの幼馴染みだった東は
クラスメイトの古橋薊(あざみ)の協力を得て、真相を探り始める。
とにかく、読み進めると意外な展開の連続で着地点の予想がつかない。
探偵役となる薊さんの推理が導き出す真相も意外だが、
それによって東君はどん底に。正義は人の数だけある、ってことか。
ラストシーンの薊さんのひと言で彼は救われたのかなぁ。

「枇杷の種」友井羊
主人公・蔦林(つたばやし)は、過去の ”事情” により定職に就けず
仕事を転々としていた。いまの職場でも単純作業に従事している。
休日の夜、河川敷を歩いていた蔦林は高校生の変死体を発見する。
この街では連続殺人が起こっており、犯人は同一と思われていた。
警察に第一発見者として取り調べを受けた蔦林は、
解雇されることを覚悟するが、上司の事業部長・陣野は
なぜか蔦林を支えると言って自宅に招くのだが・・・
陣野がいかにも胡散臭く、実際ウラがあるのだが、これは想定の範囲内。
連続殺人事件の犯人も意外だが、私が一番驚いたのは
蔦林の ”事情” の中身だったりする。
”罪を背負う(背負わされる)” にも、いろんな形があるのだろうが・・・

「それは単なる偶然」七尾与史
精神科病棟の一室で行われているのは、催眠療法を使った取り調べ。
大崎医師によって催眠状態に置かれたのは田端清治郎。
小説創作教室の講師をしている田端は、11日前の7月21日に
歩道橋で何者かに突き飛ばされ、4月1日以降の記憶を失っていた。
彼は大崎医師に導かれて少しずつ記憶を取り戻していくのだが・・・
正直、この作品はよく分かりません。
終盤で、ある ”逆転” が起こるのだけど
「?」が10個くらいアタマの中を飛び回ってしまった。
説明されても、「そんなに都合のいい○○○があるのか?」とか
納得できかねる部分がたくさん。まあ私のアタマが悪いせいでしょう。

「札差用心棒・乙吉の右往左往」谷津矢車
主人公の乙吉は、浅草にある札差(金貸し)・播磨屋の主人である
吾兵衛の用心棒兼雑用係を務めている。
ある日乙吉は、貧乏御家人・鈴木半十郎の調べを頼まれる。
還暦を迎えるまで堅実に暮らし、借金なしで生きてきた半十郎が、
最近になって五両貸してほしいと申し出てきたのだ。
しかも差料(刀)を研ぎに出したという。
折しも御徒町界隈では辻斬りが出没していた・・・
江戸時代を舞台にしているが、御家人の世界だからこそ起こった
”事件” であり ”謎” であり、探偵役の吾兵衛もまた
真相を見抜くだけでなく、その後の成り行きまで見通して行動していく。
この時代だからこそ成立するミステリ。
時代小説も読み始めれば面白い作品がたくさんあるのだろうけど
いかんせん、家の中の積ん読本を解消しないことには・・・
それに、書店に行くと時代小説は人気ジャンルみたいで
販売スペースのうちのかなりを占めてたりする。
あの ”物量” を見ただけで畏れ入ってしまうんだよねぇ・・・


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殺し屋、やってます [読書・ミステリ]

殺し屋、やってます。 (文春文庫)

殺し屋、やってます。 (文春文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/01/04
  • メディア: Kindle版
評価:★★★☆

個人事業主としてコンサルティング会社を営む富澤充。
彼は「殺し屋」という ”裏の仕事” を持っていた。
一人につき650万円で人殺しを請け負っているのだ。

 これは東証一部上場企業の社員の平均年収なのだという。

しかし、彼は依頼人とは直に接触はしない。
”殺人” を依頼する人間は、
まず ”仲介人その1” (富澤は「伊勢殿」と呼ぶ)に接触する。
その依頼は ”仲介人その2” (富澤の知人である塚原)を通じて
富澤に伝わり、実行に移される。
間に二人挟むことによって、依頼人と実行者(富澤)は
お互いの情報を知り得ないようなシステムになっているのだ。

だから富澤は、”標的” がなぜ殺されるのか、その理由を知らない。
それ故に、常に淡々とビジネスライクに ”仕事” を進めるのだが
時として監視中の ”標的” が取る奇妙な行動や、
依頼の内容の不可解さに疑問を抱いてしまい、
その理由をあれこれと推理し始める・・・

というわけで、殺し屋が、殺人依頼にまつわる謎を解く、という
ユニークなミステリ・シリーズが本書だ。

「黒い水筒の女」
保育士・濱田瑠璃子は、アパートの一人暮らし。
毎晩寝る前に外出し、黒い水筒を持って公園に行き、
中身を捨てた後にきれいにゆすいで持ち帰る・・・

「紙おむつを買う男」
不動産会社の営業担当・小此木勝巳(おこのぎ・かつみ)は
独身で一人暮らしのはずなのに、
なぜかLサイズの紙おむつをパックで買っていく・・・

「同伴者」
歯科医の芥川のもとに、20代の息子を連れた女性が現れ、
高頭衣梨奈(たかとう・えりな)という女性を殺すよう依頼する。
実はこの芥川こそ「伊勢殿」で、二人の挙動に
不審なものを覚えた彼が、本作では探偵役を務める。

「優柔不断な依頼人」
標的であるITベンチャー企業の社長・春山を監視していた富澤の元へ
塚原から「依頼の撤回」の報がもたらされる。
しかしその後、再び春山殺害の依頼が入り、それがまた撤回される。
一体、依頼者は何を考えているのか・・・

「吸血鬼が狙っている」
夫と二人暮らしのOL・宮永彩美の殺人依頼が入る。
しかも、首筋にキリのようなもので2カ所、
傷をつけてほしいとのオプション付きで。依頼者は吸血鬼なのか・・・

「標的はどっち?」
埼玉県朝霞市に住む佐田結愛(さだ・ゆあ)という女性の殺害依頼が入る。
しかし、見つけた標的はアパートの一室に女性二人で暮らしており、
それぞれの職場でどちらも ”佐田結愛” と名乗っていたのだ・・・

「狙われた殺し屋」
塚原からの依頼は「この写真の人物を殺してくれ」
しかしその写真には、富澤本人が写っていた・・・

富澤が抱く疑問は、最後には標的が殺される理由や
依頼人の正体にも迫るものとなる。

毎度のことながら、文庫30ページほどの分量で
奇妙な発端から意外なオチまできっちり描いてみせるのは流石。

なかなか面白い趣向のシリーズで、どうやら現在も続いているらしい。
遠からず続巻も読めるのでしょう。


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運命の八分休符 [読書・ミステリ]

運命の八分休符 (創元推理文庫)

運命の八分休符 (創元推理文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公は田沢軍平という青年。
大学を卒業して3年経った今も定職に就かずにぶらぶら。
時折舞い込む雑用をこなす、”何でも屋” みたいな生活をしている。

美男子とはほど遠く、メガネの下にはどんぐり眼、
青田の案山子みたいに泥臭い風貌。

しかし生来のお人好しで、困った女性に出合うと放っておけない。
ついつい深入りして世話を焼き、巻き込まれた事件を解決に導く。
その心の優しさ誠実さゆえに、女性からも想ってもらえるのだが
結局、相手と ”いい仲” になることはなく、最後には別れが訪れる。

 巻末の解説にもあるけど、『フーテンの寅さん』みたいだね。
 こういう人が探偵役のミステリも珍しいだろう。

そんな軍平君が巻き込まれた5つの事件を収めた短編集。

「運命の八分休符 〈装子〉」
友人からの紹介で、売れっ子ファッションモデル・並木装子(そうこ)の
ガードマンを引き受けた軍兵。契約終了まで1か月となった頃、
トップモデルの白都サリが東京のマンションで殺される。
ライバルだった装子は殺人の容疑をかけられ、軍兵に助けを求めた。
装子は、サリの愛人でデザイナーの井縫(いぬい)レイジが犯人だという。
しかし犯行時刻には、レイジは大阪でファッションショーを開いていた。
タイトルがカッコいいなあと思っていたんだが、
ちゃんと事件に関連する意味も持たせてある。

「邪悪な羊 〈祥子〉」
曲木(まがりぎ)レイと剛原(ごうはら)美代子はともに小学1年生の女児。
宮川歯科医院に患者として二人そろって来院していたが、
医院に電話がかかってくる。剛原の父と名乗った電話の相手は、
母親が事故に遭ったのですぐに美代子を帰してほしいと告げる。
しかし歯科医の宮川祥子(さちこ)は、間違えてレイを帰してしまう。
レイはそのまま家に帰らず、夜になって曲木家に脅迫電話がかかってくる。
『間違えて誘拐してしまったが、今さら止めるわけにはいかない。
 身代金として3000万円用意しろ』
美代子の父は大手スーパー・チェーン・マルハチの社長、
一方レイの父はマルハチの店長だったが、使い込みでクビになっていた。
身代金の金繰りがつかないレイの父は、美代子の父に泣きつくが、
使い込みの前歴のために、一切の協力を拒否されるのだった・・・
責任を感じた祥子は、高校時代の同級生である軍兵に助けを求める。
誘拐ものは作者の得意技。今回も逆転の発想で意外な真相を引き出す。
高校の入学式で祥子に一目惚れし、10年経った今も
その思いを秘めたままの軍兵クンがいじらしい。

「観客はただ一人 〈宵子〉」
軍兵が住んでいるアパートに宵子(よひこ)と名乗る劇団員が転がり込む。
アパートの隣室に住む若者とつきあっていたが逃げられたらしく、
宵子は彼の帰りを待つためか、軍兵の部屋で
勝手に飲み食いし、寝泊まりするようになる。
(とはいっても、男女の仲にならないのが軍兵らしいが)
ある日、軍兵は宵子に連れられて新劇界の大女優・青井蘭子の
”一晩きりの幻の舞台” という触れ込みの一人芝居を見に行くことに。
100人だけの観客はすべて招待によるもの。
その中には蘭子が過去に浮名を流し、婚約までした5人の男も含まれていた。
しかしその劇のラスト、蘭子は舞台上で銃で撃たれて死亡してしまう。
劇で使用された小道具の銃には弾丸は入っておらず、
彼女に撃ち込まれた弾丸は誰が、どこから撃ったのか・・・
発砲の瞬間の特定、客席の弾痕の解釈などが二転三転して
最後の大逆転まで、これを短篇に使ってしまうのはもったいない。
十分長編を支えられるネタだと思うのだけどね。
最後に軍兵が導き出す青井蘭子の心情は、〈花葬〉シリーズを
彷彿とさせるし、連城ミステリとしては本書で1位だろう。
宵子さんも悪い娘ではないのだけど、軍平くんの手には負えないかなぁ。

「紙の鳥は青ざめて 〈晶子〉」
住宅街を歩いていた軍兵は、突然飛び出てきた犬にまとわりつかれて
一軒家に入り込むことになるが、そこの居間で出くわしたのは
ナイフで左手首を切って失神している着物姿の女性だった。
彼女の名は織原晶子(あきこ)、夫の一郎は1年前に
晶子の妹・由美子と駆け落ちし、二人とも行方不明になっていた。
やがて二人が金沢にいることがわかり、晶子は由美子の婚約者である
夏木明雄とともに二人に会いにいくが解決策を見いだせず、
さらに夏木まで消息を絶ってしまう。
軍兵が晶子を助けた翌朝、新聞に群馬県の山中で
男女の腐乱死体が発見されたニュースが載る。
軍兵は晶子とともに身元の確認に向かうが・・・
作中、晶子がTV番組に出て、夫の一郎に呼びかけるシーンがあるのだが
そういえばあの頃(作品の発表は1982年)、蒸発した人間を探して
家族がTVに出演する番組があったよなあ・・・
なんて思い出したけど、今でもあるのかな?
事件の構図が根底から覆ってしまうラストの逆転が鮮やか。

「濡れた衣装 〈梢子〉」
大学時代の先輩、高藤(たかふじ)に連れられて高級クラブへ来た軍兵。
新米ホステスの梢に相手をしてもらっていた時、
控え室で毬恵というホステスが負傷して失神した状態で見つかる。
毬恵は、クラブの経営者でママのパトロンでもある羽島五郎を誘惑し、
常連客である国会議員・堂本を巡っても他のホステスとも確執があった。
作中、軍兵と梢がコップの水を掛け合うシーンがあるのだが、
二時間前に会った女性に、ここまで軍兵君と絡ませる。
この行為の意味も含めて、男女の展開を描くのが上手いのは流石。


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パレードの明暗 座間味くんの推理 [読書・ミステリ]

パレードの明暗~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

パレードの明暗~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/07/26
  • メディア: Kindle版
評価:★★★☆

サブタイトルにある ”座間味くん” とは、
長編『月の扉』で登場し、探偵役を務めた青年のこと。
本名は明かされず、座間味島のTシャツを着ていたことから
そう呼ばれるようになった。

その後は短編集に登場している。
『月の扉』事件で知り合った大迫警視長としばしば飲みに行き、
そこで大迫が過去に起こり、既に解決した事件を話題にする。
しかし座間味くんが発するひと言が、事件の構図をがらりと変え、
新たな解釈が姿を現してくる。

座間味くんが安楽椅子探偵として活躍する短編集は
『心臓と左手』『玩具店の英雄』と続き、本書で3冊目となった。

「女性警察官の嗅覚」
結婚を機に退職し、専業主婦となった元・女性警察官。
彼女が赤ん坊を連れてスーパーマーケットに行ったとき、
特定の商品の棚だけが空になっているのを発見する。
そこで何者かの ”悪意” に気づいた彼女は、
事件の発生を未然に防ぐことに成功したが・・・

「少女のために」
シングルマザーの新町美也子は、小学5年生の娘を使った
児童ポルノをネットで売りさばいていた。
家宅捜索に現れた女性警察官の何気ない発言にキレた美也子は
暴れ出してしまうのだが・・・

「パレードの明暗」
東京流通大学の学園祭の目玉であるコスプレ・パレード。
しかし一部の学生の反感を買い、妨害するとの予告がされていた。
パレード開始後、コース上に異物があるのを発見した二人の学生が
その処理に向かうが、二人の取ったそれぞれ異なる方法が賛否を呼ぶ。

「アトリエのある家」
岩下雅昭はプロ級の絵画の腕前を持っていたが、専業画家にはならず
一介の公務員として働きながら趣味として描いていた。
彼の描いた絵を欲しがる者は多かったが、決して売ることは無かった。
しかし、熱狂的なファンとなった神岡佐和子は、
彼の家のアトリエに侵入するが発見され、岩下を刺してしまう・・・

「お見合い大作戦」
警察官である野尻和雄は、まだ結婚する気はなかったが
上司から持ち込まれた縁談を断れず、お見合いをすることに。
相手の大草彩里花(おおくさ・あやか)は中学校の国語教師だった。
何とか相手から断らせようと警官の大変さ、危険さを並べ立てるのだが
ことごとく彩里花から切り返されてしまう・・・

「キルト地のバッグ」
東南アジア某国の閣僚が訪日し、同国人が多数居住する地区の公民館を
訪問することになった。しかし某国は政情が不安定で、
閣僚がテロに遭う可能性もあった。
公民館前で警備する機動隊員は、幼稚園バスを迎えに来た外国人の母親が
キルト地のバッグを路上に置いていったことに気づく。
その中には爆発物が入っていた・・・

「F1に乗ったレミング」
突然の豪雨で、幹線道路のアンダーパスが水没してしまう。
巡回に来ていた女性警察官は、その場で迂回路への誘導を始めるが
そこへ飛び込んできたのがパトカーに追われる宝石強盗犯だった。
強盗犯の乗った車は水に突っ込んでしまう。女性警察官は直ちに
救助活動を始めて、犯人も捕らえることに成功する。
しかし上司や同僚たちからは、彼女の行動を非難する声が上がる・・・

何気ない描写や、関係者が漏らしたひと言から、論理を組み上げて
事件の様相を一変させてしまう。

非難された行動が実は極めて合理的なものであったり、
何気なく発したと思われる言葉に二重三重の深い意味があったり、
杜撰に見える行動の裏に緻密な計算があったり。
一編あたり文庫で30ページほどの短さながら、
毎回鮮やかな逆転を見せてくれる。

このシリーズは ”サザエさん時空” ではなく、
作中でしっかり時間が経っている。
『月の扉』で座間味くんの恋人として登場した女性とは
その後結婚し、今作ではお子さんが中学受験をするまでになっている。
座間味くん自身も、体型が若干横に広がってきたようで(笑)。

次回の登場時には、どんな状況になってるのでしょう。
反抗期の子どもに悩むお父さんになってたりして(おいおい)。


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みんなの怪盗ルパン [読書・ミステリ]

みんなの怪盗ルパン (ポプラ文庫)

みんなの怪盗ルパン (ポプラ文庫)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2018/04/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★

ポプラ社が展開している「少年探偵団」トリビュート・シリーズに続く、
「怪盗アルセーヌ・ルパン」オマージュ小説アンソロジー。

「最初の角逐」小林泰三
『最後の事件』でホームズとモリアーティ教授が消えた後。
その日 ”私” はロンドンで青年貴族が殺された現場で、
挙動不審な一人の老人と出くわす。
その老人は自らを「ホームズ」だと名乗る。
『最後の事件』を盾に、それを否定する ”私” だが・・・
ラストを除き、ほぼ全編が二人の会話。
ルパンとモリアーティという二人の大犯罪者が
それぞれヨーロッパに勢力を伸ばしていた、という設定は面白い。

「青い猫目石」近藤史恵
貧乏画家ディディエは、パリで初恋の女性シモーヌと再会した。
彼女は資産家の伯母・ヴィルヌーブ夫人と一緒に暮らしていた。
夫人の屋敷と庭園を描く仕事を引き受けたディディエだったが
ルパンから夫人へ、青い猫目石を頂戴するとの予告状が届く。
屋敷に出入りする人間の中に、
ルパンの手下がいるのではないかと思われたが・・・
パンチが効いたオチに驚かされる。女性は怖い(笑)。

「ありし日の少年ルパン」藤野恵美
ラウール少年は6歳にして完全犯罪を成し遂げた。
手に入れた首飾りをバラして切り売りし、母と自分の生活費にしていたが
ある日、その首飾りをスリに盗まれてしまう。
犯人は、ラウールと同じく幼い少女ノエル。
彼女はギヨーム親方から盗みを強制されていた。
ノエルの境遇を知ったラウールは、彼女を救い出すべく一計を案じるが。
女性に優しいところは、さすが怪盗 ”紳士” の卵。
成長したノエルがルパンと再会するエピソードも読んでみたいな。

「ルパンの正義」真山仁
1894年、20歳になったルパンは陸軍大尉ドレフェスと知り合う。
折しもパリではユダヤ人排斥運動が高まっていて、
ユダヤ系であったドレフェスにスパイ容疑がかけられてしまう。
彼の無罪を信じるルパンは、真犯人を突き止めるべく奔走するが・・・
wikiを見ていたら、ルパンは1874年生まれって設定なんですね。
そしてもっと驚いたことに、この作品に登場するドレフェス大尉は
実在の人物で、1894年にスパイ容疑で逮捕されてる。
彼の容疑を巡って、フランス世論が二分されるような
大騒ぎになったことも載っててびっくりしました。

「仏蘭西紳士」湊かなえ
神戸に住む15歳の少女・橘美千代は英語とフランス語に堪能で
ルパンやホームズを原書で読むほどの才女だった。
彼女はある日、港でフランスから来た紳士・レニーヌ公爵と知り合う。
目下の彼女の悩みは7歳上の姉・小百合の結婚問題。
会社経営をしていた姉妹の父・橘氏が殺され、犯人として
小百合の恋人・慎之介が逮捕されたのだ。
彼は橘氏が会社の後継者として目をかけてきた青年だった。
代わって小百合への求婚者として登場してきたのが
会社の専務で橘氏の従兄弟である建造だった。
そんな姉妹の窮地を知ったレニーヌ伯爵は、
事件解決に乗り出してくるが・・・
善良な者を助ける ”義賊” としてのルパンの魅力満開。


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二千回の殺人 [読書・冒険/サスペンス]

二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/10/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公は、さいたま市大宮区にある喫茶店「ペーパー・ムーン」で
アルバイト店員をしている篠崎百代。

間もなく、高校の同級生だった須佐達樹(たつき)と結婚し、
二人で故郷に帰って達樹の実家である食堂を継ぐはずだった。
しかしそんなささやかな幸せは突然、断ち切られてしまう。

東京の西部地域を襲ったゲリラ豪雨に巻き込まれ、
達樹が事故死してしまったのだ。

最愛の恋人を失った百代は復讐の鬼と化す。
ターゲットは汐留にある大型ショッピングモール「アルバ汐留」。
そこでの無差別殺人を決意したのだ。
目標は2000人の命を奪うこと。

 なぜ「ゲリラ豪雨」から「無差別殺人」につながるのか?
 なぜ「汐留」なのか? そしてなぜ「2000人」なのか?
 読者はまず、この3つの事項に強烈な疑問を抱くだろう。
 そしてこれが物語を先へと読み進めさせる大きな原動力となる。

そんな彼女の前に5人の協力者が現れる。
みな「ペーパー・ムーン」の常連客だ。

民間企業で生化学の研究員として働く藤間護(ふじま・まもる)は、
皮膚にごく少量触れただけで死に至るという最強最悪のカビ毒、
トリコセテン・マイコトキシンの存在を百代に教え、
採取から培養、そして精製までを指南する。

医学生の三枝慎司(さえぐさ・しんじ)は、その知識を動員して
そのカビ毒を使った最も効果的な殺害方法を考案する、

大学の講師である池田祐也(ゆうや)、
民間のシンクタンク勤務の木下隆昌(たかまさ)は、
経営学やマーケティングの手法と行動心理学を応用して
訓練されていない一人の人間が、効率的に多数を殺傷できる計画を立案。

「アルバ汐留」内に店舗を持つ実業家の辻野冬美は、
職員専用通路や警備システムなど、スタッフのみがが知り得る
モール内の知識を百代に与える。

いつしか彼らは自らを ”五人委員会” と呼ぶようになる。

彼らは百代への同情のみで協力しているわけではない。
彼女への思慕の情を持つ者、純粋に学術的な興味を示す者など
理由は皆それぞれ。中には ”ある野心” を胸に秘めた者も。

あらゆる準備を終えた百代は、ついに決行の日を迎える。
”五人委員会” は百代を送り出した後、
「ペーパー・ムーン」で百代の行動を見守ることになっていたが、
約束の時間になっても木下だけが姿を見せない。

4人のメンバーが木下のアパートを訪れたところ、
首を切られた彼の死体を発見する。

 木下はなぜ、そして誰に殺されたのか?
 これが4つめの謎だ。

非常事態が起こったことにより、4人は百代に対して
計画の中止を連絡しようとするが、電話もメールも通じない。

4人は百代を止めるべく急遽汐留へ向かうが
時既に遅く、百代は行動を開始していた・・・

本書は文庫で670ページほどもある大長編だが、そのほとんどは
冷酷非情な殺人機械と化した百代の、大量殺戮シーンが延々と続く。

百代の行動を追うパートの合間に、「間章」として
準備を積み重ねる百代と ”五人委員会” のパートが
断片的に挿入されている。
上記の3つの疑問の答えも、この中で明かされていく。

もっとも、どんな理由を並べられても、
実際に殺される人々からすれば到底納得できるものではない。
ここで語られるのは、あくまで百代自身が、
自分の気持ちに ”落とし前” をつけるための ”理屈” である。
彼女はこの ”理屈” にすがることで、辛うじて生きているのだから。

 殺される側や読者からしたら ”屁理屈” なのだろうが。

さて、いくら何でも一人の女性が2000人もの人間を殺せるのか?
という疑問も湧くだろう。それに対して、”五人委員会” は
実に緻密な計画を立てていたことが明らかになっていく。

どこを開始ポイントにするのが一番効果的か。
それに対して、周囲の客たちはどう反応するのか。
騒ぎが始まったら警備員たちはどう対応するか。
そして逃げ出す客たちをどこへ誘導するのか。

そんなことは、”五人委員会” ではとっくに検討済みで
百代の行動も、それを織り込んだものになっている。

やがて事態の深刻さを知った客たちがパニックに陥る。
通報を受けた警察が到着してくる。
そして警官たちが百代の ”鎮圧” に出てくる。

しかし、何度もシミュレーションを重ね、それに対抗する
”訓練” を積んだ百代は常に先手を取り続け、
警備員そして警察は翻弄されるばかり。

百代を捕らえるために起こす行動は全て、
”五人委員会” にとっては ”想定の範囲内” なのだから
易々とそれらを打ち破ってしまう彼女を止めるものは存在しない。

特に日本の警官の ”心理的弱点” を突いた行動は
「悔しいがそのとおり」なものばかり。

行動開始直前に仕込んでおいた ”罠” も発動し、
順調に ”数を稼いで” いく百代。

”五人委員会” の大下を除く4人は「アルバ汐留」に到着するが、
彼らもまた百代の引き起こす惨劇に否応なく巻き込まれていく・・・

読んでいたとき、頭に浮かんだのは
「とにかくすごい小説だ」ということ。
大量殺人を描いた作品はあっても、
一人が2000人を殺す話はそうそうないだろう。
それも、爆弾か何かで一度にどかんと殺すのではなく、
百代はあくまで一度に一人ずつ、殺していくのだ。
(だからタイトルが「二千回の殺人」になってる)

どういう風にこの物語が決着するのか、
そして ”五人委員会” はどんな運命を辿るのか。
最後までページをめくる手が止まらない。

テロリストと鎮圧部隊の戦いを描いた物語は数多存在するが
本書はその中でも突出してユニークな作品だと思う。


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血蝙蝠 [読書・ミステリ]

血蝙蝠 (角川文庫)

血蝙蝠 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: 文庫
評価:★★

昭和13年から16年にかけて発表されたが、
単行本に収録されなかったものを主として集めた短編集とのことだ。

「花火から出た話」
高名な学者・新城哲太郎が亡くなり、彼の銅像が建立される。
その除幕式の場に出くわした元船員の風間は、
打ち上がった花火から飛び出した花束を拾い上げる。
その中には猫目石の指輪が入っていた。その日から風間は、
新城家の令嬢・珠実を巡る3人の求婚者たちの確執に巻き込まれる。
ラストで明かされる風間の意外な正体、そして珠実嬢の情熱。
十分に長編のネタになりそうな、密度の高い話。

「物言わぬ鸚鵡(おうむ)の話」
”私” の妹・マヤは、幼児に罹った熱病がもとでうまく口がきけない。
そんな彼女へ、友人のSが一羽の鸚鵡を贈ってくれたのだが、
なぜかその鸚鵡も喋ることができない。
調べてみると、鸚鵡の舌が切り取られていることが分かった。
”私” は、鸚鵡の前の飼い主を捜し当てるのだが・・・

「マスコット奇譚」
売れない女優だった青野早苗は、”幸運の護符(マスコット)” として
卵形の縞瑪瑙を持っている。これを手に入れてから
わずか1年あまりで新進スターへとなってしまったのだ。
その ”幸運の護符” には、ひとつの秘密があった・・・

「銀色の舞踏靴」
東都映画劇場で映画を見ていた三津木俊助のもとへ、
劇場の二階席から銀色の舞踏靴が降ってきた。
靴の持ち主と覚しき女性を追う俊助だが、うまく撒かれてしまう。
しかしその頃、東都映画劇場で女性ダンサーの死体が見つかる。
その遺体は銀色の舞踏靴を履いていた・・・
由利先生&三津木コンビの登場作。某名作と同じトリックの応用形。

「恋慕猿」
カフェ・ユーカリの常連客・川口は、”直実(なおざね)” という名の
猿を連れて来店するのが常だった。
最近、川口はカフェで珠子という女としばしば会うようになり、
その間 ”直実” は瞳という女給が世話をしていた。
瞳は川口に好意を抱いていたが、彼女を好いてくれたのは猿の方(笑)。
ある夜、カフェで泊まり番をしていた瞳の元へ、
血だらけになった ”直実” が一枚の羽子板を持って現れる。
その羽子板は、珠子の家にあったものだった・・・
川口にかかった殺人容疑を晴らす、瞳さんの名探偵ぶりが読みどころ。

「血蝙蝠」
友人と共に鎌倉の ”幽霊屋敷” へ肝試しに出かけた甲野通代(みちよ)は、
そこで映画女優・葛城倭文子(しずこ)の死体を発見する。
それ以来、通代は不審な人物の付き纏いに悩むようになる。
彼女は偶然、中央線の車内で出合った三津木俊助に助けを求めるが・・・
由利先生&三津木コンビの登場作。犯人の見当はすぐにつくけどね。

「X夫人の肖像」
劇団員のお澄(すみ)は、英文学者・児玉晋作と結婚した。
親子以上に年齢差があったが、夫婦仲は良好に見えていた。
しかしそのお澄が、殿村という若い男と一緒に逃げてしまう。
そして5年後、上野で開かれた美術展で1枚の絵が評判になる。
「X夫人の肖像」という題で描かれていた女性は、お澄に瓜二つ。
小説家・児玉隆吉とその妻の妙子は、絵の作者に会いに行くことに。
隆吉は晋作の甥、妙子はお澄と同じ劇団の出身で彼女とは親友だった。
しかし二人が美術館に着いたとき、問題の絵は既に
何者かに盗まれた後だった・・・
最後に明かされる、女の情念と悲哀は限りない。
連城三紀彦が書いたと言われたら、信じてしまう人はいそう。

「八百八十番目の護謨(ゴム)の木」
大谷慎介は恋人の三穂子を残し、実業家・緒方と共にマレーへ渡る。
3年後に迎えに来るという約束をして。
そしてその3年が過ぎ、慎介と緒方は帰ってきた。
しかし二人が共同事業者である日疋(ひびき)龍三郎の邸宅へ着いた夜、
緒方が何者かに殺されてしまう。
現場には血で書いた ”O谷” の文字が残され、慎介もまた行方不明に。
彼の無実を信じる三穂子は、手がかりを求めて
日疋とともにマレーのゴム園へと向かうが・・・
南方の地を舞台にした冒険ミステリなんだけど、ラスト2ページで
国策映画みたいな展開に。まあ、発表されたのが昭和16年3月じゃあ、
こう書かざると得なかったのだろうなぁ。

「二千六百万年後」
”私” は40歳を迎えた小説家。
眠り続ければ未来にいけるという文章を読んでその気になり、
熟睡したら2600万年後の世界へ行ってしまった(おいおい)という話。
そこは卵生生物に改造された人間たちの世界で、
そんな未来になっても人間たちの間の戦争は無くなっていない。
最後は「戦争遂行のために頑張れ」というメッセージで締めくくられる。
こちらも発表が昭和16年5月とのこと。
こういう作品しか書くことが許させず、
こういう作品ばかりが載った雑誌が発行されていたなんて
想像を絶する時代だったんだなあ。


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みんなの少年探偵団2 [読書・ミステリ]

みんなの少年探偵団2 (ポプラ文庫)

みんなの少年探偵団2 (ポプラ文庫)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2018/04/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★

往年の「少年探偵団」シリーズの雰囲気そのままの装丁で
明智小五郎と怪人二十面相を蘇らせる短篇アンソロジーの第2弾。
執筆陣は現代で活躍する作家さん5人。

「未来人F」有栖川有栖                                
二十面相逮捕に成功した明智小五郎は、
アメリカFBIからの協力要請に応えて日本を旅立った。
しかしその3日後、二十面相は脱獄してしまう。
そしてその直後、ラジオ局に ”未来人F” と名乗る男から電話が入る。
時空移動機で20世紀へやってきたと称し、さまざまな ”予言” をする。
最後に、東京都立博物所蔵の国宝を消してみせる、と宣言するが・・・
いかにも二十面相的な展開なんだけど
ラストはちょっとメタフィクション的。

「五十年後の物語」歌野晶午
同級生だった岡田が61歳で亡くなった。告別式が終わって
”私” を含めた5人の男女が当時のことを語り合ううちに、
50年前に起こった ”誘拐事件” を思い出す・・・
うーん、見事に騙されましたねぇ。タイトルからして伏線。

「闇からの予告状」大崎梢
主人公・小雪は現代に生きる中学2年生。
彼女の祖母のもとに ”怪人二十面相” からの予告状が届く。
犯罪研究家だった祖父が譲り受けたという、
ロマノフ王家の冠を奪いに来るという。
二十面相と言えば70年以上前に世間を騒がせた怪盗だった。
今でも生きているのなら、ゆうに100歳を超えているだろう。
やがて、犯行予告された日がやってくるが・・・
往年のファンなら、小雪さんの素性は見当がつくだろう。
ここまで来ると、もう明智小五郎も二十面相も
”歴史上の人物” 扱いだね・・・

「うつろう宝石」坂木司
本作に登場する小林くんは、シリーズの時の ”少年” から成長し、
”青年” へとなりつつある時期を迎えている。つまり
“サザエさん時空” だったシリーズの時代から数年後を描いている。
明智小五郎や怪人二十面相も、時の流れを経て
すこしずつその有り様を変え、そんな時期に起こった
大粒ルビー『紅の涙』がついた首飾りの盗難事件を描いている。
盲目的に明智の後を追いかけていた時期を過ぎ、
”日本一の名探偵” に対していくつかの葛藤を覚えるようになった
小林 ”青年” が、ラストで二十面相と言葉を交わす。
シリーズの数十年後を描いた作品はあっても、
数年後を描いた作品は初めて読んだような気がする。
まさに「その発想はなかった」。

「溶解人間」平山夢明
その夜、街を巡回していた小林少年は、
女性の叫び声が聞こえてきた屋敷に飛び込んだ。
そこにいたのは一組の男女、そして全身が溶けた蝋のようになり
髪も皮膚も膿み崩れ、ほとんど髑髏のような顔になった人間。
その両手には、既に溶かされてしまったと覚しき人間の骨を抱えていた。
怪物が去ったあと、小林少年は男女に警察への通報を勧めるが拒否される。
男は化学工業会社の研究員・黒丸英吾、女はその婚約者の小野寺聰子、
そして溶かされてしまったのは黒丸の同僚・清水敬司。
黒丸たちは、政府の意向で極秘の研究をしているのだというが・・・
作者らしいホラーな作品。全体の雰囲気は
『少年探偵団』と『怪奇大作戦』を併せたような感じ。
円谷プロが少年探偵団シリーズを製作したら、こんな風かと思わせる。
個人的には面白いけど、これをそのまま映像化したら
子どもには刺激が強すぎるかな。R-15くらいに指定されそう(笑)。


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福家警部補の追及 [読書・ミステリ]


福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア:  文庫
評価:★★★☆

地味なスーツにぱっつん前髪。小柄で童顔、メガネっ娘。
就活中の女子大生とも見まごう姿ながら、実は警視庁の凄腕刑事。
それが本書の主人公、福家(ふくいえ)警部補。

犯人の残した些細な手がかり、わずかなミスを見逃さず
それを積み重ねて着実に真相に迫っていく。
まさに「和製コロンボ」ともいうべきシリーズの4巻目。

今回は文庫で160ページほどの中編を2作収録している。

「未完の頂上(ピーク)」
登山家として名を上げた狩義之(かり・よしゆき)は
その後、登山用具販売やスポーツジム経営へも手を伸ばしてきたが
近年、事業の不振に苦しんでいた。
一方、狩の息子・秋人(あきひと)も登山家となり、
父のなしえなかった未踏峰チャムガランガ登頂のため、準備を進めていた。
大手不動産チェーンを経営する中津川は秋人の後援者だったが
義之に対し、秋人の登山計画のスポンサーから降りると通告してきた。
息子の夢のため、中津川を殺害した義之は
彼の遺体を奥多摩山系にある倉雲岳の山中に遺棄し、
登山中の事故に見せかけるべく偽装を施すのだが・・・

「幸福(しあわせ)の代償」
佐々千尋(ちひろ)と健成(たけなり)は、
両親の再婚によって義理の姉弟となったが、仲は険悪であった。
5年前に両親が交通事故死し、遺産相続で揉めた結果
千尋が経営するペットショップが建つ土地は義弟の名義となり、
彼女が家賃を払うことで合意する。
健成は劣悪な環境で犬を繁殖させる悪徳ブリーダーで、事業拡張のために
千尋のペットショップの建つ土地を売り払うことを決めた。
彼女は自分の店を守り、さらには虐待されていた犬たちを救うために
健成を殺害し、さらにその罪を彼の愛人・片岡二三子(ふみこ)に
なすりつけるために、彼女をも自殺を装って殺害してしまう・・・

ささいな矛盾点から犯人の作為を暴き、真相に迫っていく福家。
それを突きつけられて必死の防戦に回る犯人。
時には ”攻勢” に転じようとするのだが、
それこそ福家の思うつぼだったりする。

「刑事コロンボ」の ”伝統” を受け継ぐ、
名探偵vs名犯人の攻防が本書のキモであり読みどころ。

毎回思うのだが、福家という人は多才。犯人は毎回、
各界の専門家だったり高度な才能を有する人だったりするのだが
福家も彼ら彼女らに負けないくらい、その業界の蘊蓄を披露してみせる。

「未完の-」では、遺体の発見現場は崖の途中なのだが
福家は見事なロープワークで、すいすいと崖を降っていってみせて
ベテランの山岳会員を驚かせる。

さらには、彼女は周囲の人たちを元気にさせる魅力があるようだ。
彼女が事情を聞きに行った関係者たちはみな多かれ少なかれ
(事件とは関係なく)悩みや葛藤を抱えていることが窺われるのだが、
彼女が去り際にかけたひと言ですーっと気持ちが前向きになってしまう、
というシーンが再三描かれる。

事件の解決とは直接関係はないのだけど、
こういう描写の積み重ねが彼女の好感度をアップさせている。

もっとも、彼女も完璧超人ではないみたいで、
「幸福のー」では図らずも「犬が苦手」という弱点をさらけ出す。
動物絡みの事件なら「警視庁いきもの係」の薄圭子巡査の領分なのだが
あいにく彼女は今回 ”研修中” らしく、姿を見せない。
代わって薄巡査の相棒である須藤警部補が登場し、福家に協力する。
他の作品のレギュラーキャラが、シリーズの枠を越えて
ゲスト出演するのもこの作者の楽しさだ。

犯人は冷酷な殺人者なのだけど、その動機の根底には
肉親や動物たちへの限りない愛情がある。
その愛情ゆえに犯罪者となり、その愛情ゆえに福家に敗れ去る。

私が知る限り、現在最高の倒叙推理のシリーズだと思う。


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闇の虹水晶 [読書・ファンタジー]

闇の虹水晶 (創元推理文庫)

闇の虹水晶 (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/03/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・ナイトゥルは、アルビルの地に暮らすアルビル族の一人。
人の感情から石を創り出すという、類い希な能力を持つ創石師だった。

しかし17歳となり、婚礼の日を迎えたナイトゥルは、
祝宴に招かれなかった〈塩の魔女〉から ”呪い” を受けてしまう。

「その力、使えば使うほどお前は滅びに近づく。
 使えばお前が滅び、使わねば世界が滅びるだろう」

その夜、アルビル族は山岳民・下タフ族の襲撃を受け
許嫁も血族も含め、ことごとく皆殺しとなってしまう。

それまで九つの部族が小競り合いをくり返してきたアルビルの地を
突如勃興してきた下タフ族は瞬く間に統一、
族長のオーシィンはアルビル王国を建てた。

ナイトゥルは創石師としての能力故にただ一人助命され、
オーシィンの母・キオナに仕えて生きながらえることになった。

そして5年。
生きる気力も、憎しみすらも失ったナイトゥルは
キオナに命じられるままに働く日々を送っていた。

そんなある日、仕事の帰りに怪我人に出くわしたナイトゥルは、
その傷口から黒い水晶のかけらを見つけ出す。

その日からナイトゥルは、しばしば
不思議な幻覚の世界へ導かれるようになる。

有翼の獅子が舞い、それを眺める一人の少年と、彼を取り巻く人々。

やがてナイトゥルはこれは幻覚ではなく、
現在東方の地で破竹の勢いで領土を拡張している
サンジャル国の王室の光景であることを知る。

サンジャルはアルビル王国の東と北を手中に収め、
その軍勢はついにアルビル国内へと侵入してきた。
オーシィンは必死の防戦に努めるのだが・・・

前半ではオーシィンの命ずるままに各地に ”お使い” に出され、
後半ではアルビルとサンジャルの戦いに巻き込まれるナイトゥル。

状況に流されるだけで生きてきたナイトゥルだが、
様々な人との出会い、そして体験が
絶望に染まっていた彼の心をを少しずつ変えていく。

その最も大きな要素は、キオナの侍女で
ナイトゥルの世話係ともいうべきドリュティオナ(ドリュー)。
アルビル族と同様に、下タフ族に征服された荒れ地の民の娘だが
ナイトゥルの ”お使い” には常に同行し、彼の傍らにあって
生気溌剌さを失わずと、どんな窮地にも動ぜずに彼を支え続ける。
いつしかナイトゥルも彼女の存在を
かけがえのないものと思うようになっていく。

ラスト10ページにおけるナイトゥルの言動は、
序盤の彼とは別人かと思うくらい堂々としたものだが、
それもドリューの存在あればこそ。
彼女の魅力も本書の読みどころのひとつだ。

ナイトゥルが幻視するサンジャルの光景も、単なる遠隔透視ではなく
そこにはもうひとつひねりがあって、ちょっとミステリ的な要素もある。

サンジャルの猛攻に滅亡寸前となるアルビル、
必ずしも一枚岩ではないサンジャルの内情、
そしてナイトゥル自身が抱えた ”呪い” の決着。
終盤ではこれらがひとつにつながって見事な大団円を見せる。

いやあ、ファンタジーってやっぱり面白いよねぇ。


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