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天空の救命室 航空自衛隊航空機動衛生隊 [読書・冒険/サスペンス]

天空の救命室: 航空自衛隊航空機動衛生隊 (徳間文庫)

天空の救命室: 航空自衛隊航空機動衛生隊 (徳間文庫)

  • 作者: 和代, 福田
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/02/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★

航空機動衛生隊は、阪神淡路大震災をきっかけに設立された。
当時の緊急搬送の遅れを教訓に、日本中どこでも
有事において2時間以内の重症患者搬送を可能とする。

愛知県の小牧基地を拠点とし、隊長・弓削(ゆげ)四郎一等空佐のもと
医官、救急救命士、看護師、管理要員などからなる20名ほどの部隊だ。

主人公・内村彰吾一等空尉は、防衛医大を卒業後、
若き医官としてチームを率いて日々任務をこなしている。

彼らを現地まで運ぶのは航空自衛隊の輸送機C-130H。
その機長を務める鰐淵啓(はじめ)三等空佐は、
なぜか彰吾とはソリが合わず、一向に打ち解けることができない。

この2人をメインに、機動衛生隊を巡るエピソードが綴られていく。

「ミッション1 高度一万メートルの変心」
北海道千歳市に住む砂川理生(としお)は28歳。
2年間にわたって腎臓と膵臓の同時移植を待機してきたが、
岡山で臓器提供者が見つかり、機動衛生隊が理生の搬送に当たることに。
しかし新千歳から岡山までの航路の半ばほどに差し掛かったとき、
理生が突然、移植の拒否を表明する。彰吾は懸命に説得を試みるが・・・

「ミッション2 ペガサスとアスクレピオスの杖」
機動衛生隊に所属する医療職員は、週に1~2度、
小牧市民病院で医療活動に従事する。現場の経験を積むためだ。
彰吾もまた救急センターの当直医として勤務していたが
ある日、病院内で鰐淵の姿を見かける・・・

「ミッション3 心の距離」
交通事故に遭い、脳挫傷を起こした少年・田辺大地を
青森空港から兵庫県の伊丹空港まで搬送するミッションが行われるが
伊丹到着まで50分のところで、同乗していた父親が
脳溢血を起こして倒れてしまう。
途中で降りるか、伊丹まで向かうか。彰吾は決断を迫られるが・・・

「ミッション4 救える生命と」
彰吾の妹・優衣が小牧にやってくる。
彼女の ”人生の決断” に驚かされる彰吾。
一方、小牧市内でバス事故が起こり、多くの負傷者が
彰吾の勤務する救急センターに運び込まれてくる。
その中には鰐淵の母親・逸美(いつみ)の姿もあった・・・

「ミッション5 天翔ける救命室」
タイ王国で防衛産業の総合展示会が開催された。
機動衛生隊が使用している医療ユニットの展示のため、
彰吾たちもタイまで足を運び、さまざまなイベントをこなす。
しかし帰国予定の前日に、彰吾は何者かに拉致されてしまう。
彼は何処とも知れぬ部屋で、謎の老人の治療を強いられるが・・・

「天空の救命室」と銘打ってあるけれど
実際に患者搬送を巡るエピソードは
「ミッション1」と「ミッション3」のみで、それ以外は
機動衛生隊の日常業務や職員たちの事情を描いた ”お仕事小説”。


特に ”空の上” での、医官としての彰吾の責務と
パイロットである鰐淵の矜持がぶつかり合うエピソードはいい。
どちらの主張も ”正論” であり、緊張感に溢れている。


後半に入って彰吾の妹・優衣を巡る ”トラブル” に
鰐淵が関わっていくのは、ちょっと都合がよすぎるようにも思うが
エンタメの展開としては正解だと思う。


その他の衛生隊のメンバーたちもキャラが立っていて楽しく読める。
中でも、衛生隊に所属するもう一人の医官・桜井二等空佐の台詞は
いぶし銀の輝き。さすがベテラン、って思わせる。


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日本SF傑作選4 平井和正 [読書・SF]


日本SF傑作選4 平井和正 虎は目覚める/サイボーグ・ブルース (ハヤカワ文庫JA)

日本SF傑作選4 平井和正 虎は目覚める/サイボーグ・ブルース (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/02/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

日本の第一世代SF作家の、主に初期作を集めたシリーズ、
第4弾は「平井和正」の登場だ。

「筒井康隆」「小松左京」「眉村卓」と刊行されてきて
この後も「光瀬龍」「半村良」と続き、計6人の作家を紹介する流れ。

平井和正と言えば、「幻魔大戦シリーズの人」というのが
一般的な認識ではないかと思う。
「幻魔大戦」が文庫で20巻、「真幻魔大戦」が新書版で15巻、
それ以降も多くの作品を出し続けていた
1980年代の怒濤のような執筆ペースは今でも思い出す。

私個人からみると、たぶん一番最初に目にしたのは
石ノ森章太郎との合作だったマンガ版「幻魔大戦」。
その原作者として平井和正という人を知ったと思う。

「エイトマン」をはじめとした多くのSFマンガの原作者であり、
TV放映されたアニメ版「エイトマン」にも
シナリオで参加していたというのはかなり後になってから知った。


さて、私は高校から大学にかけては主にSFを読んでいて、
当時ハヤカワ文庫で出ていた日本の作品はだいたい読んでいた。
だから上記の筒井康隆・小松左京・眉村卓・光瀬龍・半村良は
初期の作品は大方読んでいたと思う。
しかしその中で平井和正だけは例外で、読んだのは短篇が数えるほど。

実は当時、弟が大の平井ファンで、ほとんどの作品を買い集めていたのだ。
だから家の本棚の一角には平井和正の著作がずらっと並んでいた。
「その気になればいつでも読める」なんて思っていたのか
私自身は、その他の作家の本を一所懸命に読んでいた。

 その頃になると田中光二とか山田正紀とか
 「第二世代」と呼ばれる作家が続々とデビューしてきて、
 読む本に事欠かなくなってきていたのだ。

「幻魔大戦」で大ブームになっていたのも知っていたが、
「完結したら読めばいいや」なんて思っていた。

しかし80年代の後半になって、ブームも落ち着き始めたところで
私は綾辻行人の「十角館の殺人」に出合ってしまう。

この作品で一気にミステリ熱がぶり返し、
それ以降は新本格にのめり込んでしまった。
読書に占めるSFの割合も激減し、結果として
平井和正を読む機会を逸してしまった。

そして、そうこうしているうちに結婚が決まり、
実家を出ることになってしまった。
ここでまた平井和正を読む機会を逸してしまった。

そして極めつけは実家を出て10数年経ったとき。
弟が病気で急逝してしまったのだ。
実家に行って探せば(母はまだ弟の部屋をそのまま残してる)
平井和正の本が山のように見つかるはずなのだが・・・
亡くなった者の部屋を漁るのもねぇ・・・

うーん。
平井和正のことを書くはずが弟の思い出話になってしまった。


本書のことに戻ろう。

第一部には、1962年発表のデビュー作を皮切りに
主に60年代に発表された短篇を収録している。

 何せ70年代に入ると、「幻魔大戦」をはじめ
 作品がみんな大長編シリーズばかりになってしまって、
 短篇はとんど書いてないそうだ。

収録作は
「レオノーラ」「死を蒔く女」「虎は目覚める」「背後の虎」
「次元モンタージュ」「虎は暗闇より」「エスパーお蘭」「悪徳学園」
「星新一の内的宇宙」「転生」

デビューの頃から ”超能力” を扱ったものが多く、
人間の暴力的衝動をテーマにしたものがほとんど。
「三つ子の魂百まで」とか「処女作にはその作家の全てがある」とか
よく言われるが、平井和正はその点、とってもわかりやすい(笑)。
いわゆる思弁的な作品や実験的な作品といった本格SFというよりは、
エンターテインメントとしてのSFに徹した作品ばかりだ。

「悪徳学園」は、これも大長編シリーズになった
《ウルフガイ》の原型になった作品。

「星新一のー」は当時のSF作家たちのバカ騒ぎを描いたユーモアSF。
小松左京ってこの頃からぶっ飛んでたんだねぇ。

「転生」は、何かのアンソロジーで読んだ記憶がある。
平井和正には珍しく(笑)、地球人と異星人の純愛を描いたSF。


第二部は長編(実質は連作短編集)である「サイボーグ・ブルース」を
一挙収録。なにせ文庫で800ページもあるからこんな芸当ができる。

「サイボーグ・ブルース」
 「ブラック・モンスター」「サイボーグ・ブルース」「暗闇への間奏曲」
 「ダーク・パワー」「シンジケート・マン」「ゴースト・イメージ」

仲間に裏切られ、肉体のほとんどを失った黒人警官が
サイボーグとなって蘇り、復讐を遂げる話。
「エイトマン」の原型というよりは、もろ「ロボコップ」という感じ。
こちらの小説発表は71年。あちらの映画公開は87年。
ハリウッドは平井和正に原作料を払うべきだと思うよ(笑)。

 wikiによると、「ロボコップ」の監督(ポール・バーホーベン)から
 バンダイに対して、『宇宙刑事ギャバン』からのデザイン引用の
 許諾を求める手紙がきて、デザイナーの村上克司氏が快諾を与えたとか。
 『ギャバン』は認めて『エイトマン』は認めないのか、
 それとも単に『エイトマン』の存在を知らないだけなのか。


巻末にはボーナストラックとしてマンガ版「デスハンター」の
「エピローグ」が小説形式で収録されている。

私が覚えているマンガ版のラストと若干違う気もするが、
まあ大筋は同じだからいいか(笑)。

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現代詩人探偵 [読書・ミステリ]


現代詩人探偵 (創元推理文庫)

現代詩人探偵 (創元推理文庫)

  • 作者: 紅玉 いづき
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/04/12
  • メディア: 文庫
評価:★★

SNS上のコミュニティ『現代詩人卵の会』は、
ある地方都市でオフ会を開いた。
当時15歳だった ”僕” を含めた9名の参加者は、これからも
詩の創作を続け、10年後に再会することを約束して散会した。

そして10年。25歳となった ”僕” は
大学を卒業後も定職に就かず、フリーターとして暮らす日々。

10年前の約束に従い、再会の場に向かうが、
そこに集まったのは ”僕” を含めて5人だけ。
4人のメンバーはこの10年の間に自殺を含め、不審な死を遂げていた。

”僕” はかつて、コミュニティ『現代詩人卵の会』で
「探偵」という題名の詩を投稿していた。
そのせいか、集まった他の4人から、
彼らが亡くなった経緯を調べてほしいという依頼をされる。


「第一章」
ハンドルネーム「小木屋(おぎや)」は、農薬による服毒自殺を遂げた。
彼の母親に会った ”僕” は、彼が毒を自らあおるまでの
心の動きを辿ろうとするが・・・

「第二章」
ハンドルネーム「遠野昼夜(とおの・ちゅうや)」は、
鉄道事故で死んでいた。しかしそれは本当に ”事故” だったのか?
”僕” は残された彼の妻に会いに行くが・・・

「第三章」
ハンドルネーム「夏炭(かずみ)」は、生来病弱で、
入院していた病院の非常階段から飛び降り自殺を遂げたという。
”僕” は、彼の恋人だった女性に会いに行くが・・・

「第四章」
ハンドルネーム「明日田(あすた)」は、非常勤講師を務めていた大学の
駐車場で、冬の朝に凍死体で発見された。彼が参加していた、大学の
詩作サークルを訪れた ”僕” は、他殺の可能性に思いを巡らすが・・・


”僕” は、それぞれの死の表面的な事実の底に潜む
さまざまな ”事情” を探り当てる。
中には、『現代詩人卵の会』の他のメンバーとの意外な関わりが
浮かび上がってきたりと、ミステリ的な展開もある。

しかし、それによって残された家族の悔いが払拭されたり、
残された『現代詩人卵の会』のメンバーの悩みが緩和されることもない。

でもまあ、本書を読んでいていちばん分からないのは
「詩を書く人の心情」だろうなぁ。
登場するのは詩作に ”取り憑かれた” 人ばかり。
残念ながら、作者が文章で書いたこと以上に
彼らの心の内を想像することは私にはできない。
そのあたりが、隔靴掻痒というか今ひとつ作品にのめり込めない理由。

個々の ”事件” の解決も、確かな証拠に基づくものではなく
多くは推察/想像の範疇に属するもので
そのあたりもミステリとしてはやや不満かなぁ。

唯一、ラストにおいて ”僕” 本人に関わる、
ある事実の提示が一番ミステリっぽいところか。

全体的に陰鬱な雰囲気が漂っていて、そのへんも苦手です。


昔、私の同僚に大学は文学部で、詩を専攻していたって人がいたけど
彼は本書に登場する多くの詩作者たちとは全く異なるキャラだったなあ。
なぁんてことを思い出しました(笑)。

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鬼の当主にお嫁入り 管狐と村の調停お手伝いします [読書・ファンタジー]


鬼の当主にお嫁入り ~管狐と村の調停お手伝いします~ (二見サラ文庫)

鬼の当主にお嫁入り ~管狐と村の調停お手伝いします~ (二見サラ文庫)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

ヒロインの綾乃は18歳の高校3年生。
物語は彼女が高校の卒業を控えた1月末に始まる。
たった一人の身内である母・清子が交通事故死したのだ。

清子は20年近く前に記憶を失った状態で保護され、
そのとき既に綾乃を身ごもっていた。
そんな状態の清子が安定した職に就くことはできず、
母子は経済的に苦しい状態で生活してきた。

清子の葬儀で貯金をすべて使い切ってしまった綾乃に、
アパートの大家は無情にも立ち退きを迫ってくる。
明日の生活費にも事欠く綾乃は高校を中退、働き始めるが
高卒の資格もない彼女のアルバイトでは高収入は望めない。

 このままでは、”夜の世界” で働く羽目になりそうだなぁ・・・
 って思ったのは私だ(笑)。

進退窮まっていた綾乃のもとに、一通の手紙が届く。
”羽邑冬晟”(はむら・とうせい)と名乗る差出人は、こう綴る。

「私はあなたの許嫁です。ついては、
 私の暮らす村まで来てくれませんか」

どう考えても胡散臭い申し出で、普通なら
無視するような内容なのだが、綾乃はこの申し出に従うことを決める。
自暴自棄とまでは言わないが、かなり精神的に参っていたのだろう。

手紙に従い、東北の地で会った冬晟は、意外にも若かった。
和装に身を包んだ穏やかな若隠居といった風情、年齢は30歳だという。

彼が暮らしているのは、三方を山に、残り一方を谷に囲まれた小さな村。
そこで羽邑家は ”当主” と呼ばれ、村人から一目置かれている。
そして綾乃の母・清子はこの村で育ったのだという。

冬晟自身は、村の内外に先祖から受け継いだ複数の不動産を持ち、
その運用益で悠々自適に暮らしている。
不動産活用セミナーの講師も務め、業界紙に連載を持っているなど
それなりに忙しい日々を送っている。

冷静に考えればものすごい資産家で、立派な玉の輿。
しかしその冬晟本人は、綾乃に対しては
なぜか腰が低く、命令や要求めいたことも一切言わない。
彼女の方から結婚について持ち出しても、言葉を濁して煮え切らない。

綾乃の自由意志を尊重しているようにも見えるが、
許嫁云々は口実で、何か他に目的があるようにも思える。

綾乃は冬晟の本心がつかめないまま、とりあえず
彼の暮らす屋敷の一角に部屋を与えられる。
しかし何もすることがなく、手持ち無沙汰な綾乃は、
冬晟のハウスキーパーとして働き始める。

同時に綾乃は村の人々とも交流を始めるが、
高齢者ばかりの村人からすれば、18歳という若さ、質素な身なり、
擦れたところのない性格、しかも当主の許嫁という立場もあって
行く先々で好意的に迎え入れられることになる。

そんなある日、彼女は羽邑家が ”当主” と呼ばれるわけを知る。
村人たちの間に起こった揉め事に対して、
羽邑家(つまり冬晟)が調停に乗り出すという慣例があったのだ。

「第一話 花の下にて君を想う」では、
桜の木を挟んで住む二人の老人の諍いを、
「第二話 木の葉でつくった婚姻届」では、
村で唯一の旅館を営む夫婦の浮気騒ぎを、それぞれ調停することになる。

綾乃は冬晟を手伝って村人たちと関わっていくが、
その中で、彼女が揉め事の陰に隠れた真実を見抜く ”力” を
持っていることに、冬晟たちは驚かされることになる・・・

そんな中、冬晟の穏やかで優しい人柄に触れていく綾乃は
次第に彼に対して好意を覚えていくようになるが、後半に入ると
村を取り巻く山の奥に住まう隼人という若者が現れ、こう告げる。

羽邑家の先祖が、この村に対して ”呪い” をかけた、と。

「第三話 夢の終わりに」では、
羽邑家に敵対的な立場を取る隼人と、冬晟の対決を通して
そもそもの村の成り立ちを巡る経緯、そこで羽邑家が果たした役割、
村にかけられたという ”呪い” の正体、
さらには綾乃の母・清子の過去が明らかになっていく。


なんといっても、ヒロインの綾乃さんのキャラがいい。
序盤では過酷な運命に翻弄されて、状況に流されるままに行動しているが
冬晟と出会い、村の人々に迎え入れられてからは
水を得た魚のように生き生きと活発なお嬢さんになっていく。

さらには、上にも記したように、もめ事の真実を見抜くだけでなく、
円満に解決する道を見いだす聡明さを示し、”当主の嫁” としても
これ以上の人はいないんじゃないかと思わせる逸材ぶりを発揮する。

冬晟との結婚問題についても、終盤では序盤と打って変わり、
自分が一番幸せになれると思う道を、自らの意思で選び取っていく。
さながら蛹から蝶に変わっていくような、
綾乃さんの成長ぶりが見事に描かれている。

ストーリーは本書で完結しているので続編はないだろうけど、
短編でもいいので後日談が読みたいなあ。
そう思わせるくらい、綾乃さんが気に入りました。

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夏の王国で目覚めない [読書・ミステリ]


夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 美月, 彩坂
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/08/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

3年前に鮮烈なデビューを飾った覆面作家・三島加深(かふか)。
その後の2年間で3作の長編を発表し、熱狂的な読者を獲得したが
1年前に4作目の長編を発表した後は一切の沈黙を守っていた。

主人公は女子高生・天野美咲。
父親の再婚によって新しい母と弟ができたが、
家庭の中に自分の居場所を見いだせずに、
三島加深の小説に没頭する日々を送っている。

ある日美咲は、ネットで「月の裏側」という
三島加深のファンサイトを発見する。
そこの掲示板を通して、美咲は他のファンたちと交流を始める。

そんな中、美咲を含めた7人のファンは、
「月の裏側」管理人の ”ジョーカー” と名乗る人物から
ミステリーツアーへの招待を受ける。

2泊3日の行程で、ツアー中に架空の ”殺人事件” が起こるというもの。
しかも、ツアーに参加するメンバーは事前に送付された設定資料を基に
その事件内でそれぞれの ”キャラクター” を演じるのだという。
要するに2泊3日の間、即興劇を演じ続けるのだ。

”ジョーカー” は語る。
この ”事件” の謎を解いた者には三島加深の未発表作品の原稿を贈る。
加深自身は、この作品を以て小説家を引退する。つまり絶筆となると。

客観的に見れば、胡散臭さたっぷりの誘いなのだが、
家族への反発から美咲はツアーへの参加を決めてしまう。

彼女が集合場所として指定された鉄道の駅へやってくると、
そこには同じツアーに参加する4人の若い男女がいた。
みな「月の裏側」の掲示板に書き込んでいる三島加深ファンだ。

送られてきた資料の通り『女子大生・九条茜』として振る舞う美咲。
他の4人もそれぞれの役を演じ始めてツアーは幕を開ける。

ジョーカーが予約しておいた寝台列車の個室へ乗り込んだ一行だったが、
早々にして参加者の一人が密室の列車内から消え、
入れ替わるように新しいメンバーも登場する。

ついには個室内で毒殺と思われる死体が見つかる。
”架空の事件” のはずが現実の殺人が起こってしまう。
警察の介入を逃れて、ツアーのメンバーは列車から降り、
ひたすら目的地を目指すが、その途中でも
メンバーの一人がビルの屋上から転落死を遂げてしまう・・・。

彼らはお互いに相手の素性も本名も知らず、
”ジョーカー” から与えられた役名を名乗っている。
自分の本名を明かしたり、他人の素性を詮索すると違反行為となって
ゲームプレイヤーとして失格となるのがルール。

しかもツアー中はスマートホン等で
”外部の世界” と連絡を取るのもできない。

参加者には、ひとりずつ通信機が渡され、それを通じて
”ジョーカー” から次の行動の ”指示” が与えられる。
これも、その指示に従わなければ即失格だ。

物語は移動していく一行を追って進行するのだが、
以上のような制約を課されているため、常に閉塞感がつきまとう。


文庫本で480ページ近くもある長さだけど、途中で緩むこともなく
サスペンスたっぷりに描ききっていて、最後まで読ませる。

ページをめくらせる原動力の一つとなるのは、ヒロインの美咲さん。
物語は彼女の視点から語られる。

目の前で次々に起こるショッキングな事態に戸惑い、
参加しているメンバーの中に ”殺人犯” がいる可能性を恐れ、
かといってツアーから途中で ”降りる” こともできず、
誰を信じたらいいのかも分からない・・・

”ジョーカー” が彼女に与える命令がまた、無茶ぶりなんだよねぇ。
いやぁ女子高生にこんな破廉恥なことやらしちゃいかんでしょ。
下手すりゃ「貞操の危機(死語)」だよ(おいおい)・・・

冗談はともかく(笑)、美咲さんは自分なりに事態の打開のために考え、
信頼する仲間を見定め、ともに真相の解明のために動いていく。

最終的に彼女はこの謎ツアーを乗り切り、無事に家庭への帰還を果たす。
しかし彼女はもう旅に出る前の彼女ではない。
義母や義弟に対しても、それまでとは違う接し方ができるようになって
人間として、ひと回り大きくなって還ってくる。

「ひと夏の大冒険」のただ中で、
極限状態をくぐり抜け、ちょっぴり恋のときめきも覚えて、
成長していく少女の姿こそが本書の読みどころだろう。

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緑陽のクエスタ・リリカ 魂の彫塑 [読書・ファンタジー]


緑陽のクエスタ・リリカ 魂の彫塑 (MF文庫J)

緑陽のクエスタ・リリカ 魂の彫塑 (MF文庫J)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/11/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公は、王都にある魔術師養成学校《識者達の学院》に
通っている少年ジゼル。祖父は有名な魔術師だったらしいが、
ジゼル自身には才能がないらしく、落第をくり返すばかり。
ついに学院からの退学を決意するところから物語が始まる。

しかしそれでは、妹メルティナとともに
住んでいる学生寮を追い出されて路頭に迷ってしまう。

ジゼルが選んだ新たな目標は「冒険者」になること。
魔術はともかく、剣の腕前には自信があったジゼルは
手始めに冒険者達が集う酒場《金獅子亭》に乗り込み、
自分を仲間に加えてくれるように頼むのだが、
そこでコテンパンに痛めつけられてしまう。

しかしジゼルは、そこでミリアという少女と出会う。
彼女の姉レナリアが行方不明になり、
その探索を依頼するために《金獅子亭》にやってきたのだ。
そこにいる勇者達は誰一人として相手にしなかったが
ジゼルはミリアの依頼を受け、レナリアを探すことになる。

ジゼル達が暮らす王都では、若い娘が立て続けに殺されるという
事件が起きていて、犯人は市民達から《信奉者》と呼ばれていた。
遺体はみな頭部が焼かれていることから、
殺人者は悪魔を崇拝していると思われていたのだ。

失踪したレナリアの足取りを追うジゼルは、
やがて《信奉者》事件にも関わっていくことになる・・・。


主人公が人捜しをしていくうちに様々なトラブルに巻き込まれるのは
ハードボイルド的な導入部になってるけど、
そこで出会っていくのが妖艶な女戦士だったり
人智を超えた怪物だったりと、ファンタジーとしての展開もきっちり。

なかでも、一対の短剣を駆使する美少女剣士アルミラージは
ほぼメインヒロイン的な位置づけ(文庫の表紙の女の子だ)。


本書のユニークな点は、主人公ジゼルの設定だと思う。

魔術学校は中退したが、”正魔術師” の手前くらいまではいったので
小規模の魔術なら使えたり、呪文をゆっくり唱えれば(笑)使えたりと
いろいろ制約が多いが、そこそこ使えたりする。
もっとも、敵にダメージを与えるという効果は期待できないが(笑)。

剣の腕前も、学院内でそれなりに鍛えてきたので本人は自信があったが
現役バリバリの冒険者には全く敵わない。

まあ特技と胸を張れるものはないけど、
いろんなことをそれなりのレベルでこなせるという
言ってみれば ”器用貧乏” みたいなキャラになってる。

とはいっても魔術も剣も頼りにならないわけで、
そんな彼を主人公たらしめているのは、その機転だろう。
言い換えれば、それしか頼るものがない(笑)ので、
この手の作品の主役にしては、”頭脳労働” の比率が少し高いかも。


この作品世界の設定で、重要なものが ”半妖”(ハーフエルフ)という存在。
人間と異種族との混血として生まれた者たちを指す。
”半妖” たちは人間に混じって暮らしているが、
作中の描写を見る限り、人口に占める割合もけっこう高く
街中では珍しい存在ではない。

しかしその身分は低く、奴隷として使役され、日々虐待されている。
本書の中で起こる事件も、根底にはこの ”半妖” への差別がある。


ストーリーは本書で完結しているけど、
ジゼルは冒険者への道を踏み出したばかり。
本文のラストには「Quest1」とあるので、
当然ながら「2」以降が予定されているのだろう。

ジゼルの行動が、やがて ”半妖” の解放につながるような
大きなうねりを引き起こし、歴史の転換点を描く物語へ成長していったら
面白いだろうなあ・・・って思ったんだけど、
本書の発行は2015年10月。なんと5年近く続巻はナシ。

最近ブレイクしている作者のことだから、
このシリーズも再開されるといいなあ。
ジゼルも気になるけど、アルミラージにもう一度会いたい(笑)。

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はんざい漫才 [読書・ミステリ]


はんざい漫才 (文春文庫)

はんざい漫才 (文春文庫)

  • 作者: 愛川晶
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/05/27
  • メディア: 文庫
評価:★★★

老舗の寄席「神楽坂倶楽部」の内外で起こる事件を描いた
”日常の謎” 系ミステリ・シリーズ。その3巻め。

31歳独身の編集者・武上希美子(たけがみ・きみこ)は
幼い頃に両親が離婚、父が家を出た後に母は早世、
今は祖母・道代と二人暮らしである。

希美子が務める出版社が落語家の本を出すことになり、
その編集担当になったことがきっかけで
神楽坂倶楽部へ出向することになり、3か月という期間限定ながら
席亭代理として働き始めた。
ちなみに ”席亭” とは、寄席の経営者のこと。

落語にはずぶの素人だった希美子は、寄席や演芸の世界の
専門用語やしきたりに悩まされながらも、日々奮闘していく。
席亭代理としての仕事にも手応えを感じ始めているが、
そのまま寄席の仕事を続けるか、それとも出版社に戻るか、
どちらかを選ばなければならない時が迫ってきていた・・・


「はんざい漫才」
7年前にブレイクした漫才コンビ『フロントほっく』。
しかし人気絶頂のさなか、女性スキャンダルを起こして
人気が急落、舞台からも遠ざかってしまう。
しかし二人は心機一転、芸風も変えて、
大御所の演芸作家・粕屋定吉が書いた新作コント漫才で
再出発を期して神楽坂倶楽部に出ることになった。
漫才は好評だったが、作者である粕屋が何者かに襲われ、
大怪我を負って入院したという知らせが舞い込んでくる・・・

「お化け違い」
東京落語協会会長・松葉家常吉は、体調悪化を理由に会長職を辞任した。
新たに会長職を引き受けたのは、花山亭喜円(かざんてい・きえん)師匠。
17年前にも会長職を務め、その後は協会の最高顧問を務めていたが
今回、後継者がなかなか決まらない中、自ら名乗りを上げたのだった。
しかし喜円は17年前の会長職にあった時代、
協会の放漫な会計が問題になり、さらには人望の乏しさも相まって
一部の落語家から会長解任のクーデターを起こされたことがあった。
クーデターそのものは不発に終わったが、
その首謀者の中には、神楽坂倶楽部の席亭がいた。
それ以来、喜円師匠は席亭を目の敵にしてきたが、その喜円が
なぜか今回、神楽坂倶楽部の高座に上がることを承知したという。
しかし当日、喜円の無茶な振る舞いによって
希美子は席亭代理としての最大のピンチを迎えてしまう・・・


私は寄席に行ったことは一回しかないし、
もちろん、この「お化け違い」で語られるような光景を
目にしたこともないのだけど、この日神楽坂倶楽部に来ていたお客さんは
さぞかし面白いというか楽しい経験をしたのだろうなあ・・・って思う。

3か月間とはいえ、席亭代理として務めた希美子には
寄席やそこで働く人々、落語家や芸人に対する愛着も湧いてくる。
今回も希美子の覚悟と義蔵の機転が神楽坂倶楽部の危機を救う。

席亭を継ぐか編集の仕事に戻るか。彼女の決断まで描かれるので
シリーズとしてはここで一区切りなのだろうけど、
神楽坂倶楽部の話はもっと読んでみたい。
いつかは分からないけど、続きは書いてほしいなあ。


あと、「あとがき」の最後の1行はサプライズ。
私はかなりびっくりしましたよ。
ミステリ作家さんらしいと言えばそれまでだけど
現代の日本でこれをやるとは。



TVなんかで見るのもいいけれど、
生の高座のいうのはやはり何物にも代えがたい。
コロナ騒ぎが落ち着いたら、かみさんと二人で寄席に行ってみたい。

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ショパンの心臓 [読書・ミステリ]


ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

  • 作者: 真未, 青谷
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2019/01/04
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

まずタイトルの「ショパンの心臓」ってのが誤解を招くと思う。

ショパンは、しばしば ”ピアノの詩人” とも評される有名な作曲家で
出身地ポーランドへの愛国心が強く、
死去したとき、遺体はフランスに埋葬されたのだけど、遺言によって
遺体から取り出された心臓のみは、ポーランドへ埋葬された。
その心臓は第二次大戦中に行方不明になったけど、
戦後になったら還ってきたという。

これがタイトルの由来になったエピソードなのだけど、
ミステリのタイトルに「ショパン」とあって、
しかも表紙の挿絵がピアノだったらもう・・・
普通なら、音楽ミステリだろうと思うんじゃないかなぁ。

でも、違うんだよねぇ。
本書は芸術を扱ったミステリではあるけれど扱われるのは音楽ではない。
もちろん「ショパンの心臓」の行方を巡る歴史ミステリでもない。

じゃあ、なんで「ショパンの心臓」なのか。
これはまあ読んでいけば分かることなのだけど。

それでもねぇ。

このタイトルがベストなのかと言えば、違うような気もするんだよねえ。
すくなくとも「ショパン」という単語を使わなければ、
いろいろ勘違いされるおそれはかなり減ったと思うんだけど。

・・・まあ、タイトルだけでこんなに長く書くつもりはなかった。
内容に入ろう。


時代はたぶん2010年代はじめ。
主人公・羽山健太は、大学を卒業したばかり。
しかし入社試験にことごとく落ちまくった結果、
4月に入ってもいまだ就活中の身だった。
しかしどこからも色よい返事はもらえない。

ある日、健太は街角で『よろず美術探偵』との看板を掲げた店を発見、
そこの店長・南雲の誘いもあって、アルバイトとして働き始める。

健太が最初に迎えた客は、立花貴和子という40代の女性。
彼女が学芸員を務めている美術館で、
物故した画家・村山光雄の回顧展を開くことになった。
「ついては、彼の最高傑作とされる絵を飾りたい。
 その絵を探し出してほしい」というのが貴和子の依頼。

生前、光雄自身が新聞社のインタビューでその絵のことを評して
「”ショパンの心臓” のようなもの」と語っていたという。

村山光雄は、華々しい受賞歴もなく、世間からも忘れられた画家だった。
健太は ”探偵見習いの初仕事” として、
南雲からその絵の探索を命じられたが・・・


まず、主人公の健太が頼りないこと夥しい。
「のんびり」とか「楽観的」というレベルを越えて
単なる「ぐうたら」で「怠け者」にしか感じられない。

「いままでなんとかなってきたのだから
 これからもなんとかなるだろう」っていう人生観で
「いやあ、なんとかならないでしょ。人生そんなに甘くないよ」
 ってツッコみたくなる。

どれくらいぐうたらかというと、就職試験に臨むときにも
受ける企業の「会社概要」すら読まないんだから。
とにかく漢字が嫌い、長い文章が嫌い、注意力は散漫、
物事を深く考えることが嫌い・・・と挙げていくと
全くいいところがないんだが、こういう主人公も珍しい。

 後半になって、彼のそんな ”性格” 形成には
 彼の家庭事情も大きかった、ってのが語られるんだけど、
 それにしても極端すぎるよねえ。
 こんなのがよく大学生になったよなあ、なんて
 どうでもいいことまで考えてしまう(笑)。

依頼人の貴和子から、村山光雄についての
詳しい資料ファイルを受け取ったにもかかわらず、
それすら読まずに(読んでも上っ面だけ)、
本書の前半は、行き当たりばったりに行動しては、
失敗をくり返す健太の姿が延々と描かれる。

まあ、それを通じて村山光雄についての情報を
読者に対して少しずつ明かしていく、
という構成になっているんだろうけども・・・

中盤過ぎでやっと ”ショパンの心臓” の手がかりをつかむんだけど、
実はそれすら貴和子の資料にしっかり記載されていた、というオチ。

つまり健太が最初に資料をじっくり読み込んでおけば、
前半の迷走はほぼ必要なかったわけで、これに
大いなる徒労感を感じた読者は少なくないんじゃなかろうか(笑)。

私がつけた評価が辛いのも、このあたりがその理由。

もっとも、ここからストーリーは絵の探索に並行して
貴和子自身と村山光雄との関わりに移っていくのだが・・・


ポーランドとフランスという ”二つの祖国” をもつショパンを
幻の画家・村山光雄に投影して描くのが本作の目的だったのだろうけど、
ミステリのネタとしては、短篇でも描けなくはないようにも思った。

ラストでは、さすがの健太君も今回のことで少しは学習したようで
読み終わってみると、彼の成長を描くことがメインだったようにも感じる。
そのために(短めとはいえ)長編のボリュームが必要だったのだろう。

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記事数 2000を突破 & 近況 [このブログについて]


皆さん、こんばんは。

2006年1月のブログ開設以来14年と5か月あまり。
つい先日、記事数が2000を突破しました。

単純計算すれば、1か月あたり11~12個の記事を上げてるわけで
3日に1回以上の頻度でブログを更新してる。
思った以上に勤勉ですねえ私(笑)。

途中で長い中断もあり(短い中断はしょっちゅうでしたがwww)
このまま自然消滅もいいんじゃない?って感じで
なかば放置していた時期もあったんですが、
なんとか皆様のおかげで続けてくることができました。

ありがとうございます。m(_ _)m


まあ塵も積もればなんとやらといいますが
振り返ってみれば駄文の山ですねぇ。

たまに過去の記事を読み返してみるんですが
「けっこう上手くかけてるじゃん」と思う記事もあれば、
「これはひどい。公衆の面前に晒せるレベルじゃない」と思うものも。
もちろん、後者の方が遥かに数が多い(おいおい)。

とは言っても、どの記事も書いたときにはそれなりに一所懸命に
無いアタマを絞って取り組んだもので、それなりに愛着もあります。

まあ私にとっては日記代わりみたいなものなので
これからも、よろしくご笑覧ください。


さて近況ですが、4月の緊急事態宣言以来、
仕事と生活必需品の買い物以外は STAY HOME してます。
先日、緊急事態は解除されましたが、いまのところ大人しくしてます。
なんせ ”高齢者” ですから(笑えない)。

外食に行ったのも、ここ3か月では、
かみさんと二人で近所のラーメン屋に行ったのが1回きりかなぁ。
7月に入ったら様子を見ながらお出かけを増やそうと思ってます。

家にいる時間が長くなったおかげで読書が進む進む。
なんと5月には25冊くらい読めてしまいました。
このぶんでは年間で200冊突破も夢ではない(おお!)。

さて、私は今年に入って2日に1回の割で読書録をアップしてきましたが
このペースではひと月に15冊分しか上げられない。
上に書いたように、現在は月当たりの読書数が15冊を上回ってますので
読書録に上げるべき本が溜まってきてます。

というわけで、7月に入ったらちょっと更新頻度を上げて
滞貨一掃を図りたいと思います。
とは言っても、記事を書くのが間に合えば、の話なんですが。


これからも MIDNIGHT DRINKER を、
よろしくお願いします。 m(_ _)m

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キングレオの冒険 [読書・ミステリ]


キングレオの冒険 (文春文庫)

キングレオの冒険 (文春文庫)

  • 作者: 円居 挽
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/04/10
  • メディア:文庫
評価:★★★

舞台はパラレルワールドの日本。
そこは ”名探偵” という職業が正式に存在する世界。
日本探偵公社という組織に所属する若き名探偵にして、
”キングレオ” こと天親獅子丸(あまちか・ししまる)が主人公。

獅子丸の助手兼語り手となるのは、獅子丸の従兄弟にして
公社のスクリプトライターを務める天親大河(あまちか・たいが)。
ちなみにスクリプトライターとは、
探偵たちが手がけた事件を文章化する仕事らしい。

このコンビが京都の町を舞台にして起こる怪事件に立ち向かう、
連作短編シリーズの第1巻。


「赤影連盟」
セールスマンを生業にしている、日下部文彦という男が殺された。
遺体から見つかったメモには、いくつかの企業や大学などの
組織内の人事異動が記されていたが、
いずれも未だ発表されていないものばかり。
しかし、後日発表された内容はすべてメモの通りだった。
日下部は未来予知をしていたのか?
そしてそのメモの最後にあったのは、
”アカイカゲ ワタシハコイツニコロサレル” という記述だった・・・
タイトルの ”赤影” って文字列を見ると、往年の某特撮TVドラマを
思い出す人もいるだろうが、それもちょっと出てきます(笑)。

「踊る人魚」
京都市内の若者の間に逸っているという脱法ドラッグ ”踊る人魚”。
その取引にはある種の暗号が使われていて、
”踊る人魚” という単語だけ知っていれば誰でもたやすく解けて、
取引の場にアクセスできるのだという。
そんな暗号が存在するのか?

「なんたらの紐」
獅子丸の元に、手塚雪華(せつか)という女性が助けを求めてくる。
人気ミステリー作家だった手塚久里須(くりす)を母に持ち、
双子の姉・月華(げっか)と3人で暮らしていたが、
久里須が谺光望(こだま・てるもち)という男と再婚した。
そして5年前、久里須が病死して彼女の遺産は双子のものとなった。
しかし1週間前には月華が密室の中で不審死を遂げた。
義父の谺が、遺産目当てで姉を殺したのではないか・・・

「白面の貴公子」
天親大河の妹で女子高生の陽虎(ようこ)に、彼氏ができたらしい。
周囲の仲間からは ”殿下” と呼ばれる眉目秀麗な美少年と聞いた
獅子丸は、なぜか心穏やかでないらしくその少年を探し出そうとするが。

「悩虚堂の偏屈家」
資産家の焼死体が発見されたが、殺人事件とみた警察は
一人の少年を逮捕する。その少年こそ、陽虎の ”彼氏” だった。
陽虎に泣きつかれた獅子丸は、真犯人を捜すべく事件解決に乗り出すが
それは公社所属の伝説の名探偵にして、”和製ギデオン・フェル” の
異名を持つ・河原町義出臣(ぎでお)との対決へと発展していく・・・


本書の冒頭に主要登場人物一覧があるのだが、それを見ると
本シリーズが作者の「ルヴォワール」シリーズと
同一の世界であることがわかる。
(どうやら、この作者の描く作品はみな同一世界らしいが)

各短篇のサブタイトルで分かるように、本シリーズは
本家のシャーロック・ホームズ・シリーズを模しているのが分かる。

そして、ホームズ最大のライバルである
モリアーティ教授に相当するキャラも登場する。
それが ”城坂論語(ろんご)” という高校生なんだが
「ルヴォワール」シリーズでは大学1年生として登場し、
曲者揃いのレギュラーメンバーの中でも堂々の存在感を示していた。
本書では高2なので、時系列は「ルヴォワール」の2年くらい前か。

ただ、”あちら” の論語君と比べると、
明らかにこちらの方が性格が悪い(笑)。若さ故なのかな(おいおい)。
(まあ、あちらの論語くんだってお世辞にも性格がいいとは言えないが)

論語君の祖父である慈恩(じおん)も出てくるのだけど、
読んでいて「あれ?」って思うところが。
なんか ”あちら” のシリーズと整合性がとれていないような気も。
(単に私のアタマが悪くて、内容を忘れてるだけかも知れないが)

本書には続巻があるので、そちらで説明されるのかな。
まさか、パラレルワールドの話だったりして。それはないか。

この作者の作品は、登場人物がエキセントリックな人ばかりで
それは本書でも例外ではない。
その中で唯一(?)の常識人である大河君は、
奇人変人集団に振り回されて大変だ。
でも、彼の困る姿もまた読みどころだったりするんだよねぇ(笑)。

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