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志村けんさん ご逝去 [日々の生活と雑感]


昨日(3月30日)、この日は私の仕事がない日だったので
母(80代)と一緒に墓参りに行く予定でした。
しかし先週末から「外出禁止」というお達しが出ていたこともあり、
朝に母と電話で話して、とりあえず延期しようと決めた直後に
志村けんさんの訃報が飛び込んできました。

幼い頃からTVで観ていた人で、大いに笑わせてもらった人。
その志村さんがコロナウイルスでお亡くなりに。
その衝撃はちょっと言葉に尽くせないものがありました。


訃報の後、彼の生前の ”お笑い” に対する姿勢を報道するTVや新聞、
ネット記事を読んでいて、ちょっと感じたことを書いてみます。

私は20代後半あたりから、漫才師がネタ披露をする番組を除いて
お笑いバラエティ番組をほとんど観なくなってしまいました。

とくにここ数年顕著な、若手の芸人に罰ゲームみたいな苦行を強いて
それに悪戦苦闘する様子を映し出す番組が苦手なんです。
あれは ”芸を笑う” のではなく ”芸人を笑う” 番組ですよ。

21世紀の現代では、それが主流なのかも知れません。
実際、視聴率も取ってるようですから需要もあるのでしょう。
その手の番組が大好きな人もいるでしょう。
それについて文句を言うつもりもありません。
私の ”笑い” に対する感覚が古いのでしょう。

お笑いで人気が出ると、いつの間にか番組のMCに納まったり
文化人ぽくなったりして、ネタの披露もしなくなってしまう。
そんな芸人さんが多い中で、志村さんは
最後まで現場に拘った人でもあったのでしょう。

往年の志村さんのコント番組では、
わずか30秒のシーンの収録に2時間かかることもあったとか。
緻密に計算され、周到に準備された笑い。
今の時代、ネットに浸食されて経営が傾きつつあるTV局には
そんなものを創り上げる資金も時間も余裕も無いのかも知れません。

やたら2時間3時間の長時間バラエティ番組が幅をきかすのも、
制作費を浮かすためそうですから。

志村けんさんの番組作りは、TVが絶頂期だったからこそ
可能だった部分もあったと思います。
そのTVがいま斜陽期にある。
大げさな表現をすると、彼がいなくなってしまったのは
日本のお笑いの、一つの時代の終わりのようにも感じられました。

・・・年寄りの愚痴みたいなってきたのでもう止めます。

志村けんさんのご冥福をお祈りいたします。

献花の代わりに、今日見つけた桜の写真を・・・
20200331.jpg

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四つの凶器 [読書・ミステリ]


四つの凶器 (創元推理文庫)

四つの凶器 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★

パリの予審判事アンリ・バンコランを探偵役とする作品の
5作目にして、彼の登場する最後の作品。


ロンドンの若手弁護士リチャード・カーティスは、
依頼人ラルフ・ダグラスに呼ばれてパリへやってきた。
社長令嬢マグダ・トラーとの結婚を控えたラルフは
元愛人だった高級娼婦ローズとの仲を精算しようとしていたのだ。

しかしラルフと共にローズの邸宅を訪れたリチャードが見たものは
ベッドに横たわった彼女の死体だった。

そしてその現場には拳銃、カミソリ、睡眠薬、そしてナイフと
4つの凶器が残されていた。

ラルフをはじめ、浮上する容疑者にはみなアリバイがあった。
難航する捜査を指揮するのは、引退した元予審判事アンリ・バンコラン。

いくら有能とはいえ、引退した人物がそう簡単に
捜査の指揮なんかさせてもらえるのかとか思ったけど、
そこはツッコミどころじゃないんだろうね(笑)。

そのバンコラン氏、そんなにお年を召しているわけじゃないと
思うのだけど、いままでの4作とはずいぶん雰囲気が違う。
悠々自適の生活をしているせいか、ずいぶん丸くなったようで
意地の悪さ(笑)がちょっと薄れたかな。


先月読んだ「白い僧院の殺人」でもそうだったけど
犯行のあった夜の関係者たちの動きを解明していくことで
ローズの家に4つの凶器が集まってくる過程、
そして真相が浮かびかがってくる。

解説にもあるけど、たしかに偶然に頼る部分も多々ある。
物事が分単位で推移していくので、
どこかで数分ずれたら破綻しそうなんだが
それくらいのちょいとした無理を通せば、
魅力的な舞台と謎が成立するんだから許容範囲のうちだと思う。


カーの作品につきもののロマンス要素だけど、
今回はなさそうかなぁ・・・と思ってたら
中盤からだんだん盛り上がってきたましたね。
ただ、ラブコメ的な雰囲気はほとんどないのがちょい残念。

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科警研のホームズ 毒殺のシンフォニア [読書・ミステリ]


科警研のホームズ 毒殺のシンフォニア (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

科警研のホームズ 毒殺のシンフォニア (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

「科警研のホームズ」シリーズ、第2巻。

「科警研」とは、科学警察研究所のこと。その科警研が
東京都文京区本郷に分室を設置し、3人の研修生が集められた。

北海道警の北上純也(きたかみ・じゅんや)。埼玉県警の伊達洋平、
そして兵庫県警からは安岡愛美(あいみ)。

ここの室長を務める土屋は東啓大の准教授を兼務している。
実は土屋はかつて科警研に所属し、目覚ましい成果を上げていた。
多くの未解決事件の捜査に参加し、犯人特定にも貢献していた。
ついた異名が「科警研のホームズ」。しかし2年前、
ある事件での鑑定ミスの責任を取る名目で科警研を辞職していた。

この分室の設立した科警研所長・出雲の目論見は、
土屋が3人の研修生とともに未解決事件の謎に取り組んでもらうことで
捜査への熱意を思い出して、科警研へ本格的に復帰してくること。

しかしながら当初の研修期間の半年を過ぎても
土屋は一向に現場復帰の意思を見せず、さらに半年間の
研修期間延長が決まったところまでが前巻。

本書も前巻と同じ4話構成で、3人の研修生が未解決事件の調査にあたり、
壁にぶち当たったところで土屋が解決に乗り出す、という流れ。

「第一話 毒殺のシンフォニア」
合成化学の学会終了後の懇親会の席で、大学教授・羽鳥が毒殺される。
ワインのグラスから検出されたのはテトロドトキシン(フグ毒)。
しかし、いつ誰が毒を混入したのかがわからない・・・
珍しく(笑)、土屋が前面に出てきて犯人と対決する。
でもこのトリックは、素人には思いつかないよねえ。

「第二話 溶解したエビデンス」
奥多摩の山中で発見された死体は、水酸化ナトリウム水溶液に浸されて
全身のタンパク質が分解されて白骨化していた。
遺体の胸骨が砕かれているのが死因と思われたが凶器の特定ができない。
アニメやSFに詳しい人の方が凶器の見当がつきやすかったりする?

「第三話 致死のマテリアル」
一酸化炭素中毒で死亡したと思われる死体が発見されるが
体内から見つかった一酸化炭素の濃度は致死量の数分の1しかない。
この真相も素人には思いつかないだろうなあ。

「第四話 輪廻のストラテジー」
新興宗教の教祖が死亡し、教団内では後継者争いが始まる。
教祖は集団環視の中で心不全で死亡したとされているが、
3人の研修生は他殺の可能性を探る・・・


トリックの中身よりも、研修生たちがチームワークで真相に迫っていく
その過程を読ませる作品なのだろうと思う。
だからたぶん、そのせいで土屋はあまり出しゃばらないのでしょう。

最終話では土屋が科警研を去ることになった
”鑑定ミス” の真相まで明らかになって、
彼が復帰できない理由はなくなってしまうのだが・・・

本書で3人の研修期間も終了するし、これで完結かとも思うけど
その気になれば続けられる終わり方になってる。

土屋はともかく(笑)、3人の研修生キャラは好きなので
続きが出たら多分読むと思うのだけど、
今度はもっと土屋に活躍してほしいなあ。

いっそのこと、まさに土屋が「ホームズ」と呼ばれていた
科警研時代のエピソードを読んでみたいと思うんだけどね。
そっちの方が需要がありそうな気もするんだが。

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ベスト本格ミステリTOP5 短編傑作選004 [読書・ミステリ]


ベスト本格ミステリ TOP5  短編傑作選004 (講談社文庫)

ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

本格ミステリ作家クラブが編集するところの
「本格短編ベストセレクション」シリーズ第4弾。
ノベルスで刊行された2018年版から、更に絞った5作を収録してる。

「夜半(よわ)のちぎり」岡崎琢磨
他のアンソロジーで既読。
同じ会社の同僚同士が結婚した2組のカップル、
長沼とその妻・茜(あかね)、川島とその妻・紗季(さき)。
彼ら4人は、新婚旅行先のシンガポールのホテルで鉢合わせしてしまう。
かつて紗季と交際していた長沼は、その夜、眠った茜を残して
ホテルの部屋を抜け出し、紗季と密会する。
しかし自分の部屋に戻ってくると茜の姿は消えており、やがて
ホテル近くのビーチで死体で発見される。
犯人当てと言うより、少ない登場人物間の人間模様がメイン。
ラストの1行にインパクト。

「透明人間は密室に潜む」阿津川辰海
細胞の変異により、全身が透明になってしまう
”透明人間病” が蔓延した世界が舞台。いわゆる特殊状況下ミステリ。
語り手である主人公(女性)も、透明人間のひとりだが、
彼女が透明人間病の治療薬を開発している大学教授・川路(かわじ)の
殺害を思い立つところから物語は始まる。
犯行の準備を着々と進める描写と共に、この世界での透明人間の設定が
語られていく。つまり作品内の設定条件がきちんと明かされる。
最終的に彼女は殺害に成功するのだが、そこからの話がメインとなる。
透明人間が犯人だったらどんな犯罪でも可能だろう、
ってのは、良くミステリでいわれることだが、
じゃあ本当に透明人間を出してみたら、という作品。
厳密な推理を展開するには必要なことかも知れないけど
設定説明に枚数が使われていて、ちょっとくどいようにも感じた。
ラストの展開と犯人の動機は意外なもので、このあたりは流石と思う。

「顔のない死体はなぜなぜ顔がないのか」大山誠一郎
荒川の河川敷で発見された女性の死体は
顔が叩き潰され、指先が焼かれていた。
行方不明の届け出があった女性と身長・体型が一致したので
死体は彼女のものと思われたが、遺体を見た元夫は違うという・・・
ミステリでは、犯人が遺体の顔をいろいろな理由で潰してきたが
本作で語られるのもまた意外でユニークなもの。なるほどそう来たか。

「首無館の殺人」白井智之
他のアンソロジーで既読。
首無館と呼ばれる屋敷を訪れた女子高生3人組が、
チンピラ3人組に捕らわれてしまうが、
翌朝、そのチンピラたちが3人とも殺されているのが見つかる・・・
という話なんだけど、私はこの作者とは合わないです。
本書で、もう一度読んでみたんだけど、もうやめます。
ミステリとしてよくできてるのは分かります。
でも、ホラーでグロでスプラッターな話はダメなんですよ。
勘弁してください(笑)。

「袋小路の猫探偵」松尾由美
実業家にして童話作家でもある猫のニャン氏が探偵役を務める一編。
とは言っても猫は人語を話せないので、秘書の丸山が
”通訳” してくれるんだが・・・実は彼が推理してるってのはナシ?
ニャン氏を担当する編集者の田宮宴(たみや・うたげ)嬢が経験した
袋小路での人間消失の謎をニャン氏が解き明かす。
目に見えない心理的な ”壁”を、”逆転の発想” で突破する流れは鮮やか。

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新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトソンの冒険 [読書・ミステリ]


新しい十五匹のネズミのフライ :ジョン・H・ワトソンの冒険 (新潮文庫 し 28-5)

新しい十五匹のネズミのフライ :ジョン・H・ワトソンの冒険 (新潮文庫 し 28-5)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★

ジョン・H・ワトソンといえば、言うまでもなく
シャーロック・ホームズの相棒であり、かつ彼の探偵譚の執筆者として
ミステリ界で知らぬ者はいないくらい有名な人物だろう。

本書は、そのDr.ワトソンを主役にしたパスティーシュで
文庫判にして640ページ近い堂々たる大部である。


まず冒頭で明らかになるのは、「赤毛組合」事件の裏側。
銀行強盗たちの企んだこの事件は、ホームズの活躍によって
無事に解決したが、ワトソンが発表した手記に描かれていたのは
この事件の表層に過ぎず、実は真の ”黒幕” が存在していた、
というところからこの物語は始まる。

”黒幕” はホームズの介入まで織り込んで計画を立てており、
実行犯たちの逮捕・投獄までが想定内。
だから、彼らの脱獄の手配まで準備してあった。

一方、事件を ”解決” したホームズにも変化が起こる。
もともと薬物中毒だったのだが(笑)、それがさらに進行して
ついに精神錯乱状態に陥ってしまう。

住居であるベーカー街の部屋で、奇声を発してモノを壊して回るという
大暴れをはじめて、止めようとしたワトソンを相手に
殴るわ蹴るわの暴行をはたらき、彼に重傷を与えてしまう。
ホームズってボクシングができたり日本の武術(?)にも通じていたりと
無駄に強いので始末に悪い(笑)。

やっとの思いでホームズを取り押さえ、病院へ送り込んだワトソンだが
今度は、「新しいホームズ譚の原稿」を催促に来る編集者に悩まされる。
何せ、ネタ元のホームズがいないので書くに書けない。
満身創痍のワトソンが悩みに悩んで、あげくの果てに
「這う男」をひねり出すエピソードには笑ってしまう。

さて、病院までホームズの見舞いに行ったワトソンだが、
彼の元へヴァイオレット・ブラックウェルからの手紙が届く。
彼女は亡くなったワトソンの兄の妻で、
未亡人となった彼女に対してワトソンは叶わぬ思慕を募らせていた。

夫亡き後、彼女は裕福な銀行家と再婚を考えるようになっていたが
その相手の行動に不審の念を募らせるようになっていた。

愛する女性からの救援要請にワトソンは一躍、彼女のもとへ向かうが、
時既に遅く、ヴァイオレットは囚われの身となっていた・・・


前半は薬物中毒のホームズに翻弄されるワトソンを描いたドタバタ劇、
後半は一転して、愛する女性を救うために奮戦する冒険譚が描かれる。

ワトソンはもともと、第二次アフガン戦争も経験した軍人だし、
実際、劇中でも見事な銃の腕前を披露する。
先を見通した状況判断も的確だし、何より不撓不屈の気概に満ちている。
ホームズによって負わされた傷も癒えぬ身で、悪漢一味に立ち向かう。
彼の意外な(といっては失礼か)ヒーローぶりが本書の読みどころだろう。


一番気になったのはワトソンとヴァイオレットの行く末。
読み出してすぐ、たしかワトソンの奥さんって
「メアリー」って名前だったよなあ(うろ覚え)・・・
という知識を思い出したのでwikiで見てみたらちょっと驚き。

ワトソンは「四つの署名」で知り合ったメアリー・モースタン嬢と
結婚するのだが、数年後にはワトソンは独身に戻っているのだ。
シャーロキアンの方々の研究では「死別した」というのが定説らしい。

しかも彼女以外にも、ワトソンの妻になった女性はいるらしく
彼は複数回の結婚をしたという説を唱えている人もいるらしい。

 ちなみに、本書の作者の島田荘司もその説を採っていて
 本書巻末の後書きに詳しく自説を述べている。

ワトソンとヴァイオレット嬢の行く末については
ネタバレになるので書かない。気になる人は本書を読んでください(笑)。


冒険活劇としてはとても楽しく読めるのだが、ミステリとしてはどうか。
一番大きな謎は、タイトルにもある「新しい十五匹のネズミのフライ」。
これは悪漢一味のうち、刑務所から脱獄してきた連中が
口にする言葉なんだが、この言葉の意味が最後に明かされる。

うーん、でもこれ、日本人ならともかく
欧米の人ならすぐ気がつくことじゃないのかなぁ・・・

 大学時代に知った英文を思い出したよ。
 Oh, Be A Fine Girl, Kiss Me Right Now, Sweet!


最後にどうでもいいことを。

劇中に登場するヴァイオレットの母親は、
娘が夫の弟と結婚することに「人倫にもとる」ようなことを言って
猛烈に反対するのだが、これって彼女だけの価値観なのかな。
それとも当時のイギリスでは普通の価値観なのか、どっちなのだろう。
キリスト教(プロテスタント)の影響かな、とも思ったり。

これとは比較できないけど、”家” 中心、男性優位な封建的価値観が
幅をきかせていた頃の日本、昭和の前半あたりまでの時代では、
奥さんが早世したとき、彼女に未婚の妹がいたら
その人が旦那さんの後妻に入る、なんてことがよくあったとか・・・

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100億人のヨリコさん [読書・SF]


作者である似鳥鶏氏は、自作の「あとがき」がいつもユニークで面白い。
とりとめの無い妄想が暴走していくような内容で
作品の中身に関することはほとんどない(笑)。

本書のタイトルにある「ヨリコさん」も、一時期この「あとがき」に
よく登場してきたキャラ(?)で、作者が夜中に目を覚ますと
血まみれの女性が天井に張り付いているという(おいおい)、
その女性の名が「ヨリコさん」。

その「血まみれのヨリコさん」が、「あとがき」だけでの出演では
つまらないと思ったのか(どうかは分からないが)、
ついに長編デビュー(笑)したのが本書だ。


100億人のヨリコさん (光文社文庫)

100億人のヨリコさん (光文社文庫)

  • 作者: 鶏, 似鳥
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/06/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

貧乏学生の小磯くんは、実家の経済状況が悪化したことにより
住んでいる学生寮を出なければならなくなった。

学生課で紹介されたのは、寮費が月1300円という破格の安さの
「富穣寮」(ふじょうりょう)だった。

大学の敷地の東の果て、時折首つり死体が発見されるという(おいおい)
農学部の演習林と、「四神池」(しじんいけ)に囲まれた一角にある、
一見して倒壊寸前の木造二階建てアパートに見える建物である。
そしてなぜか敷地の周りをガラパゴスゾウガメ(!)が闊歩している。

住人も奇人変人揃い。
浦島太郎かと見紛う出で立ちで正体不明の ”先輩”、
メカオタクでロリコンのアフリカ人・マフトンジ、
電動車椅子に乗っている汪(ワン)さんは上半身マッチョ、
寮の裏の畑で野菜作りに励む農学部の儀間(ぎま)、
学生でもないのになぜか寮に住んでる奈緒さんと、
その娘のひかりちゃん(小学4年生)。

池でとれた魚、畑でとれた野菜、溜め込んだパンツに生えたキノコ
(どこかのマンガでみたような)など、食料は自給自足で暮らしている。

しかも夜な夜な、血まみれの「ヨリコさん」なる若い女性の幽霊が
廊下や窓の外や天井に張り付いて現れる(おいおい)。

とまあこんな具合に、前半は主にこの奇天烈な寮の住人たちの
奇妙な生活ぶりと、それに振り回されながら次第に適応していく(笑)、
小磯くんの姿が描かれていく。

ここまで書いてきたとおり、本書の一番大きな要素はユーモアで
次に多いのは「ヨリコさん」によるホラー成分。
さらに、作中でこの「ヨリコさん」なるものが現れる ”メカニズム” を
寮の住人たちが(それなりに合理的に?)推定するシーンがあるためで、
しかもそれはあながち間違っていなかったことが後で分かるという
SF的な要素も持ち合わせていて、ジャンル分けに悩む。
でもまあ、小説は面白いかどうかが第一で、
ジャンルなんてのは後からついてくるものだろう。
(いちおう記事の都合上「SF」に分類したけど)

「ヨリコさん」は、基本的に寮の住人にしか
見ない、見えない存在だったのだけど、
後半に入ると「ヨリコさん」は「富穣寮」を飛び出し、
世間一般の人の前にも現れるようになっていく。
そしてそれは日本だけにとどまらない。

血まみれの女性が、時と場所を選ばずに突然目の前に現れたら
普通の人なら驚くし、パニックに陥ってしまうこともあるだろう。

「ヨリコさん」によって大混乱に陥った世界を救うべく、
小磯くんたち「富穣寮」の住人たちが立ち上がる・・・


とにかく序盤の「富穣寮」とその住人たちの描写がすごい。
ここの部分だけでも、本書は読む価値があると思う。
ある意味、想像力(妄想力?)の限界というか
「よくこんなこと考えつくなぁ」と驚かされるような
”異世界”(笑) が描かれる。

後半は、いわゆる「はみ出し者たちのチームが世界を救う」という
「シン・ゴジラ」みたいな展開で、彼らひとりひとりに
しっかりと見せ場が用意されていて物語を盛り上げていく。

「戦力外捜査官」シリーズでも思ったが
パニック映画的な描写も作者は得意にしてる。
本書でもそれは遺憾なく発揮されてるんだけど
いつか、本格的なパニック・サスペンス大作を書いてほしいなあ。

あ、本書も舞台のスケールとしては
十分に「大作」ではあるんだけどね・・・

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レジまでの推理 本屋さんの名探偵 [読書・ミステリ]


レジまでの推理: 本屋さんの名探偵 (光文社文庫)

レジまでの推理: 本屋さんの名探偵 (光文社文庫)

  • 作者: 鶏, 似鳥
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/04/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

私の弟は高校を卒業して某書店チェーンに就職した。
学生時代から小説もマンガも大好きな奴だったので、
「本屋で働く」というのは自然な選択だったのかも知れない。

しかし、4年間勤めたら退職してしまい、家業を継ぐことになった。

力仕事が多くてキツい(本は重いからねぇ)とよくこぼしていたが
直接の退職理由は、仕事の中身以外のところにあったみたい。
本屋の店員さんにもいろいろ苦労があるのだなあ・・・
「本が好き」だけではやっていけないこともあるんだなあ・・・
なんて思ったものだ。

 もっとも、家業(親の仕事)だって楽なものではなかったし、
 収入も不安定だったから、親は私にも弟にも「家業を継げ」とは
 ひと言も言わなかったんだけどね・・・

閑話休題。

本書は、その書店員さんたちの物語だ。

語り手の青井くんは書店で働く学生アルバイト。
彼が職場で遭遇した事件を描いた ”日常の謎” 系ミステリの連作。

「7冊で海を越えられる」
閉店後も残っていた若い男性客は、青井くんに相談を持ちかけてきた。
彼は来月からアメリカに留学することになり、
つきあっていた彼女にそのことを打ち明けた。
しかし彼女は激怒してしまい、彼の家に7冊の本を送りつけてきて
それ以来電話もメールも受け付けず、会ってもくれないという。
7冊の本に込められた意味を、店長さんが鮮やかに解き明かす。
その7冊の中に「君がいなくても平気」(石持浅海)が入ってるのが
個人的にツボだった(笑)。

「全てはエアコンのために」
青井くんのいる書店でアルバイトをしている池辺くんを尋ねて、
島尻という青年がやってくる。
4日前、島尻の引っ越しを池辺くんが手伝ってくれたのだが
そのあと、島尻が大切にしていた本がなくなっていた。
人気ライトノベル作家・蓮見喬(はすみ・きょう)のサイン本である。
しかし、池辺くんがそれを持って帰れたはずはなかったのだ・・・
無くなった本の行方が最後に明かされるけど、
実際にこれやろうと思ったらけっこう大変だと思うなあ・・・

「通常業務探偵団」
青井くんの働く書店で、蓮見喬のサイン会が開かれることになるが、
貼られていた蓮見喬の新作販促ポスターに落書きされる事件が起こる。
しかし防犯カメラと機械警備の記録から、
ポスターに近づけた人間はいないことがわかったのだ・・・
本屋さんで起こる ”不可能犯罪” というのは初めてかな(笑)。

「本屋さんよ永遠に」
店頭に並べられている本に、書店に対する脅迫文が
挟み込まれるという事件が頻発するようになる。
文面は次第に過激になり、ついには「今晩23時」に
何らかの行動を起こす、という脅迫めいたものになる。
青井くんたちは、指定された時間に書店の前で張り込むのだが・・・

連作短編の場合、最終話まで読むと全体が一つにつながる、
という展開がよく見られるが、本作も最終話まで読むと
全体の仕掛けが分かるようになっている。
ネタバレになるので詳しく書けないが、
本作の場合はかなり ”ひねり” が効いているとだけは言えるだろう。


ミステリとしての趣向も十分あるけど、それと同じくらい、あるいは
それ以上の比重を以て書店員さんたちの ”日常業務” が描かれる。
基本的にはみなさん楽しく働いているのだけど、
「万引き問題」や「出版不況」など、
書店そのものの存亡に関わる問題も描かれていく。

私もミステリの文庫本を初めて買ったのは実家近くの個人経営の書店。
中学生から大学生までの間にいろんな本を買ったものだ。
創元推理文庫でヴァン・ダインやクイーンを知ったのも、
角川文庫で横溝正史と高木彬光を知ったのもこの店だった。

残念ながら、ここ20年ほどの間、街の書店はどんどん減ってる。
私の実家近くのこの書店も、10年くらい前に閉店してしまった。

店頭でいろんな本を眺めながら探すのは
通販サイトにはない楽しみなんだけど
これからはショッピングモール内の書店か
三省堂とか紀伊國屋みたいな大手チェーンくらいしか
生き残れないのかなぁ・・・

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その可能性はすでに考えた [読書・ミステリ]


その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/02/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公は私立探偵・上苙丞(うえおろ・じょう)。
彼が凡百の探偵と異なるところは、「奇蹟」の存在を信じていること。
そして「奇蹟の存在を証明する」のが彼の悲願だった。

 彼がそう考えるようになってしまった理由は、後半で明かされていく。

「奇蹟」のように見える不可能犯罪を解き明かし、
人間の手で実行することが可能であることを証明した探偵はいても、
その逆はいなかったわけで、これが本作のユニークさを示している。

彼の前に現れた依頼人・渡良瀬莉世(わたらせ・りぜ)は
10年以上前に起こった怪奇で不可解な事件を語り始める。

小学生だった莉世は、カルト宗教団体に入信した母と共に山村に移住した。
そこは高い崖に囲まれた窪地にあり、暮らしているのは教祖と信者のみ、
合計で33人がこの村の住人のすべてだった。

外部との唯一の交通路は村の東側にある ”洞門” と呼ばれる洞窟のみで、
そこは鉄の扉で閉ざされていた。周囲の崖の高さは30m以上あり、
崩れやすい地質のため登ることはできない。また、
村にはほとんど木材がないので梯子や櫓を作ることもできない。

莉世の孤独を癒やしてくれたのは、年上の少年・堂仁(ドウニ)だった。
ドウニは密かに村からの脱出を画策していて、
莉世も彼と共に逃げるつもりだった。

しかし計画を実行する矢先に地震が起こり、
村で唯一の水源が涸れてしまう。
これを凶兆と捉えた教祖は、信者全員による集団自殺を敢行してしまう。

教祖はダイナマイトで ”洞門” を爆破して村を封鎖し、
さらに村人全員を拝殿に集めて、斧で首を切り落としてしまう。
その光景に意識を失った莉世は、村の西にある洞窟で目を覚ます。
そこにはドウニの生首が転がり、彼の胴体は
洞窟から数十mも離れた場所で発見された。
さらに拝殿の中には教祖と信者全員の死体があったが、
拝殿には外から鍵がかけられていた。

いったい、誰が莉世をここまで運んできたのか?
彼女には、首を切られたドウニが自分を抱えて運んでいるという
おぼろげな記憶があった・・・


”「奇蹟」のように見える現象” に対して、
どんな説明も成立しないのならば、それは「奇蹟」だ、
というのが上苙のスタンス。

彼女の話を聞いた上苙は、”あらゆる可能性を検討” し、
この事件は人智の及ばない「奇蹟」であると断定、
その理由を詳細な報告書にまとめる。

「奇蹟」と思える現象を ”人間の仕業” へと引き下ろしてみせるのが
通常の探偵であり通常のミステリであるのだが、本書では逆である。

もちろんそれで納まるわけもなく、彼の前には
「奇蹟」を突き崩そうと挑戦する者たちが現れる。
さまざまな方法で「奇蹟」を説明しようとする試みに対し
それらを上苙はことごとく論破してみせる。
ここで描かれる、論理vs論理のぶつかり合いが本書最大の読みどころ。

 このへんは少年マンガの格闘技対決ものみたいなノリである。

次々と現れる挑戦者を倒していく上苙。
そのときの決め台詞が、タイトルにもなっている
「その可能性はすでに考えた」なのだ。


すべての挑戦者を倒してしまえば、「奇蹟」を否定するすべがなくなる。
それは「奇蹟」の証明なのか・・・と思われるが
本書はSFでもオカルトでもホラーでもないので、
ラストはきちんとミステリとして着地する。


論理バトルの部分も楽しいが、登場するキャラも個性的。
かなりエキセントリックな性格の上苙の他にも、
彼のスポンサー(金貸し)にして中国黒社会出身の女性、
姚扶琳(ヤオ・フーリン)は、口は悪いが何かと上苙を助ける。
もっともそれは彼に死なれると借金が回収できないからだが(笑)。
挑戦者として現れるのは元検察官、謎の中国美人、
かつて上苙の助手を務めていた少年、
上苙に「奇蹟」探索を決意させるきっかけを作った男・・・
みな見事にキャラが立っていて、上苙との推理バトルを盛り上げる。

しかし、たった1つの事件に対して、これでもかこれでもかと
新しい解釈を示してみせる展開は素直にスゴいと思う。

事件 → 捜査 → 解決 というミステリの定型を崩して
また一つ、新しい語り方を見せてくれた。

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巴里マカロンの謎 [読書・ミステリ]


巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★

なんと11年ぶりのシリーズ新刊なのだそうな。

穏やかで平和な小市民的な生活を目指す高校生、
小鳩常悟朗(こばと・じょうごろう)と小佐内(おさない)ゆき、
二人の学校生活の中で起こる事件を描いた日常の謎ミステリ。

「巴里(パリ)マカロンの謎」
有名パティシエ・古城春臣(こぎ・はるおみ)が、名古屋に店を開いた。
小佐内さんと常悟朗はそこへマカロンを食べに行く。
ドリンクとのセットで選べるマカロンは3種類まで。
二人が3つのマカロンの載った皿を前にしたとき、
店の向かいにあるビルの大時計が盛大な音楽を奏で始める。
思わず大時計に目を向けた二人が再び皿に視線を戻すと、
小佐内さんの皿のマカロンが3つから4つに増えていた。
誰が、何のために余計なマカロンを置いたのか・・・
ミステリ的なネタよりも、小佐内さんの
スイーツへのこだわりに驚かされる一編。

「紐育(ニューヨーク)チーズケーキの謎」
マカロン事件で知り合った古城春臣の娘・秋桜(こすもす)が通う
私立中学校の文化祭へやってきた小佐内さんと常悟朗。
秋桜がつくるチーズケーキを味わった二人は別行動で文化祭を回るが
校庭で焚かれていたキャンプファイヤーの側にいた小佐内さんが
走ってきた男子中学生に突き飛ばされてしまい、さらに
その男子を追ってきた一団に連れ去られてしまう。
どうやら、男子生徒が持っていた1枚のCDの行方を追っているらしい。
彼女を取り戻すため、CDの在処を推理する常悟朗だが・・・
短時間にあれだけの ”工作” をした小佐内さんの身体能力が驚異的。

「伯林(ベルリン)あげぱんの謎」
常悟朗たちの通う高校の近所に新しいパン屋が開店した。
ドイツでは、あげぱんの中にマスタード入りのものを仕込んでおいて
誰がそれに当たるかを遊ぶゲームがあるのだという。
高校の新聞部がそのパン屋を取材に訪れ、
その際に試作のあげぱん(ジャム入り)をもらってきた。
しかもその中の一つにはマスタードが仕込んである。
新聞部で、ドイツのあげぱんゲームを行うためだ。
ところが、あげぱんを食べた部員4人が4人とも
「自分のあげぱんにはマスタードは入っていなかった」と主張する。
たまたま新聞部の部室にやってきた常悟朗がその真相を推理するのだが。
こんなシチュエーションでもミステリになるんだねぇ。
そして、こんな状況から意外な ”犯人” を指摘してみせる
常悟朗くんがまたスゴい。

「花府(フィレンツェ)シュークリームの謎」
古城秋桜が停学になった。理由は、クラスメイトが主催した
年越しパーティーの席で飲酒したためだという。
秋桜はパーティーへの出席自体を否定したが、学校宛てに
パーティー会場にいる秋桜の写真が送られてきたのだという。
写真自体は精巧に合成されたものと思われたが、
誰が秋桜を陥れようとしているのか・・・


常悟朗と小佐内さんは、”互助関係” 、つまり
一緒にいた方が何かと都合が良い関係とお互いが考えてるわけで
決してつきあってるわけではない、と
作中で常悟朗君がわざわざ断ってるんだけど、
これくらいの、つかず離れず友人以上恋人未満の距離感で
当分進んでいくのでしょう。

でもまあ、二人の高校生活はまだかなり残っているし、
作者は続きを書く予定があるみたいだから、
これからも事件は起こり続けるわけで(笑)、
そのうち、関係性も変わっていく時が描かれるんじゃないかな。

しばらく続巻が出てないなあと思ったら11年ですか。
その間、作者は「このミステリーがすごい!」で
2年連続第1位を獲得したりして、ミステリ界でのステイタスが
爆上がりしましたからねえ。昔のシリーズでも
忘れずに続きを書いてくれることに感謝しなくてはいけないですな。

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ロートケプシェン、こっちにおいで [読書・ミステリ]


ロートケプシェン、こっちにおいで (創元推理文庫)

ロートケプシェン、こっちにおいで (創元推理文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/01/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

高校1年生の須川くんが一目惚れした相手は、
クラスメイトの酉乃初(とりの・はつ)さん。

学校ではひとりぽつんと過ごし、孤高の雰囲気を漂わせる彼女だが、
夜はレストラン・バー『サンドリヨン』で華麗なマジックを披露する。

マジックの腕前のみならず、推理の冴えも抜群で、須川くんとともに
校内で起こったいくつかの事件の真相に迫ってきた。

クリスマスの日、思い切って初にプレゼントを渡した須川だが
果たして二人の仲は縮まったのか?

そんな二人の前で展開する ”事件” を描いた連作短編集、第2巻。

ちなみに「サンドリヨン」とは「シンデレラ」のフランス語表記で
「ロートケプシェン」とは「赤ずきん」の意味だそうです。


「アウトオブサイトじゃ伝わらない」
須川くんはカラオケに誘われた。メンバーは同級生の織田(女子)、
幼馴染みで高校の上級生でもある白山(男子)、
そして同じく先輩の香坂(女子)、総勢男女4人である。
5時間歌い続けた後、マクドナルドで食事となったが
お手洗いから帰ってきた織田がなぜか涙目になり、帰ってしまう・・・

「ひとりよがりのデリュージョン」
屋上へと続く階段の踊り場で、須川くんは友人の三好から
封筒に入った ”水着の写真集” を受け取る。
しかし、焦りの気持ちがあったのか(笑)、封筒を抱えた須川くんは
廊下の曲がり角で文芸部の笹本(女子)と出会い頭の衝突、
笹本が持っていた封筒(中身は文芸部が発行した小説冊子)と
取り違えてしまうことに。入れ替わりに気づいた須川くんは
なんとか笹本に内緒で封筒を取り戻そうと、彼女の動向を伺う。
しかし、彼女がその封筒をしまったはずのロッカーから、
例の ”写真集” は姿を消していた・・・
高校生くらいの頃は、女性の肌の露出が多い写真(笑)が載った雑誌とか
買う勇気が出ないんだよねぇ。私も『GORO』を始めて買ったのは
大学生の頃だったなあ・・・なんて純情だったんだろう(遠い目)。

「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」
バレンタインデーを迎え、チョコをもらうのあげるのと学校は大騒ぎ。
しかし、午後の学年集会から戻ってきた須川たちは驚く。
昼休みにクラス中を飛び交って各人の机や鞄の中に収まったはずの
無数のチョコが抜き出されて、教壇の上に集められていたのだ。
犯人の意外な動機に驚かされる一編。
しかし八反丸さんは性格悪いねぇ。須川くんは人が良いにもほどがある

「スペルバウンドに気をつけて」
「ひびくリンキング・リング」
本書の冒頭の「プロローグ」から、ここに至るまで、”トモ” という
女子生徒が一人称で語るエピソードが断片的に挿入されてきた。
”トモ” は須川くんや初と同じ学校で同学年、ただしクラスは別だが
友人たちから ”仲間はずれ” にされるといういじめに遭っている。
中盤からは不登校状態になってしまい、進級も危ぶまれる状態。
彼女の存在は、中盤まではストーリーの背後に見え隠れしているが
終盤の二編に至り、表面に浮上してきて須川くんも初も関わっていく。


前作よりも初さんは落ち着いてきたかな。
感情の起伏も穏やかになったようで、
コレは間違いなく須川くんのおかげでしょう。
ただ、その須川くんはあまり成長したようには見えず、
相変わらずのヘタレ(笑)なんだが、それが彼のいいところか。
写真集のエピソードや、女子生徒の太腿ばかり見てしまうなど
年齢相応の ”悶々ぶり” には、私も昔を思い出して笑ってしまう。
これからも、変に悟ったようなキャラにならないでいってほしいなぁ。

明るく楽しいだけの学校生活ばかりではなく
ダークな面からも目を背けないで描かれる。
ミステリではあるけれど、二人とも高校生であるから
真相に気づいたとしても、それで解決するわけではない。
”トモ” に対するいじめにしても、二人がそれを止めることはできない。
でも、だからといって何もしないのではなく、
精一杯、自分たちにできることをする二人の行動が
読者にとっては救いになる。

作者は3作目も発表する予定があるらしいので、
須川くんと初さんの物語はまだ続くのですね。

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