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さよならアリアドネ [読書・SF]


さよならアリアドネ (ハヤカワ文庫JA)

さよならアリアドネ (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/10/21
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

 主人公は服部政志、33歳。職業はアニメーター。
 妻・陽子は35歳。雑誌の編集者だ。大学の先輩でもある。
 子どもはいないが夫婦仲は円満、仕事は順調、充分に幸せだ。

 2010年3月26日。
 陽子は大学時代の友人と共に1週間のハワイ旅行へと旅立った。
 1週間の ”独身生活” を手に入れた政志だったが、夫婦が暮らす吉祥寺のアパートに「アリアドネ邦子」と名乗る中年の女性が現れる。

 彼女は語る。
「私は40年後、2050年の時空興信所からやってきた。
 これからあなたに、15年後の2025年8月23日の予行練習をしてもらう」

 この日を境に、政志は坂道を転げるように不幸になり続け、二度と幸福な日々には戻れない人生を送るのだという。
 具体的には、この日を境に51歳の陽子の心は48歳の政志から完全に離れ、やがて離婚に至る。政志は死ぬまでこれを後悔し続ける。

 依頼者は40年後の、73歳になった政志自身。陽子への謝罪のために全財産を投げ出したのだという。

 現在から2025年に至るまでの、政志の辿る人生に起こるイベントを滔滔と語る邦子。そこには、2人が不仲になっていく原因となる出来事も含まれていた。
 その言葉に感化されたのか、彼は邦子の言うままに15年後へのタイムトラベルに出発する。

 時を超えるのは政志の ”魂” だけ。2025年では48歳の政志の意識に宿ることになる。
 そして、8月23日を体験できるのは72回(!)まで。つまり ”あちら側” では72日分の時間を体験するわけだ。
 ちなみに ”こちら側” の2010年では72時間、つまり3日間の時間が経過する。

 そして ”飛んだ” 先の2025年8月23日。
 48歳の肉体に宿った政志は51歳の陽子と対面するが、態度はかなり冷たい。もうかなり愛想を尽かされているようだ。
 陽子との仲を修復すべく奮闘を始めるのだが、15年かけてこじれた関係が、たった1日で簡単に覆るはずもない。
 回数はたくさんあっても、ことごとく失敗を続けていき(このあたりのドタバタぶりもけっこう笑える)、残り回数もわずかになっていく・・・

 というわけで、(個人レベルの)歴史の修復という、タイムトラベルのパターン通りの作品なのだけど、ここで終わればよくある話のひとつになるだろう。

 もちろん、最終ターンにおける陽子と政志のドラマは感動的で、これだけでも水準以上の出来だと思うのだけど、実はここまでで本書の約半分。この先も物語はあるのだ。

 後半は邦子自身を巡る物語に政志が介入していくことになる。そしてその結果が前半で迎えた結末をさらに上書きしていく。
 どういうふうに変化するのかはネタバレなのだけど、そこは本書の評価を見て判断してください(笑)。

 作者は宮地昌幸というひと。読み終わってからwikiで検索してみたら、スタジオジブリ出身のアニメ監督さんで、小説も書く人らしい。
 ちょっと驚いたのは、2月4日公開のアニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』を安藤雅司氏と共同で監督しているということ。

 この映画に合わせて読み始めたわけでなく、単なる偶然のタイミングだったのだけどね。これも何かの縁でしょうか。



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総閲覧数220万回突破 & 近況 [このブログについて]


本日、このブログの総閲覧数が220万に達しました。
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 2006年1月2日の開設以来、約16年と1ヶ月での達成です。
 日数で数えると5871日め。単純平均で1日あたり374くらいです。
 210万アクセス(2021/8/11)からは171日かかりました。この間の1日平均は584くらいですかね。

 たくさんの方に覗きに来ていただいて、本当にありがとうございます。

 それでは、毎回恒例の近況報告などを・・・と書いてみたのですが、前回とほとんど変わっていません。

 昨年末にも書きましたが、年金がもらえる身分になったことがいちばん大きな変化でしょうか。
 もちろん年金だけでは暮らせませんから働いてますし、かみさんも働いてますから、世帯で見れば生活は何とかなってます。

 旅行は全くしてません。秋の行楽シーズンもほとんど家にいました。
 その代わり、近場のショッピングモールでの買い物や外食(家族のみ・酒抜き)はちょこちょこ行きましたが・・・

 私の住んでる自治体でも、コロナウイルス3回目接種の案内が発送され始めたみたいですが、私より先にかみさんに届きました。あっちは職場の集団接種で私より先に済ませましたからね。私に通知が届くのは来月でしょう。

 オミクロン株が猛威を振るっていて、私の職場でも感染者こそ出ていませんが、家族が感染して濃厚接触者になってしまい、自宅待機になっている人がいます。今のところ仕事に大きな支障は出てませんが、先はわかりません。
 私の職種はいわゆるエッセンシャルワーカーではないので、期間は10日間だったかな? 期間を短縮するようなニュースも聞きましたが、どうなってるのでしょうか・・・

 毎回書いてますが、まとまりのない駄文を垂れ流してきたこのブログ、なんとかここまで続けてこられているのは、のぞきに来ていただいてる皆様のおかげです。ありがとうございました。
 そして、これからもよろしくお願いします。 m(_ _)m  ぺこり

 コロナウイルスに負けないように気をつけて、これまで通り焦らず慌てずのんびり続けていきます。



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黒猫のいない夜のディストピア [読書・ミステリ]


黒猫のいない夜のディストピア (ハヤカワ文庫 JA モ 5-9)

黒猫のいない夜のディストピア (ハヤカワ文庫 JA モ 5-9)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/05/18
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

 24歳という若さで大学教授となった、「黒猫」と呼ばれる青年。
 彼と大学の同級生で、大学院生だった ”私” は彼の「付き人」を務めることになる。

 この2人(というか主に ”私” )が巻き込まれた事件を、黒猫が解決していく連作ミステリ・シリーズ・・・だったのだが、『黒猫の回帰あるいは千夜航路』において2人はめでたく恋人同士となった。

 同時に ”私” は大学院を修了して博士研究員(いわゆるポスドク)となり、「付き人」という立場を離れてこちらも研究者を目指すことになった。

 というわけで本書から黒猫シリーズ第二期の開始、ということらしい。

 ”私” は、自宅のある所無(ところなし)の駅前で、自分にそっくりの女性に遭遇する。髪は白銀色、真っ白の服、白いピアス、白いチョーカー、白銀色のカラコン。ついでにリップも白という、全身白ずくめ。
 しかし彼女は ”私” を見つけると逃げ去ってしまう。

 ちなみに、「所無」のモデルは埼玉県所沢市と思われる。

 〈反美学〉についての論文を執筆中だった ”私” は、学部長の唐草教授から灰島浩平という研究者に引きあわされる。天才だが、傍若無人な振る舞いでも知られている人物だ。
 灰島に、自分そっくりの女性について話した ”私” だったが、それはドッペルゲンガー(幻覚)だと断言されてしまう。

 肝心の黒猫は滋賀県への出張に出かけて不在。しかも出発前に気まずい雰囲気になっていたため連絡もできない。

 しかしその後も ”白装束の私” の目撃者は増え、”私” の家には謎の暗号が記された葉書が届き、ついには母がその女性と会っている場面に遭遇してしまう・・・

 犯罪というよりは、”白装束の私” の正体を巡る物語。
 とはいっても彼女の正体は何となく見当はついてしまう。作者もそこはあまり隠そうとしていないみたいだし。
 それよりも、彼女が ”私” の周辺に執拗に現れる「理由」の方がメインの謎だろう。

 毎回のことだけど、美学を巡る蘊蓄の散りばめられた会話は健在だ。
 ”私” と灰島、”私” と黒猫。議論が白熱するシーンも多々。
 ただまあ、私の方にその方面の素養は皆無なので(笑)、なかなかついていくのはたいへん、というかほとんど置いてきぼりなんだけどね。
 でも本書をミステリとして楽しむにはそこがわからなくても大丈夫だと思う。もちろん理解できた方がより楽しめるんだろうけど、そこまで分かる人はそんなに多くはないんじゃないかな。

 ラストでは、次巻に向けた新しい展開が語られる。
 灰島を含めて新しいレギュラーメンバーになりそうなキャラも登場して、ひと波乱ありそうな予感も。
 ”私” に安息の時が訪れるのはまだまだ先になりそうだ。



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化学探偵Mr.キュリー10 [読書・ミステリ]


化学探偵Mr.キュリー10 (中公文庫 き 40-15)

化学探偵Mr.キュリー10 (中公文庫 き 40-15)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2021/05/21
  • メディア: 文庫

評価:★★★

 人呼んで ”Mr.キュリー” こと四宮大学理学部化学科准教授・沖野春彦と、大学総務部職員の七瀬舞衣がコンビを組んで、大学の内外で起こる事件を解決していくシリーズ、その第10弾。

 本作は短篇集ではなく長編となっている。

 北欧の小さな王国・マイセンのユリヤ王子が四宮を訪問してきた。
 王子の母は日本人で四宮出身だった。それが縁で、マイセン王国の首都と四宮は姉妹都市になっていたからだ。

 王子には、3つの目的があった。

 ひとつは四宮大学で1か月、”特別留学生” として研究活動をすること。彼は大学時代に化学を専攻していたのだ。
 これについては、沖野の研究室で受け入れることに決定する。

 ふたつめは、母の残した謎の遺言「王国の未来を考えるためには、四宮を知らなければならない」の意味を確かめること。
 接待役になった舞衣は、王子と共に市内を巡って調べ回ることになる。

 三つ目は王妃候補を見つけること。王子は現在25歳だが、父王が病気がちなため、王位を継ぐのも近そうだ。そのためにも早く結婚したい。
 そして王子が候補として指名したのは・・・

 このユリヤ王子を巡る事態と並行して、入江という学生の不審な行動に関わっていく舞衣が描かれる。

 入江は四宮大学の経済学部なのだが、なぜか農学部の実験室に侵入していた。やがて舞衣は、彼が袖崎という謎の男と接触していることを知る。
 袖崎は沖野の元同級生で、麻薬所持で逮捕された過去があった・・・

 うーん、サブストーリーとなる袖崎と入江のエピソードは、もっと深刻かつ盛り上がるかと思ったけど、今ひとつかなぁ。

 メインストーリーの方は、ひと言で言うと「みんな王子が悪い」(笑)。
この人がしっかりしてりゃ、事態はこじれなかったんだから。

 10巻めを迎えた長期シリーズで、レギュラーキャラにまた会えたのが嬉しかったから星3つつけたけど、単発作とか1作めだったら星2つか2つ半だったかも。

 本シリーズはサザエさん時空ではなくて、しっかり時間が経っている。
「沖野と舞衣が出会ってから2年5か月」って作中にも明記されているし。
おおむね4巻で1年というペースだね。
 ということは、舞衣さんは24~25歳になったのかな。沖野はそろそろ40歳だろう。さて、この2人はどうなるのか。
 もう少しこのまま見ていたい気もするし、そろそろ沖野の方がはっきりさせるべきじゃないかと思ったもするし。



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不見の月 博物館惑星II / 歓喜の歌 博物館惑星III [読書・SF]


不見【みず】の月 博物館惑星Ⅱ (ハヤカワ文庫JA)

不見【みず】の月 博物館惑星Ⅱ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 菅 浩江
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/04/14
歓喜の歌 博物館惑星Ⅲ (ハヤカワ文庫JA)

歓喜の歌 博物館惑星Ⅲ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 菅 浩江
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/04/14

評価:★★★★

 地球から38万km、月と同じ軌道上に浮かぶ小惑星<アフロディーテ>。
 オーストラリア大陸と同じ表面積を持ち、マイクロブラックホール技術を用いて地表面での1Gの重力を実現している。
 そこは全世界からありとあらゆる芸術品が集められ、収蔵されている巨大博物館となっている。
 併設されている劇場では音楽・演劇・舞踏などが行われ、広大な面積を生かした動物園・植物園では様々な生物が育成されている。

 ここのコンピュータには、各種の芸術や生物についての膨大なデータが蓄積されており、勤務する学芸員たちは脳外科手術によってこれらのデータベースと直接接続して、収蔵品の分析・鑑定・研究を行っている。

 シリーズ第1巻である前作は、ここで働く学芸員・田代孝弘が、収蔵品や芸術作品にまつわる ”謎” やトラブルの解決に関わっていく・・・という連作短篇集だった。

 続編となる「II」と「III」では、兵藤健という青年が主人公となる。内容的もこの2冊は連続しているので、まとめて記事にした。

 健は学芸員ではなく、アフロディーテに設営された「権限を持った自警団」(略称VWA)の新人隊員だ。
 自警団とはいってもVWAは国際警察機構の傘下にあるので、要するに博物館の警備員と警官を兼ねているわけだ。

 アフロディーテの学芸員が芸術に関する膨大なデータベースに直接接続してしているように、警察官は警察機構のデータベースに直接接続している。健もまたそうなのだけど、彼には任務がもう一つある。

 彼は ”正義の女神”〈ディケ〉(健は ”ダイク” と男性名で呼ぶのだが)という情動学習型AIにも接続していて、任務を通じてそれを ”育てる” ことも課されているのだ。
 その目的は、将来的には〈ディケ〉が人間の情動を理解し、犯罪を未然に防止することができるようになること。

 健がAI〈ダイク〉とバディを組んで、アフロディーテで起こるさまざまなトラブルや事件に対応していく連作短篇集だ。

 そしてもう一人の主人公が、こちらも新人学芸員の尚美・シャハム。
彼女の上司となるのが田代で、前巻で登場した学芸員や職員たちも、脇役として随所に顔を出す。

 尚美は健とはソリが合わないようで、顔を合わせればケンカをふっかけてくるような気の強いお嬢さん。
 「II」「III」では、この新人2人+AI〈ダイク〉が巻き込まれる事件の数々が描かれる。またそれにつれて2人は成長していくし、関係性にも変化が生じていく。

『不見(みず)の月 博物館惑星II』
「I 黒い四角形」
「II お開きはまだ」
「III 手回しオルガン」
「IV オパールと詐欺師」
「V 白鳥広場にて」
「VI 不見の月」

『歓喜の歌 博物館惑星III』
「I 一寸の虫にも」
「II にせもの」
「III 笑顔の写真」
「IV 笑顔のゆくえ(承前)」
「V 遥かな花」
「VI 歓喜の歌」

 前巻に引き続き、展示品や美術品を巡る ”美” というものについての様々な蘊蓄や思想、さらにはSF的アイデアが盛り込まれて、楽しくかつ面白い作品集になっている。
 私は美術には疎い人間で、中学校時代の美術の成績なんて人に見せられたものではない(だから高校では音楽を選択した)のだが、それでも本書は充分に楽しめたよ。

 基本的に一話完結なのだけど、全体を通してのストーリーもある。

 だいたい親戚の中には一人くらい ”外れ者” というか変人がいたりするものだが、主人公の健にも丈次(じょうじ)という叔父がいる。謹厳実直な警察官だった父とは異なり、飄々とした流れ者で滅多に顔を出さない。

 どこに住んでいるのか何を本業にしてるのかも判らないのだが、どうやら美術品詐欺に手を染めているようで、連作集の中のいくつかの短篇では、事件の裏にあって黒幕的な存在感を示す。
 〈アフロディーテ〉の厳しいセキュリティを軽々と突破して、内部に自由に出入りしてしまうなど、その方面ではなかなかの ”腕” なのだろう。

 健とシャハムが日々の事件解決に奔走する中、〈アフロディーテ〉創立50周年記念フェスティバルが迫ってくる。
 そしてその時を狙って、国際的な贋作組織が〈アフロディーテ〉で取引を行おうとしていた。
 VWAはこれを機会に組織を摘発することを計画し、健に密命が下るのだが、そこに意外な形で丈次も関わってくる・・・

 最終話「歓喜の歌」では、創立50周年記念フェスティバルを迎えた〈アフロディーテ〉の人々の様子が描かれる。それまでの短篇に登場したゲストキャラたちも顔をそろえ、まさにカーテンコール状態。
 健、シャハム、〈ダイク〉、そして丈次を巡る物語も大団円を迎える。

 健とシャハムについてはこれで一区切りになるのだけど、〈アフロディーテ〉はこれからも存在し続けるので、できたら続きが読みたいな。孝弘と美和子のその後も知りたいし。



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柘榴パズル [読書・ミステリ]


柘榴パズル (文春文庫 あ 87-1)

柘榴パズル (文春文庫 あ 87-1)

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/05/07
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

 タイトルの柘榴(ざくろ)という果物は、ひとつの実から多くの種が採れることから、子孫繁栄をあらわすといわれている。
 本書では「家族」を意味する言葉として用いられているのだろうと思う。

 語り手は19歳の専門学校生・山田美緒(みお)。
 いつもニコニコと気立てのいい母・ショーコ。
 ちょっと認知症気味だが、お茶目な冗談を飛ばす祖父・源一郎。
 生意気で甘えん坊の妹・桃子は10歳。
 面倒見がよくしっかり者の兄・友広は大学3年生。
 そして三毛猫の龍之介。

 本書はこの一家が過ごす、ひと夏の物語。
 その中でいくつかの不思議な事件が起こる、”日常の謎” 系ミステリの連作短篇集だ。
 場合によっては探偵役となって事態を解決に導いていくのは、頼りになる兄貴である友広くんだ。

 しかし、各話の間には新聞記事が挿入される。それは何者かが住宅に侵入し、就寝していた一家を殺傷したという事件。その日付は9月10日・・・
 という不穏な情報が開示されつつ、物語は進行していく。

「第一章 金魚は夜泳ぐ」
 商店街で10年ぶりに夏祭りが開かれることになった。
 飴屋『たつや』の息子・太一は美大でガラス工芸を学んでおり、夏祭りで展示するためのオブジェを制作していた。しかし、完成したオブジェが何者かに壊されてしまう。しかも現場は密室状態だった・・・

「第二章 月を盗む」
 友広がアルバイトをしている写真スタジオを訪れたのは長谷川充と片桐奈々。どちらも友広のサークルの後輩で、結婚を決めていたのだが奈々の両親が反対をしていた。
 駆け落ちする前に結婚写真を撮っておこうとした二人だが、そこに奈々の両親が乱入してくる。奈々はスタジオから逃げ出して控室に籠もるが、そこから姿を消してしまう。控室には窓もなく、密室状態だったのに・・・

「第三章 ゆりかご」
 酒屋の犬が子犬を産んだ。桃子はその子犬が飼いたいと、家に連れてきてしまう。家族みんなが反対し、返せ返さないと揉める中、突然の停電が。
 そして灯りがついたとき、子犬はいつの間にか人間の赤ん坊に変わっていた・・・
 いやあ、これは心温まるいい話だ。

「第四章 家族狂奏曲」
 箱根への温泉旅行にやってきた山田家。
 露天風呂に向かった美緒と桃子は、浴場で旅館の仲居さんが倒れているのを発見する。彼女が女湯に入ったらカメラを持った男がいて、声をかけたら突き飛ばされて転倒したのだという。
 しかしその男は、現場から誰にも目撃されずに消えてしまう・・・この密室状況からの消失トリックはなかなかユニークで面白い。

「第五章 バイバイ、サマー」
 ここまでの4章の中で、”坂口” と名乗る謎の男が、山田家につきまとうように時たま出没しているのが描かれてきている。
 短編ミステリ連作集によくあるように、この最終話にいたって物語の全体像が明らかになる。冒頭から掲げられている新聞記事の意味も。

 本書を読んでいくと、時たま「あれ?」って引っかかる描写があるので、ミステリを読みなれた人ならある程度の真相は見抜けるだろうが・・・

 これ以上何を書いてもネタバレになりそうなので、本書の評価につけた私の星の数でお察しください(笑)。


 最後に「エピローグ」があるのだけど、ラストの展開にびっくり。○○の ”爆弾発言”(笑) もスゴいけど、いかにもこの作者さんらしい結末ともいえる。このエンディング、私は大好きだ。

 以前にアップした、同じ作者の『金木犀と彼女の時間』の記事に書いた言葉を、また書かせてもらおう。
 小説の終わりが物語の終わりではない。ここからまた新しいストーリーが始まる。この素晴らしい ”着地点” に拍手だ。



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『ヤマトよ永遠に REBEL3199』制作決定 [アニメーション]

 一昨日(19日)、公式サイトにて発表されました。

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 続編制作は当然あるだろうなって思ってました。
 旧作からのファンの方なら先刻ご承知でしょうが、1979年のTVスペシャル『新たなる旅立ち』と1980年の映画『ヤマトよ永遠に』は、2作でワンセットというか ”暗黒星団帝国篇” を構成していましたからねぇ。

 おそらく2/4公開の『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 後章』でもデザリアムとの決着はつかずに終わり、この『REBEL3199』につながるんでしょう。

 でも、発表は後章公開と同時くらいかと思ってましたら、ちょっと驚き。

 以下は、この作品ロゴを見ながらの私とかみさんの会話。

「ヤマトの続編ができるよ」
「すごーい! でもこの3199って何?」
「たぶん西暦3199年のこと」
「ずいぶん時代が飛ぶのねぇ・・・
 でもそれじゃ、みんな死んじゃってるじゃない」

 かみさんは旧作は『さらば』までしか観てない。

「いや、これはねぇ・・・『新たなる旅立ち』で戦ってる相手って、旧作では ”我々は未来の地球人だ” って言い出すんだよ。
 だからたぶん、今回のデザリアムも、”我々は未来人だ” って自己申告(笑)するんじゃないかな」
「へぇ~それで3199年? そんな未来で戦うの?」
「いや、そうじゃなくって。たぶん、デザリアムの方々は3199年・・・かどうかはわからないけど、とにかく未来から2205年にやってきてるんだよ。
 だから古代やデスラーと戦ってるわけ」
「スゴい設定だわねぇ」
「でも旧作では、未来人だったってのはウソだったってことになるんだけどね。正体は普通の(笑)異星人だった」
「あら」
「今回のデザリアムが旧作通りに ”なんちゃって未来人” になるのか、自己申告通りになるのかは判らないけどね。私としてはガッツリ未来人として描いて欲しいんだけどなぁ・・・」
「ふぅ~ん。でも、ヤマトってやっぱりスゴいわぁ・・・」
「たしかに、つぎ込んでるアイデア自体はたいしたものだと思うよ。ただ、演出とか展開がイマイチでねぇ・・・」

 旧作の『ヤマトよ永遠に』は、ご都合主義と後付け設定のオンパレードで、それをノリと勢いで強引に押し切った作品でしたからねぇ。

  さて、リメイク版のタイトルで気になるのは『REBEL』の部分。
 ”REBEL” とは ”反逆者” とか ”反抗する者” という意味らしい。これは誰を指すのか?

 順当に考えたらヤマト(またはヤマト艦隊)とそのクルーかなぁ。デザリアムが言うところの ”歴史に残らぬ弱者たち” の反撃、ってところかと。

 あと旧作では、地球が占領された後に防衛軍の残党(?)がパルチザン化してましたから、今回もそんな展開になって・・・とか。
 それとも、デザリアムの世界にも反体制派でがんばってる人たちがいるのかも知れないし。さて、この正体は何でしょうね・・・?

 そしてメインヒロインは・・・やっぱりサーシャでしょうかねぇ・・・こちらもどんな運命を辿るのでしょうか・・・旧作をなぞったら哀しすぎるよねぇ・・・

 なぁんてあれこれ考えましたけど、まるっきり予想外の展開になるのかも知れません。デザリアムにボラー、ディンギルとかが出てきて、銀河規模の壮大でカオスなバトルロイヤル(笑)に突入するのかも知れないし。

 毎回書いてますが、ヤマトの新作についてあーだこーだと妄想を巡らすことができるなんて、いい時代になったものです。

 過度の期待はせず、かといって悲観もせず、淡々と次の情報開示を待ちましょう。


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月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿 [読書・ミステリ]


月と太陽の盤: 碁盤師・吉井利仙の事件簿 (光文社文庫)

月と太陽の盤: 碁盤師・吉井利仙の事件簿 (光文社文庫)

  • 作者: 悠介, 宮内
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★

 主人公兼探偵役を務めるのは碁盤師・吉井利仙(りせん)。
 かつては囲碁の棋士だったが、五十路に入った今は囲碁用の碁盤作りを生業としており、日本各地を巡って碁盤に適した木材を探し回る日々を送っている。

 サブレギュラーは3人。
 まず利仙の弟子・愼(しん)。16歳ながら将来を嘱望されている新進棋士だ。利仙に憧れ、押しかけ弟子となっている。
 その姉弟子の蛍衣(けい)。こちらは18歳の女流棋士だ。
 そして碁盤贋作師の安斎優。碁盤は高いものだと1000万円台もするらしいから、碁盤の贋作も横行するのだという。

「青葉の盤」
 山口の山中にいた利仙と愼は、逸美という女性と出会う。
 彼女の父・昭雪(しょうせつ)はかつて碁盤師だったが、彼の作った碁盤を巡って当時の本因坊と確執が生じた。それによって仕事を失い、やがて昭雪は不審な死を遂げた・・・
 昭雪の死の謎と碁盤の謎が解かれる。後者の方は素人には分からないけれど、本作によって ”碁盤つくり” というものの奥深さを教えてくれる。

「焔の盤」
 美術館で展示されることになった碁盤・〈紅炎〉。しかし利仙の前に現れた贋作師・安斎は、自分の手元にある方こそ本物で、展示予定のものが贋作なのだという・・・
 碁盤の真贋を巡る駆け引きがコン・ゲーム的に描かれる。

「花急ぐ榧」
 利仙が過去に不出来な碁盤をつくっていたという。安斎からそう聞かされた愼と蛍衣は、新潟の山中に呼び出される。
 そこで安斎が語り出したのは、20年以上前の思い出話。彼と利仙と、”Y” という女性の3人が過ごした日々のことだった・・・
 男女の愛憎を巡る物語は、ちょっと連城三紀彦を思わせる。ただ、連城作品ではたいてい悲劇的な結末で終わるのだが、こちらはひと味違うラストを迎える。

「月と太陽の盤」
 囲碁のタイトル〈九星位〉戦の朝、九星位保持者の笠原八段が墜落死体で発見される。場所はタイトル戦が行われるビル〈岩淵記念館〉の中庭。
 笠原は対戦前日から記念館に泊まり込んでいた。セキュリティが厳しく、建物への出入りはできなかったことから、記念館内に滞在していた他の棋士が容疑者となるが・・・
 文庫で80ページと本書の中でいちばん長く、かつ本格ミステリらしい作品。途中からは安斎も顔を出し、事態を混乱させつつ(笑)、真相への手がかりももたらす。
 探偵役はほとんど愼が務めるが、もちろん利仙もラストに登場して物語を締める。

「深草少将」
 18歳となった愼は、メキシコで1年間、囲碁の普及活動に携わることになった。旅立つ前にもう一度利仙に会いたいと思った愼は京都にやってきた。すると、愼が泊まった部屋の前に、一粒の榧の実が置かれていた。これは利仙が持ってきたものと思われた。これは何を意味するのか?
 師を探す愼は、やっとのことで見つけることができたのだが・・・
 本作はミステリというよりは、利仙が ”人生の師” として愼に語るアドバイスがメインかな。

「サンチャゴの浜辺」
 利仙(と思われる男)がメキシコを訪れたときのエピソード。
 上記の4編とは異なるテイストで「番外編」ともいうべき内容だ。時系列的にも「深草少将」よりも前だと思われる。
 他の4編はみな日本国内を舞台とし、物語的にもそこで完結するのだけど、この作品は国際情勢にも関わっていて、宮内悠介らしいといえばらしい。

 私は囲碁に関しては何も知らないのだけど、それでも本作を楽しむには支障はない。碁の世界や碁盤作りに関する蘊蓄もたっぷりあって、そちらも楽しめる。

 安斎優というキャラがまたユニークだ。悪役なんだけど何となく憎めない。悪いことはするけれど、暴力よりは頭脳労働に重きを置いていることもあるだろう。
 利仙とは不倶戴天の敵同士であるけれどライバルとも言える。ともに棋士として過ごした時期もあり、ある種の友情も感じていそうだ。

 蛍衣さんもなかなか魅力的な女性だ。愼に対しては姉みたいな接し方だけど、「深草少将」以降はもうちょっと関係に変化が起こりそうな気配も窺われる。

 できればこのキャラたちのその後の物語が読みたいなぁ、と思う。


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金木犀と彼女の時間 [読書・ミステリ]


金木犀と彼女の時間 (創元推理文庫)

金木犀と彼女の時間 (創元推理文庫)

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/04/28
  • メディア: 文庫




評価:★★★★

 主人公で語り手を務めるのは上原菜月という少女。

 彼女は過去に二度、不思議な経験をしていた。突然、ループする時間の中に入ってしまうのだ。
 気がつくと1時間前の世界に戻っており、それが5回繰り返される。そして5回目の世界で起こったことが ”確定した過去” となっていく。

 一度目は7歳のとき、二度目は中学2年生の時。しかしどちらも彼女にとっては辛い経験でしかなく、性格形成にも大きな影響を与えた。
 高校に入学した菜月は、周囲から浮くことを極端に恐れ、常に場の空気を読んで目立たないことを心がける生徒になっていた。

 そしていま彼女は高校3年生。最後の文化祭を目前にしていた。

 本書の前半は、主に文化祭の準備に奔走する菜月のクラスメイトや下級生たちの姿が描かれる。
 男子も女子もユニークな人材が揃っていて、かなりの大人数が登場するのだけど、読んでいても迷うことが少ないのはキャラの書き分けが上手いからだろう。

 そして迎えた文化祭当日。菜月はクラスメイトの天野拓未(たくみ)から声をかけられる。
 「文化祭が終わった後の午後5時、校舎の屋上に来てくれ」

 拓未はクラスのムードメーカー的存在で、女子からの人気も一番という明朗快活な爽やか系男子。
 約束の時間に屋上にやってきた菜月は、なんとその拓未から想いを告げられることに。

 まさかの告白に驚く菜月だったが、次の瞬間、彼女は1時間前の世界に戻っていた。人生で3度目のタイムリープに巻き込まれたのだ。

 再び拓未と会うために屋上へ向かおうとした菜月は、衝撃的な光景を目撃する。彼が屋上から転落死するところを。

 いったい誰が、どんな理由で拓未を殺したのか?
 菜月は残った4回の ”ループ” の中で奔走する。拓未が死なない未来を見つけるために・・・

 タイムトラベルとラブ・ストーリーは相性がいいが、そこにミステリが加わる。
 さらに回数制限があり、最大でも5時間という ”タイムリミット” が設定されるのでサスペンス性も。これで面白くならないわけはない。

 この手の話のお約束で、ループを繰り返しても事態は一向に改善されることなく、”時間” だけが過ぎていき、ラストの1回を残すのみに。

 ミステリ的興味もあるけれど、それよりも印象に残るのは ”事件” を通じた菜月の成長だ。

 波風立てずに受け身に徹して生きてきた彼女が、”拓未の死” に背中を押されて能動的に行動し始める。そしてそれが、今までの彼女が築いてきた周囲の人間たちとの関係にも変化をもたらしていく。

 失敗を繰り返してループを続けるたびに、拓未へ抱く思いもまた、次第に大きくなっていく。今まで知らなかった拓未の一面を知るたびに一喜一憂する菜月は、やっぱり年頃の女の子なのだなぁと思ったり。
 まあ一種の ”吊り橋効果” かもしれないけど(笑)、菜月の一途で純真な行動はとても健気だ。

 拓未の死を防ぐということは、逆に考えれば、犯人を ”殺人者” という立場から救い出すことでもある。
 その犯人と菜月が対決する終盤がクライマックスとなる。どう決着するかは最後まで予想がつかず、ハラハラさせられる。

 そしてラスト3ページの展開がまたいい。やっぱり頑張ったヒロインは報われないとねぇ・・・

 小説はここで終わるが、菜月の新たな物語はこの最終ページから始まる。
 登場人物たちの人生はこれからも続いていく。それもおそらく、明るいであろう未来が待っている。
 そう感じさせてくれる、心地よい読後感を与えてくれる作品だ。





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決戦は日曜日 [映画]


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 まずは公式サイトの「STORY」から引用すると

「とある地方都市。

 谷村勉(窪田正孝)はこの地に強い地盤を持ち当選を続ける衆議院議員・川島昌平の私設秘書。秘書として経験も積み中堅となり、仕事に特別熱い思いはないが暮らしていくには満足な仕事と思っていた。

 ところがある日、川島が病に倒れてしまう。そんなタイミングで衆議院が解散。後継候補として白羽の矢が立ったのは、川島の娘・有美(宮沢りえ)。
 谷村は有美の補佐役として業務にあたることになったが、自由奔放、世間知らず、だけど謎の熱意だけはある有美に振り回される日々…。

 でもまあ、父・川島の地盤は盤石。よほどのことがない限り当選は確実…だったのだが、政界に蔓延る古くからの慣習に納得できない有美はある行動を起こす――それは選挙に落ちること!

 前代未聞の選挙戦の行方は?」

 選挙がテーマの映画は珍しいのだろうけど、素材としては面白そうだ。というわけで、けっこう期待して観にいったのだけど・・・

 うーん、全体を通して感じたのは「中途半端」さ。

 父親の病気により、突然候補者に祭り上げられたヒロインが、謎の熱意に突き動かされ(笑)、旧弊に凝り固まった選挙区の事情に振り回されながらも暴走する。
 描きようによってはとっても面白くなりそうな内容なんだけど、(私の解釈が間違っていなければ)基本的には喜劇(のはず)なのに、見ていて少しも笑えないのはなぜだろう?

 世間知らずのお嬢様育ち、ついでに常識にもかなり欠ける。宮沢りえ演じる有美の設定だ。だからこそ、過去のしがらみを打破する暴走ぶりを期待したりしたのだけど、そこまで突っ張るほどの根性はなさそうだ。
 しかしそれ以前に、有美さんのキャラが好きになれないことのほうが問題だろう。単なる我が儘で、秘書に対してパワハラし放題、演説原稿の漢字も満足に読めない。頭に血が上ると暴力に訴えるところに至っては、なんてトンデモナイ女なんだ、と呆れてしまう。
 彼女に何をさせたいのかよく分からないままに時間は過ぎていく。彼女の演技力は折り紙付きのはずなんだけど、宝の持ち腐れ感が。

 一方、後援会を始め、国会議員と深く癒着した地元の政財界、そこにうごめく魑魅魍魎たちの描写は、類型的ではあるけどなかなか闇の深さを感じさせる。それはいいのだが、そのへんの闇を深く描けば描くほど、コメディ映画の雰囲気からは遠ざかってしまう。

 喜劇がやりたいのか実録ものを見せたいのか。ひょっとしたら両方を狙ったつもりなのかも知れないが、そうだとしたらどっちも的を外しているようにも思える。
 私はもっと徹底的にはっちゃけたコメディを期待してたのだけど、私と同じような思いで映画館に足を運んだ人は「思ってたのと違う」「期待外れ」って感じたんじゃないかなぁ。

 窪田正孝が演じる秘書・谷村も、当初は先代からの旧体制存続を最大目的とする前例主義・事なかれ主義でサラリーマン気質に凝り固まっている。
 終盤になると有美に感化され、共謀して ”落選” を目指すのだけど、そのあたりの心境の変化も今ひとつ分かりにくい。

 終盤、谷村が隠し撮りした事務所内部の様子がSNSに挙がって大騒ぎになるシーンがあるのだけど、映像のアングルを観れば谷村が撮影者であることは一目瞭然のはず。加えて、谷村だけ映ってないし。
 「これ、絶対バレるだろ」・・・だけどほとんどの者は谷村の仕業と気づかない。ここ、観ていておかしいと感じた人は少なくないんじゃないかなぁ・・・
 私も、この部分はずいぶん杜撰だと思ったし。この映画がピリッとしない原因のいちばんは脚本の拙さだと思う。

 主役の二人以外は、寡聞にしてほとんど知らない俳優/女優さんばかりなんだけど、皆さん演技力はものすごく高い。特に後援会の幹部や地元政財界の顔役の方々を演じる年配の男優陣の迫力は半端ない。
 素材もユニークだし、達者な演者をそろえたはずなのに、それを活かし切れていないのではないのか?

 観ていて心が動かされるところがほとんどなく、エンドロールまで来てしまう。
 「決戦は日曜日」というタイトルだけど、日曜日(投票日)にはもうすべての選挙運動は終わっているので、”決戦” 感はほぼ皆無。だとしたら拍子抜けのタイトルだよなぁ・・・

 ・・・と、ここまで書いてきて思った。
 ひょっとして ”決戦” とは、映画のラストシーンの後、すなわち投票日の夜から始まる ”新人国会議員・有美 vs 地元のしがらみ” の戦いの第2ラウンドのことを指しているのかな、と。
 うーん、だとしたら判りづらいよなぁ・・・それとも、映画を観た人は皆ちゃんと理解して映画館から帰っていったのかなぁ・・・?
 その場で判らなかったのは私だけ?

 とまあいろいろ考えたんだけど「なんだか、ものすごくもったいないなぁ・・・」という感想だけが残った映画でした。


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