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本格王2021 [読書・ミステリ]


本格王2021 (講談社文庫)

本格王2021 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/06/15
 
 
評価:★★★☆


 コロナ騒動に揺れた2020年に発表された本格ミステリ短編から、秀作7篇を収録した作品集。

* * * * * * * * * *

「コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎」(笛吹太郎)
 荻窪のカフェ〈ランブル〉に現れた小説家・福来(ふくらい)は、「僕には昨夜のアリバイがない」と言い出す。町の嫌われ者・島村が商店街の路地で死体となって発見された。福来は生前の島村と金銭トラブルがあったことから、警察から疑われているらしい。
 事件のあった夜、ハシゴ酒をしていた福来は三軒め以降を覚えていない。かろうじて残った記憶の断片から、〈ランブル〉のマスターやカフェの常連たちがあれこれ推理談義を交わして店を特定しようとするのだが・・・
 安楽椅子探偵の集団(笑)が、わいわいやっているうちに犯人まで特定してしまうのはよくできている。著者は極端な寡作の人らしく、17年ぶりの2作目だとか。いろんな人がいるものだ。


「弔千手(とむらい・せんじゅ)」(羽生飛鳥)
 時は源平合戦の頃。木曽義仲の進軍によって都落ちした平家。そのとき、平清盛の異母弟であった頼盛(よりもり)は一族と袂を分かち、源頼朝を頼って東へ向かった。
 頼朝は、かつて頼盛の母である池禅尼(いけのぜんに)によって命を救われたことから彼を迎え入れることに。
 その頃、木曽義仲の嫡男・義高(よしたか:12歳)は鎌倉にいた。頼朝の娘・大姫(おおひめ:6歳)の "婿" という形だったが、実質的には人質だった。しかし義高は頼朝の差し向けた追っ手によって殺されてしまう。
 それ以来、大姫は尋常でない行動を示すようになった。屋敷の中で頼朝が義高のことを口にすると、話が聞こえていないはずの大姫がその場に現れるのだ。
 娘の行動に不審に思い悩む頼朝のために、頼盛がその謎を解くのだが・・・
 終盤、頼朝と頼盛が対峙するシーンがある。平家を追い落とし、最高権力者へ秒読みとなっている板東武士の棟梁・頼朝。その相手に命運を握られている平家の生き残り・頼盛。双方が腹の内を探り合う緊張感がたまらない。頼盛にとっては、一歩間違えれば身の破滅となるのだから。


「顔」(降田天)
 池渕亮(いけぶち・りょう)は都立水王(すいおう)高校テニス部のエースだったが、下校中の地下鉄の車内で、刃物を持った男が暴れるという殺傷事件に巻き込まれ、逃げる最中に足首を骨折してしまう。
 その3ヶ月後、やっと歩けるまでに回復した亮の前に、報道部員の野江響(のえ・ひびき)が現れる。亮のドキュメンタリーを製作したいという。
 実のところ、精神的肉体的なショックからか、亮は事件に遭った前後の記憶がほとんどなかったのだが、響の申し出を受けることにする。
 亮を心配するマネージャーの村山や実力をつけてきた後輩・桂(かつら)などを含め、亮のテニス部での活動を記録していく響。しかし亮は、彼女の行動に不審なところがあることに気づく。
 亮の記憶が欠落した部分には何があったのか。あの日、地下鉄では何が起こっていたのか。そして響が抱えている秘密とは。
 多感な登場人物たちが織りなす青春ミステリ。クール・ビューティぶりが印象的な響さんが感情を露わにするラストシーンを読んだら、彼女のファンになってしまったよ。連作シリーズの一編だということだが、他の短編にも彼女は出てるのかしら。


「笛を吹く家」(澤村伊智)
 妻の由美、息子の修一と共に近所を散歩していた澤野(さわの)。その途中、親子は怪しい廃屋の前を通りかかる。表札には「笛吹」という文字が辛うじて読める、幽霊屋敷のような建物だ。ちなみに「笛吹」は「うすい」と読むらしい。
 由美がママ友から聞いてきた情報によると、かつてその家の中で2歳の男児が事故死し、その後両親が相次いで自殺したという、いわゆる「事故物件」なのだという。
 その廃屋の存在を知ってから、由美は "ある行動" をし始める。「事故物件」の話には、”続き” があったことを澤野は知るのだが・・・
 ラストでは見事に背負い投げを食らいました。基本はホラーなんだけど、しっかりミステリでもある。


「すていほぉ~む殺人事件」(柴田勝家)
 "ボク" はメイド喫茶のファン。しかしコロナ禍で店は休業。しかしメイドさんたちはネット配信に活路を見いだしていた。
 お気に入りのメイド・マルルちゃんの配信を見ていた "ボク" は、その最中に "ふがし" なる人物がマルルちゃんに出したちょっかいが許せず、そいつが現れると予告した場所で待ち伏せをする。しかしそこに現れた "ふがし" は意外な人物だった。
 その頃、マルルちゃんが所属するメイド喫茶〈はぴぶる〉で死体が発見された。"ふがし" は "ボク" を連れて現場に向かうが・・・
 メイド喫茶というのは行ったことないんだよねぇ。冥土(メイド?)の土産に一回くらい行ってみたいとも思うんだが、年寄りの冷や水か(笑)。
 冗談はさておいて、秋葉原のメイド喫茶が舞台とはいっても、ちゃんとしたミステリ。リモート配信中の犯行とかコロナ禍ならではの風景も取り入れてある。とはいっても、最大のサプライズはやっぱりラストシーンかな。
「最後のオチはそこかい!」って思わず叫びそうになった(叫ばなかったけど)。


「犯人は言った。」(倉井眉介)
 冒頭は、海外赴任帰りのサラリーマン・安田浩史(やすだ・ひろし)が殺害されるシーン。始まりは倒叙ものなんだが、犯人の名は明かされない。
 続いて捜査のシーンへ。"警視庁のスフィンクス" とあだ名される獅子堂(ししどう)警部は30歳ほどの女性なのだが、関係者に質問しまくって犯人を見つけてしまうという辣腕らしい。
 決まり文句は「これからあなたに千の質問をします」
 犯人の名を明かさずに、倒叙ミステリーでも犯人当てができないか、という難題に挑んだミステリー。なるほど、その手があったか。


「アミュレット・ホテル」(方丈貴恵)
 犯罪者/殺し屋たちが定宿にするホテルが舞台の連作ミステリの一編。
 ホテル別館11階の一室で詐欺グループのボス・信濃(しなの)が殺された。犯罪者専用ホテルであるがゆえに、ホテル内での犯罪行為は御法度だ。もちろん警察への通報などできないので、ホテル内で起こった犯罪はホテル内で処理されることになる。かくしてホテル専属の探偵・桐生が捜査に乗り出していく。
 いささか状況は特殊だが、冒頭の一節から "仕込み" が始まっていたり、現場が密室だったりとミステリとしてもしっかりできている。さすがは鮎川哲也賞受賞作家さん。



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