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バッドビート [読書・冒険/サスペンス]


バッドビート (講談社文庫)

バッドビート (講談社文庫)

  • 作者: 呉勝浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/04/15

評価:★★★★


 ワタルとタカトは、ヤクザの兄貴分である新津蓮(にいつ・れん)から「荷物運び」の仕事を請け負う。しかし受け渡し場所にいたのは謎の巨漢。そして次の瞬間、意識を失う。
 気がつくと、そこには3人の男の死体が。俺たちをハメたのは誰だ?


 房総半島の西に浮かぶ玄無(くろん)島。人口3000人あまり。特産品も観光資源もない離島だった。しかしここ10年で様相は一変した。島の西側が埋め立てられて面積が倍以上になり、そこには観光特区として誘致されてきたカジノが建設され、巨大アミューズメント施設「レイ・ランド」として開業したのだ。

 ホテル、レストラン、人工ビーチなどが整備され、観光客が大挙して押し寄せてきた。しかし経済的な潤いはほとんど "フロントステージ"(新地区)に集中し、"バックヤード"(旧地区)はそのおこぼれを頂戴して細々と生きながらえていた。

 玄無島出身のワタルは、都内で違法ネットカジノの店員をしている若者。暴力団・江尻組の新津蓮は兄貴分だ。彼から ”荷物運び” を請け負ったワタルは、預けられたアタッシュケースを持って相棒のタカトとともに故郷であるレイ・ランドへやってくる。

 しかし受け渡し場所にいたのは筋肉の塊のような謎の巨漢。あっという間に彼にノサれてしまった二人が気がつくと、そこには見知らぬ3人の男の死体が。どうやら彼らがアタッシュケースの受取人だったらしい。

 なぜかアタッシュケースは現場に残されていた。ワタルは新津に連絡を取り、受け渡す相手が用意してきた「もの」が現場から消えていたことを知る。そして相手の組織は、ワタルたちが3人を殺して「もの」を持って逃げたと思っているらしいことも。
 誰かが俺たちをハメた。だがその目的は何か? チンピラ二人をハメても得るものはない。しかしこのままでは相手組織の報復に遭って命が危ない。

 ワタルはバックヤードの顔役・敷島を頼り、真相を探り始める。どうやら一連の事件を引き起こした黒幕はフロントステージに潜んでいるようだ。
 ワタルは敷島の "孫娘" で、天才的なポーカーの名手であるハコと手を組み、フロントステージに乗り込んでいくのだが・・・


 どこかの組織が横取りを企んだのか、新津を排除しようという江尻組内部の権力抗争なのか、とかいろんな可能性が見え隠れしていくが、後半に入るとレイ・ランドの利権が絡み始め、次第に背後関係が明らかになっていく。

 そんなトンデモナイ事態に巻き込まれたワタルだが、目の前に迫り来る危機から逃げ出すのは意外と得意。機転と知恵を巡らせて(というか彼にはそれしかない)必死の生き残りを模索していく。
 相棒のタカトは、地下格闘技のチャンピオンだが、食欲と闘争本能だけで生きている(笑)、いわゆる脳筋キャラ。物事を深く考えることは苦手で、そういう面倒くさいことはすべてワタルにお任せである。
 頭脳労働担当のワタルと肉体労働担当のタカトというわけだ。

 ハコはクール・ビューティーな外見とは裏腹に中身は歴戦のギャンブラー。(当たり前のことだが)そのポーカー・フェイスは完璧だ。無敗の戦績を誇る彼女なのだが、今作では最大のライバル・我那覇(がなは)との対決を迎える。

 この3人が揃って二十歳前後という設定なのだが、不自然さを感じないのはやはりキャラクターの描写が巧みなのだろう。

 これ以外にもユニークなキャラは多い。バックヤードでパブを営むジーナは年齢不詳の女性。ハコの付き人(みたいなもの)を勤める佐高(さたか)は胡散臭いオネエキャラ。独特のプレースタイルで、次第にハコを追い詰めていくギャンブラー・我那覇、レイ・ランドの「管理者」を務める世良(せら)は典型的なボンボンだったりと多彩だ。

 もちろん、謎の筋肉巨漢とか、どこの所属か分からない正体不明の追っ手とか、"荒事" 担当の登場人物も数多く、ワタルとタカトの行く先には血と暴力が渦巻き、銃弾が飛び交う。とにかく序盤から最後まで緊張感が途切れずに読ませるのはたいしたもの。
 作者は本作の2年前に『白い衝動』で第20回大藪春彦賞を受賞しているが、本書中盤の銃撃シーンは本家大藪春彦に負けてない迫力だ。

 ワタルは知恵を、タカトは腕力を振り絞り、多くの人の助けを得て、やっとの事でラストシーンへ辿り着く。ただ、このエンディングは、一連の事態が解決したのかしてないのか、ちょっと判断に苦しむ。いささかの猶予を得ただけのようにも見えるし、いわゆる "千日手" に近い状態に持ち込んだと考えると、双方の痛み分けなのかなぁ。うーん。



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