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あと十五秒で死ぬ [読書・ミステリ]


あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)

あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)

  • 作者: 榊林 銘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/08/31

評価:★★★★


 死の間際、死神から与えられた "十五秒" で、自分を撃った犯人を告発しようと反撃を試みる被害者だが・・・。
 第12回ミステリーズ!新人賞佳作受賞の表題作を含み、全編が「十五秒」をテーマに描かれたミステリ4編を収録した作品集。

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「十五秒」
 主人公は診療所で働く女性薬剤師。ある日、彼女が職場で後ろから銃で撃たれてしまうところから始まる。撃たれた瞬間、時間がストップし、目の前に "猫" が出現する。猫は自らを死神と名乗り、いまは死の間際、いわゆる "走馬灯タイム" なのだという。その時間は15秒間。彼女は残された時間を使って、自分を撃った犯人を告発しようと反撃を試みるのだが・・・
 この走馬灯タイム、彼女自身の意思で "一時停止" ができるので、彼女は少しずつ残り時間を使いながら、犯人の顔を確認し、さらに犯人の名を現場に残す(いわゆるダイイングメッセージ)ことを考える。
 本作で面白いのは、犯人の側と交互に描かれること。つまり、被害者が最後にとった行動に対して犯人もまた頭を巡らせてその意図を読み取り、妨害しようとする。被害者の方もそれを予想しながら "最後の抵抗" を試みるわけで、わずか15秒間の出来事を巡って双方の知恵比べが描かれていくことだ。
 発想もユニークだし、途中経過もスリリング、そして最後の意外なオチと、ダテに新人賞を取ったのではないと思わせる傑作だ。


「このあと衝撃の結末が」
 "俺" は、連続ドラマ『クイズ時空探偵』の最終回を姉と一緒に見ていたが、ラスト直前の15秒間だけ中座して戻ってきたら、なんと主要人物が何の前触れもなく死亡していた。
 "俺" は姉から過去回のVTRを見せてもらいながら、空白の15秒間に何が起こったのかを推理していくのだが・・・
 この作中作となっているドラマなのだが、タイトル通りタイムトラベルがらみの特殊設定ミステリになっており、これがまた一筋縄ではいかない。
 最後にはもちろんドラマの真相も判明するのだが、それに加えて、もう一段、本作全体に関するオチが待っている。よくできてるのだがちょっと込み入っていて、落ち着いて読まないとワケがわからなくなりそう(おいおい)。


「不眠症」
 主人公は桑折茉莉(こおり・まつり)という少女。葉(よう)という名の「母様」と二人暮らし。茉莉は頻繁に悪夢を見る。車の助手席で目覚めて、葉が何か語りかけてくる。そしてその直後、二人の乗った車に大型トラックが突っ込んでくる・・・というもの。
 葉が伝えたいことは何か? そしてこの状況は何を意味しているのか?
 悪夢は繰り返すたびに微妙に内容が異なり、次第に背景が明らかになってくるのだが・・・
 ミステリと云うよりは幻想的な雰囲気の強いお話。ホラーと云うほど恐ろしくはないが不気味さは満点。


「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」
 文庫で130ページほどで、本書でいちばん長い中編。そのぶん、異様さもピカイチ(笑)。
 日本海に浮かぶ孤島・赤兎島(せきとじま)に住む人々は特殊体質を持っている。まず、首が取れやすい(おいおい)。時には、ちょっと転んだだけで取れてしまう(えーっ)。でも大丈夫、首が取れても15秒間なら死なないのだ(なんと!)。
 取れた首は、15秒以内なら元の身体につなげればちゃんとくっつき、生き続けられる。それどころか、他人の身体につけてもOKというとんでもなさ。ただしこれには条件があって、同じ年齢の人間(誕生日の間隔が1年以内の者)に限り、交換可能なのだ。
 さて、この島で行われる祭りの夜、首のない焼死体が発見される。そして、高校一年生の男子3人の所在が不明になっていることが明らかになる。
 実は死体はこの高校一年生のうちのひとり。しかし彼は死んでいなかった! 同級生との間で、15秒以内に首を交換しながら(つまり2つの首でひとつの身体を共有して)生きていたのだ! そして残るひとりも加わって、3人(首3つ+身体2つ)による犯人捜しが始まる・・・というトンデモナイ話。
 事件は異様だが、ミステリとしてはちゃんと論理的に解決される。しかし、ラストに最大の驚きが待っている。事件によって起こった混乱が収拾されていくのだが、これがスゴい。常軌を逸した無茶苦茶な方法で一連の事態がきっちり収まってしまう。読んでいて思わず「えええええ」って叫んでしまいそうになった(叫ばなかったけど)。本作の特殊設定を十二分に活かしたものではあるのだが、いやあこれはスゴい。スゴすぎる。



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機巧のイヴ [読書・SF]


機巧のイヴ(新潮文庫)

機巧のイヴ(新潮文庫)

  • 作者: 乾緑郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/02/16

評価:★★★★


 首都・天府に開かれた幕府から国を支配する将軍家、女系で継承される天帝家。そんなパラレルワールドの日本(と思われる国)で、美しき女の姿をした機巧人形(オートマタ)・〈伊武〉(イヴ)が誕生していた。
 〈伊武〉を巡る5つの物語を綴る連作短編集。

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 時代設定はこちらの世界の幕末頃かと思われる。科学技術のレベルも概ねそれくらい。そんな世界に於いて人間型ロボットである〈伊武〉は超科学的存在。
 物語は〈伊武〉が絡む物語から、やがて "彼女" の誕生の秘密へと迫っていく。


「機巧のイヴ」
 牛山藩の武士・江川仁左衛門(えがわ・にざえもん)は、闘蟋(とうしつ)会のあと、幕府精錬方手伝・釘宮久蔵(くぎみや・きゅうぞう)のもとを訪れる。江川は闘蟋会の報償として得た品と引き換えに、釘宮にある仕事を依頼する。それは、十三層(天府にそびえる高層建築。内部は遊郭)にいる遊女・羽鳥(はとり)とそっくりの機巧人形(オートマタ)を造ることだった・・・
 ちなみに「闘蟋」とは、コオロギを闘わせて勝敗を決めるもので、8世紀の中国が発祥の昆虫相撲の一種らしい。
 釘宮は機巧人形師としてはこの世界でNo.1の地位にある男で、この連作集にもレギュラーとして登場する。
 シリーズ劈頭を飾る本作は、SFであると同時によくできた本格ミステリでもある。けっこう昔の某有名SFマンガにも似たようなオチのものがあったが、テーマもシチュエーションも異なるので問題なし。


「箱の中のヘラクレス」
 湯屋(銭湯)で働く天徳鯨右衛門(てんとく・げいえもん)は18歳。恵まれた体格を活かして相撲で活躍をし始める。しかし八百長相撲に誘われ、それを拒否したために騒動に巻き込まれてしまう・・・


「神代のテセウス」
 公儀隠密・田坂甚内(たさか・じんない)は、幕府精錬方を探るよう命じられる。どうやら釘宮久蔵のもとへ、謎の大金が流れているらしい。
 やがて甚内は機巧人形(オートマタ)製造技術の出所、さらには天帝家の秘密に触れることになる・・・


「制外のジェペット」
 京の御所に暮らす今上帝は生来の虚弱で、世継ぎを産むことが期待できなかった。彼女の兄である比留比古(ひるひこ)親王と妃の間に女児が生まれたことをきっかけに(天帝家は女系で継がれていくことになっており、男子には帝位継承権がない)、幕府は譲位を迫っていたが、それは天帝家の勢力を削ぎ、支配下に置こうとするものだった。
 公儀隠密・田坂甚内はある密命を受け、今上帝に仕える娘・春日を御所から連れ出そうとするが・・・


「終天のプシュケー」
 天帝崩御から10年。数十年ぶりに開かれた天帝陵の中から、鉄製の厨子が見つかる。そこには『神代の神器』(かみよのじんき)が収められているという。そしてそれは、〈伊武〉などの機巧人形(オートマタ)製造技術の源でもあるはずだった。
 その厨子の中身と対面した釘宮久蔵は驚愕する。それは〈伊武〉そっくりの機巧人形(オートマタ)だったのだ・・・


 イヴはロボットであるはずなのだが、外見も言動も人間そのもの。見分けることはほとんど不可能なほど "完璧な人間" となっている。そしてそれが(こちらの世界では)19世紀頃の技術で造られているという。
 本書の初刊は2014年で、AI(人工知能)という言葉がこんなにメジャーになるとは想像もできない時代だったが、今になってみれば、人間と見分けのつかないような受け答えをするAIも絵空事ではない時代になってしまった。
 さて、本書の中に登場するオーバーテクノロジーにはどんな設定が隠されているのか、なかなか楽しみになってきた。

 上にも書いた機巧人形製造の秘密など、謎の一部を持ち越して本書は終わるが、その後『機巧のイヴ 新世界覚醒編』『機巧のイヴ 帝都浪漫編』と続編が出ていて、とりあえず3巻で完結しているらしい。
 どちらも手元にあるので、近いうちに読む予定。



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バチカン奇跡調査官 聖剣の預言 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官 聖剣の預言 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 聖剣の預言 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/08/24

評価:★★★


 カソリックの総本山、バチカン市国。
 そこには、世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対してその真偽を判別する調査機関『聖徒の座』がある。

 そこに所属する天才科学者の平賀と、その相棒で古文書の解析と暗号解読の達人・ロベルト。「奇跡調査官」である神父二人の活躍を描く第24弾。
 長編としては18作めになる。

 スペインの小村にある教会には、聖ビセンテに纏わる聖剣が祀られている。その聖剣が発する "預言" を聞いたという者が現れる。その預言は数々の出来事を的中させ、バチカンへ奇跡認定の申請がなされた。
 平賀とロベルトは現地へ調査に向かうのだが・・・

* * * * * * * * * *

 スペイン・バレンシア地方にあるプエプロデ・モンタナ村。そこにあるサン・ビセンテ・エスパダ教会にはスペインの聖人・聖ビセンテに纏わる聖剣が祀られている。
 村では200年ほど前から奇妙な風土病が流行り始めた。時には死に至るその病を嫌って若者は村を離れていき、現在は高齢化が進んだ過疎地になっている。

 エスパダ教会のアリリオ司祭は、教会内で何者かが語りかけてくる "声" を聞く。その数日後、教会に11人の男女がやってきた。高齢の者から、村を去って行った若者まで様々で、みな「主のお告げを聞いて」やってきたのだという。

 総勢12人が聖剣の前で祈りを捧げたとき、彼らに "声" が聞こえてきた。それはスペインとアンドラ公国との国境で山火事が起こるというものだった。
 ちなみにアンドラ公国とは、ピレネー山脈の麓にあってスペインとフランスの間に挟まれた小国だ。

 その数日後、本当にピレネー山脈で大規模な山火事が発生した。さらに聖剣の "預言" は続き、ことごとく的中していく。SNSを通じて注目も集まり、ついにアリリオ司祭はバチカンへ奇跡認定の申請を行うことになった。

 バチカンは平賀とロベルト、さらに元スパイという経歴のアルバーノ神父を加えた3人に現地調査の命令を下した。

 その結果、不思議なことが判明する。"預言" は12人以外の者には聞こえてこないこと、聞いた者の中には、脳腫瘍などの難病が治癒してしまった者がいること、そして ”聖剣の奇蹟” が始まって以来、原因不明とされてきた村の風土病がすっかり治まってしまっていたこと・・・


 毎度のことだが、作中で "奇跡" と見えるものも、最終的には自然現象のひとつだったり、人為的な原因があったりと合理的な説明がついてしまう、というのがお決まりのパターンだ。
 「なるほど」と思わせる納得の説明から「いくらなんでもそれはないだろう」と苦笑いしてしまうものまでさまざま。作者も苦心してるんだなあと思う(笑)。
 今回の ”奇蹟” も、平賀を中心に科学的な分析が続いていき、最終的には解明されていくのだが、どんな理屈付けがなされるのかな、というのが楽しみだ。

 今回の風土病関連については「まあそうかな」と思えるのだが、"預言" が12人にしか聞こえない、というカラクリにはちょっと驚き。「そこまでやるか」とも思ったが不可能とも言い切れない気が。
 難病治癒に関してはちょっと苦しいかな(笑)。でもこのへんは深く追求せずに読み流すのが正解かなとも思う(おいおい)。

 一連の事態の裏には意外と大きな陰謀が潜んでいて、終盤40ページほどで一気にサスペンスが高まり、平賀とロベルトは巨大な危機に直面することになるのだが、このへんは読んでのお楽しみだろう。"奇跡" の認定についても、ラスト3ページで意外な展開が待っている。

 このシリーズの長編は、だいたい年に一巻ずつ刊行されてるのだけど、安定して面白い。来年も期待します。



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スノーバウンド@札幌連続殺人 [読書・ミステリ]


スノーバウンド@札幌連続殺人 (光文社文庫 ひ 21-3)

スノーバウンド@札幌連続殺人 (光文社文庫 ひ 21-3)

  • 作者: 平石貴樹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/02/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 札幌の街中で誘拐された女子高生・久美子。しかし誘拐犯の少年が殺され、さらに久美子の父親まで殺されてしまう。
 旅行で札幌に滞在中の弁護士・山崎千鶴は当事者4人に事件を手記という形でまとめさせ、真相に迫っていくが・・・

* * * * * * * * * *

 16歳の女子高生・島村久美子は、札幌の街中でナンパされる。相手は藤田浩平・17歳。しかし彼の目的は誘拐だった。浩平のアパートに連れ込まれた久美子は手足を拘束されてしまう。

 そして誘拐された翌日の夜、浩平は久美子をクローゼットに閉じ込めた後、アパートにやってきた人物と口論を始めた。その激しさに近所の人が警察に通報し、駆けつけてきた警官によって久美子は救出されるが、彼女が見たのは浩平の撲殺死体だった。
 そして間を置かず、こんどは久美子の父・義夫が殺されてしまう。


 本書の中心人物は、札幌在住の弁護士・岡本里緒(りお)。浩平の父・洋二郎から久美子へ慰謝料を払いたいという依頼を受け、友人の弁護士を紹介した。それが山崎千鶴だ。

 千鶴は慰謝料のみならず、殺人事件自体にも興味を示し、当事者4人に事件の経緯をノートにまとめさせる。本書は、この4人の手記を交互に引用する形で進行していく。
 4人の当事者とは、"主催者" の岡本里緒、被害者の久美子、浩平の友人である畑中久志と矢部公和だ。

 前作『サロメの夢は血の夢』では、登場人物がみなそのシーンの語り手を務めるという "離れ技" というか "荒技" を駆使して読者を煙に巻いた(笑)のだが、さすがに読んでいると視点が頻繁に飛びすぎて落ち着かない感があった。
 本作はそれが4人にまで減ったので読みやすくはなったが、書いてある内容が全部真実とは限らないのは前作と同じ。だからその辺は眉に唾をつけて読まなければならない。

 弁護士としての里緒は、宮の森東中学校の暴力教師・田丸耕治に対する訴訟という案件を抱えているのだが、浩平・久志・公和の3人は宮の森東中学の同級生で、田丸から暴力行為を受けていたという共通点があった。
 しかも田丸の背後には札幌市の教育委員会、さらには新興宗教の存在も見え隠れするなど背景の複雑さを伺わせる。

 犯罪に異様にのめり込むなど、千鶴のエキセントリックな性格は相変わらずだが、本書の結末というか ”決着のつけ方” は通常のミステリとはいささか異なる。しかしこれも探偵役が千鶴さんだからこそ。読者も、彼女の "決断" に異を唱える人は少ないのではないかな。

 そして本書のラスト2ページでは一気に時間が跳んで、"当事者" たちのその後が語られている。さらにそこでは千鶴さん自身も意外すぎる "転機" を迎えていて、これにはみな驚くだろう。
 ひょっとしたら、本書が山崎千鶴シリーズ(本書を含めて3冊しかないけど)の最終巻になるのかも知れない。



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さよなら願いごと [読書・ミステリ]


さよなら願いごと (光文社文庫 お 43-8)

さよなら願いごと (光文社文庫 お 43-8)

  • 作者: 大崎梢
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/08/09
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 丹沢山系に近い山間の街・白沢町(しらさわちょう)。30年前、そこでは少女の殺害事件が起こっていた。
 この町で暮らす3人の少女たちのエピソードが綴られる。彼女たちの物語は意外なつながりを示し、過去の事件の真相へと導いていく。

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 本書は4つの章からできている。3つの章では、白沢町に暮らす3人の少女たちそれぞれのエピソードが描かれ、最後の章ではそれまでの出来事がひとつながりになり、30年前に起こった少女殺害事件の真相が明らかになっていく。


「願いごとツユクサ」
 夏休みを迎えた小学4年生の琴美(ことみ)は、"佐野くん" がやってくるのを待っている。佐野くんこと佐野隆(さの・たかし)は父の恩人の息子で、雑誌ライターの傍ら、時たま琴美の家の農作業の手伝いにやってくる。
 爽やかで快活な性格で人気者なのだが、琴美の学校で起こった幽霊騒ぎの真相を推理してみせたことから、彼女にとっては "名探偵" だ。
 クラスメイトの光弘の祖母の家から、指輪と手紙がなくなるという事件が起こった。そのとき、家には誰もいなかったはずなのに。琴美は早速、佐野くんに相談するのだが・・・
 小学生を主人公にした日常の謎系ミステリか、と思って読んでいくと、なんとも不穏なシーンで幕切れになってしまう。読者はこの落差に愕然とするだろう。


「おまじないコスモス」
 中学3年生の祥子(しょうこ)は、父が海外へ長期出張しているため、母と二人暮らしだ。祥子は同級生の土屋拓人に想いを寄せていたが、友人の美奈が拓人と逢っていたという話を聞き、心が騒ぐ。
 そんなとき、拓人から「話がある」と呼び出された祥子は意外なことを知る。拓人の父と祥子の母がたびたび逢っているのだという。こっそり父の携帯を盗み見た拓人は、それらしい文面のメールまで見つけていた。母の浮気が信じられない祥子なのだが・・・
 このエピソードもまた、不穏なシーンで終わる。


「占いクレマチス」
 高校2年生の沙也香(さやか)は新聞部の部長。文化祭の発表テーマが「オカルト」と決まり、地元の心霊スポットである廃ホテルの調査を行うことに。
 選挙の結果によって新道の通るルートが変更され、それを宛てにしていたホテルの建設は中断、そのまま廃墟となってしまったのだ。そこにはホテルの施工主の幽霊が出るという噂も。
 ホテルの関係者に逢って話を聞いているうちに、祖母・万智子(まちこ)の名が出てきて驚く沙也香。祖母は占い師を生業にしているのだが・・・


「花をつなぐ」
 この最終章で、先行する3つの章の関係も明らかになっていく。読者はここにくるまでに、いろんな推測/想像を巡らすだろうが、物語は(いい意味で)読者の予想を裏切っていく。
 あれがここにつながるのかとか、あのキャラとこのキャラにはこんな関係があったのかとか、パズルのピースがひとつひとつカチカチとつながって、一枚の絵ができあがっていく "怒濤の伏線回収" が展開されていく様子は、とても心地いいものだ。そして読者は30年前の少女殺害事件の意外な真相、そして真犯人を知ることになる。

 本書の惹句は「大崎梢史上、最高濃度の長編ミステリー」だという。まさのその通り、看板に偽りなしの作品だ。



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この恋が壊れるまで夏が終わらない [読書・SF]


この恋が壊れるまで夏が終わらない(新潮文庫nex)

この恋が壊れるまで夏が終わらない(新潮文庫nex)

  • 作者: 杉井光
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/04/26

評価:★★☆


 主人公は高校1年生の柚木啓太(ゆずき・けいた)。彼には "時を遡る" という特殊能力があったが、あまり活用もせずに生きてきた。
 だが高校に入り、恋をする。相手は図書委員の久米沢純香(くめざわ・すみか)。しかし夏休み最後の日、校舎裏で彼女の死体が発見される。
 純香を救うため、啓太は時を遡るのだが・・・

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 柚木啓太には、"時を遡る" という特殊能力が生まれつき備わっていた。頭の中で念じることで、きっかり12時間前の過去に遡ることができる。
 記憶はそのままなので何が起こるかは分かっている。その気になればテストで満点を取ることもできるし、ギャンブルも賭け放題。
 しかし、副作用として激しい頭痛と体力の消耗を伴うことから、滅多に使うことはなく、今まで生きてきた。

 そんな啓太だったが、高校へ入学早々、恋をしてしまう。相手は3年生の図書委員・久米沢純香。啓太も図書委員となり、放課後で彼女と過ごす時間はたまらない幸福のひとときだった。

 しかし夏休みの最終日、校舎裏で純香の死体が発見される。彼女を救うために啓太は時を遡るのだが・・・


 いわゆる "タイムリープもの"。この手の話では、一度の "巻き戻し" で事態は解決しないことが多い。その例に漏れず、本書でも啓太が12時間過去に戻って "やり直し" をしようとしても、結果的に純香の死を回避できない状況が続き、結果として何度もタイムリープを繰り返すことになる。

 "特殊能力" を繰り返し使うことで、副作用もだんだん激しく。だから遠からず限界が来るんじゃないか、ということも示唆される。
 体力を消耗し尽くして立ち上がることもできなくなるとか、能力が "擦り切れ" て行使できなくなるとか、最悪の場合は死んでしまうんじゃないかとか、読者はいろいろ心配するのだが、それでも啓太は "タイムリープ" を繰り返していく。まあこれも "お約束" だろう。

 啓太が自分の命を削るような思いをして救おうとする純香さん。基本はラブストーリーなのだから、メインヒロインの純香さんには、それだけの魅力がなければならないと思うのだけど・・・私には、彼女のキャラ設定がどうにも感情移入がしにくいものに思えるんだけどねえ。まあそのへんは人によるとは思うんだが。
 そして、それでも純香さん一筋を貫く啓太くんは、たいしたものだと思う。

 啓太が所属する美術部の2年生・道永佐世(みちなが・さよ)さん、啓太とは幼馴染みで同じ高校に通う水泳部の燈子(とうこ)さんなど、魅力的な女性サブキャラ陣もいるのだけれど、啓太くんは脇見はしない(笑)。

 もちろん終盤では純香さんの死の真相も明らかになる。途中からなんとなくそうじゃないかと思わなくもなかったのだけど、わかってみるとちょっと肩透かしな感じが否めない。
 加えて、さらにもう一つの事実が明らかになる。SFとしてはこっちのネタのほうがメインになるのかもしれないけど、これも唐突な気がする。

 どうもいまひとつ楽しめなかった、というのが正直な感想です。いろいろ書いてきましたが、私とは相性がよくない作品のようです。



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君に読ませたいミステリがあるんだ [読書・ミステリ]


君に読ませたいミステリがあるんだ (実業之日本社文庫)

君に読ませたいミステリがあるんだ (実業之日本社文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/08/04

評価:★★★


 私立恋ヶ窪学園高等部の新入生である "僕" は、文芸部に入ろうとして、間違って "第二" 文芸部の扉を叩いてしまう。そこの部長・水崎(みずさき)アンナは "僕" に自作のミステリを無理矢理読ませるのだが・・・
 ユーモア・ミステリの連作短編集。

* * * * * * * * * *

 第二文芸部の活動目標は、プロ作家デビューを目指すこと。ただし部員はアンナしかいない。
 彼女の執筆したミステリに登場する探偵役は "水咲アンナ"。才色ともに、本人より数段上に設定されてる(笑)。
 そのミステリを読まされた "僕" が、内容についてキツいツッコミを入れていく、という掛け合い漫才みたいな形で進んでいく。


「文芸部長と『音楽室の殺人』」
 放課後、部室で創作に励んでいた水咲アンナ。借りた本を返すために音楽室へ向かう。しかしそこの扉の中から黒い影が飛び出し、アンナを突き飛ばして去ってしまう。そして室内には音楽教師・浦本の絞殺死体が。校内に残っていた3人の男子生徒が怪しいと思われたが・・・


「文芸部長と『狙われた送球部員』」
 放課後、部活動を終えたアンナが帰ろうと校門へ向かう途中、倒れている人影を発見する。それは男子送球(ハンドボール)部の主将・杉原だった。何者かに殴られて気を失っていたらしい。そして彼は右手に、犯人の遺留品と思われるボタンを握っていた。
 そこを通りかかったのは、化学教師の増井と陸上部員の木戸。二人とも、シャツのボタンがひとつ取れていた。そしてグラウンドにある部室棟で、数学教師・片桐の死体が見つかる・・・


「文芸部長と『消えた制服女子の謎』」
 7月下旬、体育館脇の休憩スペースに来たアンナは、文芸部長の棚田と出会う。そこに演劇部の部長・成島も加わった3人の前を、一人の女子生徒が通り過ぎる。水泳部の栗原だった。彼女がプールの更衣室へ入った直後、悲鳴が上がる。
 更衣室へ駆けつけた3人だったが、中から恋ヶ窪学園ではない制服を着た女子生徒が飛び出し、部室棟へ逃げ込む。アンナと成島が跡を追うが、逃げ場のない場所にも関わらず、姿が見えない。
 そして更衣室内には怯える栗原、そして水泳部主将・富永の撲殺死体が・・・


「文芸部長と『砲丸投げの恐怖』」
 文芸部の交流行事で龍ケ崎高校を訪れたアンナ。そこで彼女は、グラウンドを歩いていた男子生徒にボールのような物体が飛んできて、頭部を直撃するのを目撃する。現場にはアンナを含めて数人の生徒が駆けつけたが、そこに落ちていたのは投擲用の砲丸。重さは6キロ、砲丸が飛んできたと思われる部室棟から現場までの距離は約8m。しかし普通の高校生が砲丸を8mも飛ばすのは、ほとんど不可能なことだ・・・


「文芸部長と『エックス山のアリバイ』」
 冬の日の夕刻、家路を急ぐアンナは、近道である『西恋ヶ窪緑地』、通称『エックス山』を通ることにした。そこでアンナは脇腹にナイフが刺さって倒れている女性を発見、救急車を呼ぶ。女性は「オギワラ・・・ユウジ」との言葉を残し、病院へ搬送されていった。
 被害者の名は滝口美穂、彼女と交際していた会社員・正木によると、美穂が働いていた飲食店のオーナーが荻原悠二という名前。しかし彼には犯行時刻に2時間もパチンコ屋にいて、従業員の証言もあるという・・・


 もはやユーモア・ミステリの大御所となってしまった作者なので、全編にわたってギャグ満載である。
 『音楽室-』から『砲丸投げ-』までは、学校という舞台の特徴を活かしたトリックが組み込まれていたりと、そこはやっぱり上手い。

 とは言っても、メインとなる作中作は女子高生が書いたもの(という設定)なので、あちこちに大きな穴がある。殺人が起こっても誰も警察を呼ぼうとしないとか、犯行の動機が全く描かれてないとか、一発で犯人につながる遺留品が残ってたりとか、突っ込みどころが満載。
 それに対してアンナは必死の反論(苦しい言い訳?)をするが、そこもまたギャグのネタになってしまうという徹底ぶりも流石ではある。

 最終話の『エックス山-』には、祖師ヶ谷大蔵警部と烏山千歳刑事が登場。他のシリーズからのゲスト出演だけど、かなりお久しぶりの再会だ。
 さらにここでは連作短編を締めくくる展開もあるので、続編はないかな。でもアンナさんのキャラはとても楽しくてキュートなので、またどこかで逢いたいものだ。刑事コンビみたいに他の作品へのゲスト出演でもいいし。



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亡霊ふたり [読書・ミステリ]


亡霊ふたり (創元推理文庫)

亡霊ふたり (創元推理文庫)

  • 作者: 詠坂 雄二
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/10/12

評価:★★★★


 "高校在学中に人をひとり殺す" ことを目標に生きる高橋和也(たかはし・かずや)。その彼が出会ったのは "名探偵になりたい" という願望を抱く同級生・若月(わかつき)ローコ。
 殺人願望を抱く少年と名探偵志願の少女は、廃校を巡る奇妙な事件に巻き込まれていくが・・・

* * * * * * * * * *

 高橋和也は県立遠海(とおみ)西高校1年生。「高校在学中に人をひとり殺す」ことを夢見ている。殺人が難なく行えるようになれば、人生を自由に生きられると信じているから(おいおい)。
 現在は彼を含めても部員が3人しかいない弱小ボクシング部に所属し、トレーニングを続けている。競技人口が少ないこともあってか、県下でも上位の選手になっている。

 9月のある日、校外をランニングしていた和也は、半年前に閉校した私立・吏塚高等学校の校門前を通りかかる。亡霊が出るとの噂がある廃校だったが、そこに佇むひとりの女子高生がいた。若月ローコと名乗った彼女は、同じ遠海西高の同級生だった。

 廃校の中を探検するという彼女に、行きがかり上つき合うことになり、二人で校舎内へ侵入する。"亡霊" の正体を突き止めたいというローコが、「名探偵になりたい」という願望を抱いていることを知った和也は、彼女を殺人の "標的" とすることを決める。

 序盤に語られる二人の探検。その収穫は、廃校にしては厳重な警報設備があったことだけだったが、これをきっかけに、和也はローコの "探偵活動" に引っ張り込まれる。

 名探偵に必要な能力は、魅力的な謎に出会うこと。これを実践するために、校内での出来事に "謎" を積極的に(無理矢理?)見いだし、その解決のために奔走するローコ。
 中盤ではそんな二人の、遠海西高における探偵ぶりが描かれる。そして終盤にいたり、ローコが和也に意味不明な手紙を残して失踪してしまう・・・


 物語は和也の視点から語られていく。
 殺人願望と探偵願望という、およそ正反対な夢を持つ高校生二人が出会い、行動を共にするようになっていく。周囲の生徒たちは二人が恋愛関係にあると思っており、それが原因でラブコメっぽい展開に巻き込まれたりするが、和也にとってはローコはあくまで "標的" であり、恋愛対象ではない。

 しかし、お互い ”ぶっ飛んだ夢” を抱く者同士でもあり、和也はローコに対して一種の連帯感も感じている。そして物語が進むにつれて、ゆっくりとだが二人の関係も変化していく。
 だから彼女の行動も気になるし、失踪すれば探すことになる。それでも、隙あれば彼女を殺してやろうと思ってるところがなんとも屈折しているが(笑)。

 サブキャラたちの言動も面白い。とくに和也の所属するボクシング部の先輩二人の常軌を逸した奇行がものすごい。男子校ならともかく女子の前でこれをやるか?と呆れかえること間違いない。

 殺人者になれそうでなれない少年と、名探偵に手が届きそうにない少女。厨二病を拗らせたような二人のその思いが、終盤の事件を通じてどんな結末を迎えるのか。
 思ったこと、書きたいことはけっこうあるんだが、ことごとくネタバレにつながりそうなので書けないんだなあ。残念。



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村でいちばんの首吊りの木 [読書・ミステリ]


村でいちばんの首吊りの木 (実業之日本社文庫)

村でいちばんの首吊りの木 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 辻 真先
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/08/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 女の死体を残して失踪した長男。息子の無実を信じる母親を描いた表題作を含めた中編3本を収めたミステリ短編集。

* * * * * * * * * *

 どれも文庫で60ページほどの作品。

「村でいちばんの首吊りの木」
 奥飛騨の寒村に住む母親と、大学受験のために東京で暮らしている次男・宗夫(むねお)との間で交わされる往復書簡で綴られる。
 名古屋で浪人(二浪)生活を送っている長男・弘一(こういち)の元を訪ねた母。しかし下宿に息子の姿はない。息子のアドレスブックから久留島晴子(くるしま・はるこ)という女性の存在を知った母は彼女のアパートへ向かい、その途中、深見俊樹(ふかみ・としき)という男と出会う。晴子と交際中で、彼もまた晴子に会いに行くという。
 部屋に入った二人が発見したのは晴子の服毒死体。そしてなぜか、右の手首が切断され、持ち去られていた。そして弘一は失踪したまま・・・
 弘一の事件について母親と宗夫が手紙を交わす形でストーリーが進んでいく。"解決編" に至ると、伏線が実に上手く張られているのがわかる。
 文庫の惹句には「著者ベスト級の呼び声も高い」とある。ベストかどうかは分からないけど(全部の作品を読んでるわけじゃないので)、高レベルなのは間違いないだろう。


「街でいちばんの幸福な家族」
 まず、絵に描いたような幸福そうな四人家族が描かれる。若々しい父親、魅力的な母親、中学生の娘、小学生の息子。
 しかし次の章からは、妻と娘の独白が始まる。妻は夫の浮気相手に憎悪をたぎらせている。それを知った娘は一計を案じるが・・・


「島でいちばんの鳴き砂の浜」
 鳴き砂で有名な浜を持つ島。そこで民宿を営む家の息子・道夫(みちお)が東京から帰ってきた。折しも、東京資本のホテルの開業が迫り、民宿は経営の危機を迎えていた。
 また、ホテルは鳴き砂の浜を観光の目玉にと考えていたが、宿泊客が大挙して押し寄せて砂浜が汚れると、鳴き砂は消滅してしまうと考えられていた。それもまた地元民たちの悩みだ。
 そんなとき、ホテル社長・唐木へ直談判に行った道夫の父親が死体で発見される。崖から転落したらしいのだが・・・
 「村で-」では書簡、「街で-」では家族の独白という形式だったのだが、本作ではなんと人間以外の存在が語り手となる。浜に打ち寄せる波、老夫婦の暮らす家、岬に張られたテント、さらには夜の島を照らす星とか。一風変わった手法なんだけど、最後まで読むと、これには意味があったことが分かるという仕組み。



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幻の殺意/夜が暗いように 日本ハードボイルド全集5 [読書・ミステリ]


幻の殺意/夜が暗いように (創元推理文庫 Mん 11-5)

幻の殺意/夜が暗いように (創元推理文庫 Mん 11-5)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/07/20
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 日本のハードボイルド小説の黎明期を俯瞰するシリーズ、第5集。
 今回は結城昌治の長編1作と短編9作を収録。

* * * * * * * * * *

「幻の殺意」(長編)
 主人公の田代は43歳のサラリーマン。最近やっと技術部の次長へ昇進した。帰宅も遅く、11時を回ることも珍しくない。そんなとき、妻の多佳子から相談を受ける。高校1年生の息子・稔が毎晩10時過ぎまで帰ってこないのだと。田代自ら息子に確かめても、頑なに口を開かなかった。
 しかしその翌日、警察から連絡が入る。稔が殺人容疑で逮捕されたのだ。西大久保のアパートに済んでいた藤崎清三というヤクザが殺され、現場に血のついたナイフを持った稔がいたのだという。
 稔は警察の取り調べに対し、犯行を認めていた。しかし弁護士・郷田を通じて面会に来た田代についても「放っておいてくれ」と言うばかり。
 このあと、息子の無実を信じる田代が稔の交友関係をたぐっていく探偵行が描かれる。終盤になると、郷田が新たに探り出してきた事実が提示され、田代は過酷な真相に直面することになる。
 初刊は1964年なのだが、事件の源流には太平洋戦争が影を落としている。最終的に事件は解決するが、この幕切れはあまりにも哀しすぎる。


「霧が流れた」
 真木は元刑事の私立探偵。依頼人の沢本は、これから会う予定の宮田という男の素性を調べてほしいという。
 宮田は、真木と同様に刑事を辞めて私立探偵になった男だった。宮田は沢本と逢った後、女と落ち合う。女の後を追った真木は、彼女が沢本の上司の妻であることを突き止めるが・・・


「嵐が過ぎた」
 真木へ妻の素行調査を依頼してきたのは、有名建設会社社員の新村。妻の景子が、自宅の電話を使わず、公衆電話で何者かに連絡を取っているらしい。
 景子を尾行した真木は、彼女が三崎というヤクザのアパートへ出入りしていることを知る。しかしその三崎が殺され、景子が逮捕される・・・


「夜が暗いように」
 ベテラン弁護士・磯田佐一郎の娘、有紀子は24歳、音大の大学院に在学中で夜は銀座のバーでピアノを弾いているが、父とは別居している。
 若手弁護士の吉川継雄が彼女に熱を上げているが、パリへ留学予定がある有紀子は相手にしていないらしい。
 しかし、真木が有紀子の素行調査の結果を佐一郎に伝えた後、吉川と有紀子が揃って失踪してしまう・・・


「死んだ依頼人」
 私立探偵を営む久里と、雇われ探偵の佐久が活躍するシリーズの一編。
 人妻・海東雅子が夫の浮気調査を依頼してきた。調査の結果、夫の保敏は会社の部下・尾城敏江と浮気していた。しかし依頼人の雅子が殺されてしまう。
 佐久は浮気調査の報告書を保敏に買い取らせたが、その後、雅子の代理人と名乗る男が現れ、報告書の引き渡しを要求してきた・・・


「遠慮した身代金」
 久里への依頼人は資産家・塩川文造の後妻、たか子。19歳の義娘(前妻の娘)の玲子が誘拐されたという。犯人の要求は、たか子が身代金100万円を持って一人で明治神宮外苑へ来ること。しかし夫の文造は身代金を出すのを拒否しているという・・・


「風の嗚咽」
 弁護士の紺野のもとへやってきたのは暴力団の組長・郷田。小滝という男が刺殺され、組の若いヤクザ・宇佐原が容疑者として捕まったという・・・


「きたない仕事」
 紺野は警部補から商社マンへ転職した白井から相談を受ける。新宿署の児島刑事が身辺を嗅ぎ回っているらしい。しかしその相談中に児島が現れ、白井は逮捕される。白井の部下・富岡を殺した容疑だった・・・


「すべてを賭けて」
 元刑事の興信所員・佐田は詐欺師の小西を探していた。堀部商会社長・堀部利一郎から一億円の手形を騙し取った女・三原英子が小西とグルだったらしい。しかし小西の絞殺死体が見つかる・・・


「バラの耳飾り」
 退職刑事・田代の16歳の孫娘、エリ子が失踪した。彼女の行方は野沢美樹という少女が知っているらしい。孫を探す途中、田代はかつて仲間だった刑事・阿久津に出会う。
 阿久津によると、資産家の道楽息子の竹内という男が殺され、被害者と親しかった松田晴美という女も美樹のグループにいるという。晴美は左の耳たぶにバラの刺青をしていた・・・


 総じて、浮気とか不倫とか過去の因縁とかの男女の愛欲のもつれがベースの作品が多く、しかも(どれがとは言わないが)最後に犯人が自ら命を絶って終わるという作品も少なくないので、読んでいて気分がだんだん落ち込んでくる。「遠慮した身代金」はそこから外れるが、オチはしょうもなかったし。
 ミステリはエンタメなのだから、楽しめないとねえ。少なくとも、本書に収録された作品群では私は楽しめなかったなあ。結城昌治という作家さんとの相性がかなり悪いんだろうと思う。

 巻末エッセイは志水辰夫氏。結城氏への素直な憧れが語られ、多彩な作品群を賞賛している。うーん、こんなふうに思うのが普通の感覚なのかしら。まあ私の感覚が普通とは違うんだろうなあとは薄々思ってるけど(笑)。



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