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密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック [読書・ミステリ]


密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫)

密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫)

  • 作者: 鴨崎暖炉
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2022/02/04

評価:★★★★☆


 密室殺人事件の犯人として逮捕されても、密室トリックが解明されない限り罪に問われない、という判例が確立したパラレルワールドの日本を舞台に、雪の山中に孤立したホテルで連続密室殺人が起こる。


 語り手は葛白香澄(くずしろ・かすみ)。17歳の男子高校生だ。
 幼馴染みの女子大生・朝比奈夜月(あさひな・やづき)に引っ張り出されて、埼玉県の山奥にあるホテル「雪白館」へやってきた。彼女の目的はイエティ(雪男)を探すこと(おいおい)。

 このホテルはかつてミステリ作家・雪城白夜(ゆきしろ・びゃくや)が住んでいた館。10年前、雪城は館に同業者や編集者を招いてパーティを開く。そのさなか、事件が起こった。
 館の一室の中に、胸をナイフで刺されたフランス人形が転がっていた、というもの。これは雪城の仕掛けた悪戯だったのだが、問題はその部屋が密室だったこと。しかもパーティの参加者は誰もその謎を解くことができなかったのだ。
 その後、館は人手に渡り、長期滞在客向けのホテルへと改装された。

 雪白館には香澄と夜月の他にも客が集まっていた。会社社長、医師、15歳の人気女優とそのマネージャー、イギリス人の少女、宗教団体の聖職者などだ。
 その中には、香澄の中学校時代の同級生で、同じ文芸部に所属していた蜜村漆璃(みつむら・しつり)という少女もいて、2人は3年ぶりに再会を果たすことになる。
 実は彼女にはある "過去" があるのだが、これは書かない方がいいだろう。

 そしてその夜、宿泊客の一人が刺殺死体となって発見される。現場は密室で、そこはかつて雪城が密室を "提示" してみせた部屋だった。犯人は10年前のトリックを再現してみせたものと思われたが・・・


 というわけで、ここから連続密室殺人事件の幕が開くのだが、タイトルにある「六つのトリック」の通り、様々な密室トリックが展開される。

 本書の構成上の特徴は、出し惜しみしないことかと思う。それによって、本格ミステリにありがちな "中だるみ" の回避にもなっている。
 多くの密室が登場するけど、そのうちのいくつかは最後までひっぱらずに、途中でトリックが明かされる。"雪城の密室" も、けっこう早い段階でカラクリが明かされる。もちろん、その解明シーンも盛り上がるので、読者の興味も引きつけられる。
 もちろん、途中で(一部とはいえ)トリックを明かすのは、それだけ "最後の密室" のトリックに自信があるからこそできることなのだが、それに十分耐えられる出来になってると思う。
 6つも出てくる密室トリックの中には、「いくらなんでもそれはないだろう」って言いたくなるものもある。しかし冒頭の "雪城の密室" のトリックと、"最後の密室" のトリックはなかなか秀逸。本書の白眉だろう。

 "最後の密室" は、作者が言うほど難攻不落なのか疑問に思わなくもない(警察が本気になって調べれば、案外簡単にバレそうな気もする)が、心理的な盲点を突くものであるのは間違いない。
 "雪城の密室" のトリックは、成功率はあまり高くなさそうに感じるのだが、このカラクリが発動するシーンは映像化したら楽しそうだ。
 私に関していえば、この "雪城の密室" がけっこうツボにはまったので、これ以降の物語展開に没頭するきっかけになった。

 本格ミステリの定型といえば、ワトソン役がホームズ役に振り回されてきりきり舞いする、ってものがある。本書で言えば語り手の香澄くんがそれに該当するのだけど、彼は終盤においてワトソン役に収まりきらない活躍をする。これも読みどころのひとつかな。

 雪に閉ざされた館での密室連続殺人、という "型通り" の舞台ながら、その中でいくつかのストーリー展開上の "型破り" をして見せて、それでもミステリとして破綻せずに最後まで読ませる。新人の第一作とは思えない出来だと思う。

 2作目も既に刊行されていて手元にあるので、近々読む予定。



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