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シェイクスピアの誘拐 有栖川有栖選 必読! Selection 11 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection11 シェイクスピアの誘拐 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection11 シェイクスピアの誘拐 (徳間文庫)

  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/06/09
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 暗号や安楽椅子探偵など、ミステリの様々なテーマから8つを選んで執筆された短編をおさめたもの。

* * * * * * * * * *

 タイトルの後ろにあるのが、それぞれの短編のテーマ。

「シェイクスピアの誘拐 ー 暗号と殺人」
 シェイクスピアの劇『ハムレット』で主役を演じている俳優・上杉夏也。その舞台を見ていた演出家・松永連太郎は、観客の中に元女優・柏原絵美がいることに気づく。そのとき上杉が脚本にない台詞を口にし、その直後、絵美は立ち上がって劇場を出て行った。
 絵美の後を追って事情を聞いた蓮太郎は驚く。絵美の5歳になるひとり息子が上杉に誘拐されたのだという。彼の要求は絵美の亡夫がヨーロッパで手に入れた古文書。そして交換場所は、今日の公演で自分が語る、脚本にない台詞から考えよ、と指定されていた。
 絵美と蓮太郎は上杉が語った台詞から、ある場所を割り出すのだが・・・
 終盤に来て意外な事実が明らかに、ってのは定番の展開だが、さらにもうひとひねり。まあでもミステリを読み慣れてる人ならこのオチは見当がつきそう。


「年賀状・誤配 ー 安楽椅子と殺人」
 売れないミステリ作家だった大友次郎。しかし昨年発表した長編が人気となり、今年は年賀状がな500通も来てしまう。その中に一通だけ誤配があった。
 近所に住む ”大友三郎” 宛のものだ。しかしその文面が不気味だった。聖母マリア様かと思われる像の絵があり、その横には「罪はこの世を長い闇にするのです」という謎の文章が。
 大友は妻のルミ子ととともに、この葉書の内容について推理を巡らし、ついには殺人事件にまで辿り着くのだが・・・
 笹沢版『九マイルは遠すぎる』(ハリィ・ケメルマン)ともいえる作品。


「知る ー "倒叙" と殺人」
 久坂部洋子、30歳。ガンによって余命幾ばくもない。退院して最後の日々を自宅で過ごしている。
 ある日の深夜、洋子は自室の窓から見える路上で、何者かが男を撲殺するシーンを目撃する。そして犯人はそのまま洋子の家の中に入ってきた。洋子の家には彼女以外に7人の人間が住んでいる。その誰かが犯人なのだろう。
 そして犯人は、洋子が窓から見ていたことに気づいていたようだ。ならば、近いうちに誰かが洋子を殺しに来るはずだ・・・
 余命少ないヒロインが殺人犯を待ち受けるという独特のシチュエーションで、静かなサスペンスに満ちている。ラストには、予想通りにある人物が洋子を殺しに来るのだが、彼女の想定とはいささか異なる展開が待っていた。
 思わず「そっちかい!」って言ってしまいそう。


「愛する人へ ー 不在証明と殺人」
 東京に住む桂木千加子は専業主婦。夫と二人の子どもと幸福に暮らしていた。だがある理由から戸畑次郎という男に弱みを握られ、脅迫を受けるようになってしまう。
 四谷に住む姉夫婦が一週間の旅行に出かけたとき、千加子はそこの留守番をするという名目で家を出て名古屋に向かい、そこのホテルで戸畑を殺害する。アリバイ工作も完璧と思っていたのだが・・・
 読む前と読んだ後では、タイトルの意味が変わって感じられる。


「盗癖 ー 動機と殺人」
 オツムの軽い20歳の女子大生と、博識が自慢の40歳の会社重役。愛人関係にある二人は互いを『低能さん』『学者さん』と呼び合っていた。
 『低能さん』には盗癖があった。どうにも我慢できずに、月に一度は盗みを働いてしまう。誰にも知られたくない秘密だったのだが『学者さん』はそれに気づいてしまった。『低能さん』がとった行動は・・・
 語り口はコミカルなのだが。『学者さん』の博識と『低能さん』の無知が悲劇を招くという、なんともやりきれない話。
 1980年発表の短編だが、もし現代で相手を『低能』呼ばわりしたら、いくら相手が愛人だってパワハラかDV扱いされるだろうなぁ。


「現われない ー 人物消失と殺人」
 白河久美は28歳にして熱烈な恋に落ちた。親にも好きな人ができたと打ち明け、相手とは結婚の約束もしたという。まさに幸福の絶頂にいた久美だったが、突然の事故で死亡してしまう。
 だが久美の通夜にも告別式にも、それらしい男性は姿を現さなかった。久美の恋人という男は、はたして実在していたのか・・・
 このネタ、有名な某古典的名作ミステリを思い出したよ。


「計算のできた犯行 ー "完全" 犯罪と殺人」
 貯金に励む西村マキとチンピラの大友政夫は腐れ縁。金に困ったらマキから借りるという生活を政夫はもう2年も続けていた。
 マキは金には几帳面で、彼女から借金をするためには前回借りた分を返してから、というのがルール。
 あるとき、借金が嵩んだ政夫はマキから金の工面をしようとするが、それにはまず前回分の借金を返さなければならない。それを稼ぐために政夫は強盗をすることに。
 深夜の路上でOLを襲った政夫は、彼女から奪った札束でマキに前回分の借金を返すのだが・・・
 どうも二人の間の貸借を巡る金銭感覚がよく分からないのだが(笑)、ミステリとしてのオチはしっかり理解できました。


「緑色の池のほとり ー 怪奇と死体」
 推理作家の "私" は、友人に「小説の舞台に絶好だ」と勧められて、東京から3時間もかかる田舎にある池にやってきた。そこの岸辺で出会った青年から不思議な話を聞かされることに。
 話を聞きながら、"私" は気づく。青年と "私" が、兄弟のように顔立ちや表情が似通っていることに・・・
 笹沢左保はホラーというか怪談も上手いと云うことがよく分かる一編。



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