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からくり探偵 百栗柿三郎 櫻の中の記憶 [読書・ミステリ]

からくり探偵・百栗柿三郎 櫻の中の記憶 (実業之日本社文庫)

からくり探偵・百栗柿三郎 櫻の中の記憶 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 伽古屋 圭市
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2016/01/30
  • メディア: 文庫

評価:★★★

発明家の傍ら、探偵業を請け負う百栗柿三郎が、
助手兼女中の千代さんとともに事件を解決していくシリーズ、第2弾。

ストーリー的には各話とも独立しているので
本書から読んでも差し支えないとは言えるけど、
前巻の内容を受けている部分もあるので
できれば第1巻から読んだ方がいいかな、とは思う。

「第一話 殺意に満ちた館」
悪徳高利貸しとして知られる折江久孝(おりえ・ひさたか)が
会社の十周年記念パーティーの夜、何者かに銃殺された。
折江家の弁護士から依頼を受けた柿三郎は、現場に向かう。

「第二話 屋根裏の観測者」
女学生の同性愛を描いた作品で人気小説家・伊豆見芳子。
芳子が関西へ取材旅行中、彼女の学生時代からの友人で、
同居していた吉原しづ子が刺殺され、現場には犯人の告白文が。
”彼” は屋根裏から日夜、芳子の生活を覗き見ていたのだという・・・

「第三話 さる誘拐の話」
百栗庵を江ノ本宝子という少女が訪れる。
同居している丈太郎という7歳の男の子が掠われたのだという。
彼とは血のつながりはないが、姉弟のように育ってきた。
柿三郎は江ノ本邸へ赴くが、犯行時刻に屋敷から人が出入りするのは
不可能だったことが判明、やがて『黄金蟲』を名乗るものから
暗号の記された手紙が届く・・・
いやあこの真相は・・・バカミスの範疇かな。怒り出す人もいそう(笑)。

「第四話 櫻の中の記憶」
飼い犬のハチを連れて散歩していた千代は、雑木林の中で
白骨化した死体を発見してしまう。その頭蓋骨に残された歯の特徴は、
千代の女学校時代の親友、篠宮ふみと一致するものだった。
死体の正体を確かめるため、千代は雑木林に隣接している
製糸工場に潜入するのだが・・・
”大正” という、この時代ならではの作品でもある。

どの作品も下敷きになった有名古典作品があるのだが
もちろんそれをそのままなぞるようなことはない。

柿三郎と千代の将来については、実は第1巻で明かされているのだが
本作ではまだそこまで時代が進行していないので
続編が書ける余地はある。
でも本書の刊行が2016年で、以後5年経っても続巻が出てないので
ここで打ち切りなのかもしれない。
もうちょっと読んでいたいシリーズではあるんだけど。


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「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章 -TAKE OFF-」感想・・・のようなもの その1 [アニメーション]

※ネタバレ全開です。未見の方はご注意ください。

■これまでの宇宙戦艦ヤマト(前作までのあらすじ)

本編上映前に流される、10分ほどのあらすじ。
2199から2202までを芹澤虎徹のモノローグで綴るという、
ある意味、驚きのつくり。
初めは「よりによって芹澤かよ」って思ったのだが・・・

「希望を、理想を信じ続けたヤマトの乗員たち。
 何度裏切られても決して諦めることなく
 その傷の深さに身動きできなくなってしまった仲間がいるなら
 自分たちの命をかけてでも救おうとした。
 そうすることが自分を、自分の心を救う唯一の道だと信じて」

「2202」でのヤマトクルーたちのことを語っているのだけど
これはそのまま「2205 前章」に置き換えることもできる。

そして、それに続く言葉。

「愚かな選択とは言うまい。私も確かに救われたのだから」

私は以前、「2202 第七章」のところでこう書いた。

『最終話における古代と雪を救うことで、私もまた救われたと思えました。
 この(考えようによっては)愚かしい選択の先に、
 もう一度、本当の「ヤマト」を取り戻せると信じられましたから』

『さらば宇宙戦艦ヤマト』という作品を ”観てしまった” あの日から
ずっと止まない、心の中の ”軋み”。
そこから、「2202」は解き放ってくれた。

恥ずかしながら、私の涙腺はここで決壊してしまった。
まだ本編を観る前だというのにねぇ・・・

さらに芹澤の言葉は続く。

「現実は厳しい。常に想定以上の最悪を突きつけてくる。
 辛くとも、順応しなくては生き残れない。
 しかし、それだけではないのだ・・・
 忘れずにいたいと切に思う。
 この先、さらに過酷な現実と向き合うことになったとしても、決して」

これは、「2205 後章」へ向けての言葉なのかも知れない。
本編を見た後でじっくり考えてみると、
けっこう深いものがあるようにも思う。

閑話休題。
前置きが長くなってしまった。本題に入ろう。


第一話「銀河系大戦勃発の危機!ヤマト艦隊終結せよ!!」

■デスラーのナレーション

かと思ったら、最初の台詞だった。
「無限に広がる大宇宙」といえばヤマト世界の枕詞だね。

■圧政に苦しむガルマンの民

どこかの礼拝堂か。女神像はマザー・シャルバートでしょうか。
目の部分をくりぬいてあるのは彼らの信仰を抑圧するためか。

■そしてデスラー登場

同時に流れるBGMは「ボラー連邦」。
「2205」で最初に流れるのがこの曲とは想像もしていなかったですな。
これだけで「ああ、ボラーだ」って思える。
つくづく宮川泰は偉大だったと思う。

■デスラー、頭を垂れる

ガルマン星を譲り受けるため、いちおう、筋は通すと言うことか(笑)
このあとに起こったことを見れば、
彼はこのあとの流れを読んでいたということだね。
ボラーの支配体制は「永久管理機構」というらしい。

 かみさん「あそこでデスラーがブツブツ言ってたのは何?」
 私「ガミラス語でカウントダウンしてたんだよ」
 その後、ネットで「ガミラス語一覧」なるページを見つけて
 熱心に読んでましたよ(笑)。

■奮戦!ガミラス艦隊:その1 対ボラー艦隊戦

「デスラー 襲撃」のメロディーと伴に瞬間物質移送機の効果音が。
波動共鳴で動けないボラー艦隊は標的なんだが、
戦闘機の動きがちょっとCGぽくて動きがチャチイかな。
まあこのへんは好みの問題でしょうか。

■お馴染みのガミラス軍人の皆様

まずはバーガー。今作では、常に最前線にあって指揮を執り続ける。
地表では、出撃しようとする艦隊に次元潜航艇艦隊からミサイル攻撃。

お? フラーケンのCVが違う。中田さんはどうしたの?
代わって今回は髙橋右光(あきみつ)さん。後で検索してみたら
「蒼穹のファフナー」の小楯保さんを演じてた人。
いやあ、雰囲気が全然違うんで分かりませんでしたよ。
ちなみにハイニのCVは同じ。相変わらずの様子でなにより。
「哀れボラー、時代は変われり」

■ガルマン解放の日

「兄弟たちよ、長き忍従の時は終わった」何年か後には、
この日がガルマン・ガミラス建国記念日になるのかな。
解放にかかった時間は、わずか数分だったけど(笑)。
ま、ここまで来るには、いろいろ事前の仕込みもあったんでしょうが。

■ガルマンの青い月

これも、のちに「スターシャ」と命名されるのか・・・?

■まさかのキーマン登場

なるほど記録映像の「遺言」とはね。録画したのは最終決戦の直前か。
「マレーネルの花」というのが出てきたけど
「2205 後章」が、ガルマン星の地表で
この花が咲いているシーンで終わったら、感動ものだろうなぁ。
これに続いての古代の登場も上手い。

■ヤマト高次元宇宙より帰還

「2202」からの流用でなく、新規作画なんだね。
「ヤーマートッ!」って歓声は聞いているほうが恥ずかしくなるなぁ。
そしてヤマトを見上げる土門の目のアップ、そしてタイトルロゴ。

■新兵訓練

アスカとヒュウガの横で新人たちの洋上訓練。
監督してる北野の横にマスコミがいるが、カメラが今風なのはなぜ?

■第65護衛隊

古代は正式にヤマト第3代艦長に。
とはいっても、彼以外にヤマトの艦長が務まる、
というかなりたがる人間はいないんじゃないかな。

二度まで地球を救った伝説の戦艦・・・なんて言ったら、
後任の艦長になる人間には想像できないくらいの
プレッシャーがかかるだろうし。

真田と雪を二人を艦長にするのも、うまい手だと思った。
雪は復活篇でも艦長になってたからね。前倒しか。
「三段跳びの人事」というが、古代と雪は地球に置いといても
マスコミの餌食だろうから、そんなら2人まとめて
宇宙へ送り出してしまう方がいいのだろう。

ついでにヤマトの旧クルーもひと艦隊の中にまとめておけば
監視もしやすい(おいおい)。実際、反乱の前科があるんだから。

地球を救った功績を鑑みれば冷遇もできない。
となれば、旧クルーたちを昇進させて
各艦の幹部に据えてしまうというのはよく考えついたと思う。
ヤマトから外しても僚艦にいるというのは距離的にもちょうどいい。

ただ、同じ艦隊を構成する艦長同士が婚約者というのは如何なものか。
普通に考えればそういう人事は行わないだろう。

もしアスカとヒュウガが危機に陥ったら古代はどちらを助けるか・・・
いやあ、古代はそういう私情が挟まった選択はしないことを、
そして雪もまた、そういう選択を拒否することを、
この2人は「2202」で学んだはずだ・・・けどね。

■徳川と板東

太助を揶揄する者たちにキレる板東。
技術科にしてはアツい男なんだねぇ・・・ってのは
技術屋さんに対する偏見かな。

■星名、相原、太田、南部、そして島

ぱっと見られただけで星名に目をつけられるなんて、
土門はよっぽど不穏な雰囲気を醸し出していたのだろう。
星名は今回、土門との関係で旧クルーではいちばん台詞が多いか。
まあ「2202」では出番が少なかったからね。

島はヤマト副長、相原・太田はヒュウガ、南部はアスカ副長。
永倉率いる空間騎兵隊はアスカ、航空隊の篠原はヒュウガ。
もはやベテランの域になってしまった旧クルーを
ヤマトから下ろす(他の艦に乗せる)。
旧作の頃はこれができなかったんだよねぇ。

ちなみにヒュウガの副長は誰か、公式サイトにもパンフにも書いてない。
パンフに載ってる座談会では、シナリオ会議の中で
「太田が副長の艦には誰も乗りたがらない」という発言があったようで
思わず納得してしまった(笑)。

■英雄の丘

「2199」から6年後というのはリメイクならではの時間の取り方。
オリジナルでの2年そこそこと比べると、格段に良くなった。
古代が艦長になるのも違和感がないし。
「2199」→「2202」→「2205」と、
古代の成長をきちんと描いてきたからこその展開だ。

かつてこのブログで「2199での古代というキャラには伸びしろがある」
って書いたのだけど、リメイクシリーズはそれをちゃんと描いてくれた。

かつて「スター・トレック」がTVシリーズから映画シリーズに発展し、
結果としてキャプテン・カークの一代記になったが
このままいったらヤマトも古代進の一代記になるのかな?

三十路や四十路、かつての沖田くらいまでトシを重ねた古代を
見てみたい気もするが、こっちの寿命が持ちそうもない(おいおい)。

■世界一高くついたカップル

高次元宇宙からの帰還以降、古代と雪は
マスコミの格好の標的となったことだろう。
まあ、帰還直後よりは沈静化してるのだろうが・・・

 ワイドショーには「今日の古代・雪」なんてコーナーがあったりして。
 (実際、オウム真理教騒ぎの頃なんて、
  1年間くらいワイドショーはそればっかりやってたよなぁ)

時間断層を放棄させてしまった責任を感じ、
「地球人の運命」を背負おうとする古代
「背負えるんですか」と問う土門。
旧作を知る人ならば、このあとの未来において、
地球を襲う脅威の数々に、彼は常に最前線で
対峙し続けたことを知ってるのだが・・・

■藪くん再登場、銀河も再登場

ガミラス軍ヤーブ技官として地球圏に帰還。いやあ、意外な再登場。
銀河のクルーも再登場。「後章」でも出番があるのでしょうか。
何か貴重な技術を持参してきた模様。
後で出てくる「試作機」ともども、「後章」での活躍が期待大。

■藪の家族

「知ってるか?  どん底の時ってのは、
 素晴らしいことがすぐそこで出番待ちしてるんだぞ。
 父ちゃんも頑張る。だから、お前たちも頑張れ」

今回の藪君の台詞はいちいち身にしみる。
特に人生の年輪を重ねてきた、オールドファンの方々には
刺さる言葉が多いのではないだろうか。

この台詞だって、今まで何十年だかを生きてきて、
程度の差はあれ ”どん底” を一度も経験していない人はいないだろう。
(コロナのせいで、今この時がどん底だ、って人だっているだろう)

私自身を振り返っても、公私ともにいろいろあったよ・・・
自分の不器用さ、能力の無さ、意気地の無さに、落ち込んだことも。

■移民が進行するガミラス

しかし進捗は3割。ヒス総理、そしてヒルデ嬢も再登場。
ヒルデ嬢は今後、出番が増えるのでしょうか?
藪の家族も登場。ヤーブの妻・バルナのCVは園崎未恵さん。
「星巡る方舟」ではネレディアを演じてましたね。
彼女も再登場して欲しいなあ。

■イスカンダル

スターシャ、ユリーシャ、そしてメルダも再登場。
「2199」でお馴染みのキャラが大挙して再登場するのは嬉しい限り。
猊下の「贖おうとするたびに罪は増えていく」とは意味深なお言葉で。

■新クルーの行進

・・・の最中に、明らかになる土門の過去。
星名くん大活躍。ついでに奥方・百合亜も再登場。

■ヤマト登場

そんなこんなで新クルーの前に勇姿を現すヤマト。
そしてそれを睨みつける現す土門、艦長席で仁王立ちの古代。
そして第二話へ。

うーん、第一話だけでこんなに書くとは思わなかった。
やっぱり溜まってたのかなあ(笑)。

「その2」では、第二話と第三話をちゃちゃっと済ませて(えーっ)。


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交換殺人はいかが? [読書・ミステリ]

交換殺人はいかが? (光文社文庫)

交換殺人はいかが? (光文社文庫)

  • 作者: 章子, 深木
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/04/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

定年退職した元刑事・君原継彦は3年前に妻を亡くした独居老人。
たまに遊びに来る小学6年生の孫・樹来(じゅらい)の
相手をするのが唯一の楽しみだ。

 ちなみに樹来は男の子。そして3歳下の妹は麻亜知(まあち)。
 誕生月に由来するのだが、まあ今風な名前ではある。

樹来の将来の夢は推理小説作家になること。
孫にせがまれるままに、現役時代に彼が関わった事件について話す君原。
もちろん、既に解決している事件ばかりなのだが、
それを聞いた樹来は、こんな言葉を返す。
「僕は、そんなことじゃないと思うんだけどなあ」

安楽椅子探偵としては、樹来君は最年少の部類に入るんじゃないかな。
12歳の少年が、過去の事件に潜む秘密、真相を説き明かす。

「天空のらせん階段<密室>」
らせん階段を持つペンションのオーナーの撲殺死体が発見されるが
現場に凶器はなく、人の出入りもできない密室状態だった・・・

「ざしき童子(ぼっこ)は誰?<幽霊>」
薬物中毒症の大学生5人が、売人が大麻を保管している倉庫に
押し入るが、そこで銃声が響く。
慌てて逃げ出す彼らが見たのは、仲間の一人が崖から転落するところ。
しかし逃げ延びたあとで確認したら、5人とも全員無事に揃っていた。
ところが翌朝、現場近くの海で発見された死体は
逃げ延びたはずの5人のうちの一人だった・・・

「犯人は私だ!<ダイイングメッセージ>」
地方の名家・河南(かわみなみ)家で起こった殺人事件の現場には
被害者が自ら書き残したと思われる血文字で「はんにんはわたしだ」。

「交換殺人はいかが?<交換殺人>」
私立女子高校の生徒二人が、昼食の弁当を食べた直後に急死した。
二人の弁当には猛毒のトリカブトが混入されていたが
彼女たちには接点が全くないことから、交換殺人が疑われる・・・

「ふたりはひとり<双子>」
旧家・本郷家の19歳の当主・秀重(ひでしげ)が刺殺された。
その数日後、新田綾と名乗る少女が現れるが、その姿は
秀重の双子の妹・富久子(ふくこ)と瓜二つだった・・・

「天使の手毬唄<童謡殺人>」
同族経営企業・天志産業にまつわる連続殺人事件。
現場に残された紙片には ”数え歌” の歌詞が・・・
ちなみに、作中に出てくるこの数え歌、
作者の創作ではなくて実在するもののようです。

平均して文庫で50ページほどの作品ばかりなのだが
ネタは重量級が揃ってる。

表題作の「交換殺人-」は終盤まで二転三転、意外な終着点を迎える。
犯人の並外れた狡猾さも特筆もの。
巻末の解説にもあるが充分長編になるネタだ。

「犯人は私だー」は、旧家の遺産相続争い、
「ふたりはー」も、旧家に潜む血の秘密とか、横溝的雰囲気も充分。
この2作も長編でたっぷり楽しみたいと思わせる。

主役の樹来君は、”見かけは子供、頭脳は大人” の某有名少年探偵(笑)
とは違って、こちらは生粋の小学生・・・のはずなんだが、
彼の知識や洞察力は半端な大人を凌駕する。
なんとも末恐ろしいお子さんである。

本書には「消えた断章」という続編があるのだが、
こちらは長編で、扱っているテーマは誘拐。しかし一番驚くのは
前作から10年後の話で、樹来君が22歳の大学4年生になっていること。
いやはや、いろんなところで驚かせてくれる。
これも手元にあるので、近々読む予定。


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レディ・ヴィクトリア 謎のミネルヴァ・クラブ [読書・ミステリ]

レディ・ヴィクトリア 謎のミネルヴァ・クラブ (講談社タイガ)

レディ・ヴィクトリア 謎のミネルヴァ・クラブ (講談社タイガ)

  • 作者: 篠田真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/22

評価:★★★

舞台は19世紀のロンドン。ヴィクトリア朝の時代。

女王陛下と同名の貴婦人・ヴィクトリアと、
人種も国籍も様々で、型破りで個性的な使用人たちで構成された
“チーム・ヴィクトリア” のメンバーが
ロンドンに起こる謎の事件に立ち向かう、冒険探偵譚、第4作。

女性冒険家レオーネ・コルシは数年前にエジプトを旅行中に
1体のミイラを入手し、それをロンドンへ送った。
しかしそのミイラには、”夜中に目を覚ましてさまよい歩く” という
怪談じみた噂が立っていた。帰国したレオーネは
噂を確かめようとしたが、既にミイラは行方不明になっていた。

皇太子の侍従武官を務めていたペンブルック伯爵は病を得て
南海岸の地にある「アルカディア・パーク」と呼ばれる邸宅を
隠居所として入手したが、件のミイラはそこにあった。
屋敷の前の持ち主が購入していたのだ。

そのペンブルック伯爵からヴィクトリアのもとに
別荘お披露目のパーティへの招待状が届いた。
しかし彼女は参加を逡巡する。
ヴィクトリアと伯爵の間には、死別した夫・シーモア子爵を介して
浅からぬ因縁があったからだ。

しかし友人アミーリアの説得により、ヴィクトリアは
メイドのローズを伴ってパーティへ参加することに。

そしてヴィクトリアのもとには、もう一通の招待状が届いていた。
”ミネルヴァ・クラブ” なる謎の集まり(?)が、
アルカディア・パークでヴィクトリアを待っている、と。

パーティに集まってきた客はみな一癖も二癖もありそうな人物ばかり。
彼ら彼女らについてきた侍女たちもみな、何かしらの裏がありそう。

そして翌日の夜、吹き抜けになった図書室の二階から
ペンブルック伯爵が何者かに突き落とされるという事件が起こる。
その背には短剣が刺さり、現場にはミイラの入った棺が安置されていた。

”密室状態” の図書室の事件で使われるトリックは
意外ではあるがシンプルなもの。
しかし、本書のメインとなるのはこの事件ではない。

伯爵家の抱えている秘密であったり、
”謎のミネルヴァ・クラブ” の正体が本書のキモだ。

基本的にはミステリなのだけど、本シリーズのもう一つのテーマは
本書のあとがきにもあるように、
19世紀のイギリスにおける女性の人権問題だ。
家庭を守ることを強要され、社会に出て活躍する者は少なく、
その上、男性からは非難の目を向けられる。
さらには性的な暴行/搾取に遭っても泣き寝入りしかできない。
シリーズの既刊でも、そんな様々な抑圧や虐待に苦しむ女性が
描かれてきたが、今回はそれがより前面に出ている。

ヴィクトリアは男尊女卑の権化のような伯爵の悪行を暴いていくが、
本書に登場する ”ミネルヴァ・クラブ” のように
女性のためなら何をしてもいい、という立場にも与しない。

あとがきによると、全5巻ということで始まったシリーズなので
次巻が最終巻となるのだけど、構想的にはまだ半ばらしいので
なんとか続きを書けるよう鋭意努力中らしい。
私も続きを読みたいな。期待しましょう。


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人間動物園 [読書・ミステリ]

人間動物園<新装版> (双葉文庫)

人間動物園<新装版> (双葉文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2021/05/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

埼玉県全域に大雪注意報が発令された日、
西北部の県境に近い笠井市で誘拐事件が発生した。

被害者は梅原ユキ、4歳の女児だ。通報者は母親の芳江。
犯人からの要求は1億円。一般人に払える額ではないが
芳江の別れた夫・家野輝一郎(いえの・きいちろう)は
政治家・家野大造の三男だった。
かつては総理大臣候補にも名が挙がり、そして今は
1億円の贈収賄事件の渦中にある元閣僚だ。

しかし、警察は芳江に住む家に入り込めなかった。
犯人の手によって、既に10個の盗聴器が仕掛けられていたのだ。

仕方なく、警察は隣家の窓から芳江と手紙のやりとりをして
情報収集および犯人からの電話に対する指示をする羽目になる。

笠井警察署の刑事、発田(はつだ)と朝井は被害者宅の隣家で
芳江と連絡を取りつつ、犯人からの連絡を待つ。

関東新聞社の記者・大任(だいとう)は、
被害者宅の向かいの民家に潜んで誘拐事件の特ダネを狙う。

ユキの父・輝一郎は身代金の金策のために大造と会うが
親族たちは金を出すかどうかで紛糾する・・・

物語は主にこの3つのラインで語られていく。

読んでいるといろんな想像が湧く。

初めからユキの祖父・大造から金を出させるのが目的、
というのはすぐに見当がつくが、では誰が?

狂言誘拐だとしたら、企むのは芳江か輝一郎になるだろう、
というところまでは考えが及ぶが、本書の展開はそのさらに上を行く。

身代金の受け渡しの場面では不可解な事態が発生し、
終盤に至っては事件の様相が一変するような事実が判明していく。
しかも、それは一度では済まない。
”二転三転” とはまさにこのことだろう。

ラスト近くでは、誘拐事件を起こすに至った犯人の心情も語られる。
そして最後の6行。なんとも意表を突いたラストシーンを迎える。

ネタバレになるので詳しくはかけないが
同じ作者の某作品の冒頭に似た場面がある。
作者はこういうシチュエーションが好きなのかも知れない。


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他に好きな人がいるから [読書・ミステリ]

他に好きな人がいるから (祥伝社文庫)

他に好きな人がいるから (祥伝社文庫)

  • 作者: 白河三兎
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

プロローグで登場するのは、27歳の会社員・坂井。
職場の飲み会に参加していたが途中で抜け出し、ビルの屋上へと上る。
そこから、坂井の9年前の回想へと進んでいく。
彼の心をよぎるのは ”兎人間” のこと。それは彼の初恋だった・・・

高校3年生だった坂井は、老朽化した14階建てマンションの屋上で
毎朝、日の出を眺めることを3か月も続けていた。

ある朝、そこで出会ったのは巨大な兎の頭部のかぶり物をした女の子。
着ていた制服から、同じ高校の生徒と分かったが
喋る声も意識的に変えているため、彼女の正体は不明。

その ”兎人間” は、危険な高所での自撮り写真を投稿し、
4桁のフォロワーを持つインスタグラマーだった。
しかも撮影場所は坂井の住んでいる街の近辺ばかり。
彼の高校の生徒たちは、彼女の正体探しに熱狂していた。

”兎人間” に誘われるまま、彼女のカメラマンを引き受けた坂井。
二人は、以前にも増して危険な撮影を行っていくのだが・・・

舞台は、かつて造船所の企業城下町だった街。
その造船所が撤退し、緩やかに衰退し始めている。
そんな閉塞感が作品の底を伏流水のように流れている。

ストーリーは、”兎人間” と一緒に危険な撮影をくり返す坂井、
そして彼の高校のクラス内での出来事の2つのラインで進む。

読者は、坂井のクラスの女子の中に ”兎人間” がいるのではないか、
という前提で読み始めるだろう。私もそうだった。

実際、彼のクラスの女子は多士済々だ。
クラスカーストのトップ女子・北別府、
ナンバー2の優等生美少女・鈴木、
役者に向いていそうなのに照明係をしている演劇部員・山口などなど。

その中で最高にキャラが立ってるのは、
クラスカーストで最下位にいるオタク女子・峰だ。
しかし演劇祭参加にあたって、なんと彼女が脚本を書くと
宣言してからは、ほとんど彼女が主役みたいになっていく。
頭の回転も速く(実際、成績もいい)、教師も叶わないくらい口も達者。
演劇の内容についても主導権を握り、意表を突く配役まで決めていく。
普段はボサボサの長髪のメガネ女子なんだが、
実は美少女だったりとか、もう無敵だ(笑)。

そしてまた、作者がこういうキャラ同士の会話劇が抜群に上手い。
高校生という、面倒くさい時期の彼ら彼女らの描き方が
「こんなの、確かにいそうだな」って思わせる。

私は青春ものというのが苦手だ、というのは
このブログのあちこちで書いてる。
彼ら彼女らのこじれ具合がしつこいと、読んでいて辟易してしまうんだが
本書はギリギリ我慢できるところで留まってるかな(笑)。

本書をミステリとしてみるなら、”兎人間” の正体、
そしてなぜ彼女が危険な自撮りをくり返すのか、が謎となる。

終盤ではもちろん真相は明かされるのだが・・・
この幕引きにはかなりびっくり。そしてちょっぴり哀しい。

そしてエピローグではふたたび9年後に戻る。
ここで描かれるエピソードもまた切ない。

物語としては抜群に面白いのだけど・・・
まあ、これが青春というものなのでしょう(おいおい)。


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水晶宮の死神 [読書・ファンタジー]

水晶宮の死神 (創元推理文庫 F た 1-4 VICTORIAN HORROR ADV)

水晶宮の死神 (創元推理文庫 F た 1-4 VICTORIAN HORROR ADV)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/07/21
  • メディア: 文庫

評価:★★★

19世紀半ば、ヴィクトリア朝の英国を舞台にして
エドモントとメープルの叔父姪コンビが遭遇した
怪奇な事件と冒険を描く、その第3作にして最終作。

wikiによると、タイトルにある「水晶宮」とは
1951年にロンドンで開かれた第1回万国博覧会の会場として作られた建物。
鉄骨とガラスで作られ、563m×124mの大きさだった。

万博終了後には解体されたが、1954年にはロンドン南郊のシデナムで
コンサートホール、植物園、博物館、美術館、催事場などが入居した
複合施設としてスケールが拡大されて再建された。

本書の冒頭、エドモントとメープルの主人公二人組が出かけていくのは
この再建後の水晶宮のほうだ。

毎日4万人もの観客を集めていた水晶宮に二人が到着した直後、
袋詰めの首無し死体が降ってくるという事態が勃発する。

 wikiに載ってる写真を見ると、建て替え後の水晶宮は
 少なくとも6階建て以上はありそうな立派な造りをしてる。

しかも首無し死体はその後も数が増え続ける。
観客はパニックに陥るが、折しも天候が急変し
水晶宮周辺は暴風雨に襲われてしまい、外部への脱出もできなくなる。

そして現れるのが今回の悪役、ガラスの仮面に黒マントの謎の人物。
常人を超える身体能力を持つこの怪人とエドモントが
繰り広げる大立ち回りが、前半の山場となる。

後半では怪人の操る怪物どもが登場し、
ロンドン近郊の地下道を舞台としたホラーな冒険物語になる。

歴史上の実在人物が顔を見せるのがこのシリーズの特徴だが、
今回のメインゲストはチャールズ・ラトウィッジ・ドジスン、
文学的にはルイス・キャロルとして知られる人物だ。
チャールズ・ディケンズも出てきて、結局彼はこの3作とも皆勤かな。

そして今回は、架空の有名人も登場する。
その名もジェームズ・モリアーティという少年。
水晶宮に閉じ込められた観客の一人として登場するのだけど
13歳にもかかわらず沈着冷静で、言動の端々に非凡さが垣間見える。

エドモントは彼を評して
「容姿や体格は15,6歳、頭脳はおそらく20歳以上」と記している。
これはもう、あの ”モリアーティ” ですよねぇ・・・

”ヴィクトリア朝怪奇冒険譚三部作” と銘打たれたシリーズは
これで完結。各巻にストーリーのつながりはほとんどないけど
順番に読んだ方がキャラへの愛着は湧くだろうな。

本書のラストシーンは、81歳になったエドモントが登場し
メープルが67歳になったことが語られてる。
彼女の性格からして、さぞ波瀾万丈の人生を送ったのだろう。
短篇でもいいから、そのあたりのエピソードの一つ二つでも
読んでみたいとは思うのだが、作者はたぶん書かないだろうなぁ・・・
『銀英伝』でもそうだったし。


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降りかかる追憶 南青山骨董通り探偵社III [読書・ミステリ]

降りかかる追憶~南青山骨董通り探偵社III~ (光文社文庫)

降りかかる追憶~南青山骨董通り探偵社III~ (光文社文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/02/26







評価:★★☆

大企業を辞め、駆け出しの探偵となった主人公・井上雅也。
彼が働いている探偵社に現れた依頼人は21歳の女子大生・桂貴子。

貴子は30歳の保険会社営業マン・後藤俊和と交際していたが
彼は独占欲が強く、やがて貴子の行動を束縛するようになってきた。
貴子から別れを切り出すと逆上し、ストーカーとなってしまう。

同僚の玲子とともに、後藤の身辺調査と貴子の警護に乗り出す雅也。
しかし貴子の周囲にストーカーらしき姿は見当たらない。

やがて後藤のことが少しずつ判明し始める。
営業マンというのは偽りで、後ろ暗い仕事に関係しているようだ。

そして後藤の調査の進む中、探偵社社長の金城と玲子の間に
愛と憎しみに満ちた因縁があったことが明らかになっていく・・・

入社したときから憧れの存在だった玲子の、哀しい過去を知る雅也。
これはなかなか凄絶だ。
これでは、金城と玲子が普通の男女の関係になれないのも無理はない。

その一方で雅也と、同僚である真由美との関係も変化していく。
キャバ嬢と探偵を兼業(!)ということで敬遠していたのだけど。

ストーカー事件の裏には、意外な陰謀が隠されていたりして
ミステリ的にもきっちり収まっている。

本書はシリーズ3巻目で、刊行は2015年。
本書以降、続巻は出ていないし、
物語的にも一区切りついているのでこれで完結かな。

「吉祥寺探偵物語」と共通して登場するキャラもいるので
両シリーズは同一世界の話なのだろう。
双方のキャラが総登場する作品も読んでみたい気がするけど
それは作者の胸三寸ですね。


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ゴーストハント4 死霊遊戯 [読書・その他]

ゴーストハント4 死霊遊戯 (角川文庫)

ゴーストハント4 死霊遊戯 (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/12/24
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

主人公兼語り手は、16歳の女子高生・谷山麻衣。
彼女がアルバイトをしているのは
心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

そこの所長である17歳の美少年、通称ナルと
個性的なゴーストバスターたちが繰り広げる
ホラーな冒険を描くシリーズ、第4作。

東京近郊の丘陵地帯に位置する私立緑陵(りょくりょう)高校。
(渋谷から車で3時間とあるので、関東の山に近いどこかだろう)

この高校では、夥しい数の怪異現象が起こっていた。
授業中に、35人の生徒が一斉に「黒い犬に噛まれた」とパニックに陥る。
掃除のたびに照明の蛍光灯が落ちてくる地学教室。
小さな男の子の声が聞こえてくるLL教室、
夕暮れに渡り廊下を歩いていると足音が追ってくる。
倉庫の中で水のしたたる音がする。
焼却炉のふたを開けると老人がうずくまっている。
トイレの鏡がときどき逆さまに映る・・・

生徒たちは、校舎の屋上から飛び降り自殺を遂げた男子生徒が
原因ではないかとみて、体育館で慰霊祭を行おうとするが
学校側の妨害で実行を阻止されてしまう。

しかし怪奇現象は収まらず、食中毒事件やボヤ騒ぎまで起きて
マスコミの報道にも載り始めた。

そんなとき、緑陵高校の校長がSPRを訪れて調査を依頼する。
いったんは断ったナルだったが、生徒会長の安原修の頼みを受け入れ
麻衣&ゴーストバスターズたちを引き連れて現地へ乗り込む。

生活指導担当の教師、松山の威圧的かつ非協力的な態度にもくじけず
調査を開始した一行は、やがて校内で「ヲリキリさま」という
奇妙な占いが大流行していることを知る。

どうやら「ヲリキリさま」はコックリさんの一種らしい。
生徒たちは遊び半分で霊を呼び出していたのかも知れない・・・

毎度のことながら、超常現象にまつわる騒ぎが語られる。
怪異現象自体、バリエーションはそんなに多く無さそうなのに
マンネリ感を感じさせずに400ページを超える文庫本を
退屈させることなく読ませるのは流石だ。

キャラ同士の軽妙な掛け合いも健在で、楽しくページをめくらせる。
ホラーの感想で「楽しい」というのもどうかと思うが
面白いんだから仕方がない(笑)。

本書で登場した安原くんは、以後レギュラーメンバーになるらしい。
ナルくんとは対照的な(笑)、爽やか系男子だ。

今までも書いてきたけど、ヒロインの麻衣さんの個人情報が不明。
家庭環境を含め、家での生活について全くといって描写がない。。
だいたい、平日なのにSPRでアルバイトができるのはどうして?

 ・・・と思ってたんだが、実は今、シリーズの5巻目(つまり次巻)の
 冒頭を読んでるんだけど、そこで彼女の情報がかなり開示される。
 こちらも驚きっていうか、それでいいんかい?

本書のラストでも、麻衣さん自身について
”ある事実” が明かされるんだけど、シリーズ後半に向けて
彼女自身が物語のキーパーソンになっていくのかも知れない。


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運命の証人 [読書・ミステリ]

運命の証人 (創元推理文庫 M テ)

運命の証人 (創元推理文庫 M テ)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/31
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

物語の冒頭は法廷シーン。
被告人はジョン・プレスコット。事務弁護士で本書の主人公だ。
彼は2件の殺人事件の犯人として逮捕されて、ここにいる。

そして本編が始まる。
本書は四部構成になっていて、それぞれの部のラストで
”意外な展開” が待っていて、次の部への ”引き” もバッチリだ。

本書を読むにあたっては、あまり内容を知らないほうがいいと思うので
紹介は必要最小限に留めたいんだけど、
何も書かずに済ますわけにもいかないので・・・

第一部は裁判の6年前に遡る。
駆け出しの弁護士だったジョンは、友人の会計士ピーター・リースから
彼の恋人である女性、ノラ・ブラウンを紹介される。
しかしジョンはノラに一目惚れしてしまう。
このためにジョンは煩悶することになるのだが・・・
そして第一部のラストでは、”ある人物” の死体が発見される。

第二部はその5年後(裁判の1年前)。
いまだ ”事件” の影を引きずっている登場人物たちの生活が描かれる。
その中で第二の死者が出現し、ジョンは5年前の ”事件” と合わせて
2件の殺人犯として逮捕されてしまう。

第三部から現在、つまり裁判の様子が描かれる。

以前に読んだ『そして医師も死す』でもそうだったのだけど
この二作品に共通するのは、
主人公がなんともパリッとしない人物であること。

優柔不断で、その場の雰囲気に呑まれて行動してしまいがち。
あとで自分が窮地に追い込まれると分かっていても。

本書の主人公ジョンもまた、「え? そっちにいっちゃうの?」と
読んでいる方も呆れてしまうくらい、目の前に並んだ選択肢の中から、
必ずといっていいくらい事態が悪化する方を選んでしまう。
なんとも間が悪いというか、先の読みが甘い御仁である。

 そういえば ”マーフィーの法則” なんてのがあったなぁ。
 その法則が服を着て歩いているようなものだ(おいおい)。
 もっとも、こういう主人公の方が物語は面白くなるよね(えーっ)。

本書の原題は「THE SLEEPING TIGER」(眠れる虎)。
これは、ジョンの友人たちが彼につけたあだ名だ。

第一部と第二部で ”いろいろ” あって、裁判になったときには
すっかり気力を失ってしまっているジョンだったが
第三部で証言台に立った ”ある人” の言葉がストーリーの転回点となる。

ジョンの中の ”眠れる虎” を覚醒させ、戦う気概を取り戻させる。
邦題『運命の証人』はここから来ている。

第四部ではもちろん、真犯人が明らかになって大団円。

ミステリとしてもよくできているけど、それに加えて
覚醒後のジョンの、颯爽とした主人公ぶりが快い。
さらに言えば一級品のラブ・ストーリーでもある。
「小説を読む楽しさ」というものを充分に味わえる本だと思う。


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