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六人の嘘つきな大学生 [読書・ミステリ]


六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13

評価:★★★★


 新興IT企業「スピラリンクス」。入社試験の最終選考に残った6人の大学生。与えられた課題の結果が良ければ6人全員に内定を与えるという。
 しかし選考日直前に「内定者は1人とする」、最終選考では「誰が内定者にふさわしいかを6人のディスカッションで決めること」と、課題内容が変更されてしまう。
 そして最終選考の日。会場の片隅に置かれていた封筒には「○○は人を殺した」など、6人の "過去の悪行/隠している秘密" を暴く告発文が入っていた・・・


 物語は二部構成になっている。


「Employment examination -就職試験-」

 大学生の就職先として大人気の新興IT企業「スピラリンクス」。5000人を超える希望者の中から選抜されて最終選考に残った6人の大学生は、いずれも有名大学出身者ばかり。その1人、波多野祥吾(はたの・しょうご)が語り手となる。

 最終選考の課題は、1ヶ月の間に6人で最高のチームをつくりあげること。結果が良ければ6人全員に内定を与えるという。
 波多野をふくめ、最終選考に残った九賀蒼太(くが・そうた)・袴田亮(はかまだ・りょう)・矢代(やしろ)つばさ・嶌衣織(しま・いおり)・森久保公彦(もりくぼ・きみひこ)たち6人は、定期的に会合を持つことにし、最終選考へ向けての準備をはじめる。

 選び抜かれた精鋭でもある6人は、話し合いを続けていくうちに一体感を高め、良好なチームワークを発展させていく。これなら全員内定も夢ではないと思い始めたのだが、最終選考直前になって課題が変更されてしまう。

 まず「内定者は1人とする」、さらに最終選考では「誰が内定者にふさわしいかを6人のディスカッションで決めること」。

 そして選考当日。与えられた時間は二時間半。6人は30分に一度ずつ、誰が内定者にふさわしいかを投票し、5回の投票の総数でいちばん得票の多い者を内定者とする、という取り決めをして討論に入った。

 しかしその途中、選考会場の隅に大判の封筒が置かれているのが見つかる。その中にあった6通の封筒には「○○は人を殺した」など、6人の "過去の悪行/隠している秘密" を暴き立てる告発文が入っていた。

 状況から考えて、封筒を持ち込んだのは6人の中の誰かだ。討論は険悪な "犯人捜し" の場へと変貌していく。
 メンバー間の推理と討論が続き、やがて "ある人物" が「犯人」と名指しされ、そして内定者もまた決まったところで終了となる。


「And then -それから-」

 就職試験から8年後の物語。この章の主役となる人物は、最終選考の6名のうちの一人だ。作中では氏名が明記されてるんだが、ミステリとしての興を削ぐので、ここでは "A" と呼称しよう。

 ある日、"A" のもとへ一本の電話が入る。掛けてきたのは、8年前の就職試験で「犯人」と名指しされた "ある人物" の妹だった。
 彼女と会って話を聞いた "A" は、8年前に "ある人物" を「犯人」としたのは間違いではなかったかと思い始める。

 そこで "A" は、当時のことを調べ始めることに。最終選考のメンバーも含む当時の関係者5人に会い、話を聞くことにしたのだ。

 第一部の冒頭から、本編中に断片的に挿入されているインタビュー形式の部分がこれ。"8年前の最終選考を振り返る" インタビューが間に入ることで、物語の不可解さがさらに盛り上がるという構成だ。

 やがて "A" は、すべてを仕組んだ真犯人の名と、意外極まる犯行動機を知ることになるのだが・・・


 まずは、ミステリとしてよくできていると思う。"伏線の狙撃手" の異名通り、意外なところに手がかりが潜んでいる。実際、読んでいて「ここも伏線だったか!」って驚かされる。開巻早々、6人が互いに自己紹介する場面があるのだが、もうここからミステリとしての "仕込み" は始まっている。

 ミステリ要素とは別に、本書のテーマにあるのは「人が人を選ぶことの難しさ」だろうか。ペーパーテストで知識・知能は分かっても、人格や人間性は別だ。
 面接や討論を通じても、たかだか数時間のことでその人のすべてを知ることは不可能だろう。ならば「就職試験」というものは、本当に "優秀な人間"、"その組織にふさわしい人間" を選んでいるのだろうか?
 真犯人の動機の一部もそこに根ざしている。

 でもまあ、人生に "100%正しい選択" なんてものは存在しないのだけどね。二つの道があったとき、どちらへ行くべきかは誰にも分からない。それまでに集めた情報を元に、自分の頭で考えて決めるしかない。どちらが正解だったかは時間だけが決めること。
 「就職試験」で人を選ぶ場合も同様だ。複数の中から1人を選ぶとき、試験の結果が拮抗していれば、最後は人間の判断になるのだから、そこに "100%正しい選択" は存在しないのだよねぇ・・・。
 

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