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化学探偵Mr.キュリー9 [読書・ミステリ]

化学探偵Mr.キュリー9 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー9 (中公文庫)

  • 作者: 喜多喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

人呼んで ”Mr.キュリー” こと
四宮大学理学部化学科准教授・沖野春彦と、
大学総務部職員の七瀬舞衣がコンビを組んで
大学の内外で起こる事件を解決していくシリーズ、その第9弾。

「第一話 化学探偵と赦されざる善意」
ある夜、酔った学生がマンションの植え込みに嘔吐していった。
学生達の会話に ”四宮大学” という単語がでてきたと
マンションの住人から総務課に苦情が入る。
同じ頃、近隣の大学で食中毒が発生するが・・・

「第二話 化学探偵と金縛りの恐怖」
四宮大学の学生・岩井穂乃花は悪夢に悩まされていた。
穂乃花から相談を受けた舞衣は、沖野と共に調査を始める。
同じ頃、大学校内で廃棄されたゴミが
回収前に盗まれるという怪事件が続発していた・・・
悪夢の理由は意外なもの。そんなこと起こるんかいとも思ったが
人間は些細なことでも安眠が妨げられてしまうものなのだね。

「第三話 化学探偵とフィクションの罠」
舞衣の友人・美間坂剣也(みまさか・けんや)主演のドラマ
『化学探偵』が好評を博し、第二弾が製作されることになった。
ドラマのキモとなるトリックは、”麻薬検査を回避する薬”。
沖野の手による監修済み、との設定なのだが、
「そんな薬は存在するのか?」って疑問は当然起こる。
だけど、そのあたりも含めてちゃんとラストで解決するのは流石。

「第四話 化学探偵と後悔と選択」
理学部4年の新庄貴明は、文学部2年生の安美と二人暮らし。
しかし最近、安美の様子がおかしい。何か悩み事があるようだ。
貴明自身も、謎の咳と息苦しさに悩まされるようになっていた・・・
これくらいの年齢の時には、誰でも一度は悩んだテーマかな。
ちなみに貴明君の体調不良の原因は見当がついたよ。

「第五話 化学探偵と夢見る彼女」
法学部1年生・立石琴子は、弁護士を目指して勉強漬けの毎日。
しかし、先輩の本名美夏(ほんな・みなつ)に誘われて
ボランティア・サークルに参加することになった。
淡々とボランティアをこなしていく琴子だったが、
彼女に対して嫌がらせをする者が現れる。
同じ頃、サークルが訪問した認知症の男性が
体調を崩して入院してしまうことに・・・
いやあ、琴子嬢はいい弁護士になれそうですな。

舞衣さんも就職して3年目を向かえ、もう新米ではないですね。
仕事にも自信を持って取り組んでいる様子が描かれている。
”サザエさん時空” ではなく、きちんと時間の経過が描かれているので
いつかは沖野と舞衣の中にも決着がついて終わるのだろうなあ。

いまのところ、4巻ごとに1年経過というふうに進んでいるので
もう8巻くらいすすむと沖野も40歳越えになってしまう。

舞衣さんが30歳になる頃には通算で30巻を超えてしまう計算。
まあ、そこまでは続けないのかな。


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EPITAPH東京 [読書・その他]

EPITAPH東京 (朝日文庫)

EPITAPH東京 (朝日文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 文庫
評価:★★

タイトルにある epitaph とは墓碑銘を意味する言葉。

「piece」と題された、文庫で10ページほどの短い文章が23章あり、
その合間合間に「drawing」という断章がいくつかと、
「エピタフ東京」という戯曲(演劇の台本)の一部が挿入されている。
(細かく言えば、それ以外の名のついた断章もあるのだけど)

「piece」は、”筆者” という人物による文章。
名は明かされず、頭文字で ”K” と記述されている。

作家を生業としている筆者Kは東京在住で、
「エピタフ東京」という戯曲を書くことになっているが、
なかなか筆が進まない。

本書の主体を占めているのは、筆者Kの日々の生活。
内容としては東京にまつわる諸々について
つれづれなるままに書かれたエッセイ風の文章。
各章の中身は断片的で特につながりもなく、淡々と綴られていく。

その中に時々登場するのが、筆者Kの友人・B子、
そして自分は吸血鬼だと名乗る吉屋という人物。
しかし、この二人が大きくストーリーに関わっているのかというと
そうでもない(というかストーリーらしいものが存在しない)。

いちおうラストでは「エピタフ東京」が完成し、
上演まで漕ぎ着けるのだけど、それがクライマックスというわけでもなく
ある ”イベント” が起こったことがきっかけで
筆者Kの日常語りが終了し、同時に本編も終わる。

巻末には「悪い春」という短篇が収録されているが、
スピンオフというか本書の後日譚。

恩田陸という作家さんは、私からすると当たり外れが大きい作家さん。
デビュー作「六番目の小夜子」は大好きだし、
「蔵と耳鳴り」をはじめとしたミステリ作品も大好きだ。
非ミステリでも好きな作品は一杯ある。

同じように、どこが面白いのか今ひとつ分からないと感じるものも
少なくない。強いて言えばSF寄りの作品に、苦手なものが多いかなぁ。

本書はミステリでもなくSFでもなくホラーでもなく、
私にとってよく分からない作品のひとつになりました。

文章自体は上手な人なので、読み続けることに全く苦はないんだけど、
読み終わった後に残ったのは「?」だけ・・・


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毒殺協奏曲 [読書・ミステリ]

毒殺協奏曲 (PHP文芸文庫)

毒殺協奏曲 (PHP文芸文庫)

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2018/12/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★

「伴奏者」永嶋恵美
中学校の文化祭。合唱部のステージ発表の直前、
顧問の北上先生が体育館の用具室で倒れていた。
公には花粉症の点鼻薬と消毒薬を間違えた、と発表されたが
ピアノ伴奏係だった美雪は真相を探り始める。

「猫は毒殺に関与しない」柴田よしき
SNS上で、人気作家・四方幸江を中傷する書き込みが見つかる。
幸江は身近にいる人間が犯人は睨み、同期作家の桜川ひとみに
協力を仰いで、関係者一同を集めた夕食会を開くが・・・
毒殺がテーマながら、ユーモアたっぷりの筆運び。
作家や編集者など出版界の裏話的な要素が楽しい。

「罪を認めてください」新津きよみ
ある事情から職を辞して実家に帰ってきた直美。
しかしその庭先で、毒殺されたと思しき猫の死体を発見する。
飼い主だった老婦人・横森に死体を引き渡すが、
彼女は愛猫を殺した犯人を突き止めると言い出す・・・
ラストでの直美の選択が秀逸。

「劇的な幕切れ」有栖川有栖
平凡な人生に飽きていた内村は、SNSで知り合った女性・紫藤美礼と
一緒に自殺することになった。決行日に落ち合った二人は
あらかじめ決めておいた死に場所に向かうが・・・
冒頭から美礼には何かありそうだとは思わせるのだが、
この ”正体” までは分からないよねぇ。

「ナザル」松村比呂美
専業主婦の水野希江は、図書館で同じPTA仲間の松原瞳が
毒物に関する書物を漁っているのを目撃する。
やがて瞳の叔父が食中毒で亡くなり、
松原家は学区外の高級住宅街へ引っ越すことが決まる・・・
子どもたち同士のいじめ問題も絡んでくるのだが、
それも含めてラストの解決は鮮やか。

「吹雪の朝」小林泰三
登美子は同僚だった夫と結婚後、北の僻地にある夫の実家へ入った。
ある日、その家を登美子の元同僚たちが訪ねてくる。その中には
夫の恋人だった富士子もいた。その夜は激しい吹雪となり、
翌朝、登美子の夫が毒を盛られた状態で見つかる・・・
これはすっかり騙されました。伏線を伏線と思わせないのはさすが。

「完璧な蒐集」篠田真由美
アンティーク・ドールの収集家だった叔父が結婚した。
相手は親子ほど年の離れた麻子という女性。
しかしその直後に叔父は自殺し、遺産は全て麻子のものに。
真相が明らかになった後にもうひとひねり。

「三人の女の物語」光原百合
絶世の美女と謳われた女王と有名なおとぎ話の女王。
いずれも ”毒” と縁の深い人たちなのだが
でも彼女たちの人生の裏側はこうだったかも・・・という2編。
3人目はある人妻の話。毒殺する側ではなくされる側の物語。

女性作家のアンソロジーのせいか、あるいは
”毒殺” という行為そのものが
”女性の犯罪” というイメージがあるせいか
本書の中で「毒を盛ったと疑われる人物」はみな女性。

だけども、そこから先が皆さんの腕の見せ所。
ひとひねりふたひねりして、驚かされる結末が待っている。


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蝶々殺人事件 [読書・ミステリ]

蝶々殺人事件 「由利先生」シリーズ (角川文庫)

蝶々殺人事件 「由利先生」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/03/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

久しぶりに近所の書店に行ってみたら、
横溝正史の文庫が何作か復刊になっている。
内容は ”由利先生” ものばかり。
何でかな~と思ったら、なんとTVドラマになるんですねぇ。
・・・っていうか、今放映されてる最中だ。

横溝正史が創造した探偵と言えば金田一耕助が
あまりにも有名だけど、金田一が登場する前までは
探偵犯罪研究家・由利麟太郎(ゆり・りんたろう)、通称・由利先生が
メインを張っていた時代もあった。
本作はその由利先生と、その相棒である新聞記者・三津木俊助が
活躍する長編ミステリ。

・・・なんだけど、本作は由利先生が登場する最後の作品らしい。
本作以後は、金田一耕助が横溝ミステリの主役になる。

時代は昭和12年10月。
日本屈指の歌劇団を率いる原さくら女史は3日間の東京公演を終了し、
次の公演地である大阪へ向かうことになった。

団員は10月19日の夜汽車で東京を発つが、さくらだけは一足早く、
午前10時東京発ー午後8時大阪着の汽車で移動することになった。
(東京ー大阪が10時間もかかるなんて、時代を感じるねぇ)

大阪到着後、さくらはホテルにチェックインするが、
迎えに来たマネージャーの土屋と入れ違いに外出してしまい、
そのまま行方不明になってしまう。

一方、翌朝8時に大阪へ到着した団員たちは、
午後2時から会場で稽古に入ることになっていた。
楽器も同じ汽車で搬送されてきていたのだが、
団員のコントラバス・ケースの中からさくらの遺体が出てくる・・・

先に大阪に到着していたはずのさくらが、
後から到着した劇団員と一緒に届いた楽器ケースの中から
死体で発見されるという、意外かつ不可思議な謎から始まる。

やがて警察の捜査によってさくらの動線と、
コントラバス・ケースの動線が明らかになっていくのだが
その複雑さにいささか驚かされる。

鉄道を使ったアリバイトリックというほどのものではないけれど、
人と物の動きを上手く使って不可能な事象を可能にする。
横溝正史ってここまで緻密なイメージがなかったのでちょっと驚き。

謎解きとは直接の関係はないけれど、本作のラストで
なんと由利先生は結婚するのだが、その相手にびっくり。
ちなみに先生は40代半ばくらいと思われるのだが
奥さんはかなり若い。ちょっと羨ましい(笑)。

併録された作品についてもちょっと書いておくと

「蜘蛛と百合」
三津木俊助の友人・瓜生朝二が交際している君島百合枝に
”蜘蛛” と呼ばれる謎の男がつきまとっているらしい。
しかし俊助がその話を聞いた直後、朝二は殺されてしまう。

「薔薇と鬱金香」
鬱金香(うっこんこう)夫人、マダム・チューリップとも呼ばれる
美貌の人妻・畔柳(くろやなぎ)弓子。
その夫で高名な弁護士だった畔柳慎六が殺された。
犯人は隣家に住む ”薔薇郎” という芸名の歌手。
5年後、犯人は獄中で死亡し、弓子は小説家・磯貝半三郎と再婚する。
しかし夫と二人で出かけた劇場が火事になってしまう。
逃げ惑う弓子は謎の老紳士に救われるのだが・・・

表題作「蝶々-」は堂々の本格ミステリなのだけど、
併録された「蜘蛛-」「薔薇-」は
ミステリと言うよりは怪奇犯罪小説、といった趣き。
強いて言えば江戸川乱歩の雰囲気に近いかな。

これはこれでいいけれど、金田一ものみたいな
謎解きミステリを期待するとアテが外れるだろう。

ちなみに、冒頭にも書いたけど由利先生シリーズがTVドラマ化された。
配役は由利先生に吉川晃司、三津木俊助が志尊淳。
まあ、時代も現代に置き換えて、内容もけっこう改変があるみたい。
今のところ見る予定はないかなぁ。


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誰も死なないミステリーを君に [読書・ミステリ]

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 悠宇, 井上
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

大学1年生の遠見志緒(とおみ・しお)は、
幼い頃から人の ”死” が見ることができた。
自殺、他殺、事故死など、寿命以外の原因で死を迎える人の顔には
彼女にだけ見えるサインが現れる。

最初は目のところを隠すような黒い線が一本。
死が近づくにつれてその線は数を増し、
直近に迫ると顔一面に ”モザイク状” に線が見えるようになるのだと。

語り手の ”僕”(佐藤) は、志緒と同じ大学の3年生。
彼女が見つけた ”顔に線が見える人” を、
迫って来る ”死” から救い出す役目を引き受けている。

ある日、志緒は学生4人に同時に ”死線” が現れていることに気づく。

彼らの共通点は、みな秀桜高校文芸部の出身だったこと。
そして、彼らが在学中に、同じ文芸部の生徒が一人、
校舎の屋上から飛び降りて死んでいたこと。

”僕”(佐藤)もまた、秀桜高校の卒業生であり、
飛び降り事件の時には校内にいて、状況をリアルタイムで経験していた。

志緒は、4人を ”死” から隔離することを決める。
彼女の父・遠見宗一郎は投資家でかつ資産家であり、
志緒の特異体質にも理解があり、彼女の望みは何でも叶える人間だった。

宗一郎が用意したのは、瀬戸内海にある孤島・鷗縁島(おうえんじま)。
かつては銅鉱山として栄え、無人島となった現在、
当時の産業遺構を保存するために、
ある企業が観光目的に宿泊施設を併設した美術館を建てた。
志緒は、その美術館の一般公開前のプレオープン見学会と称して、
死線の現れた4人組を招くことに成功する。

島に残るのは4人組と、志緒と ”僕”(佐藤)のみ。

 状況は『そして誰もいなくなった』だけど、
 志緒の目的は『誰もいなくならない』こと。

志緒に見える ”死線” は、状況によって変化する。
死が迫れば線が増え、遠ざかれば減り、あるいは消える。

志緒と ”僕”(佐藤)は、彼らの死線の状況を確認しながら
どうすれば彼らを死から遠ざけられるかを模索していく。
やがて、飛び降りた学生が他殺だった可能性が浮上してくる。

後半は、彼ら6人の会話で進行していく。
派手なイベントが起こるわけでもないが、
飛び降り事件の真相への興味がページをめくらせる。

メンバー一人一人が、心に秘めていたものをさらけ出し、
過去の事件に新たな方向から光が当てられる。

もっとも、彼らの記憶をもとにした推理なので、
これと断定できる範囲には限界もあるのだが、
その中で最後に ”僕”(佐藤)は、いちばん意外な、それでいて
いちばん納得できそうな解釈を提示してみせる。

資産家令嬢の志緒と、貧乏学生の ”僕”(佐藤)、
娘のためなら無人島をひとつ用意してしまう父親など、
ライトノベル的な設定だけど、中身は理詰めなミステリだ。

”死が見える”  ”状況によって見え方が変化する” という特殊設定も
サスペンスを盛り上げたり、謎解きの伏線に使われたりと
うまくストーリーに取り込んでいる。

志緒と ”僕”(佐藤)の関係は何だろう。
友人以上ではあるが恋人関係に向かう途中・・・
って感じはあまりしない。

志緒嬢にはその気がありそうなんだが、
いかんせん ”僕”(佐藤)の方がねぇ。
上手く捕まえれば逆玉なんだが(笑)、そんな気配は全くない。
まあ、シリーズが進めば変わっていくのかも知れないが。


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留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白 [読書・ミステリ]

留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白 (ハヤカワ文庫JA)

留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

北海道第2の都市である旭川の西、約40kmほどのところにある
函館本線の深川駅を起点に、西北方向へ日本海沿岸の留萌駅まで、
路線距離にして約50km、12の駅を数えるのが
本作の舞台となる留萌本線である。

2016年にJR北海道が廃線とする方針を打ち出してからは、
鉄道ファンが ”乗り納め” に訪れるようになっていた。

2019年9月、フリーターの浦本も深川駅から留萌本線に乗り込んだ。
しかし行程の半分ほどまで来たとき、一人の男が列車停止ボタンを押す。
男はダイナマイトを所有しており、乗客たちに下車を命じる。

人質として残されたのは機関士と、老齢の下山、
2人組の女子大生、そして浦本の乗客4人だった。

”山田” と名乗ったハイジャック犯は、機関士に命じて
留萌本線で唯一のトンネル(峠下トンネル)内に列車を停止させる。

同じ頃、留萌警察署に ”田山” と名乗る犯人から電話が入る。
要求は、道議会議員の河出(かわで)を交渉役とすること、
そして、1億7550万円の現金を用意すること。

峠下トンネル内は携帯電話の圏外で、しかも田山からの電話は
東京都内からの発信であることから犯人は複数と判明する。

犯人グループは、なぜ河出を指名したのか?
1億7550万円という半端な金額は何を意味しているのか?

廃線間近の地方のローカル線が日本中からの注目を浴びるさまが、
そして登場人物それぞれが抱く留萌本線への思い入れが描かれていく。

犯人たちの用意周到かつ緻密な計画は
常に警察の先手を取っていき、捜査陣は翻弄されるまま。

”身代金” の受け渡しもよく考えられているが、
捜査員がトンネルの周囲を取り囲んで、衆人環視状態にある列車から
山田が脱出する方法も、人間の心理を上手く突いたもの。
そして、解放された乗客達がSNSで事件をネットに上げることまで
計算に入れているという周到ぶり。

名探偵ならぬ ”名犯人” の鮮やかな手並みが堪能できる作品。


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追想の探偵 [読書・ミステリ]

追想の探偵 (双葉文庫)

追想の探偵 (双葉文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2020/05/14
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆


主人公・神部実花(かんべ・みか)は出版社で働き、
雑誌「特撮旬報」の編集を実質ひとりで切り盛りしている。

それは古今東西の映画・TVの特撮作品全般を扱う雑誌で、
毎号、特集を組んだ作品の関係者にインタビューをしている。

半世紀近く昔の作品もあり、当時のスタッフの中には亡くなったり、
消息不明になってしまっている者も少なくない。
しかし〈人捜しの神部〉の異名を取る実花は彼らを見つけ出し、
不可能とされたインタビューを成功させていく。

「日常のハードボイルド」
不定期刊行だった「特撮旬報」が隔月刊化されることになった。
その第一弾の特集は『流星マスク』、記事の目玉は
当時のスタッフの一人であり、伝説の特殊技術者といわれる
佐久田政光へのインタビューと決まるが、
彼は30年以上前に映画界と縁を切って消息不明となっていた・・・
些細な手がかりから佐久田を見つけ出す実花の手腕もすごいが
映画界から意外な分野への転身をした彼にも驚き。

「封印作品の秘密」
実花のもとに持ち込まれたフィルムの断片には、
1973年放送の特撮TVシリーズ『我らが故郷アースノイド』の
第31話「谷間の百合は星のくず」の1シーンが映っていた。
しかしその後の再放送では第31話だけが ”フィルム紛失による欠番”
とされ、DVDやブルーレイ・ボックスにも収録されていなかった。
実花は制作元の石楠花(しゃくなげ)プロに取材を試みるが
社長の幡山はなぜか激怒し、彼女を出入り禁止にしてしまう・・・
このエピソードから『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」
を連想してしまうのは、私だけではないだろう。
もっとも、『我らが故郷ー』13話が ”封印作品” になった裏には
意外にも愛と涙の物語があったのだが・・・。

「帰ってきた死者」
1989年から90年にかけて製作準備が進んだが、諸々の事情で
中止となってしまった幻の特撮映画『宇宙恐竜ゼーラドン』。
その初期デザイン画を入手した実花だが、それを掲載するには
デザイン担当だった長沼洋之助の許諾が必要だ。
しかし彼は既に死んでいるという情報も入ってきた。
彼の生死を確認するべく、実花は関係者を次々と訪ねるが・・・
おおらかというかいい加減というか、
この業界にはそういう人が多いのだろうか。

「真贋鑑定人」
倒産した企業が管理していた倉庫から見つかったのは、
1987年放映のTV番組『超空戦士ミライザー』のヒロイン、
レディ・ミラージュのマスクだった。
演じていた新人女優・汐原由紀は大人気を博したが、
前半のヤマ場ともいうべき25話の収録中に交通事故死するという、
まさに ”悲劇のヒロイン” となっていた。番組は予定を早めて
30話で打ち切りとなり、小道具類は全て廃棄されたはずだった。
マスクの真贋を確認するため、実花は特撮の現場で長く活躍した
造形美術の専門家・海野友彦に鑑定を依頼するが・・・
感動的なラストに涙腺崩壊。

「長い友情」
癌で余命幾ばくも無い監督・佐伯から、実花は女物の腕時計を渡される。
それは1970年放映の人気TVシリーズ『地球要塞の青春』の
第22話「星降る夜の恋人」にゲスト出演した
外人女優ジャネットから、撮影中に佐伯が預かったものだった。
しかし撮影直後に彼女はアメリカに帰国してしまい、
返す機会を逸してしまったのだという。
実花の調査によって、当時ジャネットは大学の留学生で、
豊島区の女子寮に住んでいたことが判明する。
さらに彼女のルームメイトだったアイリーンは日本人実業家と結婚して、
現在は鎌倉に住んでおり、今でもジャネットと交流を続けているという。
しかしアイリーンは、訪ねていった実花に対して
ジャネットが帰国してからは一度も会ったことはなく、
いま何をしているかも知らないという・・・
50年にわたって秘められていた哀しみが胸に沁みる。

「最後の一人」
1974年の映画『海底魔神の復活』のメイキング写真を入手した実花。
今までいかなる媒体にも登場したことのない貴重な一枚だ。
しかしこれを掲載するには、写っている人物全員の許諾が必要だ。
被写体となった11人のうち、すぐに身元が分かったのは5人だけ。
粘り強く関係者に当たった実花は、残りの6人のうち
5人までは突き止めるが、最後の一人だけが分からない。
それは野球帽をかぶった、10歳ほどの少年だった・・・

作者は1963年生まれとのことなので、ほぼ私と同世代。
まさに10~20代をさまざまな特撮作品に囲まれて育ったはずで
それらへの愛情もあちこちに感じられる。

”人捜し” は、ハードボイルドの基本フォーマットのひとつだけど
それを特撮界の行方不明者捜しに当てはめた発想がまず面白い。

実花が駆使する人捜しのノウハウも興味深いけれど、
「真贋-」では、特撮作品に関する深い蘊蓄が披露される。
作中に登場する特撮作品はみんな架空のものだけど、
私と同世代の方なら、「この番組はアレがモデルかな」とか
「この映画の元ネタはアレだろう」とか
いろいろ思いを巡らせるのも楽しいだろう。

是非シリーズ化してほしい作品だと思う。神部実花嬢にまた会いたい。

巻末の解説によると、ヒロインには実在のモデルがいるとのこと。
洋泉社の雑誌『特撮秘宝』の編集に当たっていた人らしい。
現在『特撮秘宝』は休刊になっているけど、復活の可能性もあるみたい。
本書を読んだら、読みたくなってしまった。
復刊されたらぜひ購入しようと思っている。


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読書嫌いのための図書室案内 [読書・ミステリ]

読書嫌いのための図書室案内 (ハヤカワ文庫JA)

読書嫌いのための図書室案内 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 青谷 真未
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: Kindle版
評価:★★★☆

主人公兼語り手は、読書嫌いの高校2年生・荒坂浩二。
図書委員になった彼は、新学期最初の委員会の会合で
図書新聞の編集を任されることになる。

読書嫌いのはずの彼が図書委員になったのには、
いろいろと経緯があるのだが、それはおいおい明かされる。

同じクラスの図書委員・藤生蛍(ふじお・ほたる)と共に
紙面を埋めるために、読書感想文の原稿依頼を始めることに。

思ってもみなかった難題に頭を抱えるが、
荒坂とは対照的に ”読書の虫” というか
”活字依存症” なくらい読書好きな藤生の協力もあり、
やがて、3人の人物に原稿を引き受けてもらえることになるが・・・

「第一章 ルーズリーフのラブレター」
荒坂の友人・八重樫は、森鴎外の『舞姫』の感想文を引き受けてくれた。
彼は今、オーストラリアから来た留学生アリシアに夢中で、放課後に
二人で日本語の勉強がてら『舞姫』を一緒に読んでいるのだという。
しかし、荒坂と藤生から『舞姫』の悲劇的な結末を知らされた八重樫は
衝撃を受けてしまい、感想文どころではなくなってしまう・・・

「第二章 放課後のキャンプファイヤー」
美術部の先輩・緑川が持ってきた感想文の原稿には、
読んだ本の題名が記されていなかった。
どの本を読んだのか分かったら、図書新聞に載せてもいいという。
荒坂は去年まで美術部に所属していたが、
展覧会への出品候補作だった彼の作品が
直前になって行方不明になってしまうという事件が起こっていた。
そしてその夜、生物担当の樋崎(ひざき)先生が、校内の焼却炉で
キャンバスらしきものを燃やしているのを荒坂は目撃していた・・・

「第三章 生物室の赤い闇」
樋崎先生は、安部公房の『赤い繭』の感想文を引き受けてくれたが、
条件は、先に荒坂が同作の感想文を書いて、先生に読ませることだった。
仕方なく『赤い繭』を読んでみる荒坂だが、
その難解さに音を上げてしまう。
(実は私にも、安部公房は訳分からんと言うイメージが・・・www)
さて、荒坂たちの高校には、18年前から広まり始めた怪談があった。
在学中に妊娠した女学生がいたこと、彼女が飛び降り自殺を遂げたこと、
血まみれの赤ん坊を抱いた女学生の幽霊が夕暮れの校舎を徘徊すること。
そして、18年前にも樋崎先生はこの学校に勤務していた。
荒坂は、その ”怪談” には何らかの真実が含まれているのではないか、
そして樋崎がその ”怪談” と何らかの関わりがあるのではないか、と
疑い始めるのだが・・・

読書嫌いの主人公が、病的なまでに読書好きなヒロインと
行動していくうちに、少しずつ本の楽しみに目覚めていく、というのが
ストーリーの縦糸なのだが、そこに ”日常の謎” 的な横糸が
豊富に絡み込んできて、なかなか読み応えのある学園ミステリだ。

各章ごとに独立しているわけではなく、3つの謎が並行して語られ
最後でひとつにまとまる。第一章での何気ない描写まで
しっかり伏線に組み込まれているのは流石。
やっぱりこの作者はミステリが上手いと思う。

さらにもう一つの要素として、ヒロイン・藤生蛍の成長がある。
ある事情から、読書に ”逃避” していた彼女が、
ラストではしっかりと自分の足で事態打開に動き出し、
それが心地よい読後感につながる。

単発ものみたいなのだけど、できれば
荒坂くんと蛍嬢の物語をもっと読みたいと思う。


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人魚と金魚鉢 [読書・ミステリ]

人魚と金魚鉢 〈聴き屋〉シリーズ (創元推理文庫)

人魚と金魚鉢 〈聴き屋〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 市井 豊
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公兼語り手の柏木は、T大学芸術学部文芸学科の学生で
文芸サークル<ザ・フール>に所属している。
柏木くんは、誰のどんな話でも上手に聞くことができる ”聞き上手” で
周囲からは ”聞き屋” と呼ばれている。
しかし、その話の内容から意外な事実を引き出し、
事態を解決してしまう名探偵でもあった。

”聞き屋” こと柏木くんと、<ザ・フール>のメンバーが活躍する
シリーズの第2弾。彼らが遭遇した5つの事件を収録している。

「青鬼の涙」
祖父の七回忌法要のため、父の実家へやってきた柏木くんの一家。
柏木くんにとって、祖父は寡黙でしつけに厳しい人だった。
父はそんな祖父と折り合いが悪く、めったに田舎へ帰らなかった。
実家でくつろぐうちに、柏木の脳裏に幼い頃に見た光景が蘇る。
ある夏の日、屋根裏部屋で床にひざまづいた祖父が、
項垂れて静かに涙を流していたのだ・・・
怖い人だとばかり思っていた祖父の、意外な一面を知る柏木。
まあそうだよなあ。あんなことが起こったら、泣くだろうなあ・・・

「恋の仮病」
”聞き屋” の柏木君のもとを訪れたのは、デザイン学科2年の舞田くん。
彼は友人たちと行ったゲームに負け、罰として
好きでもない女の子に告白する羽目になったのだが、
相手がまさかのOKを出してきた。どうしよう・・・
次に現れたのは、同じデザイン学科2年のさくらさん。
宝塚の男役かと見紛う男装の麗人は、舞田くんが告白した人だった。
彼女は言う。OKしたのは、男性との交際経験に乏しい自分が、
恋愛の練習相手として彼を利用するためだった、と。
単なる学園ラブコメだけど、ミステリ的なネタはここじゃないところに。
同じ内容でも、こういう物語の語り方もあるんだなあ。

「世迷い子と」
<ザ・フール>のOGで芸能事務所でマネージャーをしている三門さん。
彼女の担当するタレント不破良介は、まだ10歳ながら
将来性十分で、教育テレビの番組にレギュラー出演している。
しかし、テーマパークでの収録で、リハーサル中に異変が起こった。
良介くんの顔色が突然真っ青になって、カメラに背を向けて走り出して
近くの池に飛び込んでしまったのだという・・・
彼を怯えさせたものの正体は見当が付くのだが、
そこからさらに踏み込んだところに真相がある。流石。

「愚者は春に隠れる」
<ザ・フール>は、都立さくら公園で行われる
フリー・マーケットに参加した。
ネガティブ思考で影の薄い ”先輩” と売り子当番をしていた柏木くんだが
二人そろって居眠りしていた隙に、サークル仲間の川瀬のいたずらで
柏木くんと先輩は手錠でつながれてしまう。手錠の鍵を求めて
サークルメンバー全員で川瀬を探すことになったのだが・・・

「人魚と金魚鉢」
T大学芸術学部音楽学科の選抜コンサートの当日。
柏木くんは音楽棟の床にうずくまる青年を介抱する。
彼は音楽学科3年の浦口くん。コンサートの参加者で
ヴァイオリニストとして教鞭を執る古林先生の愛弟子でもある。
しかし、コンサート会場となる大ホールが、
何者かによって泡まみれにされるという事件が起こり、
急遽、音楽棟の大講堂へと会場が変更される。
しかし今度は、大講堂の暗幕に泡が吹きかけられるという事態に・・・

日常の謎ミステリとしてもよくできてるけど、それ以上に
川瀬、”先輩”、梅ちゃんなどをはじめとする<ザ・フール>のメンバーの
キャラが見事に立っていて、ストーリーの進行を盛り上げる。
彼らの行動を追っていくだけで楽しく読み進められる。

「愚者はー」では、サークルメンバー総出演で、
逆に言えばこの回にだけ登場の人も多い。
大学生などの若い時代には、奇人変人ぶりを発揮する人が多いものだが
その中でも永江さんのキャラはダントツ。
また彼女の ”活躍” を読みたい。


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軍艦探偵 [読書・ミステリ]

軍艦探偵 (ハルキ文庫)

軍艦探偵 (ハルキ文庫)

  • 作者: 山本巧次
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2018/04/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公・池崎幸一郎は帝國大学卒業後、短期現役士官制度に応募した。
この制度は、士官不足を補うために大学/高専の
法学部/経済学部卒業生の中から希望者を募り、
海軍主計士官として任官させるというもの。

高倍率の難関をくぐり抜けて主計士官となった池崎は
様々な軍艦に勤務するが、それらの艦内で起こった事件の解決に関わり、
いつしか「軍艦探偵」という異名で呼ばれるようになっていく。

「第一話 多すぎた木箱 ー戦艦榛名ー」
昭和15年夏。池崎は戦艦榛名(はるな)に配属された。
佐世保港に停泊する榛名は、山本五十六連合艦隊司令長官の視察を控え、
慌ただしい雰囲気に包まれている。そんな中、食料として積み込む
野菜の木箱が帳簿より1つ増えていることが分かる。
しかし翌日に数え直すと木箱の数は帳簿通りに戻っていた・・・

「第二話 怪しの発光信号 ー重巡最上ー」
昭和16年、呉。池崎は重巡最上に転属していた。
二二三〇(午後10時半)、上甲板を歩いていた彼は
500m先に停泊する僚艦・鈴谷の上甲板から
謎の発光信号が発せられるのを目撃する。
調査の結果、鈴谷の乗組員・向田が、榛名に乗っている兄に向けて
母親の病気について連絡していたことがわかったが・・・

「第三話 主計科幽霊譚 ー航空母艦瑞鶴ー」
昭和16年晩秋。九州近海を進む瑞鶴(ずいかく)に転属した池崎は、
倉庫で幽霊を目撃したという話を耳にする。
だが、9月に就航したばかりの新鋭艦に幽霊が出るはずがない・・・

「第四話 踊る無線電信 ー給糧艦間宮/航空機運搬艦三洋丸ー」
昭和17年。池崎はラバウルに向けて航空隊の要員と
飛行機の部品、そして航空燃料を運ぶ三洋丸にいた。
パラオに入った三洋丸は、停泊していた間宮から連絡を受ける。
昨日の真夜中に、三洋丸から謎の無線発信があったという。
内容は意味をなさない乱雑な信号の羅列だったらしいが・・・

「第五話 波高し珊瑚海 ー駆逐艦岩風ー」
昭和18年2月。連合艦隊は果てしない消耗戦のただ中にあった。
池崎の乗る岩風(いわかぜ)とその僚艦・明風(あけかぜ)は、
孤立した陸軍兵400名を収容するべく、
オーストラリア本土に近いヌーリア島に向かっていた。
収容は無事に済んだものの、敵の魚雷が、航空隊の爆撃が
ラバウルへの帰還を急ぐ両艦を襲う。
そんな中、対潜警戒のために夜間のジグザグ航行を続ける岩風から
陸軍兵・笹尾が海に落ち、行方不明となる・・・

「第六話 黄昏の瀬戸 ー駆逐艦蓬ー」
昭和20年文月(7月)。呉には数多の大型艦が停泊していたが
いずれも燃料切れで動くことができない。
池崎が乗る蓬(よもぎ)も、1日おきに哨戒と訓練のために動くだけ。
しかしそんなある日、呉は敵の大編隊の空襲を受け、
蓬も沈没してしまう・・・

「エピローグ」
昭和30年5月。沈んだ蓬が引き上げられた。
修理の上、海上自衛隊の艦艇として再利用することが決まったのだ。
池崎は ”あるもの” を探すため、造船所に運ばれた蓬の艦内を訪れる。

「第一話」~「第四話」は、軍艦という ”非日常の世界” における
”日常の謎” といった雰囲気。謎としては小粒かも知れないが、
軍隊特有の閉鎖的な環境や特異な風習ゆえに起こりうる事件ではある。
また、その中には終盤へつながる伏線も忍ばせてある。

「第五話」~「第六話」~「エピローグ」はひとつながりで、
笹尾の死の真相とその背景となる状況が解き明かされていく。これも、
平時ならば起こりえないだろうが、戦争という特殊な状況下ゆえに
犯罪に走ってしまう人間たちの姿が描かれていく。

軍隊内の事件とその解決という珍しい題材のミステリ。
こういうものを書いてくれる人は貴重だと思う。


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