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罪人よやすらかに眠れ [読書・ミステリ]

罪人よやすらかに眠れ (角川文庫)

罪人よやすらかに眠れ (角川文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

札幌市の中島公園近くにある屋敷。そこに住むのは6人の男女。
主である中島氏夫妻、娘で中学生の碧子(みどりこ)、
高齢の執事・木下、10代のメイド・菖蒲(しょうぶ)、
20代半ばの北良(きたら)はどうやら中島家の居候らしい。

時折ここには、何かに引き寄せられたかのように
さまざまな男女が足を踏み入れてくる。
彼らの共通点は、”業” を抱えていること。

それと自覚している者もいれば、
無意識のうちに心の底に沈めている者も。

彼らは中島家の人々に歓待されるが、居候の北良は
彼らの背負っている ”秘密” を見抜いてしまう。

「友人と、その恋人」
上司のパワハラに悩む上本は友人の福山と酒を飲み、酔い潰れてしまう。
困った福山は上本の婚約者・友理奈を呼び出したが、
二人とも上本の扱いに窮してしまう。3人がいた場所が
たまたま中島家の前だったことから、屋敷の中に迎え入れられるが・・・

「はじめての一人旅」
東京の小学5年生・利緒(りお)は、初めての一人旅で
札幌に住む叔母・通代(みちよ)とその娘・智香(ちか)を
訪ねることになったが、市内で道に迷ってしまう。
通りかかった碧子に誘われ、中島家の屋敷に迎え入れられるが・・・

「徘徊と彷徨」
会社員・島崎は、”ある事情” で市内を走っていた。
しかし還暦近い身での運動はきつく、途中でへばってしまう。
そこはたまたま中島家の前で、島崎はそこで介抱されることになる。
事情を聞きたがる中島家の人たちに対して、
島崎は必死になって理由を隠そうとするのだが・・・

「懐かしい友だち」
駒井夏純(かすみ)は小学校の頃、中島公園の近くに住んでいた。
その後、親の転勤で離れたが、就職して札幌に戻ってきた。
ある日、中島公園に来た夏純は小学校時代の親友・野田日向子(ひなこ)の
家が近くにあることを思いだし、探してみるがみつからない。
たまたま通りかかった中島家の人に尋ねるたところ、
野田家は数年前に引っ越し、しかもその家に娘はいなかったという・・・

「落とし物」
森市絵美莉(もりいち・えみり)は、中島家の前で派手に転び、
足を捻挫してしまう。屋敷に迎えられた彼女は手当を受けるが・・・

「待ち人来たらず」
徳山宗一郎は、シングルマザーの石井幸代(ゆきよ)と交際している。
中島公園でデートの待ち合わせをした徳山だが、
時間になっても幸代は現れない。
そこを、小学生の男の子と抱えた女子中学生が通りかかる。
男の子は幸代の息子の駿太(しゅんた)だった。女の子は碧子と名乗り、
駿太が公園のベンチで高熱を発して苦しんでいるのを見つけたのだという。
駿太は碧子の家である中島家で手当を受けるのだが・・・

「今度こそ、さよなら」
3年前に中島公園で起こった無差別殺傷事件で8人の命が失われた。
藤森も、恋人だった大輔をその事件で失っていた。
しかし彼女には割り切れないものがあった。大輔は凶行のさなか
藤森ではなく、他の女性の盾となって命を落としていたのだ。
3年経ってもトラウマは癒えず、当時のことを思い出した藤森は
路上でパニックに襲われ、中島家の人々に救われるが・・・

どれも文庫で30ページちょっとという短さながら、密度は濃い。

中島家の ”客” となった者が事情を話していくうちに
探偵役となっている北良がひと言、口を差し挟む。
その瞬間から、物語の様相がガラッと一変してしまう。

何気ない描写や言葉の欠端から北良が導き出す ”真実” は実に意外。
発端の光景とは想像もできない結末へと引っ張っていかれてしまう。

同じ作者の「座間味くんシリーズ」でも同様の趣向だが
鋭利な刃物のような、推理の切れ味が楽しめる。

中島家の人々の正体だけが最後まで不明なのだけど、
何やら人外めいた雰囲気もある。
これこそ ”知らぬが花” なのかも知れない。


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難事件カフェ2 焙煎推理 [読書・ミステリ]

難事件カフェ2~焙煎推理~ (光文社文庫)

難事件カフェ2~焙煎推理~ (光文社文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/07/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

喫茶店プリオールを経営するのは、男兄弟の2人。
兄の惣司季(みのる)と、その弟の智(さとる)。
智はかつてキャリア警察官で県警で警部をしていた。
しかし突然職を辞し、兄の店を手伝うようになった。

智の刑事としての能力を惜しむ県警本部は、
彼の辞表を ”預かり” 状態にする一方、彼を翻意させるために
秘書室の直井楓巡査を客として頻繁にプリエールに送り込む。

彼女が持ち込む様々な事件の謎を惣司兄弟が解いていく、
という連作短篇集第2弾。

「第一話 最高の仲間 奇蹟の友情」
海岸に立つ別荘で会社員・洞大斗(ほら・ひろと)が殺害される。
一緒に滞在していたのは国会議員の息子、銀行頭取の息子、
大学病院院長の息子で、被害者自身も大手企業の社長の息子だった。
彼ら4人は小学校からの友人で揃って東京大学を出た仲間。
学生時代からこの別荘に集まって4人だけで過ごすのが恒例だった。
警察の捜査により内部にいた3人に犯行は否定されたが、
外部から侵入した者もいないことが分かった。
惣司兄弟は楓と共に現場の別荘に出かけていくが・・・

「第二話 理想は不存在」
楓に頼まれて、惣司兄弟は吉崎夏香(なつか)という
入院中の女性に会いに行く。彼女はJR海浜線秋津駅で、
腹部を果物ナイフで刺された状態で発見された。
命は取り留めたものの、手術後に3日間意識不明になり、
被害を受けた前後の記憶を失っていた。
容疑者として浮上したのは、夏香にストーカー行為をしていた
野田という男だったが、犯行時刻にはアリバイがあった・・・
うーん、人がいいにもほどがある、とは思うんだが
こういう人って一定数いるんだろうなあ。

「第三話 焙煎推理」
古書店とカフェを併設した店を開業準備中の糸川夫妻から
開店前のお試し客として、惣司兄弟と楓は招待を受ける。
夫妻の息子で小学4年生の真広(まさひろ)を含めた6人に
珈琲が振る舞われるが、季は一口飲んで激しくむせてしまう。
何者かが珈琲に毒を盛ったらしい・・・
まさか毒物事件からこういう展開になるとは。
意外な成り行きにびっくりさせられる。

「第二話」登場の夏香さんはこれからセミレギュラー化しそうだし
「第三話」では、智が警察をやめた理由も明かされる。
これでは復帰は難しいかも。

サザエさん時空ではなく、登場人物たちの時間は動いているようなので
どこかの時点で完結するのかも知れない。

ちなみに、シリーズ第1弾は7年前に幻冬舎文庫で出た
『パティシエの秘密巣推理 お召し上がりは容疑者から』。
それがなぜか2巻目からは光文社文庫にお引っ越し。
幻冬舎と喧嘩でもしたのでしょうか(笑)。


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マツリカ・マジョルカ [読書・ミステリ]

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公・柴山佑希は高校1年生。
親しい友人もおらず、成績もじり貧。クラスに居場所もない。
そんな冴えない学校生活を送っていた柴山は、
ある日、学校近くの廃ビルで ”マツリカ” と名乗る少女と出会う。

彼と同じ学校の制服を着た彼女だが、登校している様子はなく、
そのビルの中で一日中生活しているらしい。
しかも双眼鏡で校内の様子を観察している。

傍若無人かつ高飛車な物言いで、柴山のことを ”柴犬” 呼ばわりするが
彼女の美貌とナイスなスタイルに魅せられた(笑)彼は
マツリカの ”パシリ” としてこき使われる日々を送ることに。

校内で起こった事件や謎のうち、マツリカが興味を示したもののために
情報を収集するべく、柴山は入学以来避け続けてきた
”他人と関わること” と嫌でも向き合うことになる。

そんな使い走りのワトソン・柴山と
安楽椅子探偵・マツリカの登場するシリーズの第1巻。

「原始人ランナウェイ」
柴山たちの高校に古くからある、"全裸で走る原始人" の伝説。
夕方、旧校舎の裏に謎の原始人が現れ、雄叫びを上げながら
校庭を走っていく、というもの。それに興味を示したマツリカから、
柴山は放課後の校庭の監視を命じられる・・・
"原始人" という突拍子もない存在から、意外な真相が導き出される。
分かってみれば腑に落ちる出来事ではある。

「幽鬼的テレスコープ」
クラスメイトで写真部に所属する女子生徒・小西から
上級生主催の肝試しに ”人数合わせ” として駆り出された柴山。
会場となる学校の裏山は ”隻眼(せきがん)山” と呼ばれ、
かつてそこで少女が暴行され、目を抉られて死んだとの噂があった。
そして肝試し当日、参加したメンバーのうち、
一組の男女がゴールせず、行方不明になってしまう・・・

「いたずらディスガイズ」
毎年、文化祭に ”恐怖ゴキブリ男” なるものが現れるという。
その監視を命じられた柴山だが、演劇を行うD組で
アリスの衣装が盗まれるという事件が発生する。
小西に頼まれ、犯人を捜すことになった柴山だが・・・
彼がメイド姿の小西嬢の可愛さに驚愕するところが一番面白いかな。

「さよならメランコリア」
小西に招かれて写真部の部室に入った柴山は
先輩が撮ったという写真の中にマツリカを発見し、
彼女がこの学校の3年生であることを知る。
家に帰った芝山は、姉の卒業アルバムを開いてみる。
すると、個人写真のページから、
姉の写真のみがきれいに切り取られていた・・・
連作短篇の最後で、いままでの3作で蒔かれていた伏線が回収され
ある ”秘密” が明かされる。

3作目までは、マツリカは実在の人間じゃなくて
魔女かなんかの人外じゃないのかとか思っていた。

高校生とは思えない老成した言動や、人間の心理に対する深い洞察とか。
それに加えて、やたらと柴山くんを性的に挑発してくるところ(笑)とか。

 もっともこれは、彼女が意識してやっているわけではなく、
 (・・・とも言い切れないかな?)
 柴山の方が勝手に妄想を爆発させている(笑)だけなのだが。

それが4作目になると、俄然実在の証拠が現れてくる。
そうすると、今度はなぜ彼女が家にいないで廃ビルで暮らし、
不登校状態を続けているのかが次の疑問になるのだが・・・
家庭に複雑な事情がありそうだというのが本編の中で示唆されるので
次巻以降でおいおい明かされていくのだろう。


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ビリヤード・ハナブサへようこそ [読書・ミステリ]

ビリヤード・ハナブサへようこそ (創元推理文庫)

ビリヤード・ハナブサへようこそ (創元推理文庫)

  • 作者: 内山 純
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

第24回鮎川哲也賞受賞作。

主人公は大学院1年生の中央(あたり・あきら)。
ビリヤードの元世界チャンピオン・英雄一郎(はなぶさ・ゆういちろう)が
営むレトロな撞球場「ビリヤード・ハナブサ」でアルバイトをしている。

時間にルーズでビリヤードのことしか頭にない、浮世離れした英、
彼の弟子でボーイを務める金子良司、
商社マン時代の豊富な人脈を誇る ”ご隠居”・佐藤、
過去にいくつものチェーン店を経営していたらしいが
いまは珈琲専門店のマスターに納まっている小西、
央の大学院仲間の日下、
そして彼らの ”マドンナ” である、年齢不詳(笑)のお姉さん・木戸。

この常連メンバーが集う「ハナブサ」には、しばしば謎が持ち込まれ、
メンバー間の推理談義が始まるが、結局のところ
真相に到達するのはいつも央くんだった・・・
というパターンの連作短編集。

タイトルはいずれもビリヤードの専門用語で、
事件解決のヒントだったり、事件の様相をなぞらえたりしてる。

「第一話 バンキング」
ボーイの金子は、近くにオープンしたイタリアンレストランの
若き女性店長・飯島と知り合う。
その翌週の月曜日、レストランを訪ねた金子は、
レストランのオーナー・高柳の死体にすがりつく飯島を発見する。
警察の捜査で浮上した容疑者は3人。第一発見者で店長の飯島、
オーナーの甥の大林、そしてレストランでボートして働く岡田。
犯人は、殺害後になぜか死体を移動させていたのだが・・・

「第二話 スクラッチ」
常連客の里見が勤める会社で、屋上から社員が転落して
死亡するという事件が起こった。
死んだのは坂本という男で、自殺と思われたが
彼の所属部署にいる社員の関与を疑う者もいた。
亡くなった坂本は、よく言えば大人しい、悪くいえば鈍くさい、
いわゆる ”使えない奴” と思われていた。
上司である課長の秋津は、自分勝手でプライドの高いお坊ちゃん気質、
同僚は、要領がよくゴマすりが得意な笹塚、
家庭第一で仕事もクールに割り切るが、ゲームが大好きな竹内、
美人だが気が強く、常に玉の輿を狙っている独身女性・入江。
タイトルにある「スクラッチ」が、真相への道しるべとなる。
本書収録の短篇タイトルはいずれもビリヤードの専門用語で、
いずれも事件解決のヒントだったり、
事件の様相をなぞらえたりしてるのだけど、
個人的にはこの「スクラッチ」が一番ぴったりのような気がする。

「第三話 テケテケ」
最近「ハナブサ」に現れるようになった霞ヶ浦は、製薬会社の研究員。
彼が10年以上前に経験した事件を語り出す。
オーストリアで外資企業と共同研究することになった霞ヶ浦。
同僚の研究員・綾瀬と共に、現地のスタッフと3か月を過ごすことに。
優れたセンスを持つ綾瀬は共同研究を牽引する存在になるが、
完璧主義なあまり、他人からミスを指摘されると激高するので、
彼に対しては周囲も気を遣わざるを得なかった。
やがて中間報告を出すミーティングの日がやってくるが
当日の朝、会場となる会議室で死体となって発見される。
うーん、でもこのネタはちょっと無理がないかなぁ。
人間、PCだけを見て暮らしてるわけじゃないからなぁ。

「第四話 マスワリ」
日下のケータイに英が送ってきたのは、
ビリヤード台の上に女性の死体が載っている写真だった。
英が高名な獣医で、動物病院の院長でもある香山麗子という女性の家を
訪ねたところ、彼女の死体を発見したのだという。
とりあえず央と日下と木戸さんが現場へと向かうことに。
香山邸には離れがあり、そこにビリヤード場が設えられていた。
死体は離れで見つかり、入り口を撮影する防犯カメラの映像には、
英しか写っていなかったため、重要容疑者扱い。
しかしその後、母屋と離れは地下通路でつながっていることがわかり、
英以外の3人の人物も容疑の圏内に入ることに。
まずは英の弟子で、ビリヤード店を経営する本郷。
香山麗子のお気に入りのホスト・相馬。
そして香山院長の秘書である宮沢。
防犯カメラから割り出した地下通路の開閉記録と、
各人の供述から、ジグソーパズルのように
犯行前後の人間移動を組み上げていくのがなかなか緻密にして秀逸。

文庫本の惹句には「現代の『黒後家蜘蛛の会』」と紹介されているけど、
私はあまり相似性は感じなかった。

『黒後家ー』はアイザック・アシモフ作の短篇シリーズで
月に1回、レストランに集った6人のメンバーが一つの謎について
議論を戦わせ、最後に給仕のヘンリーが真相を言い当てる、というもの。

こちらは終始レストラン内で進行し、ヘンリーも
完全な安楽椅子探偵になっているのだけど、
『ビリヤード-』の方では、第四話でレギュラーメンバーが
現場まで出向いて情報収集に当たる。
メンバー間の議論も、それがメインというわけではなく、
もっぱら彼らは探偵役である央くんに情報提供をしたりと
彼の推理に協力する役回り。どちらかといえば
「ハナブサ探偵団」といった雰囲気に近いように思う。

さて、私はこの作品にあまり星の数を与えなかったのだけど
新人の作品にしては落ち着いた(落ち着きすぎた)作風に
ちょっと物足りなさを感じたから。

もっとも、この安定した出来映えに対して審査委員の先生方は
高得点を与えたわけで、このあたりは好みの部分もあるのだろう。

最後にどうでもいいことを。
この記事を書くに当たってwikiで『黒後家蜘蛛の会』を調べたら
1981年にNHKでラジオドラマになっていたことがわかった。
そして、その配役を見てぶっ飛んでしまった。

会のメンバーに 納谷悟朗、中村正、小林修、大塚周夫、
野沢那智、金内吉男。そしてヘンリーに久米明。(敬称略)

もうレジェンド級の声優さんばかりじゃないか。
一度聞いてみたかったなぁ。


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十一月に死んだ悪魔 [読書・ミステリ]

十一月に死んだ悪魔 (文春文庫)

十一月に死んだ悪魔 (文春文庫)

  • 作者: 晶, 愛川
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/11/10
  • メディア: 文庫
評価:★★

深酒をしたとき、記憶が飛んでしまうことはありますか?

20代から30代にかけて、酒をたらふく飲んだ翌朝、
前夜の記憶がすっぽり抜けてしまっていたことがよくあった。

酒を飲み始めて1時間くらいまでは覚えているものの、
その後の言動が全くアタマから抜け落ちている。

その間、寝ていたのかなと思って、その場にいたメンバーに聞いてみると
「いやあ、ずっと元気に起きていて、目一杯騒いでいたじゃないか」

陽気に騒いでいただけならいいが、同席していた女性に対して
セクハラまがいの発言をしたりしてないかとか、
日頃の鬱憤を吐き出して問題発言をしていたりしないかとか、
不安になったりする。
まあ、いまのところ揉め事にまで発展したことはないが・・・

最近は滅多になくなったが、皆無というわけでもない(おいおい)。

閑話休題。

本書の主人公・柏原は11年前に交通事故に遭い、
事故前後の1週間ほどの記憶を失った。
それ以後、突然に意識が遠のいて、恐怖感と共に
”穴” が現れる幻覚を見る発作が現れるようになった。

怪我から回復した柏原は仕事を辞め、小説を書き出した。
彼の作品は新人賞を受賞し、作家としてデビューを果たす。
最初は順調だったがここ数年は人気が低迷、妻子との仲も険悪化し、
文庫書き下ろしのホラー小説を乱作して糊口をしのいでいた。

次作執筆の資料として『ラブドール』のカタログを取り寄せた柏原は
その中の『まいか』という名の一体に心を奪われてしまう。

 『ラブドール』とは、いわゆる『ダッチワイフ』というやつですね。

ある日、汚れた上着をクリーニング店に持ち込んだ柏原は、
そこで『宮崎舞香』という、『まいか』そっくりの女性に出合う。
しかも、ラブドール『まいか』の唇の右にはほくろがあったのだが、
実在する女性『宮崎舞香』の唇の右にもほくろが・・・

さて、小学校時代の柏原は家族的には恵まれず、そのストレスからか
”コータ” というイマジナリーコンパニオンをつくりだしていた。
架空の存在ながら、声も姿形も、顔つきさえも鮮やかに
思い浮かべることができる ”彼” とともに日々を過ごしていた。

 ちなみにwikiでは「イマジナリーフレンド」という項目で載っている。
 文字通り「空想の友人」のことで心理学/精神医学における現象名。
 以下はwikiの文章を抜粋して編集。
 通常児童期にみられる空想上の仲間をいい、実際にいるような実在感を
 もって一緒に遊ばれ、子供の心を支える仲間として機能する。
 空想の中で本人と会話したり、時には視界に擬似的に映し出して
 遊戯などを行ったりもする。主に長子や一人っ子といった子供に
 見られる現象で、5〜6歳あるいは10歳頃に出現し、児童期の間に
 消失する。子供の発達過程における正常な現象である。
 多くの場合、本人の都合のいいように振る舞ったり、
 自問自答の具現化として、本人に何らかの助言を行うことがある。
 反面、自己嫌悪の具現化として本人を傷つけることもある。

舞香に出合った柏原は、実家の押し入れを探して、
小学校の頃に自分が描いた ”コータ” の絵を見つける。
しかし絵の中の ”コータ” の唇の右にはほくろが描いてあり、
絵の裏には柏原自身の筆跡で『宮崎恒太君』の文字が・・・

再びクリーニング店を訪れた柏原は舞香に恒太のことを問うと
「私は恒太の娘だ」と言い出す。さらには
「身の危険を感じている。父の友人なら私を匿ってほしい」
と言い出すのだが・・・

小学校時代、11年前の事故前後の1週間、そして現在と
3つの時間線上での出来事が複雑に絡み合う展開。

事態は混迷の一途を辿るのだが、柏原自身の記憶喪失と、
舞香自身にも記憶障害(解離性障害)の疑いがあり、
この二つが相乗効果のようになって
どこまでが妄想でどこからが現実なのかも定かでなく
なかなか全体像が明らかにならない。

さらには、“ある人物” が中原健太という人物に宛てたメール、
柏原のデビュー作と覚しい短編小説の断片などが随所に挿入される。

ラストに至ると、すべての伏線が収束して意外な真相が明らかになる。
ミステリとしてはよくできているのだけど、
物語としてはなかなか苦い結末を迎える。

主人公・柏原が、どうみても真っ当な人物ではないし、
ヒロインである舞香嬢も情緒不安定な描写が続く。
文章自体は読みやすいし、ミステリ的興味はかなりあるので
読むこと自体は苦にならないのだけど、主役二人に
ほとんど感情移入できないのは、読んでいて辛いものがあるなぁ。


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文豪Aの時代錯誤な推理 [読書・ファンタジー]

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/15
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

芥川龍之介といえば、知らぬ者のない文豪だろう。
1927年に致死量の睡眠薬を飲んで自殺したことでも有名だ。享年35。

本書は、芥川が自死した直後から始まる。

意識を失った龍之介は、羅生門と覚しき場所で目覚める。
そこへ ”袴垂(はかまだれ)” と名乗る女が現れ、
”未来世界の一場面” だという光景を見せる。

彼の目に映ったのは、都市の路上で一人の女が刺し殺され、
そこから始まる凄惨で無差別な暴力の連鎖。
これは、龍之介が願った未来の姿なのだという。

殺された女性は、龍之介の初恋の女性によく似ていた。
この悲劇の回避を願った龍之介は、2018年の東京に蘇る。

袴垂の手配してくれた資金で一軒家を借りた龍之介は、
”茶川龍之介(ちゃがわ・たつのすけ)” と名乗り、生活を始める。
その手始めに家政婦を募集することに。

そこへ応募してきたのが、芥川龍之介マニアの元国語教師・内海弥生。
彼女に会った龍之介は驚く。
弥生こそ、袴垂に見せられた幻視の中で殺された女性だったのだ。
彼女の方も、雇い主が憧れの芥川龍之介にそっくりなことに感激する。

 本人なんだからあたりまえなんだが(笑)。
 wikiに載ってる芥川の写真は、かなりイケメンだと思う。

一つ屋根の下で二人の共同生活が始まるのだが、
明治生まれの龍之介と平成生まれの弥生。
弥生自身は芥川を筆頭に明治の日本文学に詳しいとはいえ
そこは現代に生きているお嬢さん。
旧態依然とした、男尊女卑の価値観に染まった龍之介と
しばしばぶつかり合うことになる。
何せ100年のタイムラグがあるし。
龍之介の方も、弥生と出会ってから言動に変化が現れる。
芥川龍之介ってこんな面白いキャラだったの? って思うくらいに。

そして、そんな二人の売り言葉に買い言葉の掛け合いは、
お互いのキャラもあってユーモアに溢れ、笑いを誘う。

いつ来るか分からないが、近い将来に起こるであろう ”危機” から
弥生を守るべく、あれこれと心配する龍之介だが
そんなこととは全く知らない弥生はのほほんと生きていて
そんな二人の対比も面白い。

しかしその間も、近隣の街角では不審な事件が続発し、
ついに ”その日” がやってくる・・・

シチュエーションこそ深刻だが、雰囲気はコメディ。
龍之介と弥生の凸凹コンビぶりが読みどころ。

いわゆるタイムスリップものに分類できるだろう。
主人公が過去に戻り、そこで起こる事件を
食い止めようとするパターンは多いけれど
過去の人間が未来へやってきて、そこで起こる事件を
未然に防ごうというパターンは、あまり多くないんじゃないかな。

この手の物語では、ラストでの主人公の扱いが大事だろう。
元の時代に返ったり、その時点で死んでしまったり、
別の時間線へ飛んでいってしまったりと様々なパターンがあるが・・・

本書での芥川龍之介の扱いは・・・
「これでいいのかなぁ」という思いもあるが、
エンタメとしては正解なのかも知れない。


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キングレオの回想 [読書・ミステリ]

キングレオの回想 (文春文庫)

キングレオの回想 (文春文庫)

  • 作者: 挽, 円居
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★

舞台はパラレルワールドの日本。
日本探偵公社という組織に所属する名探偵にして、
”キングレオ” こと天親獅子丸(あまちか・ししまる)が主人公。
獅子丸の助手兼語り手となるのは、獅子丸の従兄弟にして
公社のスクリプトライターを務める天親大河(あまちか・たいが)。

このコンビが京都の町を舞台にして起こる怪事件に立ち向かう、
連作短編シリーズの第2巻。

ホームズに対するモリアーティ教授のような、
獅子丸たちの最大のライバルとなるのは
城坂論語(ろんご)という高校1年生。

その論語くんは、獅子丸の画策によって滋賀県の療養所に
”疾病対策のための隔離” という名目で ”監禁” 生活を送っていた。
しかしそんなことで挫ける論語くんではない。
”獄中” にありながらも、さまざまな策略を巡らして
獅子丸たちに絡んでくる。

「大宮の醜聞」
天親獅子丸の弟で、宮内庁の官吏をしている雹平(ひょうへい)が
持ち込んできたのは、さる皇族の醜聞。
一般人女性に恋をし、ある贈り物をした。結局二人は別れたが、
その贈り物が外部に流出しては差し障りがある。
その一般人女性こそ、大河の大学時代の元恋人で獅子丸の友人でもあった
税所密香(さいしょ・ひそか)だった。
この密香さんというキャラは強烈だなあ。峰不二子とタメが張れる。
獅子丸や論語といった錚々たる面々の中で全く埋もれない。
どうやら単発登場になりそうなんだけど、将来また出てくるのかな?

「双鴉(そうあ)橋」
日本探偵公社で、新たにスクリプトライターを公募することになった。
与えられたテーマを元に、プロットを競作させ、それを審査する。
テーマとなったのは、人気イラストレーター・風上(かざかみ)美佐子が
京都市内の双鴉(そうあ)橋で射殺死体となって発見された事件。
それ自体は獅子丸が出馬し、自殺として解決していた。
大河の友人で、売れない作家をしている鳥辺野有(とりべの・ゆう)も
応募することになったが、他にも2人の応募者が。
しかもそのうちの一人は城坂論語が差し向けた者らしい・・・

「六つの土下座像」
採用となった鳥辺野有だが、慣れない仕事に自信が持てないでいた。
そんなとき、京都市内で ”高山彦九郎像” にまつわる怪事件が起こる。
”高山彦九郎像” とは、三条大橋の袂に設置されているもので
通称が ”土下座像” というもの。これのレプリカ(張りぼて製)が
市内の各所に突然現れるというものだった。すでに2カ所に現れていて
有が警察に問い合わせたところ、既に3体目が出現しているという。
投稿動画サイトには、犯人グループの手になると思われる
「作ってみた」動画がアップされていた。
獅子丸は彼らに対抗して、有とともに
「推理してみた」動画の製作を始めるが・・・
終盤では、獅子丸の天才的な推理の秘密が明かされる。

「タチバナの種五つ」
獅子丸宛てに、柑橘系の種が5つ入った封筒が届く。
差出人は「京都地方検察庁」所属の検事・天親寅彦、大河の弟だ。
獅子丸が解決した国吉事件の結果に異議があり、
公社と検察の間で特別審問を開くのだという。
資産家国吉家の当主・力人(りきひと)が自宅で死体で見つかり、
獅子丸の突き止めた犯人は力人の双子の妹・水乃(みずの)だった。
水乃の自供した犯行時刻後にも、被害者が生きていた証拠が現れたのだ。
5つの種は、獅子丸や大河、寅彦たちの幼少期のエピソードに関わる、
ある事件の象徴。それを ”解決” した獅子丸の ”豪腕” ぶりもスゴい。

「最後の事件」
国吉事件の解決に関して味噌をつけた獅子丸は、
突然の引退宣言とともに消息を絶ってしまう。
しかし彼の活躍を映画化した「名探偵レオ 天空の密室」の公開が
迫ってきたことで、そのプロモーションに協力すべく
1か月ぶりにその姿を現した。
一方、”隔離” されていた城坂論語が脱走したという知らせが。
獅子丸は、映画プロモーションの一環として行われる
豪華飛行船オートクレール号を借り切っての空中試写会に臨むが
京都を発進した直後、船内に論語が現れる・・・

いずれの作品もホームズ譚を下敷きにしたミステリなのだけど、
”モリアーティ教授” の役回りである論語くんは、
「最後のー」を除いて、事件の表舞台には出てこない。
水面下で策謀を巡らすのが本シリーズでの論語くんの役回りだから。

悪の親玉(?)ぶりがすっかり様になってるんだけども、
前作でも書いたけど論語くんってこんなに性格悪かったかなぁ?

これからの獅子丸との対決ですこしは成長していくのか、
猫を被ることを覚えるのか。

「最後の事件」では、獅子丸と論語が原典に倣った結末を迎える。
かと言って2人とも死んでしまうということはない。
だって原典でもホームズは死んでないし。

作者もこれで終わらせるつもりは無くて、
「このミステリーがすごい!」でも続きを書くと言ってるみたいなので
遠からず獅子丸と再会できるはず。

原典ではモリアーティ教授は死んでしまうけど、
論語くんのほうも、2年後には「ルヴォワール・シリーズ」での
大活躍(?)が待ってるはずなので、こちらも無事に姿を見せるはず。


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憑かれた女 [読書・ミステリ]

憑かれた女 (角川文庫)

憑かれた女 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: 文庫
評価:★★

横溝正史の、戦前に書かれた3作品を収めている。
このうち、犯罪研究家・由利麟太郎と
新聞記者・三津木俊助が活躍する作品が2編。

「憑かれた女」
主人公・エマ子は日独の混血児。バー勤めをしながら酒浸りで
淫蕩な生活を送っていたが、最近になって奇怪な幻想に囚われたり
妙な強迫観念に襲われるようになっていた。そんなとき、
バーのマダムから、エマ子にご執心の外国人がいると紹介されて
迎えに来た自動車に目隠しをされて乗り込むが
着いた屋敷で彼女が見たものは、浴槽に沈んだ女の死体と謎の外国人。
気を失ったエマ子は、翌朝自宅アパートの近くで発見される。
同じアパートの住人で自称探偵小説作家の
井手江南(いで・こうなん)に事情を話すと、
彼はエマ子の記憶を頼りに現場となった屋敷を突き止めるが・・・
物語はこの後も二転三転、死体の数もさらに増えていく。
エマ子の奇怪な幻想から始まり、続いて猟奇的な犯罪が描かれていくが
ラストではきっちりとした謎解きが展開する。

「首吊り船」
ある夜、三津木俊助は政府高官・五十嵐磐人(いわと)の邸宅を訪れる。
彼の妻・絹子の依頼は、瀬下亮(せした・りょう)という人物の捜索。
瀬下はかつて絹子の恋人だったが、大陸で行方不明になっていた。
8年後、五十嵐の妻となった絹子のもとへ人間の白骨の一部が届く。
それは人間の左肘から先の部分で、その薬指には
かつて絹子が瀬下に贈った金の指輪が光っていた。
その直後、邸宅近くを流れる隅田川の川面の上に
一艘のランチ(モーターボート)が現れる。
マストに首吊り死体を掲げたその舟を操っているのは
全身黒装束の謎の男。黒頭巾の陰からのぞくのはドクロの顔・・・
怪人二十面相がやりそうなシチュエーションだが、
この後には殺人事件が起こり、最後は
隅田川上を追いつ追われつの大捕物となる。
予想がつきそうでいながら、はぐらかされる。このあたりは上手い。
金田一ものでもお馴染みな等々力警部も登場してる。

「幽霊騎手」
独特の装束に身を包み、富豪連中を片っ端から襲う怪盗が跋扈していた。
その神出鬼没ぶりから、マスコミが彼に対して与えた名が ”幽霊騎手”。
人気俳優・風間辰之助は、この怪盗に便乗して探偵劇「幽霊騎手」を
仕立て上げ、自ら主演して大人気を博していた。
ある日、公演を終えたばかりの風間に、
彼が心を寄せる人妻・黒沢弓枝から電話が入る。
助けを求める弓枝の声に、舞台衣装のまま黒沢家へかけつける風間。
しかしそこで彼が見たものは、弓枝の夫・剛三の焼けただれた死体。
しかも、弓枝は風間には電話をかけていないという。
何者かが幽霊騎手に、ひいては風間を犯人に仕立て上げようとしている。
彼は一計を案じて、一度はこの窮地を抜け出すことに成功するが・・・
人妻のために、必死に真相を探る風間。その途中では
命の危機にもさらされるが、勇気と機転で切り抜けていく。
和製アルセーヌ・ルパンみたいな、風間辰之助の大冒険が描かれる。
このまま長編シリーズの主役が務まりそうなキャラクターだ。
ちなみにこの作品だけ、由利先生と三津木俊助は登場しない。
もっとも、風間くんの活躍だけでお腹いっぱいになるけどね。

この三編は昭和8年(1933年)から11年(1936年)にかけて
雑誌に発表されたもので、もう90年近く前のものだ。

東京の街の描写も隔世の感。なにせ
「六本木は夜10時を過ぎると皆寝静まって淋しい場所だ」
なんて書いてあるんだから。

でも、そういう場所だからこそ、独特の雰囲気を醸し出している。
上にも書いたが、怪人二十面相やアルセーヌ・ルパンが
闊歩していても可笑しくないように感じる場所になっている。

現代の目でみると荒唐無稽さが際立つ物語なので
星の数は控えめにしたけど、江戸川乱歩の少年探偵団で
ミステリに開眼した私には、これがまたたまらなくいいんだなあ。


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宇宙軍士官学校 -攻勢偵察部隊- 4 [読書・SF]

宇宙軍士官学校―攻勢偵察部隊― 4 (ハヤカワ文庫JA)

宇宙軍士官学校―攻勢偵察部隊― 4 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 鷹見 一幸
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/03/31
  • メディア: 文庫
大河スペースオペラ・シリーズの第2部第4巻。

前作では、アンドロメダ銀河への第2次偵察作戦が実施された。
第1次作戦の100倍近い3万5000隻の大艦隊を投入したが
しかし〈粛正者〉側からの予想外の猛反撃を受け、
5000名あまりの将兵がアンドロメダ銀河内に孤立してしまう。

第1次作戦で抗命行為があったとして ”強制休暇” を取らされていた
有坂恵一は、この緊急事態にあたって急遽招集され、
新たに ”上級少将” に任ぜらて救援艦隊を率いることに。

恵一の艦隊は直ちにアンドロメダ銀河へ転移、
撤退中の将兵が不時着した惑星に降り立ち、
戦闘救援行動(コンバット・レスキュー)に入ったのが前巻まで。

地上降下した機動戦闘服部隊(パワードスーツ)は、
原住民の繰り出す多脚戦車を撃退し、
10機の救命パレットを衛星軌道へと脱出させることに成功する。

しかし〈粛正者〉も続々と援軍を送り込んでくる。
あとはこの星系から転移して逃げるだけ・・・となったとき、
海底深くに、さらに2機の救命パレットが沈んでいることが判明する。

しかも、登場しているメンバーの最上位者はホーカ少将。
近年、評価の上昇が著しい恵一たち新参の途上種族出身者を
目の敵にする一派の一人だった。

しかし、恵一は救出を決める。もっとも、
その理由は使命感からだけではないが。
このあたりの描写も面白い。

しかし、救援艦隊はほとんどが脱出してしまい、
彼の手元に残るのはわずかな戦力しかない。
そこで、彼は惑星の海に生息する
知的生物・オルクルを利用することを思いつく。

前半は宇宙戦/地上戦を描いたスペースオペラの王道。
毎度のことながら、敵味方の駆け引きの描き方も達者。

後半に入ると海棲哺乳類オルクルの生態や価値観、
行動原理にまで踏み込んだ展開となってきて、
作者の引き出しの多さを伺わせる。

単に生物を救出作戦に利用するだけでなく、
どう扱ったらその生物の将来のためになるのかまで踏み込む
恵一の思慮が素晴らしい。


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誰も死なないミステリーを君に2 [読書・ミステリ]

誰も死なないミステリーを君に 2 (ハヤカワ文庫JA)

誰も死なないミステリーを君に 2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 悠宇, 井上
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

大学1年生の遠見志緒(とおみ・しお)は、寿命以外の原因で
死を迎える人の顔に現れる ”死線” を見ることができる。

語り手の ”僕”(佐藤) は、志緒と同じ大学の3年生。
彼女が見つけた ”顔に線が見える人” を、
迫って来る ”死” から救い出す役目を引き受けている。

この2人が活躍するミステリの第2弾。

志緒の友人・獅加観飛鳥(ししがみ・あすか)に ”死線” が現れた。

彼女は6歳の頃に ”神隠し” に遭い、1か月ほどの間
何処とも知れぬ場所で過ごした経験があった。
そして彼女は近々、父の遺産を相続するらしい。

志緒と ”僕”(佐藤) は、飛鳥とともに彼女の故郷へ向かう。
兵庫県北部の温泉地・木八咲(きはちざき)。
そこに飛鳥の生まれた獅加観家の屋敷があるのだ。

獅加観家の当主・義龍(ぎりゅう)には、
4人の実子(いずれも男子)と2人の義理の娘がいる。

最初の妻との間に生まれた綜馬(そうま)、
そして3人の愛人との間に、息子を一人ずつ儲けた。
医師の宇賀神良比狐(うがじん・よしひこ)、
芸術家の狩野和鷹(かのう・かずたか)、
私立探偵の斯波司狼(しば・しろう)。

 ちなみに良比狐は、過去に受けた傷のせいと称して、
 顔の上半分を覆うマスクを着用(!)している。

飛鳥とその姉・浬莉(かいり)の2人は、義龍が再婚した後妻の連れ子。

この6人の中で、綜馬と浬莉は13年前に失踪し、未だに行方不明だった。

入院中で余命幾ばくも無い義龍に代わり、
彼の子どもたちの前で弁護士が遺言書の内容を開示する。

 もう『犬神家の一族』そのまんま。

基本的には次期当主は男子の中の最年長だが、
それより優先される条件もあり、男子3人全員にチャンスがある。
飛鳥も、相続条件を満たす男子がいなくなれば当主になる可能性がある。

遺産相続の有資格者が揃ったとき、屋敷の中にフルートの音が響く。
それは、失踪した獅加観綜馬が愛用していたフルートなのか・・・

 おお、『悪魔が来たりて笛を吹く』じゃないか。

もともとは飛鳥の命を救うためにやってきた志緒たちだが
”誰も死なない” ”誰も死なせない” ことが最終目的。

志緒と ”僕”(佐藤) は相続者たちの命を守るために
様々に策を巡らしていく。

その一方で、次期当主決定のために相続人同士の確執は高まり、
やがて、飛鳥の遭遇した ”神隠し”、そして
13年前に起こった失踪事件の真相へとつながっていく・・・

設定こそ横溝だが、時代はもちろん現代、
語り手は現役大学生、登場人物もほとんどが20代。
ところどころコメディ調の描写も挟んで、ライトなミステリ調で進む。

しかし、終盤になっての ”神隠し” と綜馬/浬莉の失踪、
この2つを巡っての推理合戦というか多重解釈は本書の白眉だろう。
雰囲気はライトでも、なかなか骨太のミステリでもある。

とはいっても、登場人物たちの過去に関わる部分は
それなりに闇が深いし、それによって
人生をねじ曲げられてしまった悲哀も描かれる。

全体としてはかなり悲惨な話なのだが、
ラストが明るく締められるので読後感はよい。
またこのシリーズを読みたくなる。


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