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罪人よやすらかに眠れ [読書・ミステリ]

罪人よやすらかに眠れ (角川文庫)

罪人よやすらかに眠れ (角川文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

札幌市の中島公園近くにある屋敷。そこに住むのは6人の男女。
主である中島氏夫妻、娘で中学生の碧子(みどりこ)、
高齢の執事・木下、10代のメイド・菖蒲(しょうぶ)、
20代半ばの北良(きたら)はどうやら中島家の居候らしい。

時折ここには、何かに引き寄せられたかのように
さまざまな男女が足を踏み入れてくる。
彼らの共通点は、”業” を抱えていること。

それと自覚している者もいれば、
無意識のうちに心の底に沈めている者も。

彼らは中島家の人々に歓待されるが、居候の北良は
彼らの背負っている ”秘密” を見抜いてしまう。

「友人と、その恋人」
上司のパワハラに悩む上本は友人の福山と酒を飲み、酔い潰れてしまう。
困った福山は上本の婚約者・友理奈を呼び出したが、
二人とも上本の扱いに窮してしまう。3人がいた場所が
たまたま中島家の前だったことから、屋敷の中に迎え入れられるが・・・

「はじめての一人旅」
東京の小学5年生・利緒(りお)は、初めての一人旅で
札幌に住む叔母・通代(みちよ)とその娘・智香(ちか)を
訪ねることになったが、市内で道に迷ってしまう。
通りかかった碧子に誘われ、中島家の屋敷に迎え入れられるが・・・

「徘徊と彷徨」
会社員・島崎は、”ある事情” で市内を走っていた。
しかし還暦近い身での運動はきつく、途中でへばってしまう。
そこはたまたま中島家の前で、島崎はそこで介抱されることになる。
事情を聞きたがる中島家の人たちに対して、
島崎は必死になって理由を隠そうとするのだが・・・

「懐かしい友だち」
駒井夏純(かすみ)は小学校の頃、中島公園の近くに住んでいた。
その後、親の転勤で離れたが、就職して札幌に戻ってきた。
ある日、中島公園に来た夏純は小学校時代の親友・野田日向子(ひなこ)の
家が近くにあることを思いだし、探してみるがみつからない。
たまたま通りかかった中島家の人に尋ねるたところ、
野田家は数年前に引っ越し、しかもその家に娘はいなかったという・・・

「落とし物」
森市絵美莉(もりいち・えみり)は、中島家の前で派手に転び、
足を捻挫してしまう。屋敷に迎えられた彼女は手当を受けるが・・・

「待ち人来たらず」
徳山宗一郎は、シングルマザーの石井幸代(ゆきよ)と交際している。
中島公園でデートの待ち合わせをした徳山だが、
時間になっても幸代は現れない。
そこを、小学生の男の子と抱えた女子中学生が通りかかる。
男の子は幸代の息子の駿太(しゅんた)だった。女の子は碧子と名乗り、
駿太が公園のベンチで高熱を発して苦しんでいるのを見つけたのだという。
駿太は碧子の家である中島家で手当を受けるのだが・・・

「今度こそ、さよなら」
3年前に中島公園で起こった無差別殺傷事件で8人の命が失われた。
藤森も、恋人だった大輔をその事件で失っていた。
しかし彼女には割り切れないものがあった。大輔は凶行のさなか
藤森ではなく、他の女性の盾となって命を落としていたのだ。
3年経ってもトラウマは癒えず、当時のことを思い出した藤森は
路上でパニックに襲われ、中島家の人々に救われるが・・・

どれも文庫で30ページちょっとという短さながら、密度は濃い。

中島家の ”客” となった者が事情を話していくうちに
探偵役となっている北良がひと言、口を差し挟む。
その瞬間から、物語の様相がガラッと一変してしまう。

何気ない描写や言葉の欠端から北良が導き出す ”真実” は実に意外。
発端の光景とは想像もできない結末へと引っ張っていかれてしまう。

同じ作者の「座間味くんシリーズ」でも同様の趣向だが
鋭利な刃物のような、推理の切れ味が楽しめる。

中島家の人々の正体だけが最後まで不明なのだけど、
何やら人外めいた雰囲気もある。
これこそ ”知らぬが花” なのかも知れない。


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