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ビリヤード・ハナブサへようこそ [読書・ミステリ]

ビリヤード・ハナブサへようこそ (創元推理文庫)

ビリヤード・ハナブサへようこそ (創元推理文庫)

  • 作者: 内山 純
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

第24回鮎川哲也賞受賞作。

主人公は大学院1年生の中央(あたり・あきら)。
ビリヤードの元世界チャンピオン・英雄一郎(はなぶさ・ゆういちろう)が
営むレトロな撞球場「ビリヤード・ハナブサ」でアルバイトをしている。

時間にルーズでビリヤードのことしか頭にない、浮世離れした英、
彼の弟子でボーイを務める金子良司、
商社マン時代の豊富な人脈を誇る ”ご隠居”・佐藤、
過去にいくつものチェーン店を経営していたらしいが
いまは珈琲専門店のマスターに納まっている小西、
央の大学院仲間の日下、
そして彼らの ”マドンナ” である、年齢不詳(笑)のお姉さん・木戸。

この常連メンバーが集う「ハナブサ」には、しばしば謎が持ち込まれ、
メンバー間の推理談義が始まるが、結局のところ
真相に到達するのはいつも央くんだった・・・
というパターンの連作短編集。

タイトルはいずれもビリヤードの専門用語で、
事件解決のヒントだったり、事件の様相をなぞらえたりしてる。

「第一話 バンキング」
ボーイの金子は、近くにオープンしたイタリアンレストランの
若き女性店長・飯島と知り合う。
その翌週の月曜日、レストランを訪ねた金子は、
レストランのオーナー・高柳の死体にすがりつく飯島を発見する。
警察の捜査で浮上した容疑者は3人。第一発見者で店長の飯島、
オーナーの甥の大林、そしてレストランでボートして働く岡田。
犯人は、殺害後になぜか死体を移動させていたのだが・・・

「第二話 スクラッチ」
常連客の里見が勤める会社で、屋上から社員が転落して
死亡するという事件が起こった。
死んだのは坂本という男で、自殺と思われたが
彼の所属部署にいる社員の関与を疑う者もいた。
亡くなった坂本は、よく言えば大人しい、悪くいえば鈍くさい、
いわゆる ”使えない奴” と思われていた。
上司である課長の秋津は、自分勝手でプライドの高いお坊ちゃん気質、
同僚は、要領がよくゴマすりが得意な笹塚、
家庭第一で仕事もクールに割り切るが、ゲームが大好きな竹内、
美人だが気が強く、常に玉の輿を狙っている独身女性・入江。
タイトルにある「スクラッチ」が、真相への道しるべとなる。
本書収録の短篇タイトルはいずれもビリヤードの専門用語で、
いずれも事件解決のヒントだったり、
事件の様相をなぞらえたりしてるのだけど、
個人的にはこの「スクラッチ」が一番ぴったりのような気がする。

「第三話 テケテケ」
最近「ハナブサ」に現れるようになった霞ヶ浦は、製薬会社の研究員。
彼が10年以上前に経験した事件を語り出す。
オーストリアで外資企業と共同研究することになった霞ヶ浦。
同僚の研究員・綾瀬と共に、現地のスタッフと3か月を過ごすことに。
優れたセンスを持つ綾瀬は共同研究を牽引する存在になるが、
完璧主義なあまり、他人からミスを指摘されると激高するので、
彼に対しては周囲も気を遣わざるを得なかった。
やがて中間報告を出すミーティングの日がやってくるが
当日の朝、会場となる会議室で死体となって発見される。
うーん、でもこのネタはちょっと無理がないかなぁ。
人間、PCだけを見て暮らしてるわけじゃないからなぁ。

「第四話 マスワリ」
日下のケータイに英が送ってきたのは、
ビリヤード台の上に女性の死体が載っている写真だった。
英が高名な獣医で、動物病院の院長でもある香山麗子という女性の家を
訪ねたところ、彼女の死体を発見したのだという。
とりあえず央と日下と木戸さんが現場へと向かうことに。
香山邸には離れがあり、そこにビリヤード場が設えられていた。
死体は離れで見つかり、入り口を撮影する防犯カメラの映像には、
英しか写っていなかったため、重要容疑者扱い。
しかしその後、母屋と離れは地下通路でつながっていることがわかり、
英以外の3人の人物も容疑の圏内に入ることに。
まずは英の弟子で、ビリヤード店を経営する本郷。
香山麗子のお気に入りのホスト・相馬。
そして香山院長の秘書である宮沢。
防犯カメラから割り出した地下通路の開閉記録と、
各人の供述から、ジグソーパズルのように
犯行前後の人間移動を組み上げていくのがなかなか緻密にして秀逸。

文庫本の惹句には「現代の『黒後家蜘蛛の会』」と紹介されているけど、
私はあまり相似性は感じなかった。

『黒後家ー』はアイザック・アシモフ作の短篇シリーズで
月に1回、レストランに集った6人のメンバーが一つの謎について
議論を戦わせ、最後に給仕のヘンリーが真相を言い当てる、というもの。

こちらは終始レストラン内で進行し、ヘンリーも
完全な安楽椅子探偵になっているのだけど、
『ビリヤード-』の方では、第四話でレギュラーメンバーが
現場まで出向いて情報収集に当たる。
メンバー間の議論も、それがメインというわけではなく、
もっぱら彼らは探偵役である央くんに情報提供をしたりと
彼の推理に協力する役回り。どちらかといえば
「ハナブサ探偵団」といった雰囲気に近いように思う。

さて、私はこの作品にあまり星の数を与えなかったのだけど
新人の作品にしては落ち着いた(落ち着きすぎた)作風に
ちょっと物足りなさを感じたから。

もっとも、この安定した出来映えに対して審査委員の先生方は
高得点を与えたわけで、このあたりは好みの部分もあるのだろう。

最後にどうでもいいことを。
この記事を書くに当たってwikiで『黒後家蜘蛛の会』を調べたら
1981年にNHKでラジオドラマになっていたことがわかった。
そして、その配役を見てぶっ飛んでしまった。

会のメンバーに 納谷悟朗、中村正、小林修、大塚周夫、
野沢那智、金内吉男。そしてヘンリーに久米明。(敬称略)

もうレジェンド級の声優さんばかりじゃないか。
一度聞いてみたかったなぁ。


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