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文豪Aの時代錯誤な推理 [読書・ファンタジー]

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/15
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

芥川龍之介といえば、知らぬ者のない文豪だろう。
1927年に致死量の睡眠薬を飲んで自殺したことでも有名だ。享年35。

本書は、芥川が自死した直後から始まる。

意識を失った龍之介は、羅生門と覚しき場所で目覚める。
そこへ ”袴垂(はかまだれ)” と名乗る女が現れ、
”未来世界の一場面” だという光景を見せる。

彼の目に映ったのは、都市の路上で一人の女が刺し殺され、
そこから始まる凄惨で無差別な暴力の連鎖。
これは、龍之介が願った未来の姿なのだという。

殺された女性は、龍之介の初恋の女性によく似ていた。
この悲劇の回避を願った龍之介は、2018年の東京に蘇る。

袴垂の手配してくれた資金で一軒家を借りた龍之介は、
”茶川龍之介(ちゃがわ・たつのすけ)” と名乗り、生活を始める。
その手始めに家政婦を募集することに。

そこへ応募してきたのが、芥川龍之介マニアの元国語教師・内海弥生。
彼女に会った龍之介は驚く。
弥生こそ、袴垂に見せられた幻視の中で殺された女性だったのだ。
彼女の方も、雇い主が憧れの芥川龍之介にそっくりなことに感激する。

 本人なんだからあたりまえなんだが(笑)。
 wikiに載ってる芥川の写真は、かなりイケメンだと思う。

一つ屋根の下で二人の共同生活が始まるのだが、
明治生まれの龍之介と平成生まれの弥生。
弥生自身は芥川を筆頭に明治の日本文学に詳しいとはいえ
そこは現代に生きているお嬢さん。
旧態依然とした、男尊女卑の価値観に染まった龍之介と
しばしばぶつかり合うことになる。
何せ100年のタイムラグがあるし。
龍之介の方も、弥生と出会ってから言動に変化が現れる。
芥川龍之介ってこんな面白いキャラだったの? って思うくらいに。

そして、そんな二人の売り言葉に買い言葉の掛け合いは、
お互いのキャラもあってユーモアに溢れ、笑いを誘う。

いつ来るか分からないが、近い将来に起こるであろう ”危機” から
弥生を守るべく、あれこれと心配する龍之介だが
そんなこととは全く知らない弥生はのほほんと生きていて
そんな二人の対比も面白い。

しかしその間も、近隣の街角では不審な事件が続発し、
ついに ”その日” がやってくる・・・

シチュエーションこそ深刻だが、雰囲気はコメディ。
龍之介と弥生の凸凹コンビぶりが読みどころ。

いわゆるタイムスリップものに分類できるだろう。
主人公が過去に戻り、そこで起こる事件を
食い止めようとするパターンは多いけれど
過去の人間が未来へやってきて、そこで起こる事件を
未然に防ごうというパターンは、あまり多くないんじゃないかな。

この手の物語では、ラストでの主人公の扱いが大事だろう。
元の時代に返ったり、その時点で死んでしまったり、
別の時間線へ飛んでいってしまったりと様々なパターンがあるが・・・

本書での芥川龍之介の扱いは・・・
「これでいいのかなぁ」という思いもあるが、
エンタメとしては正解なのかも知れない。


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