福家警部補の考察 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
警視庁捜査一課の福家(ふくいえ)警部補は、小柄で童顔、縁なし眼鏡にショートカット、一見して年齢不詳でOLか就活中の女子大生に間違われることも。
およそ刑事らしくないドジっ子だが、ひとたび殺人事件の捜査に臨むと抜群の切れ味を発揮し、容疑者をじわじわと追い詰めていく。
そんな福家警部補の活躍を描く倒叙ミステリ・シリーズ、第5巻。本書は4編を収録。
* * * * * * * * * *
「是枝哲の敗北」
アンソロジー『ドクターM(ミステリー) ポイズン』で既読。
聖南総合病院の皮膚科医師・是枝哲(これえだ・さとし)は、つき合いのある製薬会社のMR(医療従事者相手の営業職)を利用して病院を抜けだす。そして首尾良く愛人関係にあった足立郁美(あだち・いくみ)を殺害し、事故死を偽装するのだが・・・
福家は是枝の些細なミスから犯行を証明していく。そしてラストに至り、彼女によって告げられた "事実" が、是枝にとっての "トドメの一撃" となる。
「上品な魔女」
中本誠(なかもと・まこと)は太陽光パネルを扱うベンチャー企業を経営しているが、赤字が続いていた。誠は妻のゆかりを殺害して生命保険金を騙し取ろうと画策するが、逆にゆかりの罠にはまり、自ら命を落とす羽目に。
ゆかりの学生時代の友人は「あの人は魔女」と語る。彼女と関わった者は悉く不幸になってきたという。
一見すると穏やかで上品な言動で、"お嬢様" 育ちのように見えるゆかり。だが、内に秘めた闇はなかなか深い。シリーズ中でも屈指の印象的な犯人だろう。
「安息の場所」
浦上優子(うらかみ・ゆうこ)はバーテンダー。女ひとりで「BAR ソリティア」を経営している。
かつて世界的なバーテンダー・原町卓(はらまち・すぐる)に師事していた優子は、兄弟子でもあった久義英二(ひさよし・えいじ)を殺害するが・・・
周到な準備を経て犯行に及んだものの、バーテンダーとして身についた習性が意外なところで現れる。それを見逃さない福家。
「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」
早朝の東京湾岸の倉庫街。証券マンの蓮見龍一(はすみ・りゅういち)は、恋人を自殺に追いやった男・上竹肇(うえたけ・はじめ)を銃で殺害する。しかしまだ復讐は終わっていない。
残る "仇敵" を倒すべく、蓮見は東京駅に向かい、博多行きの新幹線のぞみに乗り込む。そのとき、蓮見の隣に座った女性は「警視庁捜査一課の福家」と名乗った。
蓮見を怪しいと睨んだ福家は(その理由は終盤で明かされる)は、警視庁の同僚たちと連絡を取り、情報を集め始める。それは名古屋の警察に送られ、停車時に福家に。タイムリミットは蓮見が降車する京都駅に到着するまで。
警察の組織力をバックに推理を巡らす福家と、さらなる計画を進めようとする蓮見との対決が綴られていく。
ミステリとしてもサスペンスとしても一頭抜きん出た本作は、本書の白眉だろう。
福家は "人材交流" の一環として京都行きを命じられたとのことなので、しばらくあちらに滞在するようだ。次巻は「京都編」になるのかも知れない。
タグ:国内ミステリ
コメント 0