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十一月に死んだ悪魔 [読書・ミステリ]

十一月に死んだ悪魔 (文春文庫)

十一月に死んだ悪魔 (文春文庫)

  • 作者: 晶, 愛川
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/11/10
  • メディア: 文庫
評価:★★

深酒をしたとき、記憶が飛んでしまうことはありますか?

20代から30代にかけて、酒をたらふく飲んだ翌朝、
前夜の記憶がすっぽり抜けてしまっていたことがよくあった。

酒を飲み始めて1時間くらいまでは覚えているものの、
その後の言動が全くアタマから抜け落ちている。

その間、寝ていたのかなと思って、その場にいたメンバーに聞いてみると
「いやあ、ずっと元気に起きていて、目一杯騒いでいたじゃないか」

陽気に騒いでいただけならいいが、同席していた女性に対して
セクハラまがいの発言をしたりしてないかとか、
日頃の鬱憤を吐き出して問題発言をしていたりしないかとか、
不安になったりする。
まあ、いまのところ揉め事にまで発展したことはないが・・・

最近は滅多になくなったが、皆無というわけでもない(おいおい)。

閑話休題。

本書の主人公・柏原は11年前に交通事故に遭い、
事故前後の1週間ほどの記憶を失った。
それ以後、突然に意識が遠のいて、恐怖感と共に
”穴” が現れる幻覚を見る発作が現れるようになった。

怪我から回復した柏原は仕事を辞め、小説を書き出した。
彼の作品は新人賞を受賞し、作家としてデビューを果たす。
最初は順調だったがここ数年は人気が低迷、妻子との仲も険悪化し、
文庫書き下ろしのホラー小説を乱作して糊口をしのいでいた。

次作執筆の資料として『ラブドール』のカタログを取り寄せた柏原は
その中の『まいか』という名の一体に心を奪われてしまう。

 『ラブドール』とは、いわゆる『ダッチワイフ』というやつですね。

ある日、汚れた上着をクリーニング店に持ち込んだ柏原は、
そこで『宮崎舞香』という、『まいか』そっくりの女性に出合う。
しかも、ラブドール『まいか』の唇の右にはほくろがあったのだが、
実在する女性『宮崎舞香』の唇の右にもほくろが・・・

さて、小学校時代の柏原は家族的には恵まれず、そのストレスからか
”コータ” というイマジナリーコンパニオンをつくりだしていた。
架空の存在ながら、声も姿形も、顔つきさえも鮮やかに
思い浮かべることができる ”彼” とともに日々を過ごしていた。

 ちなみにwikiでは「イマジナリーフレンド」という項目で載っている。
 文字通り「空想の友人」のことで心理学/精神医学における現象名。
 以下はwikiの文章を抜粋して編集。
 通常児童期にみられる空想上の仲間をいい、実際にいるような実在感を
 もって一緒に遊ばれ、子供の心を支える仲間として機能する。
 空想の中で本人と会話したり、時には視界に擬似的に映し出して
 遊戯などを行ったりもする。主に長子や一人っ子といった子供に
 見られる現象で、5〜6歳あるいは10歳頃に出現し、児童期の間に
 消失する。子供の発達過程における正常な現象である。
 多くの場合、本人の都合のいいように振る舞ったり、
 自問自答の具現化として、本人に何らかの助言を行うことがある。
 反面、自己嫌悪の具現化として本人を傷つけることもある。

舞香に出合った柏原は、実家の押し入れを探して、
小学校の頃に自分が描いた ”コータ” の絵を見つける。
しかし絵の中の ”コータ” の唇の右にはほくろが描いてあり、
絵の裏には柏原自身の筆跡で『宮崎恒太君』の文字が・・・

再びクリーニング店を訪れた柏原は舞香に恒太のことを問うと
「私は恒太の娘だ」と言い出す。さらには
「身の危険を感じている。父の友人なら私を匿ってほしい」
と言い出すのだが・・・

小学校時代、11年前の事故前後の1週間、そして現在と
3つの時間線上での出来事が複雑に絡み合う展開。

事態は混迷の一途を辿るのだが、柏原自身の記憶喪失と、
舞香自身にも記憶障害(解離性障害)の疑いがあり、
この二つが相乗効果のようになって
どこまでが妄想でどこからが現実なのかも定かでなく
なかなか全体像が明らかにならない。

さらには、“ある人物” が中原健太という人物に宛てたメール、
柏原のデビュー作と覚しい短編小説の断片などが随所に挿入される。

ラストに至ると、すべての伏線が収束して意外な真相が明らかになる。
ミステリとしてはよくできているのだけど、
物語としてはなかなか苦い結末を迎える。

主人公・柏原が、どうみても真っ当な人物ではないし、
ヒロインである舞香嬢も情緒不安定な描写が続く。
文章自体は読みやすいし、ミステリ的興味はかなりあるので
読むこと自体は苦にならないのだけど、主役二人に
ほとんど感情移入できないのは、読んでいて辛いものがあるなぁ。


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