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殺し屋、やってます [読書・ミステリ]

殺し屋、やってます。 (文春文庫)

殺し屋、やってます。 (文春文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/01/04
  • メディア: Kindle版
評価:★★★☆

個人事業主としてコンサルティング会社を営む富澤充。
彼は「殺し屋」という ”裏の仕事” を持っていた。
一人につき650万円で人殺しを請け負っているのだ。

 これは東証一部上場企業の社員の平均年収なのだという。

しかし、彼は依頼人とは直に接触はしない。
”殺人” を依頼する人間は、
まず ”仲介人その1” (富澤は「伊勢殿」と呼ぶ)に接触する。
その依頼は ”仲介人その2” (富澤の知人である塚原)を通じて
富澤に伝わり、実行に移される。
間に二人挟むことによって、依頼人と実行者(富澤)は
お互いの情報を知り得ないようなシステムになっているのだ。

だから富澤は、”標的” がなぜ殺されるのか、その理由を知らない。
それ故に、常に淡々とビジネスライクに ”仕事” を進めるのだが
時として監視中の ”標的” が取る奇妙な行動や、
依頼の内容の不可解さに疑問を抱いてしまい、
その理由をあれこれと推理し始める・・・

というわけで、殺し屋が、殺人依頼にまつわる謎を解く、という
ユニークなミステリ・シリーズが本書だ。

「黒い水筒の女」
保育士・濱田瑠璃子は、アパートの一人暮らし。
毎晩寝る前に外出し、黒い水筒を持って公園に行き、
中身を捨てた後にきれいにゆすいで持ち帰る・・・

「紙おむつを買う男」
不動産会社の営業担当・小此木勝巳(おこのぎ・かつみ)は
独身で一人暮らしのはずなのに、
なぜかLサイズの紙おむつをパックで買っていく・・・

「同伴者」
歯科医の芥川のもとに、20代の息子を連れた女性が現れ、
高頭衣梨奈(たかとう・えりな)という女性を殺すよう依頼する。
実はこの芥川こそ「伊勢殿」で、二人の挙動に
不審なものを覚えた彼が、本作では探偵役を務める。

「優柔不断な依頼人」
標的であるITベンチャー企業の社長・春山を監視していた富澤の元へ
塚原から「依頼の撤回」の報がもたらされる。
しかしその後、再び春山殺害の依頼が入り、それがまた撤回される。
一体、依頼者は何を考えているのか・・・

「吸血鬼が狙っている」
夫と二人暮らしのOL・宮永彩美の殺人依頼が入る。
しかも、首筋にキリのようなもので2カ所、
傷をつけてほしいとのオプション付きで。依頼者は吸血鬼なのか・・・

「標的はどっち?」
埼玉県朝霞市に住む佐田結愛(さだ・ゆあ)という女性の殺害依頼が入る。
しかし、見つけた標的はアパートの一室に女性二人で暮らしており、
それぞれの職場でどちらも ”佐田結愛” と名乗っていたのだ・・・

「狙われた殺し屋」
塚原からの依頼は「この写真の人物を殺してくれ」
しかしその写真には、富澤本人が写っていた・・・

富澤が抱く疑問は、最後には標的が殺される理由や
依頼人の正体にも迫るものとなる。

毎度のことながら、文庫30ページほどの分量で
奇妙な発端から意外なオチまできっちり描いてみせるのは流石。

なかなか面白い趣向のシリーズで、どうやら現在も続いているらしい。
遠からず続巻も読めるのでしょう。


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