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パレードの明暗 座間味くんの推理 [読書・ミステリ]

パレードの明暗~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

パレードの明暗~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/07/26
  • メディア: Kindle版
評価:★★★☆

サブタイトルにある ”座間味くん” とは、
長編『月の扉』で登場し、探偵役を務めた青年のこと。
本名は明かされず、座間味島のTシャツを着ていたことから
そう呼ばれるようになった。

その後は短編集に登場している。
『月の扉』事件で知り合った大迫警視長としばしば飲みに行き、
そこで大迫が過去に起こり、既に解決した事件を話題にする。
しかし座間味くんが発するひと言が、事件の構図をがらりと変え、
新たな解釈が姿を現してくる。

座間味くんが安楽椅子探偵として活躍する短編集は
『心臓と左手』『玩具店の英雄』と続き、本書で3冊目となった。

「女性警察官の嗅覚」
結婚を機に退職し、専業主婦となった元・女性警察官。
彼女が赤ん坊を連れてスーパーマーケットに行ったとき、
特定の商品の棚だけが空になっているのを発見する。
そこで何者かの ”悪意” に気づいた彼女は、
事件の発生を未然に防ぐことに成功したが・・・

「少女のために」
シングルマザーの新町美也子は、小学5年生の娘を使った
児童ポルノをネットで売りさばいていた。
家宅捜索に現れた女性警察官の何気ない発言にキレた美也子は
暴れ出してしまうのだが・・・

「パレードの明暗」
東京流通大学の学園祭の目玉であるコスプレ・パレード。
しかし一部の学生の反感を買い、妨害するとの予告がされていた。
パレード開始後、コース上に異物があるのを発見した二人の学生が
その処理に向かうが、二人の取ったそれぞれ異なる方法が賛否を呼ぶ。

「アトリエのある家」
岩下雅昭はプロ級の絵画の腕前を持っていたが、専業画家にはならず
一介の公務員として働きながら趣味として描いていた。
彼の描いた絵を欲しがる者は多かったが、決して売ることは無かった。
しかし、熱狂的なファンとなった神岡佐和子は、
彼の家のアトリエに侵入するが発見され、岩下を刺してしまう・・・

「お見合い大作戦」
警察官である野尻和雄は、まだ結婚する気はなかったが
上司から持ち込まれた縁談を断れず、お見合いをすることに。
相手の大草彩里花(おおくさ・あやか)は中学校の国語教師だった。
何とか相手から断らせようと警官の大変さ、危険さを並べ立てるのだが
ことごとく彩里花から切り返されてしまう・・・

「キルト地のバッグ」
東南アジア某国の閣僚が訪日し、同国人が多数居住する地区の公民館を
訪問することになった。しかし某国は政情が不安定で、
閣僚がテロに遭う可能性もあった。
公民館前で警備する機動隊員は、幼稚園バスを迎えに来た外国人の母親が
キルト地のバッグを路上に置いていったことに気づく。
その中には爆発物が入っていた・・・

「F1に乗ったレミング」
突然の豪雨で、幹線道路のアンダーパスが水没してしまう。
巡回に来ていた女性警察官は、その場で迂回路への誘導を始めるが
そこへ飛び込んできたのがパトカーに追われる宝石強盗犯だった。
強盗犯の乗った車は水に突っ込んでしまう。女性警察官は直ちに
救助活動を始めて、犯人も捕らえることに成功する。
しかし上司や同僚たちからは、彼女の行動を非難する声が上がる・・・

何気ない描写や、関係者が漏らしたひと言から、論理を組み上げて
事件の様相を一変させてしまう。

非難された行動が実は極めて合理的なものであったり、
何気なく発したと思われる言葉に二重三重の深い意味があったり、
杜撰に見える行動の裏に緻密な計算があったり。
一編あたり文庫で30ページほどの短さながら、
毎回鮮やかな逆転を見せてくれる。

このシリーズは ”サザエさん時空” ではなく、
作中でしっかり時間が経っている。
『月の扉』で座間味くんの恋人として登場した女性とは
その後結婚し、今作ではお子さんが中学受験をするまでになっている。
座間味くん自身も、体型が若干横に広がってきたようで(笑)。

次回の登場時には、どんな状況になってるのでしょう。
反抗期の子どもに悩むお父さんになってたりして(おいおい)。


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