SSブログ

夜歩く [読書・ミステリ]


金田一耕助ファイル7 夜歩く<金田一耕助ファイル> (角川文庫)

金田一耕助ファイル7 夜歩く<金田一耕助ファイル> (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/01

※本記事中、人権擁護の観点から不適切な単語・表現を使用していますが、対象の小説(初出は1948~49年)中で用いられた内容をそのまま引用しています。
 差別的な意図はないことをご理解ください。


 資産家・古神(ふるがみ)家の美貌の令嬢・八千代。彼女の元へ舞い込んだ手紙には「われ、近く汝のもとへ赴きて結婚せん」と記され、顔の部分が映っていないせむしの男の写真が同封されていた。やがて彼女の結婚相手を巡る連続殺人事件が始まる・・・

* * * * * * * * * *

 岡山県と鳥取県の境あたりを領していた古神家は、明治の世になって華族に列せられた。他の貴族の多くが没落していく中、古神家は家老として代々仕えてきた仙石(せんごく)家の才覚で、いまだに多くの資産に恵まれていた。

 古神家の先代当主・織部(おりべ)は数年前に亡くなり、先妻の息子・守衛(もりえ)と、後妻のお柳(りゅう)とその娘・八千代が残された。
 現在、家老として古神家の諸事万端を取り仕切っているのは仙石鉄之進(てつのしん)。

 ストーリーの中心となるのは鉄之進の息子・直樹(なおき)と、彼の学生時代からの友人で探偵小説作家の屋代寅太(やしろ・とらた)。
 屋代は本作の記録係兼語り手でもある。

 冒頭、銀座での銃撃騒ぎが語られる。キャバレー『花』に素敵な美人がやってきた。三人の取り巻きと共にさんざん飲んでいた彼女の前に、新進画家の蜂屋小市(はちや・こいち)がやってきた。彼の顔を見た美女は顔色を変え、ハンドバッグから取り出した拳銃で小市を撃ってしまう。さいわい、小市は怪我はしたが命に別状はなかったが。

 撃った美女は逃げきってしまったのだが、直樹によるとこれが八千代だったという。彼女には生来、夜中に歩き回る習性(いわゆる夢遊病)があり、その間のことは全く覚えていないのだという。
 本書のタイトル『夜歩く』はここに由来する。

 この事件の直前に、彼女のもとに「われ、近く汝のもとへ赴きて結婚せん」と記された手紙が届き、そこには顔の部分が映っていないせむしの男の写真が同封されていた。蜂屋小市もまたせむしであったことから、八千代はこの事件を起こしたのではないかと直樹は言う。

 さらに、古神家はせむしが多く生まれる家系であり、八千代の兄の守衛もまたせむしだという。彼女自身はせむしではないが、これには理由があって、実は直樹の父・鉄之進と織部の妻・お柳の間の不義の子が八千代なのだという。

 ところが鉄之進は、八千代と直樹を結婚させようと画策しているらしいし、妹と血縁のないことに薄々気づいている守衛まで、八千代に触手を伸ばし始めているという。

 さらに古神家には、織部の異母弟の四方太(よもた)という男が、四十を超えても定職に就かずに居候している。それに加えて最近、鉄之進は酒乱の気が出てきている。
 直樹に言わせると古神家は "魑魅魍魎の巣窟" だというが、その直樹からして屋敷の離れに愛人を囲っているというから人のことは言えない。

 とにかく、よくまあここまで無茶苦茶な人間の集まりを設定した、というか思いついたものだ。横溝正史のミステリの舞台となる "旧家" はいろいろあるが、異様さという点ではピカイチだろう。

 そして殺人が起こる。最初の犠牲者は首のない死体。身体はせむしだったのだが、小市も守衛も背格好が似ており、二人とも姿を消してしまったため、これだけではどちらの死体か判別できない。そしてさらなる連続殺人が・・・


 本書は、屋代が事件をまとめた「手記」の形で進行していく。前半部では古神家の異様な実態や、連続する殺人の残虐さがこれでもかと強調されて綴られていく。
 金田一耕助の登場が中盤からと遅いのは、横溝がこの前半部をじっくり描きたかったからかも知れない。もちろん彼が登場してからは、もつれた糸が綺麗にほぐされて、真犯人の遠大な計画が明らかになっていく。

 横溝正史の作品の中ではマイナーな部類に入るかも知れないが、登場キャラのぶっ飛び度ではトップクラスだろう。



nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント