SSブログ

留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白 [読書・ミステリ]

留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白 (ハヤカワ文庫JA)

留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

北海道第2の都市である旭川の西、約40kmほどのところにある
函館本線の深川駅を起点に、西北方向へ日本海沿岸の留萌駅まで、
路線距離にして約50km、12の駅を数えるのが
本作の舞台となる留萌本線である。

2016年にJR北海道が廃線とする方針を打ち出してからは、
鉄道ファンが ”乗り納め” に訪れるようになっていた。

2019年9月、フリーターの浦本も深川駅から留萌本線に乗り込んだ。
しかし行程の半分ほどまで来たとき、一人の男が列車停止ボタンを押す。
男はダイナマイトを所有しており、乗客たちに下車を命じる。

人質として残されたのは機関士と、老齢の下山、
2人組の女子大生、そして浦本の乗客4人だった。

”山田” と名乗ったハイジャック犯は、機関士に命じて
留萌本線で唯一のトンネル(峠下トンネル)内に列車を停止させる。

同じ頃、留萌警察署に ”田山” と名乗る犯人から電話が入る。
要求は、道議会議員の河出(かわで)を交渉役とすること、
そして、1億7550万円の現金を用意すること。

峠下トンネル内は携帯電話の圏外で、しかも田山からの電話は
東京都内からの発信であることから犯人は複数と判明する。

犯人グループは、なぜ河出を指名したのか?
1億7550万円という半端な金額は何を意味しているのか?

廃線間近の地方のローカル線が日本中からの注目を浴びるさまが、
そして登場人物それぞれが抱く留萌本線への思い入れが描かれていく。

犯人たちの用意周到かつ緻密な計画は
常に警察の先手を取っていき、捜査陣は翻弄されるまま。

”身代金” の受け渡しもよく考えられているが、
捜査員がトンネルの周囲を取り囲んで、衆人環視状態にある列車から
山田が脱出する方法も、人間の心理を上手く突いたもの。
そして、解放された乗客達がSNSで事件をネットに上げることまで
計算に入れているという周到ぶり。

名探偵ならぬ ”名犯人” の鮮やかな手並みが堪能できる作品。


nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ: