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憑かれた女 [読書・ミステリ]

憑かれた女 (角川文庫)

憑かれた女 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: 文庫
評価:★★

横溝正史の、戦前に書かれた3作品を収めている。
このうち、犯罪研究家・由利麟太郎と
新聞記者・三津木俊助が活躍する作品が2編。

「憑かれた女」
主人公・エマ子は日独の混血児。バー勤めをしながら酒浸りで
淫蕩な生活を送っていたが、最近になって奇怪な幻想に囚われたり
妙な強迫観念に襲われるようになっていた。そんなとき、
バーのマダムから、エマ子にご執心の外国人がいると紹介されて
迎えに来た自動車に目隠しをされて乗り込むが
着いた屋敷で彼女が見たものは、浴槽に沈んだ女の死体と謎の外国人。
気を失ったエマ子は、翌朝自宅アパートの近くで発見される。
同じアパートの住人で自称探偵小説作家の
井手江南(いで・こうなん)に事情を話すと、
彼はエマ子の記憶を頼りに現場となった屋敷を突き止めるが・・・
物語はこの後も二転三転、死体の数もさらに増えていく。
エマ子の奇怪な幻想から始まり、続いて猟奇的な犯罪が描かれていくが
ラストではきっちりとした謎解きが展開する。

「首吊り船」
ある夜、三津木俊助は政府高官・五十嵐磐人(いわと)の邸宅を訪れる。
彼の妻・絹子の依頼は、瀬下亮(せした・りょう)という人物の捜索。
瀬下はかつて絹子の恋人だったが、大陸で行方不明になっていた。
8年後、五十嵐の妻となった絹子のもとへ人間の白骨の一部が届く。
それは人間の左肘から先の部分で、その薬指には
かつて絹子が瀬下に贈った金の指輪が光っていた。
その直後、邸宅近くを流れる隅田川の川面の上に
一艘のランチ(モーターボート)が現れる。
マストに首吊り死体を掲げたその舟を操っているのは
全身黒装束の謎の男。黒頭巾の陰からのぞくのはドクロの顔・・・
怪人二十面相がやりそうなシチュエーションだが、
この後には殺人事件が起こり、最後は
隅田川上を追いつ追われつの大捕物となる。
予想がつきそうでいながら、はぐらかされる。このあたりは上手い。
金田一ものでもお馴染みな等々力警部も登場してる。

「幽霊騎手」
独特の装束に身を包み、富豪連中を片っ端から襲う怪盗が跋扈していた。
その神出鬼没ぶりから、マスコミが彼に対して与えた名が ”幽霊騎手”。
人気俳優・風間辰之助は、この怪盗に便乗して探偵劇「幽霊騎手」を
仕立て上げ、自ら主演して大人気を博していた。
ある日、公演を終えたばかりの風間に、
彼が心を寄せる人妻・黒沢弓枝から電話が入る。
助けを求める弓枝の声に、舞台衣装のまま黒沢家へかけつける風間。
しかしそこで彼が見たものは、弓枝の夫・剛三の焼けただれた死体。
しかも、弓枝は風間には電話をかけていないという。
何者かが幽霊騎手に、ひいては風間を犯人に仕立て上げようとしている。
彼は一計を案じて、一度はこの窮地を抜け出すことに成功するが・・・
人妻のために、必死に真相を探る風間。その途中では
命の危機にもさらされるが、勇気と機転で切り抜けていく。
和製アルセーヌ・ルパンみたいな、風間辰之助の大冒険が描かれる。
このまま長編シリーズの主役が務まりそうなキャラクターだ。
ちなみにこの作品だけ、由利先生と三津木俊助は登場しない。
もっとも、風間くんの活躍だけでお腹いっぱいになるけどね。

この三編は昭和8年(1933年)から11年(1936年)にかけて
雑誌に発表されたもので、もう90年近く前のものだ。

東京の街の描写も隔世の感。なにせ
「六本木は夜10時を過ぎると皆寝静まって淋しい場所だ」
なんて書いてあるんだから。

でも、そういう場所だからこそ、独特の雰囲気を醸し出している。
上にも書いたが、怪人二十面相やアルセーヌ・ルパンが
闊歩していても可笑しくないように感じる場所になっている。

現代の目でみると荒唐無稽さが際立つ物語なので
星の数は控えめにしたけど、江戸川乱歩の少年探偵団で
ミステリに開眼した私には、これがまたたまらなくいいんだなあ。


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