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血蝙蝠 [読書・ミステリ]

血蝙蝠 (角川文庫)

血蝙蝠 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: 文庫
評価:★★

昭和13年から16年にかけて発表されたが、
単行本に収録されなかったものを主として集めた短編集とのことだ。

「花火から出た話」
高名な学者・新城哲太郎が亡くなり、彼の銅像が建立される。
その除幕式の場に出くわした元船員の風間は、
打ち上がった花火から飛び出した花束を拾い上げる。
その中には猫目石の指輪が入っていた。その日から風間は、
新城家の令嬢・珠実を巡る3人の求婚者たちの確執に巻き込まれる。
ラストで明かされる風間の意外な正体、そして珠実嬢の情熱。
十分に長編のネタになりそうな、密度の高い話。

「物言わぬ鸚鵡(おうむ)の話」
”私” の妹・マヤは、幼児に罹った熱病がもとでうまく口がきけない。
そんな彼女へ、友人のSが一羽の鸚鵡を贈ってくれたのだが、
なぜかその鸚鵡も喋ることができない。
調べてみると、鸚鵡の舌が切り取られていることが分かった。
”私” は、鸚鵡の前の飼い主を捜し当てるのだが・・・

「マスコット奇譚」
売れない女優だった青野早苗は、”幸運の護符(マスコット)” として
卵形の縞瑪瑙を持っている。これを手に入れてから
わずか1年あまりで新進スターへとなってしまったのだ。
その ”幸運の護符” には、ひとつの秘密があった・・・

「銀色の舞踏靴」
東都映画劇場で映画を見ていた三津木俊助のもとへ、
劇場の二階席から銀色の舞踏靴が降ってきた。
靴の持ち主と覚しき女性を追う俊助だが、うまく撒かれてしまう。
しかしその頃、東都映画劇場で女性ダンサーの死体が見つかる。
その遺体は銀色の舞踏靴を履いていた・・・
由利先生&三津木コンビの登場作。某名作と同じトリックの応用形。

「恋慕猿」
カフェ・ユーカリの常連客・川口は、”直実(なおざね)” という名の
猿を連れて来店するのが常だった。
最近、川口はカフェで珠子という女としばしば会うようになり、
その間 ”直実” は瞳という女給が世話をしていた。
瞳は川口に好意を抱いていたが、彼女を好いてくれたのは猿の方(笑)。
ある夜、カフェで泊まり番をしていた瞳の元へ、
血だらけになった ”直実” が一枚の羽子板を持って現れる。
その羽子板は、珠子の家にあったものだった・・・
川口にかかった殺人容疑を晴らす、瞳さんの名探偵ぶりが読みどころ。

「血蝙蝠」
友人と共に鎌倉の ”幽霊屋敷” へ肝試しに出かけた甲野通代(みちよ)は、
そこで映画女優・葛城倭文子(しずこ)の死体を発見する。
それ以来、通代は不審な人物の付き纏いに悩むようになる。
彼女は偶然、中央線の車内で出合った三津木俊助に助けを求めるが・・・
由利先生&三津木コンビの登場作。犯人の見当はすぐにつくけどね。

「X夫人の肖像」
劇団員のお澄(すみ)は、英文学者・児玉晋作と結婚した。
親子以上に年齢差があったが、夫婦仲は良好に見えていた。
しかしそのお澄が、殿村という若い男と一緒に逃げてしまう。
そして5年後、上野で開かれた美術展で1枚の絵が評判になる。
「X夫人の肖像」という題で描かれていた女性は、お澄に瓜二つ。
小説家・児玉隆吉とその妻の妙子は、絵の作者に会いに行くことに。
隆吉は晋作の甥、妙子はお澄と同じ劇団の出身で彼女とは親友だった。
しかし二人が美術館に着いたとき、問題の絵は既に
何者かに盗まれた後だった・・・
最後に明かされる、女の情念と悲哀は限りない。
連城三紀彦が書いたと言われたら、信じてしまう人はいそう。

「八百八十番目の護謨(ゴム)の木」
大谷慎介は恋人の三穂子を残し、実業家・緒方と共にマレーへ渡る。
3年後に迎えに来るという約束をして。
そしてその3年が過ぎ、慎介と緒方は帰ってきた。
しかし二人が共同事業者である日疋(ひびき)龍三郎の邸宅へ着いた夜、
緒方が何者かに殺されてしまう。
現場には血で書いた ”O谷” の文字が残され、慎介もまた行方不明に。
彼の無実を信じる三穂子は、手がかりを求めて
日疋とともにマレーのゴム園へと向かうが・・・
南方の地を舞台にした冒険ミステリなんだけど、ラスト2ページで
国策映画みたいな展開に。まあ、発表されたのが昭和16年3月じゃあ、
こう書かざると得なかったのだろうなぁ。

「二千六百万年後」
”私” は40歳を迎えた小説家。
眠り続ければ未来にいけるという文章を読んでその気になり、
熟睡したら2600万年後の世界へ行ってしまった(おいおい)という話。
そこは卵生生物に改造された人間たちの世界で、
そんな未来になっても人間たちの間の戦争は無くなっていない。
最後は「戦争遂行のために頑張れ」というメッセージで締めくくられる。
こちらも発表が昭和16年5月とのこと。
こういう作品しか書くことが許させず、
こういう作品ばかりが載った雑誌が発行されていたなんて
想像を絶する時代だったんだなあ。


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