SSブログ

追想の探偵 [読書・ミステリ]

追想の探偵 (双葉文庫)

追想の探偵 (双葉文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2020/05/14
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆


主人公・神部実花(かんべ・みか)は出版社で働き、
雑誌「特撮旬報」の編集を実質ひとりで切り盛りしている。

それは古今東西の映画・TVの特撮作品全般を扱う雑誌で、
毎号、特集を組んだ作品の関係者にインタビューをしている。

半世紀近く昔の作品もあり、当時のスタッフの中には亡くなったり、
消息不明になってしまっている者も少なくない。
しかし〈人捜しの神部〉の異名を取る実花は彼らを見つけ出し、
不可能とされたインタビューを成功させていく。

「日常のハードボイルド」
不定期刊行だった「特撮旬報」が隔月刊化されることになった。
その第一弾の特集は『流星マスク』、記事の目玉は
当時のスタッフの一人であり、伝説の特殊技術者といわれる
佐久田政光へのインタビューと決まるが、
彼は30年以上前に映画界と縁を切って消息不明となっていた・・・
些細な手がかりから佐久田を見つけ出す実花の手腕もすごいが
映画界から意外な分野への転身をした彼にも驚き。

「封印作品の秘密」
実花のもとに持ち込まれたフィルムの断片には、
1973年放送の特撮TVシリーズ『我らが故郷アースノイド』の
第31話「谷間の百合は星のくず」の1シーンが映っていた。
しかしその後の再放送では第31話だけが ”フィルム紛失による欠番”
とされ、DVDやブルーレイ・ボックスにも収録されていなかった。
実花は制作元の石楠花(しゃくなげ)プロに取材を試みるが
社長の幡山はなぜか激怒し、彼女を出入り禁止にしてしまう・・・
このエピソードから『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」
を連想してしまうのは、私だけではないだろう。
もっとも、『我らが故郷ー』13話が ”封印作品” になった裏には
意外にも愛と涙の物語があったのだが・・・。

「帰ってきた死者」
1989年から90年にかけて製作準備が進んだが、諸々の事情で
中止となってしまった幻の特撮映画『宇宙恐竜ゼーラドン』。
その初期デザイン画を入手した実花だが、それを掲載するには
デザイン担当だった長沼洋之助の許諾が必要だ。
しかし彼は既に死んでいるという情報も入ってきた。
彼の生死を確認するべく、実花は関係者を次々と訪ねるが・・・
おおらかというかいい加減というか、
この業界にはそういう人が多いのだろうか。

「真贋鑑定人」
倒産した企業が管理していた倉庫から見つかったのは、
1987年放映のTV番組『超空戦士ミライザー』のヒロイン、
レディ・ミラージュのマスクだった。
演じていた新人女優・汐原由紀は大人気を博したが、
前半のヤマ場ともいうべき25話の収録中に交通事故死するという、
まさに ”悲劇のヒロイン” となっていた。番組は予定を早めて
30話で打ち切りとなり、小道具類は全て廃棄されたはずだった。
マスクの真贋を確認するため、実花は特撮の現場で長く活躍した
造形美術の専門家・海野友彦に鑑定を依頼するが・・・
感動的なラストに涙腺崩壊。

「長い友情」
癌で余命幾ばくも無い監督・佐伯から、実花は女物の腕時計を渡される。
それは1970年放映の人気TVシリーズ『地球要塞の青春』の
第22話「星降る夜の恋人」にゲスト出演した
外人女優ジャネットから、撮影中に佐伯が預かったものだった。
しかし撮影直後に彼女はアメリカに帰国してしまい、
返す機会を逸してしまったのだという。
実花の調査によって、当時ジャネットは大学の留学生で、
豊島区の女子寮に住んでいたことが判明する。
さらに彼女のルームメイトだったアイリーンは日本人実業家と結婚して、
現在は鎌倉に住んでおり、今でもジャネットと交流を続けているという。
しかしアイリーンは、訪ねていった実花に対して
ジャネットが帰国してからは一度も会ったことはなく、
いま何をしているかも知らないという・・・
50年にわたって秘められていた哀しみが胸に沁みる。

「最後の一人」
1974年の映画『海底魔神の復活』のメイキング写真を入手した実花。
今までいかなる媒体にも登場したことのない貴重な一枚だ。
しかしこれを掲載するには、写っている人物全員の許諾が必要だ。
被写体となった11人のうち、すぐに身元が分かったのは5人だけ。
粘り強く関係者に当たった実花は、残りの6人のうち
5人までは突き止めるが、最後の一人だけが分からない。
それは野球帽をかぶった、10歳ほどの少年だった・・・

作者は1963年生まれとのことなので、ほぼ私と同世代。
まさに10~20代をさまざまな特撮作品に囲まれて育ったはずで
それらへの愛情もあちこちに感じられる。

”人捜し” は、ハードボイルドの基本フォーマットのひとつだけど
それを特撮界の行方不明者捜しに当てはめた発想がまず面白い。

実花が駆使する人捜しのノウハウも興味深いけれど、
「真贋-」では、特撮作品に関する深い蘊蓄が披露される。
作中に登場する特撮作品はみんな架空のものだけど、
私と同世代の方なら、「この番組はアレがモデルかな」とか
「この映画の元ネタはアレだろう」とか
いろいろ思いを巡らせるのも楽しいだろう。

是非シリーズ化してほしい作品だと思う。神部実花嬢にまた会いたい。

巻末の解説によると、ヒロインには実在のモデルがいるとのこと。
洋泉社の雑誌『特撮秘宝』の編集に当たっていた人らしい。
現在『特撮秘宝』は休刊になっているけど、復活の可能性もあるみたい。
本書を読んだら、読みたくなってしまった。
復刊されたらぜひ購入しようと思っている。


nice!(2)  コメント(2)