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闇の虹水晶 [読書・ファンタジー]

闇の虹水晶 (創元推理文庫)

闇の虹水晶 (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/03/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・ナイトゥルは、アルビルの地に暮らすアルビル族の一人。
人の感情から石を創り出すという、類い希な能力を持つ創石師だった。

しかし17歳となり、婚礼の日を迎えたナイトゥルは、
祝宴に招かれなかった〈塩の魔女〉から ”呪い” を受けてしまう。

「その力、使えば使うほどお前は滅びに近づく。
 使えばお前が滅び、使わねば世界が滅びるだろう」

その夜、アルビル族は山岳民・下タフ族の襲撃を受け
許嫁も血族も含め、ことごとく皆殺しとなってしまう。

それまで九つの部族が小競り合いをくり返してきたアルビルの地を
突如勃興してきた下タフ族は瞬く間に統一、
族長のオーシィンはアルビル王国を建てた。

ナイトゥルは創石師としての能力故にただ一人助命され、
オーシィンの母・キオナに仕えて生きながらえることになった。

そして5年。
生きる気力も、憎しみすらも失ったナイトゥルは
キオナに命じられるままに働く日々を送っていた。

そんなある日、仕事の帰りに怪我人に出くわしたナイトゥルは、
その傷口から黒い水晶のかけらを見つけ出す。

その日からナイトゥルは、しばしば
不思議な幻覚の世界へ導かれるようになる。

有翼の獅子が舞い、それを眺める一人の少年と、彼を取り巻く人々。

やがてナイトゥルはこれは幻覚ではなく、
現在東方の地で破竹の勢いで領土を拡張している
サンジャル国の王室の光景であることを知る。

サンジャルはアルビル王国の東と北を手中に収め、
その軍勢はついにアルビル国内へと侵入してきた。
オーシィンは必死の防戦に努めるのだが・・・

前半ではオーシィンの命ずるままに各地に ”お使い” に出され、
後半ではアルビルとサンジャルの戦いに巻き込まれるナイトゥル。

状況に流されるだけで生きてきたナイトゥルだが、
様々な人との出会い、そして体験が
絶望に染まっていた彼の心をを少しずつ変えていく。

その最も大きな要素は、キオナの侍女で
ナイトゥルの世話係ともいうべきドリュティオナ(ドリュー)。
アルビル族と同様に、下タフ族に征服された荒れ地の民の娘だが
ナイトゥルの ”お使い” には常に同行し、彼の傍らにあって
生気溌剌さを失わずと、どんな窮地にも動ぜずに彼を支え続ける。
いつしかナイトゥルも彼女の存在を
かけがえのないものと思うようになっていく。

ラスト10ページにおけるナイトゥルの言動は、
序盤の彼とは別人かと思うくらい堂々としたものだが、
それもドリューの存在あればこそ。
彼女の魅力も本書の読みどころのひとつだ。

ナイトゥルが幻視するサンジャルの光景も、単なる遠隔透視ではなく
そこにはもうひとつひねりがあって、ちょっとミステリ的な要素もある。

サンジャルの猛攻に滅亡寸前となるアルビル、
必ずしも一枚岩ではないサンジャルの内情、
そしてナイトゥル自身が抱えた ”呪い” の決着。
終盤ではこれらがひとつにつながって見事な大団円を見せる。

いやあ、ファンタジーってやっぱり面白いよねぇ。


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