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誰も死なないミステリーを君に2 [読書・ミステリ]

誰も死なないミステリーを君に 2 (ハヤカワ文庫JA)

誰も死なないミステリーを君に 2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 悠宇, 井上
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

大学1年生の遠見志緒(とおみ・しお)は、寿命以外の原因で
死を迎える人の顔に現れる ”死線” を見ることができる。

語り手の ”僕”(佐藤) は、志緒と同じ大学の3年生。
彼女が見つけた ”顔に線が見える人” を、
迫って来る ”死” から救い出す役目を引き受けている。

この2人が活躍するミステリの第2弾。

志緒の友人・獅加観飛鳥(ししがみ・あすか)に ”死線” が現れた。

彼女は6歳の頃に ”神隠し” に遭い、1か月ほどの間
何処とも知れぬ場所で過ごした経験があった。
そして彼女は近々、父の遺産を相続するらしい。

志緒と ”僕”(佐藤) は、飛鳥とともに彼女の故郷へ向かう。
兵庫県北部の温泉地・木八咲(きはちざき)。
そこに飛鳥の生まれた獅加観家の屋敷があるのだ。

獅加観家の当主・義龍(ぎりゅう)には、
4人の実子(いずれも男子)と2人の義理の娘がいる。

最初の妻との間に生まれた綜馬(そうま)、
そして3人の愛人との間に、息子を一人ずつ儲けた。
医師の宇賀神良比狐(うがじん・よしひこ)、
芸術家の狩野和鷹(かのう・かずたか)、
私立探偵の斯波司狼(しば・しろう)。

 ちなみに良比狐は、過去に受けた傷のせいと称して、
 顔の上半分を覆うマスクを着用(!)している。

飛鳥とその姉・浬莉(かいり)の2人は、義龍が再婚した後妻の連れ子。

この6人の中で、綜馬と浬莉は13年前に失踪し、未だに行方不明だった。

入院中で余命幾ばくも無い義龍に代わり、
彼の子どもたちの前で弁護士が遺言書の内容を開示する。

 もう『犬神家の一族』そのまんま。

基本的には次期当主は男子の中の最年長だが、
それより優先される条件もあり、男子3人全員にチャンスがある。
飛鳥も、相続条件を満たす男子がいなくなれば当主になる可能性がある。

遺産相続の有資格者が揃ったとき、屋敷の中にフルートの音が響く。
それは、失踪した獅加観綜馬が愛用していたフルートなのか・・・

 おお、『悪魔が来たりて笛を吹く』じゃないか。

もともとは飛鳥の命を救うためにやってきた志緒たちだが
”誰も死なない” ”誰も死なせない” ことが最終目的。

志緒と ”僕”(佐藤) は相続者たちの命を守るために
様々に策を巡らしていく。

その一方で、次期当主決定のために相続人同士の確執は高まり、
やがて、飛鳥の遭遇した ”神隠し”、そして
13年前に起こった失踪事件の真相へとつながっていく・・・

設定こそ横溝だが、時代はもちろん現代、
語り手は現役大学生、登場人物もほとんどが20代。
ところどころコメディ調の描写も挟んで、ライトなミステリ調で進む。

しかし、終盤になっての ”神隠し” と綜馬/浬莉の失踪、
この2つを巡っての推理合戦というか多重解釈は本書の白眉だろう。
雰囲気はライトでも、なかなか骨太のミステリでもある。

とはいっても、登場人物たちの過去に関わる部分は
それなりに闇が深いし、それによって
人生をねじ曲げられてしまった悲哀も描かれる。

全体としてはかなり悲惨な話なのだが、
ラストが明るく締められるので読後感はよい。
またこのシリーズを読みたくなる。


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