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福家警部補の追及 [読書・ミステリ]


福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア:  文庫
評価:★★★☆

地味なスーツにぱっつん前髪。小柄で童顔、メガネっ娘。
就活中の女子大生とも見まごう姿ながら、実は警視庁の凄腕刑事。
それが本書の主人公、福家(ふくいえ)警部補。

犯人の残した些細な手がかり、わずかなミスを見逃さず
それを積み重ねて着実に真相に迫っていく。
まさに「和製コロンボ」ともいうべきシリーズの4巻目。

今回は文庫で160ページほどの中編を2作収録している。

「未完の頂上(ピーク)」
登山家として名を上げた狩義之(かり・よしゆき)は
その後、登山用具販売やスポーツジム経営へも手を伸ばしてきたが
近年、事業の不振に苦しんでいた。
一方、狩の息子・秋人(あきひと)も登山家となり、
父のなしえなかった未踏峰チャムガランガ登頂のため、準備を進めていた。
大手不動産チェーンを経営する中津川は秋人の後援者だったが
義之に対し、秋人の登山計画のスポンサーから降りると通告してきた。
息子の夢のため、中津川を殺害した義之は
彼の遺体を奥多摩山系にある倉雲岳の山中に遺棄し、
登山中の事故に見せかけるべく偽装を施すのだが・・・

「幸福(しあわせ)の代償」
佐々千尋(ちひろ)と健成(たけなり)は、
両親の再婚によって義理の姉弟となったが、仲は険悪であった。
5年前に両親が交通事故死し、遺産相続で揉めた結果
千尋が経営するペットショップが建つ土地は義弟の名義となり、
彼女が家賃を払うことで合意する。
健成は劣悪な環境で犬を繁殖させる悪徳ブリーダーで、事業拡張のために
千尋のペットショップの建つ土地を売り払うことを決めた。
彼女は自分の店を守り、さらには虐待されていた犬たちを救うために
健成を殺害し、さらにその罪を彼の愛人・片岡二三子(ふみこ)に
なすりつけるために、彼女をも自殺を装って殺害してしまう・・・

ささいな矛盾点から犯人の作為を暴き、真相に迫っていく福家。
それを突きつけられて必死の防戦に回る犯人。
時には ”攻勢” に転じようとするのだが、
それこそ福家の思うつぼだったりする。

「刑事コロンボ」の ”伝統” を受け継ぐ、
名探偵vs名犯人の攻防が本書のキモであり読みどころ。

毎回思うのだが、福家という人は多才。犯人は毎回、
各界の専門家だったり高度な才能を有する人だったりするのだが
福家も彼ら彼女らに負けないくらい、その業界の蘊蓄を披露してみせる。

「未完の-」では、遺体の発見現場は崖の途中なのだが
福家は見事なロープワークで、すいすいと崖を降っていってみせて
ベテランの山岳会員を驚かせる。

さらには、彼女は周囲の人たちを元気にさせる魅力があるようだ。
彼女が事情を聞きに行った関係者たちはみな多かれ少なかれ
(事件とは関係なく)悩みや葛藤を抱えていることが窺われるのだが、
彼女が去り際にかけたひと言ですーっと気持ちが前向きになってしまう、
というシーンが再三描かれる。

事件の解決とは直接関係はないのだけど、
こういう描写の積み重ねが彼女の好感度をアップさせている。

もっとも、彼女も完璧超人ではないみたいで、
「幸福のー」では図らずも「犬が苦手」という弱点をさらけ出す。
動物絡みの事件なら「警視庁いきもの係」の薄圭子巡査の領分なのだが
あいにく彼女は今回 ”研修中” らしく、姿を見せない。
代わって薄巡査の相棒である須藤警部補が登場し、福家に協力する。
他の作品のレギュラーキャラが、シリーズの枠を越えて
ゲスト出演するのもこの作者の楽しさだ。

犯人は冷酷な殺人者なのだけど、その動機の根底には
肉親や動物たちへの限りない愛情がある。
その愛情ゆえに犯罪者となり、その愛情ゆえに福家に敗れ去る。

私が知る限り、現在最高の倒叙推理のシリーズだと思う。


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