SSブログ

魔法使いは完全犯罪の夢を見るか? [読書・ミステリ]

魔法使いは完全犯罪の夢を見るか? (文春文庫)

魔法使いは完全犯罪の夢を見るか? (文春文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/04/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

むかし「奥さまは魔女」というアメリカ製のTVドラマがあった。
魔法使いの嫁さんに人間の旦那さんが振り回されるコメディだった。
日本で放送されてたのは私が小学生の頃。
wikiで調べると、その後の魔法少女ブームの先駆けになったりとか
いろいろ日本のサブカルチャーへの影響が
なんだか詳しく書いてあるんだけど、そのへんは割愛。

本書に登場するのは「奥さん」ではなく、未婚の美少女。
どういう経緯か分からないが、人間の家庭に入り込み、
家政婦として働いているんだが、なぜかその家が
次々と事件に巻き込まれていくという不思議な因縁。
別に彼女が殺人犯を招いているわけでは・・・ないよね(?)。

主人公の小山田くんは八王子署に勤務する若手刑事。
年上の上司・椿木綾乃警部(39歳独身)に虐められることが
この上ない喜びだったりする、いささかアブナイ嗜好を持つ。

彼が出くわす殺人事件の現場に、たびたび現れるのが
マリィと名乗る家政婦。しかしその正体は魔法使いだった・・・


「魔法使いとさかさまの部屋」
 映画監督・南源次郎の妻、佐和子が撲殺される。
 なぜか殺人現場となった部屋は、壁に掛かった絵、テーブル、
 椅子、テレビ、DVDプレーヤー、固定電話に至るまで
 あらゆるものが逆さまに置かれていた・・・
 現場にあるものがことごとく逆さまになっていた、って聞くと
 海外の某古典的に有名なシリーズの一編を思い出すんだが
 本作はまた違った意味が込められている。

「魔法使いと失くしたボタン」
 ダイエット教室を主宰する泉田は、義兄・槙原を殺害する。
 しかし死体を運搬する途中、ジャケットの袖のボタンを紛失する。
 これ、なくしたボタンが見つかった段階で "動かぬ証拠" となって
 御用!となるかと思いきや、予想を裏切り(いい意味で)、
 さらにもう一捻りしてある。さすが。

「魔法使いと二つの署名」
 物まね芸人・松浦は、芸能事務所社長・矢川と
 経営方針を巡って対立、彼を殺してしまう。さらには
 予め練習していた矢川の筆跡をまねて遺書を偽造し、自殺を装う。
 しかし矢川の愛人と名乗る女・慶子が現れて・・・
 終盤の松浦と小山田の対決は、往年の名作・刑事コロンボを
 彷彿とさせるような鋭い切れ味だ。

「魔法使いと代打男のアリバイ」
 プロ野球チーム・多摩川ホームズで代打の切り札として活躍する菅原。
 彼はある晩、元プロ野球選手・村瀬を呼び指し、刺殺する。
 村瀬はかつて菅原の妹を裏切り、自殺へと追いやったのだ。
 菅原のもつ鉄壁のアリバイに挑む小山田たちだが・・・
 本作のラストで、マリィは小山田家の家政婦として働くことになる。


さて、本書の最大の特徴は魔法使いが出てくること。
マリィは、魔法を使って事件とどう関わるのか?
実は、事件の解明にはほとんど役に立ってないのだ(笑)。
彼女の魔法では、「犯人は誰か」までは分かるのだけど、
犯人が駆使しているトリックの解明まではしてくれない。

しかも本シリーズは「倒叙もの」である。
つまり冒頭で犯人が明かされていて、
もっぱら犯人と捜査側との駆け引きがメインに描かれる。
作中でマリィが犯人を教えてくれても、読者は既に知っているのだ。

じゃ、彼女の存在には意味はないのか。もちろんそんなことはない。
彼女には、"ギャグ要員" という立派な(?)役回りがある(笑)。

実際、殺人事件という殺伐とした素材を扱っているんだけど
マリィの登場するシーンになると、深刻な場面のはずが
一転してコメディタッチになってしまう。
このあたり、当代ユーモアミステリを書かせたら右に出るものはない
東川篤哉の面目躍如というところ。

マリィ以外のユニークなキャラたちも本作の大きな魅力だ。

39歳独身の椿木警部は、容疑者が独身のイケメンだと
途端に追求の矛先が鈍ってしまうという悪い癖(笑)を持つので
犯罪捜査の戦力としてはいささか心許ない。

嗜好はドMでも(笑)、刑事としての小山田君はとても立派。
意外に聡明な(失礼!)オツムで、最後はきちんと真相にたどり着く。


魔法使いが出てくる必然性があるのか、と問われると
正直なところ首を傾げてしまうが、コメディ要素と割り切れば
とても楽しいミステリ・シリーズだと思う。

本書はシリーズ化されていて、すでに2巻目が刊行されている。

マリィが人間界に来た理由は明かされるのか?
そして、年上の警部とメイド服の魔法使い。
二人の女性の間で揺れる小山田くんの、明日はどっちだ?(笑)。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

黒猫の薔薇あるいは時間旅行 [読書・ミステリ]

黒猫の薔薇あるいは時間飛行 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の薔薇あるいは時間飛行 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/01/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★

24歳にして大学教授になった俊英、人呼んで "黒猫"。
語り手でもあるヒロインは "黒猫" の同級生にして
大学院で研究に励みながら、彼の "付き人" を勤めている。
しかし "黒猫" は、パリの大学教授・ラテストの招きにより、
25歳にして客員教授となって渡仏してしまう。

それから半年。

日本に残された "付き人" は、学内機関誌に掲載する原稿のために
指導教授・唐草から作家・綿谷埜枝を紹介され、
彼女の家でインタビューすることになる。

埜枝は語る。30年前に出会った運命の人との恋を。

植物学者・國槻瑞人(くにづき・みずと)の創始したゲニウス植物園。
そこで出会った青年と意気投合した埜枝。
数日後、青年は埜枝に赤い鉢植えの薔薇を渡し、
翌日の夜、レストラン「オフランド」での再会を約束した。
しかし翌朝、なぜか赤い薔薇は白薔薇にすり替えられており、
青年も約束の場所に現れることはなかった・・・

一方、パリの "黒猫" も、音楽家リディア・リシュールの
屋敷にあるローズガーデンにまつわる謎に出会い、
ラテスト教授の孫娘・マチルドとともに解明に乗り出していく。

日本とフランス、それぞれ独自に謎を追う "付き人" と "黒猫"。
しかし2つの謎には意外なつながりがあった・・・


物語は両者を交互に描きながら進むが、
"付き人" の章では、彼女の "黒猫" に対する恋心も描かれる。
本作は、二人の学部生時代を描いた番外編
(『黒猫の刹那あるいは卒論指導』)
を除けばシリーズ3作目だが、巻を追ううちに
彼女の思いが次第に高まってきているのがわかる。

しかし "黒猫" の章では、マチルド主体に描かれているせいもあるが
彼の内面はなかなかうかがい知れない。

物語の構成上、"付き人" の恋のライバルとなる立ち位置のマチルドだが
"黒猫" がマチルドと接する態度は、"付き人" へ対するそれと同じで
まったくもって素っ気ない。

"黒猫" の本心がどこにあるのかは
ラストでちょっぴり垣間見ることが出来るが、
マチルドは次作にも登場するらしいので
この "恋のトライアングル"(笑) はしばらく続きそうだ。

読者は、ミステリとしての興味と同じくらい、あるいはそれ以上に
ヒロインの恋の行方に一喜一憂するかも知れない(私もそうだ)。


このシリーズ、当初はポオにまつわるウンチクやら
哲学的なリクツやらがとっても鬱陶しくて、
理解するのが楽ではなかったのだけど
巻を重ねるうちにあまり気にならなくなってきた。

ウンチクやらリクツやらの描写がこなれてきたのか、
単に私の頭がボケてきて鈍感になったのか・・・
たぶん後者だろう。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ジョーカー・ゲーム [読書・ミステリ]

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★

歴史上の事件を舞台に、偉人・有名人を探偵役にしてきた柳広司。
本作ではそれまでの作風を一変させ、
ミステリ要素を前面に出したスパイ・サスペンスという、
新しいジャンルに挑戦している。


昭和12年。帝国陸軍中佐・結城の発案で、
極秘裏に設立されたスパイ養成所・"D機関"。

かつて自身も優秀なスパイだった結城中佐の指揮の下、
頭脳明晰な学生が集められ、様々な訓練が行われる。
武器・無線機器の扱いはもちろん、飛行機の操縦、
語学、医学、心理学、物理・化学・生物学、思想、戦術理論、
果てにはスリ・金庫破りの実習、手品、ダンス、変装術・・・
およそスパイに必要と思われるあらゆる技術を叩き込まれていく。

本書の読みどころの第一は、結城中佐の示す
極めて合理的な "スパイの戒律" だろう。

例えば第1話「ジョーカー・ゲーム」の中で、
参謀本部からの監視役を兼ねて "D機関" に派遣されてきた佐久間と
結城中佐が会話をするシーンがある。

結「敵に正体を見破られたらどうする?」
佐「敵を殺すか、その場で自決します」
結「殺人および自決は、スパイにとって最悪の選択肢だ」

後に「生きて虜囚の辱めを受けず」(戦陣訓)として有名になる、
当時の帝国軍人の信条を、結城中佐は真っ向から否定してみせる。
「死ぬな、殺すな、とらわれるな」と。

そんな結城中佐の指揮する "D機関" は、
当然ながら軍内部から猛反発を招くのだが、
結城と彼の "教え子" たちはスパイとして着々と成果を挙げていく。


「ジョーカー・ゲーム」
 スパイ養成所として本格稼働を始めた "D機関" に、命令が下る。
 陸軍の暗号表を盗み出した容疑者である
 アメリカ人技師・ゴードンの邸宅を捜索し、
 暗号表を撮影したマイクロフィルムを回収すること。
 しかしそれを命じた参謀本部には、ある思惑があった・・・

「幽霊(ゴースト)」
 爆弾テロによる要人暗殺計画が明るみに出る。
 容疑者として浮上したのは英国総領事アーネスト・グラハム。
 "D機関" の蒲生次郎に与えられた任務は
 グラハムと事件との関係を探ること。
 次郎は総領事館に出入りする洋服屋の店員となり、
 グラハム個人とチェスを通じて親交を結んでいくが・・・

「ロビンソン」
 "D機関" の伊沢は、日本を発つ時に
 餞別として結城から一冊の本を与えられた。
 それは『ロビンソン・クルーソー』。
 ロンドンで活動していた伊沢はスパイ活動が発覚し、
 英国諜報機関の元締め、ハワード・マークス中佐に捕らえらてしまう。
 "D機関" で叩き込まれた知識と技術を総動員して脱走を謀る伊沢は、
 『ロビンソン・クルーソー』に込められた意味に気づく。

「魔都」
 上海の憲兵隊軍曹・本間は、上司である及川大尉から呼び出され、
 憲兵隊内部にいる敵の内通者を探るという任務を与えられる。
 折しも及川大尉の自宅が爆破され、現場を取材した新聞記者・塩原は
 そこで帝国大学時代の同級生・草薙の姿を目撃する。
 草薙は "陸軍の秘密組織に入った" と噂されていた・・・

「XX(ダブル・クロス)」
 ドイツの有名紙の海外特派員カール・シュナイダー。
 彼に対して、ソ連・ドイツ双方に対して
 機密情報を流している二重スパイ疑惑が浮上する。
 "D機関" の飛崎は、シュナイダーの内偵及び監視を命じられたが
 スパイの証拠をつかんだのも束の間、シュナイダーが謎の死を遂げる。
 自殺か、それとも何者かによる殺害か・・・


5編とも中心となる人物は異なるが、
どの作品にも共通して登場するのが結城中佐。

出番そのものは少ないが、その強烈な個性で印象に残る。
本作の魅力は個々のストーリーが良く出来ていることもあるが、
何と言っても結城中佐のキャラクターが大きい。

自らが信じるところの、極めて合理的で、
冷酷ですらあるスパイとしての信条を "生徒たち" に叩き込む一方、
ふとした瞬間に見せる "人間味" もまたいい。

本作は日本推理作家協会賞を初め、いくつかの賞をもらったとのこと。
名実ともに柳広司の出世作になった。
結城中佐と "D機関" が登場する作品は、あと何冊か続くらしい。
楽しみに次巻を待ちたいと思う。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 [読書・ミステリ]


柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 (創元推理文庫)

柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 (創元推理文庫)

  • 作者: 高井 忍
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: 文庫



評価:★★★

男装の武芸者・毛利玄達は廻国修行中の身。
彼女が出くわす様々な "謎" を、快刀乱麻を断つが如く解き明かす、
剣豪・柳生十兵衛の活躍を描く。シリーズ第2巻。

「一刀流 "夢想剣"」
 柳生と並ぶもう一つの将軍家指南役・一刀流小野次郎右衛門。
 兄弟子・大峰の善鬼(ぜんき)との一騎打ちを制して
 師・伊藤一刀斎の流儀を継いだとされる。
 次郎右衛門の墓参に訪れた玄達と十兵衛が
 多くの謎に包まれている剣豪・一刀斎の正体を解き明かす。
 ちなみに次郎右衛門の旧名は神子上典膳(みこがみ・てんぜん)と
 いうのだが、実は昨日(1/5)、
 『神子上典膳』(月村了衛)という本を読みおわったところ。
 こちらは剣劇主体の時代小説なんだけど、
 ミステリ要素もあってなかなか面白かった。
 剣豪ものだって切り口によってはミステリになるんだねえ。

「新陰流 "水月"」
 諸岡一羽の弟子・根岸兎角(とかく)は病の師を見捨て、
 自らの流派・微塵流を立ち上げた。
 一羽の高弟・岩間小熊は、裏切り者の兎角を討つべく、
 江戸・平川の橋上で果たし合いを行った。
 結果、見事に兎角を打ち破った小熊だったが、
 路頭に迷うことを畏れた兎角の弟子たちによって
 微塵流の新たな師として担ぎ出されてしまう。
 そしてその3ヶ月後、雪中の密室状況下で小熊が殺される。
 本書の中ではいちばんミステリらしい作品。
 日本家屋では珍しい密室ものだし、
 動機もこの時代でなければ成立しない必然性もある。

「二階堂流 "心の一方"」
 江戸城大手門前は諸大名の行列で渋滞していた。
 そこを通りかかった玄達が出くわしたのは、
 他家を蹴散らして進んでいく豊前国細川忠利の大名行列。
 先頭にあるは "怪剣士" と呼ばれる二階堂流・松山主水(もんど)。
 行列を押しとどめようとする黒鍬組(交通整理係)の者に対し、
 手のひらを向けるだけで、男どもが突風に吹かれたように散っていく。
 家康の孫・千姫(!)より、二階堂流を探ってほしいと頼まれた玄達は
 鎌倉の地で、十兵衛と共に二階堂流の秘密に辿り着くが・・・
 冒頭の秘技・"心の一方" のシーンだけでもいい加減驚いたけど、
 (『レインボーマン』の「遠当ての術」を連想したのはナイショだ。
  うーん、トシが分かってしまうなぁ。)
 玄達が千姫とお知り合いというのでまた驚き。
 しかも、二人を引き合わせたのは宮本武蔵(!)というおまけ付き。
 歴史上の有名人が出てくるのはお約束でもあるのだが
 まあ吹いたものだねえ・・・でも面白いから許す(笑)。
 二人が暴き出す真相もけっこうえげつないものなんだけど、
 とりあえず辻褄が合ってるからこれもいい。
 ただ一点だけ不満があるんだけど・・・いやこれは書くまい。
 気になる人は読んでみて下さい。

あと、どうでもいいことなんだが、
1巻目と2巻目で表紙の画家さんを替えたのはなぜだろう。
まあ、こっちのほうがかっこいいけど。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

平台がおまちかね [読書・ミステリ]

平台がおまちかね (創元推理文庫)

平台がおまちかね (創元推理文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/09/16
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

井辻智紀くんは出版社・明林書房で入社2年目を迎える。
自ら望んだことではあるが、外回りの営業職は苦労も多い。
街の書店を巡る智紀くんが出会った5つの"事件"を描く短編集だ。

「平台がお待ちかね」
 明林書房発行の『白鳥の岸辺』を、特設売り場までつくって
 大がかりにプッシュしてくれてるワタヌキ書店。
 しかし、お礼に訪れた智紀に対して、
 なぜか店主の態度はきわめて冷淡だった・・・

「マドンナの憂鬱な朝」
 ハセジマ書店のマドンナ店員・望月みなみちゃん。
 しかし最近、彼女に対して "暴言" を吐いた客がいたらしい。
 傷心の彼女を救うべく、智紀をはじめ他社の営業マンたちまでも
 巻き込んでの真相追究が始まる。

「贈呈式で会いましょう」
 明林書房が主催し、今年で14回目を迎える新人賞である
 宝力宝(ほうりき・たから)賞。
 その長編部門を受賞したのは福島在住の塩原健夫。
 しかし、その塩原が受賞記念パーティーの会場に姿を見せない。
 降って湧いたように受賞作の盗作疑惑まで持ちあがるが、
 パーティーの開始時間は刻々と迫ってくる。
 そんな中、「塩原を神田の『三省堂』で見かけた」という
 目撃情報にすがって、智紀は東京の街を走り回るが・・・

「絵本の神さま」
 東北への営業に出かけた智紀だが、訪れたユキムラ書店は
 既に閉店・廃業していた。隣人に尋ねると、昨夜も一人訪問者がいて、
 店の前にぼうっと佇んでいたという・・・
 ミステリと言うよりは "人情話" に近いかな。
 本書中でいちばん印象深かった話。

「ときめきのポップスター」
 営業先の某大手書店のフロアマネージャーから、
 一風変わったポップコンテストへの参加を求められた智紀。
 他社の営業マンとも競い合いながらポップを考案するが、
 そのポップのある売り場に並べてある10種類の本が、
 なぜか何者かによって並び順を変えられてしまう・・・
 ちなみにポップというのは、書店でつくった宣伝の紙のことで
 wikiで調べたらPOP(Point of purchase advertising)という
 ちゃんとした由来があったのはびっくり。
 なお、この作品で同じ作者の『成風堂書店』シリーズと
 同一世界であることも明らかになるので、
 そのうち両者のキャラが揃って出演する作品も読めるかも知れない。

智紀以外のキャラも良く出来てる。上司の秋沢さんももちろんだが
ライバル書店の営業マンである真柴がいい味出してる。

智紀の名字(井辻)をもじって "ひつじくん" 呼ばわりして
絡んでくるんだけど、困った時には助け船を出してくれたり。
これも智紀が真面目で素直で、誰からも好かれるキャラだからだろう。

他にも、各作品ごとに出てくる書店で働く人々がいい。
みな本を、本屋さんというものを愛しているのがよく分かる。
考えたら、本書の中に "悪い人" っていないんじゃないかな。

"日常の謎" 系なのだけど、ミステリっぽさは希薄。
だけどつまらないなんてことはなく、楽しく読めるのは、
そのあたりも理由があるのだろう。


中学~高校の頃、よく本を買いに行った近所の書店が
つい最近閉店して寂しい思いをした、ってことは
このブログのどこかで書いた気がする。
大型書店やネット通販に押されてたいへんな時代なんだけど
"街角の本屋さん" には頑張ってほしいよなあ・・・
とは思うんだけど、考えてみたら、今私が住んでいる街には
もう "街角の本屋さん" って生き残ってないような・・・(゜Д゜)


nice!(3)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

RDG レッドデータガール 全6巻 [読書・ファンタジー]

すみません、11月読了分はまだしばらく続きます(^_^;)


RDGレッドデータガール  はじめてのお使い (角川文庫)

RDGレッドデータガール  はじめてのお使い (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 文庫




RDG2 レッドデータガール  はじめてのお化粧 (角川文庫)

RDG2 レッドデータガール  はじめてのお化粧 (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: 文庫




RDG3 レッドデータガール  夏休みの過ごしかた (角川文庫)

RDG3 レッドデータガール  夏休みの過ごしかた (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 文庫




RDG4 レッドデータガール    世界遺産の少女 (角川文庫)

RDG4 レッドデータガール    世界遺産の少女 (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/12/25
  • メディア: 文庫




RDG5 レッドデータガール  学園の一番長い日 (角川文庫)

RDG5 レッドデータガール  学園の一番長い日 (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/03/23
  • メディア: 文庫




RDG6 レッドデータガール 星降る夜に願うこと (角川文庫)

RDG6 レッドデータガール 星降る夜に願うこと (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/02/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

熊野の山中にある玉倉神社。宮司の孫娘・鈴原泉水子(いずみこ)。
父の大成(だいせい)はシリコンバレーのIT企業で働く天才プログラマ、
母の紫子(ゆかりこ)は警視庁公安部に勤務している。
そのため、幼い時から神社で育てられてきた。

世間から隔離された環境に長くいたため、極度の人見知り。
中学3年生になった今も男子と口がきけない引っ込み思案。
機械類を扱うのも壊滅的(というか機械の方で勝手に壊れる)。

同級生たちとそのまま地元の高校へ進学するとばかり思っていたが
彼女の運命はある日を境に急転する。
父の友人・相良雪政が現れ、東京の鳳城学園へ入学することが
両親の意向によって決まったと告げる。
さらには雪政の息子で、幼なじみだった深行(みゆき)が
転校生としてやってくるが、敵意むき出しの態度で泉水子に接する。
その原因は、泉水子自身の出自にあるらしい・・・

2巻で泉水子は、不安を胸に鳳城学園高等部に入学する
一足先に転入していた深行に加え、
寮のルームメイト・宗田真響(まゆら)、優等生の高柳一条ら
様々な学生達が集まってきた鳳城学園で、
泉水子は様々な事件に遭遇していく・・・


途中まで、一体どんな物語になるのかよく分からなかった。
3巻目あたりからなんとなく見えるようになってきたよ(笑)。


ここから先はちょいとネタバレなことを書くので、
これから読もうという人は以後は読まないことを推奨します。


泉水子は時々、"姫神" と呼ばれる謎の存在に憑依され、
人格も一変してしまう。

その正体は、人類が滅亡してしまった未来から時を遡り、
過去へ介入している存在。泉水子に憑依することによって、
滅亡しない未来へと彼女を導こうとしているらしい。

 いわゆるひとつの「幻魔大戦」(笑)ですね。

泉水子自身が、古代より続く姫神が憑依する女性の家系であり、
彼女を取り巻く相楽深行、宗田真響、高柳一条なども
それぞれある目的を持った一族に属しており、
彼ら・彼女ら、さらには大人たちを含めて
学園を舞台に、"姫神" の絶大な力を巡る争奪戦が展開されていく。

・・・とは言っても、これはこの物語の一面でしかない。

人見知り、引っ込み思案、不器用、世間知らず。
自分一人では乗り物にも乗れない泉水子は
何事も受け身で、周囲に流されて生きてきた。
吉野の山奥にずっといれば、それで済んでいた。

 タイトルに「レッドデータガール」とあるんだが、
 たしかに、現代では絶滅危惧種並みに珍しい女の子だろう。
 あ、「レッドデータガール」には物語の中で
 ちゃんとした別の意味付けがありますので念のタメ。

彼女自身の生育環境とか、やがて明らかになってくる
"背負わされた運命" とかを考えると、仕方がない部分もあるけどね。

しかし、住み慣れた故郷を離れ、一人で生活を始める。
友人たちに助けられ、さまざまな危機を乗り越えていくうちに
泉水子は "姫神" の力と折り合いをつけつつ、
自分の人生を自らの意思で選択するようになっていく。
最初は犬猿の仲であった深行との間にも、
苦難を共に乗り越えていくうちに、心を通わせるようになっていく。

"学園伝奇ファンタジー" を舞台に、
その中で描かれる "ヒロインの成長"。
これこそが本来のメインストーリーであり、読みどころなのだろう。

最後にちょっと余計な話を。

本作品は、2013年にアニメ化されている。アニメ自体は未見なのだが、
公式サイトを見るとキャラ紹介が載っている。
これがまた実に可愛いキャラデザインで、イメージもぴったりだ。

 角川文庫版の酒井駒子さんのイラストもいい味なんだけど、
 中学3年~高校1年というヒロインの年齢に見えないのが難。

もっと言うと、声優もよさそうだ。
特に相良雪政役の福山潤と村上穂高役の石田彰がいい。
胡散臭さ100%のこの二人に対しては
もうこれ以上の配役が考えられないくらいカンペキだ(笑)。

そのうちヒマが出来たら観てみようかなあ。

もう一つ書くと、ストーリー紹介によると、
原作の5巻までの部分がアニメ化されているようだ。
なんで最終巻を映像化しなかったのか不思議に思ったんだけど、
読んでみたら何だか納得した。

言ってしまえば最終巻は、一冊まるまるエピローグみたいなもので
ストーリー上の山場は5巻で終わっているんだね。
ビジュアル的にも5巻がいちばん見栄えしそうなシーンが多いし
ここをクライマックスに持っていくのもアリなのかもしれない。

とはいっても、最終巻では泉水子の将来がそれとなく示されていたり
たぶん読者がいちばん気になるであろう、
深行との関係の決着(恋の行方?)も描かれているので、
アニメだけ観た人も、最終巻は読む価値はあると思うよ。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

昨日まで不思議の校舎 [読書・ミステリ]

読了日は11月17日です(^_^;)。


昨日まで不思議の校舎 (創元推理文庫)

昨日まで不思議の校舎 (創元推理文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/04/26
  • メディア: 文庫



価:★★★☆

某市立高校を舞台に、ただ一人の美術部員・葉山くんと
演劇部の看板女優・柳瀬さんが活躍するミステリ・シリーズ。
はやくも6冊目となった。

超自然現象研究会が発行した会誌<エリア51>が特集したのは
校内に伝わる怪奇現象「市立七不思議」。

自分の脚を求めて彷徨う「カシマレイコさん」とか
自分が殺されたことを知らずにフルートを吹く幽霊とか
「口裂け女」とか「壁男」とか・・・

しかしその冊子が配布された直後、
「カシマレイコさん」を呼び出す校内放送が流れる。
しかも放送室は施錠され、誰も入室できない状況で。

さらには演劇部やミステリ研には「口裂け女」を模した悪戯、
用務員室には「トイレの花子さん」を名乗る置き手紙まで出現する。

真相解明に乗り出した葉山くんたちだが、
やがて市立高校に隠されていた
とてつもない "秘密" に行き当たってしまう・・・

同時並行的に進行する複数の事件が最終的に解決し、
さらには七不思議の背後をつなぐ事実の解明まで至る。
このあたりの構成の上手さはさすがだ。

サブキャラたちもお馴染みになってきて
毎回楽しく読ませてもらっている。

巻末の後書きによると、このシリーズは一冊出すごとに
「これで完結ですか?」って聞かれるようになったらしい。

作者によると、まだ続きがあるらしいのでもう何冊か出るらしい。
たぶん葉山くんの卒業までは描くのじゃないかな。
本作で彼は2年生の秋なので、まだいろいろとありそう。
柳瀬さんのほうが1年先に卒業するので、
その時のことももちろん描かれるだろう。

最近は他社でもたくさん書かれているけれど、
このシリーズもなるべく長く続けてほしいな。


最後に余計なことを。

毎回読んでいて思うんだが、葉山くんの環境は実に羨ましい。
高校時代を男子校で過ごした私には、
異性の同級生も先輩も後輩もいない。(あたりまえだ)
美人の先輩と知り合えて、しかもべた惚れされているなんて
夢のような境遇だよねえ。

いままでの人生で、大学の先輩とか職場の同僚とかで
何人かの「1つ年上の女性」とお知り合いになったが
総じてみないい人ばかりで、嫌な思いをしたことがない。

「1つ年上の女房は金のわらじを履いてでも探せ」って
ことわざもあるけれど、あながち間違いではないのかも・・・
なんて思うのだが、なぜか私のかみさんは年下だったりする(笑)。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

鬼狩りの梓馬 [読書・ファンタジー]

年は明けたんだけど、読書記録はまだ昨年分の積み残しがたくさん。
しばらくは在庫の消化にお付き合いください。
ちなみに、この本を読み終わったのは11月15日(^_^;)。


鬼狩りの梓馬 (角川ホラー文庫)

鬼狩りの梓馬 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

時に1475年。戦国の世はいつ終わるとも知れず、
武蔵国・江戸がまだ村々の集合体だった頃。

魔界と人間界の境目はいまだ定まらず、
境を超えて現れた "鬼" が人を襲い、喰らっていた。

穏田村に生まれた少年・梓馬(あずま)は、
生まれながらに心の奥底に "鬼" の意識を持っていた。
彼こそは、かつて鬼だったものが、
呪師によって人に転生させられた存在だった。

6歳で両親を "青鬼" に喰われ、11歳で姉が餓死した。
18歳になった梓馬は狩人の宗貞・ハルの親娘と共に暮らしている。
生活は貧しく、村の有力者の無法に翻弄されながらも生きてきた。

ある日、近隣の麻布村へ出向いた梓馬は、ゆうという娘と知り合う。
天涯孤独な身の上の二人は、やがて想いを寄せ合うようになるが
平穏な日々は再びの鬼の出現によって終わりを告げる・・・


うーん、新年早々からあんまり文句は書きたくないんだけど
『戦都の陰陽師』の時にも書いた、同じような感想を今回も感じた。
「面白くなりそうな要素はあるのに、何だかもったいないなあ」


思うに、まずは農村の日常描写がいささか冗長なところか。

当時の農民の暮らしがたいへんだったのは事実だろうし、
リアリティの担保のためにも、ある程度の書き込みが必要だろう。
でも、「胸まで泥に浸かって稲を栽培」云々的な描写が
延々と続くのはいかがなものか。
読者が求めているのは、そういうところではないんじゃない?


もう一つは、とにかく主役の梓馬くんがなかなか活躍しないこと。

梓馬は "鬼の魂" を持つだけあって、鬼の接近を感じることもできるし、
鬼の致命的弱点である "逆鬼門" (ここを突くと鬼は死ぬ)
の場所を見つけることもできる(逆鬼門の位置は個体ごとに異なる)。

 「"敵" の能力(の一部)を持つ主人公」っていうのは、
 ある意味ヒーローものの王道設定。
 「サイボーグ009」だって「仮面ライダー」だって、
 悪の組織が作り出した超人が人間側に寝返った存在。
 「ジャイアントロボ」だって、悪の組織が作った兵器を奪取し、
 主人公がそれを利用して敵に対抗する。

通常の人間に比べれば、鬼に対しては圧倒的に
アドバンテージがあるはずなのに、梓馬くんはあんまり活躍できない。
体格が貧弱なために、格闘戦では圧倒的に弱いし、
人間相手だってろくに勝てないんだからもう・・・

まあそんな梓馬くんでも、最後には何とか倒すんだけど、
上記二つの印象が強すぎて、カタルシスに乏しいんだなあ。

群がる鬼の大群を、片っ端からばっさばっさと切り捨てろ、
とまでは言わないが、もう少し主役らしく活躍する場面が見たい。
タイトルだって「鬼狩り」なんだからさあ・・・


本書の物語は、梓馬が村を離れて旅立つところで終わる。
その気になれば、続編を描くこともできるだろうし、
考えようによっては、本書は "序章" に過ぎず、
経験値を上げた梓馬が "鬼の脅威から人々を護るヒーロー"
として活躍していく物語が、これから始まるのかも知れない。

ただ、"序章" としては文庫470ページは
ちょっと長すぎるように思ったんだよねえ。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

2016年 新年のごあいさつ & 開設11年目に突入! [このブログについて]

皆様、新年明けましておめでとうございます m(_ _)m。
本年も MIDNIGHT DRINKER をよろしくお願いいたします。


本ブログは2006年の1月に開設しましたので、
昨年でまる10年、今年から何と11年目に突入となりました。

始めた頃はこんなに長く続くなんて全く思っておらず、
実際、何度も中断・放置を繰り返してきました。

そんなちゃらんぽらんなブログ主ですが、いつの間にか
10年間で記事の総数も1140件、まさに塵も積もればなんとやら。

とりあえず何とか今まで続けてこられたのは、
のぞきに来てくれる皆さんのおかげです。
本当にありがとうございました(ぺこり)。m(_ _)m


昨年は身体を壊し、健康のありがたみを実感した年でした。
とは言っても、タイトル通りに、真夜中に酒を飲みながら
ネットを眺めるという不健康な生活は改まっておりません。
(だから身体を壊すんだよなあ・・・)
せめて布団に入る時間はもう少し早くしようと思ってますが。


さて、今年の読書目標は昨年と同じく月に10冊、一年間で120冊。
あと、家の中の積ん読状態の本の解消に努めようと思っています。
(これ、毎年思ってるんだけど、一向に減らないんだよねえ・・)

だんだん眼も悪くなってきたので、1日に読める量も減ってきました。
大学4年の時に、1日に文庫本4冊、計1200ページを読んだのが
私の最高記録ですが、もうとても身体が(というか眼が)もちません。
読む本も精選していかなくてはいけないのかなあ、とも感じてます。

今年もまた、読書感想録&日々の雑感を綴っていこうと思います。
拙い駄文の羅列ですが、これでも本人は一生懸命書いているつもりなので
よろしかったら、またお付き合い下さい。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感