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桜花忍法帖 バジリスク新章 上下 [読書・ファンタジー]

桜花忍法帖 バジリスク新章 (上) (講談社タイガ)

桜花忍法帖 バジリスク新章 (上) (講談社タイガ)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/19
  • メディア: 文庫




桜花忍法帖 バジリスク新章 (下) (講談社タイガ)

桜花忍法帖 バジリスク新章 (下) (講談社タイガ)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/17
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

山田風太郎に「甲賀忍法帖」という長編作品がある。
本書「桜花忍法帖」は、この「甲賀-」の続編、
というか後日談に相当する。
であるから本書について記す前に「甲賀-」について
少し書いておく必要がある。


慶長19年(1614年)。服部半蔵に率いられた二つの忍者群である
伊賀と甲賀に、驚くべき命令が下される。

三代将軍選定に悩む家康は天海僧正の提言を受け入れた。
すなわち、伊賀と甲賀の忍者たちに相争わせ、
最後まで生き残った者で決める、というもの。
伊賀が勝てば竹千代(家光)、甲賀が勝てば国千代(忠長)が将軍となる。

双方から10名ずつの手練れが選ばれたが、その中には
甲賀の頭目の孫・弦之介と伊賀の頭目の孫娘・朧(おぼろ)がいた。
恋仲で、間もなく祝言を挙げるはずだった二人の運命は、
非情なものへと変転する。

家康の命令により、双方血で血を洗う死闘に次ぐ死闘の末、
精鋭20名の忍者すべてがあい果てた・・・

これが「甲賀忍法帖」の概要。


そしてこの死闘から12年後の寛永3年(1626年)、
「桜花忍法帖」の物語が始まる。

伊賀・甲賀ともに次世代の忍びが育っていた。
<甲賀五宝蓮><伊賀五花撰>と呼ばれる新鋭たちである。

甲賀の棟梁は甲賀八郎、伊賀の棟梁は伊賀響(ひびき)。
二人は12年前に散った弦之助と朧の忘れ形見、運命の双子であった。

将軍位の争いに敗れた忠長は大納言の位を授けられ、
駿河・遠江合わせて55万石を領する身となっていた。
その前に成尋衆(じょうじんしゅう)と名乗る忍者群が現れる。
その棟梁たる謎の僧侶・成尋は、忠長を使嗾して
天下に大乱をもたらそうとしていた・・・

そのために邪魔となるのは<甲賀五宝蓮>と<伊賀五花撰>。
成尋衆は、その超絶の技をもって彼ら精鋭忍者群に襲いかかり、
<五宝蓮>と<五花撰>は、八郎と響を残して全滅してしまう。

しかし成尋衆は、ある思惑から二人にとどめを刺さず、
いずこかへ去ってしまう・・・


ここまでが上巻なんだが、実は八郎と響はほとんど活躍しない。
つまり、乱暴に言ってしまえば上巻がまるまるプロローグなのだ。
二人の本格的参戦は下巻から始まる。

<五宝蓮><五花撰>壊滅の5年後、寛永8年(1631年)。
将軍秀忠の死と時を同じくして再び成尋衆は降臨する。
五層にも及ぶ天守閣を持つ機動城塞「叢雲(むらくも)」
(超巨大戦車と思えばほぼ間違いない)
を駆って、江戸への進撃を開始する成尋衆。

迎え撃つは、ともに17歳へと成長した八郎と響が率いる
<新・甲賀五宝蓮>と<新・伊賀五花撰>。
この世に平穏を取り戻すため、10人の若き忍者が立ち上がる・・・


とにかく成尋衆がとてつもなく強い。
(ほとんど魔術妖術の類いなんだが「忍法帖」シリーズの読者で
 そこに文句を言う人はいないだろう。)
<甲賀五宝蓮>も<伊賀五花撰>も精鋭揃いで、
半端じゃない強さなんだけど、それでも
赤子の手をひねるように次々に倒されていくんだから。

下巻で<新・甲賀五宝蓮>と<新・伊賀五花撰>に加わるメンバーは、
上巻ではまだ半人前というか二軍のような扱いだった少年少女たち。
5年経っても、成尋衆のほうがはるかに力は上だ。
そんな彼らがどのように "超人軍団" と渡り合うのか。

思い出したのは、作者が昔書いてた「超冒険小説」シリーズ。
このシリーズは "プロvs素人" というシチュエーションが多用されてた。
素人ならではの奇想奇策で、プロの鼻を明かす、というパターン。

本作はファンタジーなのでそこまで理詰めではないが、
それでも、弱者が知恵と工夫で強者に一太刀浴びせる話を書かせたら
作者の右に出る者はいないだろう。

とは言っても、成尋衆も強敵である。
死闘を乗り越えるたびに櫛の歯が欠けるように味方も喪われていく。
果たして怪僧・成尋の野望を食い止めることはできるのか・・・


すべての発端である「甲賀忍法帖」は1958年の発表(これも驚きだ)。
しかも、半世紀近くを経ても人気は衰えず、
2003年には「バジリスク ~甲賀忍法帖~」と題されてマンガ化、
(本書の副題もここから来ているのだろう。
 表紙のイラストも、マンガの作者・せがわまさき氏が描いている。)
2005年にはTVアニメ化、さらには映画化もされている。
(ちなみに映画の方は弦之介がオダギリジョー、朧が仲間由紀恵。)

そして発表後60年近く経っても、本書のように
後輩の作家によって "続編" が描かれる。
山田風太郎というのはつくづくスゴい作家だったんだなあと思う。

登場人物の名前の奇抜さとか、登場する "忍法" の奇想天外さとか
まだまだ書かなくてはいけないことがありそうなんだけど
もういい加減書いてきたのでもうそろそろ終わりにしよう。

ああ、でもこれだけは書いておきたい。
表紙イラストに描かれた八郎と響がねえ・・・可愛くないんだ(笑)。
たぶん、せがわまさき氏が頑張って書いたんだと思うんだけど
この二人はこんなにおどろおどろしくないんだ。
もっと年相応の子どもで、でも過酷な運命に弄ばれて、
でも絶望せずにひたすら頑張ってる。実に "いい子" なんだなあ。
残念ながら、このイラストと本文での描写はかなり落差がある。

せがわさん、ごめんなさい。
でも、この本はどう考えても表紙で損していると思うんだよねぇ・・・


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