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平台がおまちかね [読書・ミステリ]

平台がおまちかね (創元推理文庫)

平台がおまちかね (創元推理文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/09/16
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

井辻智紀くんは出版社・明林書房で入社2年目を迎える。
自ら望んだことではあるが、外回りの営業職は苦労も多い。
街の書店を巡る智紀くんが出会った5つの"事件"を描く短編集だ。

「平台がお待ちかね」
 明林書房発行の『白鳥の岸辺』を、特設売り場までつくって
 大がかりにプッシュしてくれてるワタヌキ書店。
 しかし、お礼に訪れた智紀に対して、
 なぜか店主の態度はきわめて冷淡だった・・・

「マドンナの憂鬱な朝」
 ハセジマ書店のマドンナ店員・望月みなみちゃん。
 しかし最近、彼女に対して "暴言" を吐いた客がいたらしい。
 傷心の彼女を救うべく、智紀をはじめ他社の営業マンたちまでも
 巻き込んでの真相追究が始まる。

「贈呈式で会いましょう」
 明林書房が主催し、今年で14回目を迎える新人賞である
 宝力宝(ほうりき・たから)賞。
 その長編部門を受賞したのは福島在住の塩原健夫。
 しかし、その塩原が受賞記念パーティーの会場に姿を見せない。
 降って湧いたように受賞作の盗作疑惑まで持ちあがるが、
 パーティーの開始時間は刻々と迫ってくる。
 そんな中、「塩原を神田の『三省堂』で見かけた」という
 目撃情報にすがって、智紀は東京の街を走り回るが・・・

「絵本の神さま」
 東北への営業に出かけた智紀だが、訪れたユキムラ書店は
 既に閉店・廃業していた。隣人に尋ねると、昨夜も一人訪問者がいて、
 店の前にぼうっと佇んでいたという・・・
 ミステリと言うよりは "人情話" に近いかな。
 本書中でいちばん印象深かった話。

「ときめきのポップスター」
 営業先の某大手書店のフロアマネージャーから、
 一風変わったポップコンテストへの参加を求められた智紀。
 他社の営業マンとも競い合いながらポップを考案するが、
 そのポップのある売り場に並べてある10種類の本が、
 なぜか何者かによって並び順を変えられてしまう・・・
 ちなみにポップというのは、書店でつくった宣伝の紙のことで
 wikiで調べたらPOP(Point of purchase advertising)という
 ちゃんとした由来があったのはびっくり。
 なお、この作品で同じ作者の『成風堂書店』シリーズと
 同一世界であることも明らかになるので、
 そのうち両者のキャラが揃って出演する作品も読めるかも知れない。

智紀以外のキャラも良く出来てる。上司の秋沢さんももちろんだが
ライバル書店の営業マンである真柴がいい味出してる。

智紀の名字(井辻)をもじって "ひつじくん" 呼ばわりして
絡んでくるんだけど、困った時には助け船を出してくれたり。
これも智紀が真面目で素直で、誰からも好かれるキャラだからだろう。

他にも、各作品ごとに出てくる書店で働く人々がいい。
みな本を、本屋さんというものを愛しているのがよく分かる。
考えたら、本書の中に "悪い人" っていないんじゃないかな。

"日常の謎" 系なのだけど、ミステリっぽさは希薄。
だけどつまらないなんてことはなく、楽しく読めるのは、
そのあたりも理由があるのだろう。


中学~高校の頃、よく本を買いに行った近所の書店が
つい最近閉店して寂しい思いをした、ってことは
このブログのどこかで書いた気がする。
大型書店やネット通販に押されてたいへんな時代なんだけど
"街角の本屋さん" には頑張ってほしいよなあ・・・
とは思うんだけど、考えてみたら、今私が住んでいる街には
もう "街角の本屋さん" って生き残ってないような・・・(゜Д゜)


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