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魔法使いは完全犯罪の夢を見るか? [読書・ミステリ]

魔法使いは完全犯罪の夢を見るか? (文春文庫)

魔法使いは完全犯罪の夢を見るか? (文春文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/04/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

むかし「奥さまは魔女」というアメリカ製のTVドラマがあった。
魔法使いの嫁さんに人間の旦那さんが振り回されるコメディだった。
日本で放送されてたのは私が小学生の頃。
wikiで調べると、その後の魔法少女ブームの先駆けになったりとか
いろいろ日本のサブカルチャーへの影響が
なんだか詳しく書いてあるんだけど、そのへんは割愛。

本書に登場するのは「奥さん」ではなく、未婚の美少女。
どういう経緯か分からないが、人間の家庭に入り込み、
家政婦として働いているんだが、なぜかその家が
次々と事件に巻き込まれていくという不思議な因縁。
別に彼女が殺人犯を招いているわけでは・・・ないよね(?)。

主人公の小山田くんは八王子署に勤務する若手刑事。
年上の上司・椿木綾乃警部(39歳独身)に虐められることが
この上ない喜びだったりする、いささかアブナイ嗜好を持つ。

彼が出くわす殺人事件の現場に、たびたび現れるのが
マリィと名乗る家政婦。しかしその正体は魔法使いだった・・・


「魔法使いとさかさまの部屋」
 映画監督・南源次郎の妻、佐和子が撲殺される。
 なぜか殺人現場となった部屋は、壁に掛かった絵、テーブル、
 椅子、テレビ、DVDプレーヤー、固定電話に至るまで
 あらゆるものが逆さまに置かれていた・・・
 現場にあるものがことごとく逆さまになっていた、って聞くと
 海外の某古典的に有名なシリーズの一編を思い出すんだが
 本作はまた違った意味が込められている。

「魔法使いと失くしたボタン」
 ダイエット教室を主宰する泉田は、義兄・槙原を殺害する。
 しかし死体を運搬する途中、ジャケットの袖のボタンを紛失する。
 これ、なくしたボタンが見つかった段階で "動かぬ証拠" となって
 御用!となるかと思いきや、予想を裏切り(いい意味で)、
 さらにもう一捻りしてある。さすが。

「魔法使いと二つの署名」
 物まね芸人・松浦は、芸能事務所社長・矢川と
 経営方針を巡って対立、彼を殺してしまう。さらには
 予め練習していた矢川の筆跡をまねて遺書を偽造し、自殺を装う。
 しかし矢川の愛人と名乗る女・慶子が現れて・・・
 終盤の松浦と小山田の対決は、往年の名作・刑事コロンボを
 彷彿とさせるような鋭い切れ味だ。

「魔法使いと代打男のアリバイ」
 プロ野球チーム・多摩川ホームズで代打の切り札として活躍する菅原。
 彼はある晩、元プロ野球選手・村瀬を呼び指し、刺殺する。
 村瀬はかつて菅原の妹を裏切り、自殺へと追いやったのだ。
 菅原のもつ鉄壁のアリバイに挑む小山田たちだが・・・
 本作のラストで、マリィは小山田家の家政婦として働くことになる。


さて、本書の最大の特徴は魔法使いが出てくること。
マリィは、魔法を使って事件とどう関わるのか?
実は、事件の解明にはほとんど役に立ってないのだ(笑)。
彼女の魔法では、「犯人は誰か」までは分かるのだけど、
犯人が駆使しているトリックの解明まではしてくれない。

しかも本シリーズは「倒叙もの」である。
つまり冒頭で犯人が明かされていて、
もっぱら犯人と捜査側との駆け引きがメインに描かれる。
作中でマリィが犯人を教えてくれても、読者は既に知っているのだ。

じゃ、彼女の存在には意味はないのか。もちろんそんなことはない。
彼女には、"ギャグ要員" という立派な(?)役回りがある(笑)。

実際、殺人事件という殺伐とした素材を扱っているんだけど
マリィの登場するシーンになると、深刻な場面のはずが
一転してコメディタッチになってしまう。
このあたり、当代ユーモアミステリを書かせたら右に出るものはない
東川篤哉の面目躍如というところ。

マリィ以外のユニークなキャラたちも本作の大きな魅力だ。

39歳独身の椿木警部は、容疑者が独身のイケメンだと
途端に追求の矛先が鈍ってしまうという悪い癖(笑)を持つので
犯罪捜査の戦力としてはいささか心許ない。

嗜好はドMでも(笑)、刑事としての小山田君はとても立派。
意外に聡明な(失礼!)オツムで、最後はきちんと真相にたどり着く。


魔法使いが出てくる必然性があるのか、と問われると
正直なところ首を傾げてしまうが、コメディ要素と割り切れば
とても楽しいミステリ・シリーズだと思う。

本書はシリーズ化されていて、すでに2巻目が刊行されている。

マリィが人間界に来た理由は明かされるのか?
そして、年上の警部とメイド服の魔法使い。
二人の女性の間で揺れる小山田くんの、明日はどっちだ?(笑)。


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