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有川浩脚本集 もう一つのシアター! [読書・その他]

有川浩脚本集 もう一つのシアター! (メディアワークス文庫)

有川浩脚本集 もう一つのシアター! (メディアワークス文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2011/05/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

主人公・春川巧(たくみ)は、小劇団「シアターフラッグ」の主宰。
しかし赤字続きの劇団は300万円の借金を抱え、解散の危機に。
万策尽きた巧は、兄の司(つかさ)に泣きつく。

彼ら兄弟の父親は、演劇にのめり込むあまり妻子と別れ、
貧困のうちに病死していた。

そのような経緯から、弟の演劇活動を認めない兄だったが、
いくつかの条件と引き替えに借金の肩代わりを引き受ける。

どんぶり勘定だった劇団の経理を、今後は司が仕切ること。
貸した300万を2年で返済すること。
返済には、劇団が上げた収益のみを認める。
2年で返済しきれないのならば、劇団は即刻解散せよ・・・

かくして"鉄血宰相"・春川司のもと、「シアターフラッグ」は
2年後のタイムリミットに向けて、劇団存続を賭けた大奮闘へ・・・


というのが、小説「シアター!」シリーズの基本設定。
現在続編「シアター!2」まで刊行され、次巻の「3」で完結の予定。


本書は、この「シアター!」を原作に、
実在の劇団「theater劇団子」(シアトルゲキダンゴ)のために
作者自ら書き下ろした脚本を書籍化したものだ。
実際、2011年1月に上演されている。

内容は小説そのものを舞台化したものではなく、
設定をそのまま使って新しいエピソードを描いた、
いわば「番外編」になっている。


「シアターフラッグ」に、地方都市の高校から学校公演の依頼が入る。
司も含めて、喜び勇んで出向いてきた劇団員の面々だが、
リハーサル開始前から次々にトラブルに見舞われる。
準備した小道具がゴミと間違えて捨てられてしまうとか
舞台セットが運送業者の手配違いで開演までに届かないとか
舞台のパンフレットがすり替えられるとか。
トラブルの背後には何者かの "悪意" があるらしい。
しかし開演時間は刻々と迫ってきていた・・・


ドラマや映画の脚本というのは現場で撮影しているうちに
変わっていくことがよくあるって聞くけど、演劇の場合も同様のようだ。

この舞台の脚本も、稽古中に変わった部分もあれば、
演出家のアイデアで変更された部分、
さらには役者さんからのフィードバックがあったりして、
実際の上演までに変化していった。本書にはその最終形が収めてある。
どう変わっていったかの経緯も【註】としてかなり詳しく記してあり、
この「変化していく様子」を追っていくのもまた楽しい。
まさに「舞台」というのは "生き物" なのだなあと実感する。

たぶん、違う劇団・違う役者・違う演出者がつくり上げれば
また違う形になるだろうし、またそうでなければいけないのだろう。

巻末には作者と俳優との対談が2つ掲載されている。
1つは「シアターフラッグ」を招いた高校の教員として出演した
大和田伸也氏。なんと大御所じゃないか。
もう1つは春川司を演じた阿部丈二氏。こちらは舞台メインの方らしい。
どちらも密度の濃い話が詰まっていて読み応え充分。


脚本集なんだけど、小説に劣らずとても面白かった。さすが有川浩。
とは言っても、思い起こせば「シアター!2」からもう5年。
もうそろそろ「3」を書いて下さいよ、有川さん。


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