SSブログ

琅邪の鬼 [読書・ミステリ]

琅邪の鬼 (講談社文庫)

琅邪の鬼 (講談社文庫)

  • 作者: 丸山 天寿
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/06/14
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

秦の始皇帝の時代。山東半島の港町・琅邪(ろうや)は、
斉の滅亡と共に秦の領土となった。

不老不死の仙薬の入手を命じられた徐福は琅邪へ赴き、
東海にある蓬莱(日本)へ渡るための大船の建造を開始する。
同時に琅邪で "塾" を開き、易占・医術・剣術などの
さまざまな特殊技能・能力を持つ者(方士)を集めていた。

その琅邪の町で奇怪な事件が続発する。
豪商・西王家の秘宝 "璧"(へき) が盗まれ、
太守への嫁入りが決まった東王家の娘が行方知れずとなる。
やがて娘は死体となって発見されるが、
葬儀の夜に息を吹き返して棺から姿を消す。
しかし、墓の中に収めた棺の中に
いつの間にか再び死体となって戻ってきた。
徐福塾の方士の一人は井戸の底で死体となって見つかり、
あげくの果てには屋敷が一軒、一夜のうちに姿を消す。

"璧" の探索を依頼された求盗(警察官)・希仁(きじん)だったが
続けざまに起こる怪事件に遭遇し、徐福塾に助けを求める。

医師の残虎(ざんこ)、易占術の安期(あんき)、
房中術の権威・佳人(かじん)、人の "思念" が見える幽見(ゆうけん)、
そして剣の達人・狂生(きょうせい)。
彼らは自らの特殊能力をもって事件の解明に乗り出す。

探偵役を務めるのは、中盤過ぎから登場する徐福の弟子・無心(むしん)。
人品卑しからぬ風体で、わけありの過去がありそうな青年だが
複雑に絡まり合った事件を快刀乱麻を断つごとく解明してみせる。

一言で言うと「名探偵・無心と徐福探偵団」(笑)。

古代中国が舞台なのだが、歴史物という雰囲気はあまりない。
私の知識が乏しいせいもあるのだろうが
読んでいる最中の感覚は異世界ファンタジーに近い。

ホラーっぽい描写もあるし、アクションシーンも多い。
終盤では派手な大立ち回りも用意されていて
文庫で460ページを飽きさせずに読ませる。

ミステリ的にも、よくできている。
正直なところ、読んでいる途中は
「こんなに大風呂敷を広げてしまって、大丈夫なのか?」
って心配になったくらい。
ところが、序盤から中盤の何気ない描写に潜んだ巧みな伏線、
そしてあちこちに散らばっていた大量の謎が
ものの見事にするする解けていくラストには唸らされる。
とても新人作家の第一作とは思えないほど達者だ。

 まあ、「おいおい、それでいいのか」って
 ツッコミどころも無いわけではないが、
 でも、細かいところにこだわるより
 作者渾身の大仕掛けを、おおらかに楽しむのが
 本書の正しい読み方だろう。

キャラクターの書き込みも充分。
徐福塾のメンバーも奇人変人揃いだが、女性陣も負けていない。
貴婦人から侍女、行商人のおかみから飲み屋の娘まで、
みなたくましく強かに生きている。

肝心の徐福は、出番は意外と少なく台詞もほとんど片言のみ。
しかし流石に存在感は抜群。

文庫版の表紙には5人の人物が描かれているが
ひときわ目を惹く手前の女性は、徐福塾の看板娘・桃姫(とうき)。
可愛いだけでなく武芸にも秀でていて本編中でも大活躍する。
実は私がいちばん気に入ったキャラだったりする。
残念ながら(?)人妻なのが玉にキズ(おいおい)。

作者は本書で講談社のメフィスト賞を受賞してデビューした。
55歳での受賞は最年長記録だそうな。おお、熟年の星。

本書はシリーズ化が構想されていて、
徐福とその一行が蓬莱へ渡ったあとまで予定されているという。
なかなか壮大な物語になりそうだ。

とりあえず、手元に本書の続編「琅邪の虎」があるので、
近々読む予定。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ: