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カンナ 京都の霊前 [読書・ミステリ]

カンナ 京都の霊前 (講談社文庫)

カンナ 京都の霊前 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

歴史ミステリのはずが、いつの間にか
すっかり伝奇アクションっぽくなってしまった「カンナ」シリーズ、
全9巻のラストを飾る完結編である。

一連の事件の黒幕である "玉兎" との決着をつけるため
京都へ向かう甲斐と貴湖。
月読神社近くの山中で、諒司と竜之介も加わって
最後の戦いが始まるのだが・・・

ただ、玉兎の方々の目的が今ひとつピンと来ない。
要するに現天皇家に取って代わると言っても
天皇は政治的実権を有していないわけで
成り代わったところで、一体何ができるのだろうか・・・
第一、そんなことが可能なのか。

表舞台に出てきて、古文書を一冊、振りかざしてみたところで
はたしてどれだけ説得力があるのか。

本書の中には描かれてはいないが、
一部の政治的勢力が後押ししているとか、
首都圏の自衛隊が武装蜂起する手はずになっているとか、
本気で体制変革を狙っているなら、
それくらいの準備なり根回しは済んでないとねぇ。

 もっとも、本気でそんな話を書こうとしたら、
 この倍くらいの巻数が必要になってしまいそうだが。

そのあたりのリアリティが今ひとつ感じられないので
玉兎と波多野村雲流の闘争シーンも緊迫感が薄い。

ラストも "伝奇SFアクション" 的な派手さはなく、
組織としての玉兎の崩壊もあっけない。そして
物語はいつもの "歴史ミステリ" 的謎解きに収束していく。

作者は、ポリティカルサスペンスを書く気はもともと無くて
"隠された歴史の闇にスポットを当てる" という、
当初のスタイルを大きく崩すつもりはなかった、ということなんだね。


なんだか文句ばかり書いてるみたいだが、本書で語られる
蘇我氏と聖徳太子を巡る "新解釈" は、さすがの面白さ。
「QED」から数えたら30作近い歴史ミステリを書いてきたのに
まだこれだけのネタを披露できるなんて、スゴイとしか言いようがない。

貴湖ちゃんは相変わらず可愛いし、
前作で、てっきりお亡くなりになったと思ったあの人も
しっかり御存命で、入院先で健気に頑張っている。

評価は★2つ半にしようかなって思ったんだが
聖徳太子と女性陣の魅力で★半分増量だ!


解説で、大矢博子氏が
「第1作の段階で、タイトルに隠された仕掛けに気づいた人はスゴイ」
旨のことを書いてるんだけど、
「トイレット博士」を愛読して「七年殺し」にシビれた、
我々50代のオジサンなら余裕だよねぇ。


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