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いとみち 二の糸 [読書・青春小説]

いとみち 二の糸 (新潮文庫)

いとみち 二の糸 (新潮文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

幼い頃から極度の泣き虫で人見知り。
そんな自分の性格を克服すべく、高校入学を機会に
青森県唯一のメイドカフェでバイトを始めた主人公・相馬いと。
彼女の特技は、祖母に鍛えられた津軽三味線。
中学時代にはコンクールでの入賞経験もある。
しかし、ある理由で三味線からは遠ざかってしまっていた。

前作では、メイドカフェに降りかかった閉店の危機を、
カフェのスタッフのがんばりと常連客たちの協力で何とか乗り切り、
いとが津軽三味線の腕前を関係者一同に披露するシーンで幕を閉じた。

本作ではいとは高校2年生に進級、友人たちと一緒に
念願の写真同好会を立ち上げる。

しかしその矢先に親友の早苗と初めてのケンカをしたり、
同好会に入部してきた1年性・石郷鯉太郎くんに
不思議な胸のときめきを感じたり。
進級してもまだまだ悩みの種は尽きない。

ちなみに、「鯉太郎」は「りたろう」と読む。
中学時代は相撲大会で優勝するなど身長180cmを超える
堂々たる体型で、150cmに満たないいととは40cm近い身長差。
「気は優しくて力持ち」を画に描いたような少年だ。

自分の理想のタイプとはおよそかけ離れているのに、
物語が進むにつれて、いとの心の中で
彼の存在がどんどん大きくなっていく。
鯉太郎のほうも、いとのことが気になるようで
見ていて面白い、いやいや微笑ましいカップルである。

バイト先のメイドカフェでは、
小学生の娘・樹里杏(じゅりあん)を育てながらメイド長を務める幸子、
プロの漫画家を目指して投稿を続ける自称 "エースメイド" の智美、
そして穏やかな人柄の店長と、前回のメンバーは健在。
しかし幸子と智美の態度が最近おかしい。
いとに対してなんとなく "よそよそしい" のだ。
これにもまた悩んでしまうヒロインなのであった。

物語は春・夏・秋・冬の4章仕立てで、
いとの高校2年生の4月から12月末までの生活が綴られる。
ミステリでもSFでもないので、
非日常的な大事件が起こるわけではないが、
クスリと笑わせ、ホロリと泣かせる、
そんな平凡な日々の中に起こる小さなエピソードを丹念に描いていく。

時間というものは着実に流れていくもので
人はいつまでも同じ場所に留まっていることはできない。
いとも、彼女の周囲の人々もまた然り。
出会いと別れ、成長と巣立ちの時が近づいてくる。

友人たちは進路希望を決め、
幸子や智美にも新たな人生の扉が開いていく。

いとにも、決断の時が迫ってきている。
高校を卒業したらどうするのか。
青森に残るのか、東京へ行くのか。
大学へ行くのか。行くのならどこの大学か。

本書中、随所でいとが三味線を弾くシーンがある。
前巻よりも回数も格段に増え、しかも観客の前で演奏することに
大きな充実感を感じるようになっていく。

卒業してそのままメイドカフェに就職してしまうとは思わないが
案外、津軽三味線を "極める" という道を選んでしまうかも。


冬の章では、春~秋までのいとの悩み深き日々を吹き飛ばすような
楽しいエピソードが語られる。
冬の青森で、こんな楽しいパーティーが開かれるなんて。
涙と笑いが満載の素晴らしいエンディングだ。


巻末にボーナストラックとして智美が主役の短編が収録されている。
内容を書くと本編のネタバレにもなるので触れないが、
智美といい幸子といい、ヒロインのいとも含めると
主要キャラの8割くらいは女性。
しかしながら、みんな見事な "キャラ立ち" ぶり。
作者は男性のはずなんだが、いやはやたいしたものだと思う。

次巻「三の糸」でこのシリーズは完結らしい。
いとちゃん以外の人々の行く末が、
本書であらかた決まってしまったので、
最終巻では、いよいよ彼女の選択が描かれるのだろう。


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